僕たちは、特に問題もなく、アーランド山に到着した。

そう、不気味なくらいに何もなかった。せいぜい、途中二、三回弱いモンスターに襲われたくらいだ。

それすらも、この5人にかかれば、大した障害ではなかった。

だが………いやな予感が一向になくならないのはどうしてだろう?

 

第23話「我が家にいた珍客」

 

「なつかしーわねー」

周りには、ライルたちしかいないので、すでに透明化はといているシルフィが飛び回る。

ライルたちは、アーランド山の麓に、魔法馬車を置いて、ライルの家まで山を登っていた。

当然のことではあるが、魔法馬車は他人に使えないようロックをかけ、魔物等が近付かないよう簡易結界を敷いてある。

「で、ライル。あとどのくらい歩けばいいの?」

クリスが少量の荷物を背に歩きながら、尋ねてきた。

「そうだな………このペースだとあと20分くらいかな?そこそこ高いところにあるけど、そんなに道はきつくないし」

実際、今あるいている道も木々みたいな障害もなく、とても歩きやすい。

「この道って、ライルが舗装したのか?」

自然の山にしてはいやに歩きやすいのを不思議がってアレンが振り向いた。

「いいや。ちょっと、ここら辺の精霊たちに頼んでね………ほら、ここにもいるよ」

と、他の人間には何もないように見える虚空を指さす。

「………んなもん見えないわよ。あんた、本当に精霊に関してはすごいわね。“バカ”だけど、一応上位精霊と契約してるし」

「………それは宣戦布告ととっても良いわけ?」

ルナの余計な一言で、シルフィとルナの一騎打ちがまた始まる。

ちなみに、セントルイスから出発して、通算20回目だ。

「ああもう……ルナもシルフィもやめてくれ………」

唯一、この二人を(絶対とは言えないものの)止めることが出来るライルが二人の間に入る。

その間、アレンとクリスは呑気に見学だ。いや、今はこの山にあるちょっと珍しい薬草なんかを眺めている。

「これはナーヴリーフって言ってね。潰してお茶なんかに入れると疲労回復の効果があるんだ」

「ふーん………帰りに少し摘んでいくか?」

こんな感じである。

その時、ライルの方はと言うと………

「マスター。どいて。今度という今度は決着をつけなきゃ」

もう何度言ったかわからない台詞を言うシルフィと………

「そこのバカ精霊の言うとおり。いい加減白黒ハッキリつけなきゃね………」

「や〜め〜て〜く〜れ〜〜(涙)」

これまた、ケンカのたびに言う言葉を繰り返すルナをとばっちりを食っては敵わないと必死に止めるライルの姿があった。

まあ、今回は不可能だろう。すでにルナの手には爆裂系魔法の魔力が集中していたから。

そのきっかり5分後。静かだった山に、爆音と、若い男の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめーん。大丈夫?」

ルナがすまなそうに謝っている。

あの時、周りに被害が出てはいけないと、ライルはルナの魔法を結界で包み込んだのだ。おかげで自分の防御は間に合わず、モロに直撃を受けることになってしまった。

「後先考えないでそんなことするからこうなるのよ。いっつもこんな感じで周りに迷惑かけまくりじゃない、アンタ」

「うるっさいわねえ……」

さすがに思い当たる節が多すぎるので、強くは出れないルナ。

「『ヒールブレス』」

「ありがと、クリス」

その間に、クリスの白魔法で、体の傷を治してもらうライル。

「マスター、私、ちょっとマザーアースの方へ言ってくるから、マスターたちは先に家の方へ行ってて」

急にシルフィがそんなことを言い出す。

「別に良いけど、どうしたんだ?」

「ちょっとねー」

さっさとシルフィは飛んでいってしまった。

「ライル、マザーアースって?」

聞き慣れない単語が出てきたので、ルナがライルに尋ねる。

「この山のずっと上の方にある木のこと。かなりでかくて、ここら辺の精霊たちの集会場みたいになっているんだ」

「ふ〜ん」

納得したのかしていないのか、ルナが曖昧な返事を返す。

「ま、いいか。さっさと行きましょ。もう疲れちゃった」

この時、シルフィと分かれたことを、ライルはすぐに後悔することになる。(本当にすぐ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ここが僕の家」

ライルたちの前にあるのは、大きさはそこそこの、二階建ての家。

「………どうやったら、こんなちゃんとした家をこんな場所に建てられるんだ?」

アレンがもっともな疑問を出す。悟りきったようにライルが答えた。

「母さんが作ったんだよ。材料はここにあった木。母さんが手刀で切ったんだ。ちなみに、製作期間半日」

ライルの母親をよく知らないアレンとクリスは呆然としている。対して、ルナはと言うと、

「まあ、ローラさんならそれくらいやりかねないわよね」

と、ライルと同じく妙に悟ったように呟いていた。

「今、鍵を開けるから」

と、ノブに手を当てるライル。

「このドア、僕かシルフィの魔力がないと開かないようにしているんだ」

言いながら、軽く魔力をドアに通す。程なく、ガチャと言う音がして扉が開いた。

「じゃ、みんな遠慮なく入っ………」

ガチャ

無言で再びドアを閉める。

「?どうしたの」

不思議そうに、ライルの顔を覗き込むクリス。当のライルも訳が分からないと言った顔だった。

「なんかあったのか?」

アレンがドアを開けようとすると、慌ててライルが止めた。

「い、いや、僕にも何がなんだか………」

「ぐだぐだうるさいわね。なんだっつーのよ」

ライルを無視して、ルナはノブに手をかける。

瞬間………

ガチャ

バキ!

突如“内側”からドアが開いてルナの顔にクリーンヒットした。

「あっ!すみません〜〜」

ドアを開けた張本人は妙に間延びした声で謝るが、ルナがその位で許すはずがない。

「済みませんですむと思ってんの!!?あー、もう!私の顔に傷でも付いたらどうする気よ!!!」

そこまで一気に言って、はたと気付く。

「ライル、この人誰?」

ライルの家から出てきたのは、さらさらの金髪を赤いリボンで結んでいる女性。美人だが、その雰囲気のせいかどちらかというとかわいいと言った方が合っているような気がする。年は自分たちより一つか二つ上くらいだろうか?

少なくとも、ルナの記憶にはない人物だった。

「僕も知らないんだけど………」

「あのー……」

そこで、謎の女性が発言する。

「シルフィちゃんがどこにいるか知っています」

そう聞いた時点で、一同はその女性から距離を取って円陣を組んでいた。

「(ひそひそ)ちょっと、本当に誰なのよ?」

「(ひそひそ)だから知らないって」

「(ひそひそ)でも、シルフィの事を知っているんだからお前の関係者だろう?」

「(ひそひそ)大体、あの家にはライルとシルフィ以外は入れないんじゃなかったの?」

あれやこれやと、話し合う。

気が付くと、アレンのとんでもない発言から妙な方向に話が進んでいた。

「……もしかして、ライルの同棲相手とか?」

「ちょ…!何言って……」

更に、ライルの抗議が言い終わらないうちに、クリスが余計なことを言う。

「確かにそう考えると全部つじつまは合うね」

「………最初、慌ててドアを閉めてたし」

更にルナが話を続ける。ものすごく機嫌の悪そうな口調で。

だがはっきり言って、ライルにとっては寝耳に水である。まったく身に覚えがない。

んが、

「こ〜のむっつりスケベが」

「う〜ん。やるなあ」

「だから違うって!!」

すでに、ほかの三人の中ではそういう風に結論づけられたようだ。

(や、やばい………)

ライルは本能的恐怖を感じていた。何がやばいかって、後ろで異様な魔力を手に集めているルナだ。

(お、怒ってる。間違いなく怒ってる)

誤解だ。確信を持ってそれは言える。だが、ルナがそれを聞き入れるとは思いがたい。

ルナはこう言うことに関しては異様に厳しいのだ。本気で生命の危険を感じてしまう。

「ライル?」

「は、はひ!」

ルナの殺気だった声に、思わず裏声で答える。

(ああ………これが“いやな予感”の正体か………)

今更分かっても、仕方がない。

ライルはさながら今まさにギロチンにかけられる死刑囚のような心持ちでルナの言葉を聞いた。

「………死ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に、その現場にいた二人は語る。

 

「いや〜。アレはまさに地獄絵図だったな」

「って言うか、どうしてアレで生き残れたんだろうね?」

 

合掌

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