「ふ、ふふふふ………」

「ど、どうしたリム。不気味だぞ」

「夏休み編10話分。その中でまったく一つもセリフなし。もう読者様からは完全に忘れられているであろう、いてもいなくても変わらない脇役の私にも、やっと出番が……」

「うん。確かに俺も忘れられているような……。言い忘れたが、俺はキースだ」

「まったく、ちゃんと登場のバランスを考えてもらいたいもんです」

「それを言うならグレイは俺たちより悲惨だと思うぞ。ライルの対抗キャラとして出したらしいが、使いにくいとの理由でほとんど出番がないんだからな」

 

「……誰ですか、それ?」

 

第29話「テスト地獄」

 

「あー、突然だが、明日からテストだ」

帰りのHRでのキース教師のその言葉に、にわかに教室は騒ぎ出した。

中間テストまではまだ間がある。それなのに、どういうことなのか。

「騒ぐな。どうも、学園長から一年生の一部の学力に疑問の声が上がってな。誰とは言わんが、一学期の中間で赤点ぎりぎりだったくせに、期末テスト免除と魔法実技とか武術実技の成績のおかげで強引に補習を免れたやつがいるんだ。誰とは言わんが」

そんな人物はこのクラスの人間にとって心当たりがありすぎる。その二人に、クラスの視線は集中した。

「な、なによあんたたち! 文句あんの!?」

「お、俺がなにしたってんだ!?」

そんな抗議の声など、まったく無視だ。あいかわらず冷たい視線が送られる。

「ルナちゃん……」

隣の席のリムが立ち上がっているルナをたしなめる。HR中に、さすがに非常識だろう。アレンの方は、声を上げてはいるが座ったままである。

「あー、とりあえず明日は魔物学と魔法学。二日目は国語と武術理論。三日目は数学。急な話だが、教科は少ない。難易度も低めらしい。普段ちゃんと勉強しているやつなら楽勝だ。普段ちゃんと勉強しているやつならな」

その言葉に、件の二人は青ざめ、一般生徒は不安な顔になる。

まあ、勉強が出来る一部の生徒は余裕の表情だが。彼らにとっては普通の授業よりテストの方が楽だったりするのだ。午前中で終わるし。

「じゃあな。そういうわけで、不安なやつは帰ってから必死で勉強するように」

その一言を残して、HRは終わった。ついでに言うと、この瞬間からルナとアレンの戦いが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

「まあ、そーゆーわけで、勉強しなきゃね」

ライル達は四人で学園の図書館に来ていた。もし、今回の試験で一つでも赤点を取ったらそのパーティーのメンバー全員連帯責任で早朝学習、放課後強制補習とまことありがたくない罰が待っているのでクリスは必死だ。

ライルとクリスは問題ない。ライルは普段からこつこつ勉強するタイプだし、クリスはやらなくてもある程度はできるタイプだ。二人とも、期末テストは免除されて受けなかったが、中間テストでは共に十番内に入っている(ライル3位、クリス1位)。

問題はルナとアレンだ。ルナは頭は悪くないが、自分の魔法の研究にかまけているせいで、魔法学以外の成績はすこぶる悪い。

アレンはと言うと……まあ、彼の頭は勉強を出来るようにはできていないとだけ言っておこう。

「……なんか、とても失礼な説明を作者にされた気がするぞ」

「まあいいんじゃない?事実だし」

「……否定はせんが、もう少し言い方って言うものを考えて欲しいぞ、ルナ」

「仕方ないと思うよ、アレンだし」

「そう、アレンだしね」

「お前ら……」

あまりにも冷たい友人の言葉に、アレンは人知れず涙を流すのだった。

「ま、とにかく勉強勉強。わかんないところは僕かクリスに質問すること。ま、明日の教科は魔物学と魔法学。ルナは魔法学完璧だろうし、魔物学だけだよね」

「ああ、まあね。魔物学も嫌いじゃないし、明日は何とかなるわ」

「……なら、問題はアレンだね。くれぐれも僕たちを補習に巻き込まないように」

クリスが怖い口調でアレンに話しかける。彼は他人のとばっちりを喰らうのがえらく気に入らないらしい。

「わかってるよ。俺だって補習なんてゴメンだ。修行の時間が削られるからな」

その意気込みのまま、図書館の閉館まで猛勉強。

結果、普段使わない頭を使ったアレンは見事に撃沈していた。

 

 

 

 

一日目

 

 

 

魔物学。これは暗記がものをいうので、アレンも比較的楽な方である。

 

「う〜ん、う〜ん。確かここは……。ぐぐ……寝るんじゃない、俺」

どうやら、寝たら覚えたことをすべて忘れてしまうので徹夜だったらしい。

「う〜。ま、大丈夫だと思うけど……」

ルナは教科書を丸暗記したらしい。アレンとは頭の出来が違うということか。

 

魔法学。さっきの魔物学と名前は似ているが、魔法物理やらなにやらが複雑に絡み合っている。アレン自身が魔法を使えないため、かなりの苦手教科だ。

 

「……ふっ」

諦めたらしい。

「〜〜♪ 楽勝楽勝」

まあ、ルナにとっては学校レベルの魔法学は児戯に等しいのである。

 

 

ちなみに、ライルあんどクリスは危なげなく一日目をクリアしていた。

 

 

 

 

二日目

 

 

 

国語。これについてはまあなんとかなる。アレンにとって一番ましな教科だったりする。

 

「な、なんとか赤点は免れてるだろ」

「ま、大丈夫かな」

 

武術理論。アレンが得意っぽいが、彼は本能で戦うのでテストという形式では完璧わからないらしい。ルナも肉弾戦はダメなので……

 

「ぐう、根性だ。根性」

「こんなの私に関係ないのに〜〜〜!!!」

うるさすぎで、クラスのみんなのひんしゅくを買う二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、とうとう来やがった……」

「そ、そうね。とうとう明日なのね」

明日は数学。二人にとって一番の苦手教科である。

「まあまあ。とりあえず、基本的なとこから確認していこうか」

ライルはあらかじめ作っておいた問題集を二人に手渡す。どちらも今回の範囲の基礎中の基礎だ。

「………なんだ、この宇宙人の問題は?」

「ふっ、私数学嫌い」

結果は、アレン10問中正解0。ルナ1。

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

開いた口がふさがらないライルとクリス。二人の反応に居心地が悪すぎるルナとアレン。

「……授業中なにやっているの?」

かろうじて、クリスがそれだけ質問する。

「大抵魔法書を読んでるかな」

「寝てる」

頭を抱え込むしかない教師役二人。

「とりあえず、公式だけでも頭に叩きこませる?」

『叩き込ませる』と、すでにスパルタ教師全開のクリス。

「でも、それじゃあ応用が全然利かないんじゃない」

「それでも、最初の問題だけなら……」

「でも、それなら赤点になるかも……」

いろいろ議論をかわしたあげく、二人は一つの結論に達した。いくらこの二人でも普通の計算くらいは出来るだろう。公式だけとは言わず、今回出そうな問題すべてを丸暗記。数字が違うところはそれぞれでカバー。これしか逃げ場はなかった。特にアレンの方が。

「と、ゆーわけで、僕とライルが作ったこの予想問題を一字一句逃さず暗記すること」

「は?」

「今から付け焼き刃の勉強なんかしても無駄だろうからね。ここは丸暗記に賭けることにしよう」

「………」

馬鹿、と断言されたようでアレンとしては面白くない。アレンでさえもそんな感じなのだからルナなど暴発寸前だ。

ただ、今回のテストは間違いなくこの二人のせいで実施されているのだから、どうにも強く出れない。

「君たちのせいで補習なんて絶対ごめんだから。……そこら辺踏まえてしっかり勉強してね?」

クリスは冷たい笑顔で二人を睨みつけた。その感情のない笑顔を向けられたルナとアレンは冷や汗を流すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言おう。彼らは見事に補習に引っかかった。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

徹夜で数学を受けた結果……ルナとアレンは見事にテスト中爆睡してしまった。

アレンもルナも、三日間ずっと徹夜だったので限界だったのだろう。

「……なによ!あんた達文句あるの!?」

「そうだそうだ!俺たちなりに精一杯やった結果なんだ!!」

それでも、ライルとクリスの恨めしげな視線は変わらない。最初は勢いがよかった二人もだんだんと声が小さくなっていった。

「ま、これを機会に勉強に目覚めてくれると先生は嬉しい」

補習の教官をしているキースがそう言う。はっきり言ってかなり無茶な要求だと思うが。

「うう〜〜。何で私も……」

パーティーメンバーに勉強の苦手なやつがいたせいで補習を受けることになったリムが悲しそうな声を出す。

彼女自身は20位となかなかの成績をおさめているにもかかわらずだ。(それを言うならクリスはまた1位。ライルは2位だったのだが)

だから余計に納得がいかないのだろう。

「まあ、トップクラスの成績のやつもいるが、一応補習を始めるぞ。とりあえずこのプリントを」

そのプリントを成績上位者はスラスラと。ルナとアレンは「数学嫌い数学嫌い」「宇宙人が宇宙人が」とうめきながら解いていった。

もちろん、ほとんど間違いだったのは言うまでもない。

 

 

 

以後、クリスの提案によりルナとアレンにとって地獄の勉強会が毎週日曜日にやることになるのだが、今の二人には知る由もなかった。

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