今日も今日とて、学園長ジュディさんは雑務に追われていた。

「もう、猫の手も借りたいくらいね」

などと呟きながら、てきぱきと書類に必要事項を記入していく。

30分ほどで今日の分の仕事はすべて片づいた。

「そういえば、二学期のミッションの季節ねえ……」

そこらへんの課題は各担任教師が考える。しかし、

「……あの四人には、普通のミッションじゃ物足りないようだし、今回も私が考えてあげようかしら」

などと、ジュディさんが考えていることは……

ライルたちもそこはかとなく予想していた。

 

第20話「幽霊屋敷……?(前編)」

 

さて、ミッションの課題は担任から、封筒でパーティーのリーダー役に渡される。

各パーティーの熟練度、得意分野、性格等々を考慮して、適切なレベルのミッションを考えるのは担任の仕事だ。

そして、ライルたちに手渡されたのは、他の無地の封筒と比べ、明らかに豪華なものだった。それだけで、いやな予感が煽られるライル。

「あの……先生、これは?」

担任のキースは、ぽりぽりと頬を掻きながら、

「いや、その……な? 学園長が、お前達にはこれを渡せと……。すまん、俺は無力だ。とりあえず、頑張ってくれ」

「……まあ、なんとなくそんなことになるんじゃないかと思ってましたけど」

苦笑しながら、その封筒を受け取るライル。その顔には、どこか諦めの色が浮かんでいた。

それを持って、三人の所に戻る。ルナ達も、ライルが手に持っているものを見て、ある程度の事情は察したらしい。一様に、ため息をつくと、

「……で、内容は?」

と、疲れた声で尋ねてきた。

「ちょっと待って、今開けるから。……えーと、幽霊屋敷の調査?」

『幽霊屋敷』。いきなりの、きな臭い単語に、怪訝な表情になる一同。読んだライルも、困惑した様子だ。

「……幽霊屋敷って、もしかしてあれか。セントルイスのはずれにある、旧アーキス邸か?」

「さあ? 僕は知らないけど。アレン、知ってるの?」

「ああ。昔、没落した貴族の屋敷でな。なんか、幽霊がでるとかなんとかうちの道場の門下生が噂してた」

「……てことは、本当に出るわけ? 幽霊なんて、私相手したことないんだけど」

ルナは、勘弁してくれ、という顔だ。

幽霊は普通の魔法は効きにくい。精神体だから、物理的な衝撃は無意味なのだ。そして、ルナは、精神体に攻撃できるような魔法はあんまり使えない。

「だいたい、幽霊とかは教会の仕事じゃない。なんで、私たちがそんなことしなきゃいけないのよ」

「……だって、学園長だもの」

クリスがぽつりと呟く。その一言で、すべては片付いてしまう。

「……じゃ、とりあえず、いつ行くか決めようか」

ライルが切り出す。

「そうね、さっさと済ませたいし、明日でいいんじゃない」

「僕は、一応、何日かかけて準備していった方がいいと思うけど」

「大丈夫よ、クリス。なんとかなるわ」

「……そーゆーところ、ルナの長所だけど、短所でもあると思うよ」

「どーゆー意味よ」

「別に……」

「まあまあ。一日くらい開けてもいいんじゃないの。明後日に、その屋敷に行くと言うことで。アレン、案内お願いね」

「任せとけ」

そういうわけで、明日各自準備をして、明後日行くことになった。

 

 

 

 

 

CASE1 ライル・フェザード

 

 

「えーと、ロープと、非常食と、簡易魔法陣と、祝福したナイフと……」

次々と、午前中に揃えたアイテムをカバンに入れるライル。今回は、前と違ってすぐ近くに目的地があるので、荷物も小さめだ。

「あれ? マスター、そのナイフ……」

「ああ、いいだろう。ここに来たときに買ったやつを教会で祝福してもらったんだ。寄付金は結構かかったけど、これで幽霊も大丈夫だ。気功はまだ未熟だし」

ライルが言うと、シルフィは哀れむような目になる。

「な、なんだよ」

「マスター……。マスターの持ってる剣……」

「ああ、これか?」

「前言ったよね。それ、古代王国の聖剣だって。幽霊だって、普通に斬れるよ、それ」

「なぬ……?」

顔をひくつかせ、『ガーン』という擬音を頭の上に出現させる。なかなか器用なやつである。

「だって、その聖剣。伝説上、最高クラスの剣だよ。そのくらい楽勝なんだけど」

「……三日分の食費……」

「へ?」

「……寄付金、食費三日分。これから一週間は、ごはんと味噌汁だけ」

直後、シルフィの悲痛な叫び声が寮中に響く。ライルは、他の寮生をごまかすのに苦労したらしい。

 

 

CASE2 ルナ・エルファラン

 

 

「す〜〜〜」

寝てる。

それ以外に、表現のしようがない。

妙なのは、床に座って寝ているということだが……種明かしをすればなんでもない。明日のため、瞑想でもして魔力を高めようとしたが、ここ最近、新しい魔法を覚えるために徹夜続きだったため、そのまま寝てしまったのだ。

愛用の槍も、そこらへんに置いたままで、手入れもしていない。もともと、魔力増幅用で、直接使うことはないとは言え、ずいぶんな扱いである。

「むにゃ……よけーなおせわよ……」

 

 

CASE3 アレン・クロウシード

 

 

「とゆーわけで、親父。新しい技を教えてくれ」

「いやだ」

アレンは、ずしゃあ! と滑る。幽霊退治のため、有効そうな技を教えてもらおうとしたらこれである。

「そりゃないだろ! 可愛い息子が幽霊にやられてもいいのか!?」

「そのくらいでくたばるやつは、俺の息子じゃない」

あっさりと言ってのける、アレンの父、アムス。

「おのれは本当に人の親か!?」

ガキィ!

「……実の親に、いきなり斬りかかる息子というのもどうかと思うが」

「うるさい! 今日こそ貴様の命日だ!」

再び剣を振るうアレン。……が、そのすべてを防がれる。

「ふふん。まだまだだな」

「やかましい!」

ちなみに、今彼らがいるのは道場である。加えて言うなら、門下生も10人ほどいる。そして、気功術を駆使した、この親子の戦闘は、周囲に嵐のような衝撃を走らせていた。

「おい! 早く外に避難しろ! 今日のはちょっと激しいぞ」

などと、警告を発しあいながら、真剣とかの危険物を冷静に運び出す門下生達。慣れているのだ。

「くたばれぇぇ!!」

「甘い!」

そして、この命がけの親子げんかは、三十分ほどで、アレンのスタミナ切れと言うことで終着を迎えた。

 

 

CASE4 クリス・アルヴィニア

 

 

「……幽霊屋敷か。でも、噂だけなんだから、本当はいないってことも充分考えられるよなあ」

図書室で借りてきた白魔法の教練本を流し読みしながらクリスが独り言を呟く。

彼とて、準備は怠っていない。しかし、『幽霊屋敷』なんてものが本当なのかどうかはかなり疑っていた。こういうのは大抵がガセだと相場は決まっている。

それに町の噂になっているくらいだから、教会も調査の一回や二回したはずだ。だったら、あまり心配することはないだろう。

そう結論を下すと、クリスは本を閉じ、瞑想に入った。

……ルナのような、瞑想の格好をした睡眠とは違うことを明言しておこう。念のため。

 

 

CASE5 ????

 

 

……やっとえらそうな格好をした人たちが去った。

ここのところ、やけに押しかけてくる。そのたびに隠れなくてはいけないが、そろそろ見つかってしまいそうだ。

なにせ、私の入れないところが徐々に増えているのだから。そのえらそうな人達が仕掛けたそれは「ケッカイ」とか言うらしい。

どーも、私がいることはすでにばれているようだ。かといって、私はここから出られない。

さて、どーしたものか。

などと、考えていると、もともと考え事の嫌いな私の意識は眠りに落ちていくのだったまる

---

前の話へ 戻る 次の話へ