11月も半ばになった今日、何か、僕の周りがおかしい。

ルナは僕を見かけたらすぐに駆けだしたし、シルフィは朝から姿が見えないし、アレンは不自然な笑い方だったし、クリスは表面上は普通だったけど微妙な違和感があった。

なんだというのだろう?

そーいや、リムが「ライル君……ご愁傷様」と言ってきたのと関係あるのだろうか?

 

第34話「バースデーパニック」

 

「ねえ、ルナ」

昼休み、朝から様子のおかしいルナに話しかけてみる。

「ギクッ! な、なに!?」

わざわざ自分で『ギク』とか言わなくても……。

「なにって……なんか朝から様子がおかしいからさ」

「おかしい? 私が? 何言ってんのかさっぱりわからないわね」

「いや、だって……」

「あ、リムー! 食堂いこ!」

逃げられた。

そーいや、ルナだけじゃなくて他の二人も今日は弁当作ってこなくていいって言ってたな(実は未だ、弁当作りを強要されている)。

……アレンが断ってきたときは、天変地異の前触れか? と思った。

これは、なにかある。

……と、思うのだが、とりあえずは腹ごしらえだ。いそいそとカバンから弁当を取り出し、広げる。

一人きりの昼食というのも久しぶりだ。

いつも、騒がしすぎる連中に囲まれての食事だったから、こうやって静かに食べるのも寂しい感じが……あんまりしない。

そうだ。本来、僕はこういうキャラだからな。

(そうかな〜? 最近、大分染まってきた気がするけど)

「どわぁ!?」

突然、奇声を上げた僕にクラスの視線が集中する。

あいまいな笑いで何とか誤魔化し、僕を驚かせた原因……いきなり後ろからテレパシーをしてきたシルフィを睨む。

(なんだ、いきなり)

(べつに〜。ちょっと様子を見に来ただけ)

(てゆーか、お前、朝からどこに行ってた?)

(秘密〜)

……一応、僕はこいつのマスターだった気がするのだが。なんか、ないがしろにされてないか?

(まあいいけど。それよりだ、ルナとかが何を企んでるか、お前知らないか?)

(知らない。まあ、心当たりはないこともないけど)

(教えてくれ)

そう言うと、シルフィは複雑な顔をして、

(マスター、もしかして気が付いてないの?)

(? なにが)

(わかんないならいいや。じゃ、私、まだすることあるから)

と言って、窓からでていくシルフィ。

(ちょっと待て! 質問に答えろよ!)

(自分で考えなさーい!)

……行ってしまった。

「ったく……」

僕、お手製の卵焼き(なかなかいい出来)を口に運ぶ。

しかし、自分で考えろ? さて、なにがあるんだろう? シルフィは心当たりがあると言っていた。それは、ルナ達の会話をたまたま聞いて、なにをしているのか知っていると言うことだろうか?

いやいや、あいつは『もしかして気が付いてないの』とか『自分で考えろ』とか言っていた。と、言うことは僕が知っていることでないとおかしい。

おお! なかなかいい感じの推理じゃないか。これなら真実まではそう遠くないぞ!

それで、僕が知っていることで、ルナとかアレンとかクリスが挙動不審になる理由……

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……………

………

全然わかんない。

一人だけ、ならまだ心当たりがある。だが、今日のケースは全員がおかしい。

そうなると、見当も付かない。

……ま、いっか。そのうちわかるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、寮のライルの部屋。

 

 

 

 

「急ぎなさい! この昼休みしか時間はないわよ!」

「っても、ルナ。俺、腹減ったんだけど」

「我慢なさい! あんたは、普段から食べ過ぎなんだから!」

「ひでえ! お前はダイエットになっていいかもしれんが、俺にとっては致命的だぞ」

「『サンダーボルト!』」

「ぐぎゃあ!?」

「私は、ダイエットするほど太ってないわよ!」

「騒がしいね……。ルナ、飾り付け、終わったよ」

「あ、クリス、ごくろうさま」

「それはいいんだけど……。アレン、気絶してるよ」

「まったく、しょうがないわね。『サンダーボルト』……っと」

「ほげぇ!?」

「これで、目を覚まさないの? こうなったら……『すべてを滅ぼす炎の力よ、彼の一点にて集い……』」

「ちょっと待てい!」

「そうだよ、ルナ。せっかく飾りつけたのにそんな魔法使ったら滅茶苦茶になっちゃう。電撃系にしといて」

「って、クリス! ツッコミどころはそこか!? 俺へのいたわりとか、友情とかは!?」

「それと、ちゃんと料理の手配はしたの?」

「無視すんな!」

「ああ、済ませておいたわ。……でも、高くつくんだから、私が作ってもよかったのに」

「「それだけはだめ」」

 

 

 

などと、三人が暗躍していた。

ライルの台詞からピンときて部屋に来たシルフィは、

(やっぱり、か。じゃ、私も負けてらんないな)

などと、思っていたりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライル!」

「な、なに?」

「これからどうするの?」

今日の授業が終わったと思ったら、いきなりルナがそう言ってきた。

「どうするって……一回、街にでて晩ご飯の材料を買ってくるんだけど」

「駄目」

「はい?」

「これから……そうね、10分くらいしたら部屋に帰りなさい。わかった?」

「よくわからないんだけど……」

一体どういうつもりだろう? アレンとクリスが授業が終わると同時に外にでていったのと関係あるんだろうか。

「いいから、素直に従う。たまには私の言うことを聞きなさい」

「たまにはって……しょっちゅう聞かされてるんだけど」

おもに、実力行使で。

「じゃ、くれぐれもフライングはナシよ」

だが、そんな僕の声は無視されて、ルナも帰っていった。

なんだって言うんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

……で、帰ってみると、僕の部屋の台所は見事に飾り付けられていた。

何が何やらわからない。

「あら、ちょっと遅刻よ」

「ええっと……それよりも、これはなにかな?」

「見てわかるだろ、パーティーだよ」

部屋にいたアレンが言う。パーティー? 宴会……と訳す方のパーティーだよな。

「……なんの?」

「なんのって……ルナ、もしかして日付間違えたんじゃ?」

「まさか。クリス、こいつは忘れてるだけよ。そーゆーことには昔から無頓着なんだから」

よくわからない。……と、そこへさらにシルフィが現れて、

「だよねー。私もマスターと付き合って結構たつけど、この日のことはいつも忘れていたわ」

「なんだ、あんたも知ってたの?」

「当然でしょ。」

……いい加減、事態の説明が欲しいところだ。

「ちょっと待った。一体、何がどうなってんのかさっぱりなんだけど」

「はあ……マスター、今日は何月何日でしょうか?」

「え? 11月…18日。あ……僕の誕生日…だったっけ?」

「そーゆーことよ。ポトス村にいた頃は毎年、バースデーパーティーをやってたでしょ?」

……すっかり忘れていた。

「しかし、本気で自分の誕生日忘れるやつなんていたんだな。……おら、ちゃんと店からパーティー用の飯を作ってもらったぞ」

と、アレン。

「飾り付けは僕がやったんだ」

と、クリス。

僕はマヌケにも、

「あ、うん」

としか、返すことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、まずはプレゼントよ! そこの羽虫も用意してるんでしょ?」

相も変わらず、ルナがシルフィと仲が悪いようで……

「……はいはい。せっかくのマスターの誕生日だし、今のは聞き流してあげるわ。もちろん、用意してるわよ」

「よっし! じゃ、これは私たちから。みんなでお金を出し合って買ったのよ」

と、ルナが小さな箱を渡してくれる。開けてみると、高そうな万年筆が入っていた。

「うわ……高かったんじゃない? これ」

刻印されている紋章は、確か有名なブランドのやつだ。どう考えても、学生が帰るようなものではない。

「クリスのポケットマネーでな」

アレンが笑いながら言う。……そーゆーことね。出し合ったってルナは言ったけど、ほとんどはクリスが出したって事か。

「ったく、金持ちにたかるのはよくないわよ。で、マスター、私からはこれ」

シルフィが何もない空間から取り出したのは、ラッピングもされていないナイフ。

緑色の宝石が象眼されている、かなりの業物だ。かなりの魔力を感じるから、なにかいわれのあるものかもしれない。

「私が祝福しておいたから。精霊魔法の補助にも使えるわよ。そのために朝から精霊界に行ってたの」

「ふーん。さすがは、仮にも精霊王。やるわね。ここまでの魔力を付与できるなんて」

そっち方面にくわしいルナにはよくわかったらしいけど、残念なことに、僕にはそれがどのくらいすごいことなのかはいまいちわからない。

まあ、いい。ありがたく受け取っておこう。

「さて! さっさと飯にしようぜ!」

「待ちなさい。まず、ケーキが先よ」

いち早く料理に手を伸ばそうとするアレンをルナが押しとどめる。

「ケーキなんて、あとでいいだろ」

「まあ、少しぐらい我慢したら?」

「クリス〜。俺は昼からずっと我慢しているんだぞ? お前は小食だからいいかもしれんが」

なんだかんだ言いながらも、アレンは我慢するらしい。

「じゃ、切り分けるわよ〜」

喜々としてルナがケーキを五等分する。思ったが、ケーキを五等分なんだから、結構な量だ。

まあ、いいけどね。甘いものは好きだから。

「あれ? そういえば」

クリスが不思議そうな声を上げる。

「僕たち、ケーキなんて買ってきたっけ?」

「ん? そーいや、料理買い出しに言ったのは俺たちだったけど、記憶にないな」

そんな会話が僕の耳に聞こえた。……なにか、嫌な予感が。

「ああ、それね」

ルナが嬉しそうな声を上げる。

僕は、リムが『ご愁傷様』と言っていたのを思い出した(冒頭にあったアレだ)。

「それ、昨日の晩、私が作ったの」

そして、ルナがそれを言ったとき……僕はすでにケーキを口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーース!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生まれた日に死にたくはないなあ。

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