…………ああ、天使様が迎えに来た。
ん?何で手を振っているんですか?
……え?まだこっちに来るな?どういうことですか?
僕、もう眠りたいんですが………ああ、意識が遠くなっていく〜〜
「こら!!ライル死ぬな!!」
もう眠らせてくれよ。
「おいおいおい!!本格的にヤバイって!!」
「大丈夫だよ。今はギャグパートだから」(作者の声)
「なんだよそれぇ!!?」
第24話「その正体」
「………あ、本当に生き返った」
クリスの無感動な声が聞こえる。
ルナに、完全な致命傷をもらって、一時は脈も止まっていたのに、どうして生きているんだろう?
それは、さっきも言ったとおり、ギャグだからとしか言いようがない。
「………ルナ。いくら何でもやりすぎ」
「う、ゴメン」
冷静になって、やっと自分のやったことを理解したのか、素直に謝るルナ。
ライルももう少し文句を言いたいところだったが、ちゃんと反省しているようなので、それ以上は問いつめなかった。
………まあ、すぐに忘れるのだろうが。
「でも実際、あの人は誰なんだろうな?」
突然始まった阿鼻叫喚の図に硬直している謎の女性をちらりと見ながらアレンがこぼす。
「僕は知らないけど………シルフィだったら知っているかも知れないな。彼女、シルフィを訪ねてきたみたいだから」
そういって、ライルは目を瞑る。
「?どうしたの」
クリスが不思議そうに尋ねる。
「ちょっと待ってて。今シルフィを呼び出すから」
ライルは精神を集中し、この山の頂上あたりにいるはずのシルフィに呼びかける。
今は距離が離れているので、普段使っているテレパシーのように、ほいほい簡単に会話は出来ない。
呼び出すだけなら造作もないが、予告もなしに引き寄せたら怒るのだ。
曰く、今のライルの力量では突然召喚されたら、空間を抜けるときにけっこうな痛みを伴うそうだ。
シルフィに言わせれば「マスターの未熟者……」と言うことになるらしい。
「っと、見つけた」
そうこう考えているうちにシルフィのいる場所を捉える。
(シルフィ。シルフィ〜〜?)
(ん?な〜にマスター)
感度良好。きちんと向こうと接続できたらしい。
(なんか、お前にお客だぞ)
(客ぅ〜?何で私に)
(知るか。そのせいで僕はさんざんな目にあったんだ。とにかくこっちにお前を召喚するから)
別に召喚するまでもなく、すぐに来れる位置にいるのだが、ライルとしては一刻も早く誤解を解きたいので(なんせ、クリスなんかはまだ半信半疑だ)そうすることにする。
(ん〜。わかった)
シルフィとの接続を切る。
「うし、じゃ、呼び出すから」
「おっけー」
と、ルナたちは少し離れる。
それを確認してライルは召喚の呪文を唱え始める。シルフィはいつもライルのそばにいるので、召喚するのは久しぶりだ。
「『我と契約せし者よ。我が声に応じ、今ここに姿を現せ。我が名はライル・フェザード。風を司る者よ、我が呼びかけに答えよ。出よ、シルフィリア・ライトウインド』」
唱え終わると、光と共にシルフィが現れる。
「ふぅ………で、マスター。私に客って?」
ライルは無言で、例の女性の方を指さす。
そちらの方に視線をやったシルフィは固まった。それはもう面白いくらいに。
対して女性の方は、少し潤んだ目でシルフィを見つめていた。
「………じゃ、マスター。私はしばらく身を隠すから!!」
シュタっと手を上げて去ろうとするシルフィを即座にライルが捕まえる。
「待てい。一体あの人が誰か説明してもらおうか?」
「いや!見逃して!」
シルフィはじたばたと暴れるが、今の小さい状態では無駄な抵抗だった。
「………シルフィちゃん」
「はう!?」
いつの間にか近付いてきていた女性がシルフィに視線を合わせる。
「やぁっと見つけた〜〜。一体何処に行ってたのよ。厄介になっているって言ってた家は無人だし………探したんだよ〜?」
間延びした声でしゃべり始める。
「ねえシルフィ………結局この人って何者なの?」
少し離れたところで事態を観察していたルナが聞く。
「えっとね〜〜。私の精霊界での友達………」
「あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。ソフィア・アークライトと言います」
そう言って、にこっと笑う。
「はあ……ライル・フェザードです。一応、シルフィの契約者です」
そして、ライルに続きルナたちも自己紹介を済ませた。
「………で、ソフィアさん?」
「はい。なんでしょうライルさん」
「なんかシルフィを探してたみたいですけど、何か用事でもあったんですか?」
さっきの口振りからして結構前からシルフィを探していたようだ。ただ会いに来ただけならそこまではしないだろう。
「あっ、忘れてました」
(………なんか間の抜けている人ね)
ルナが心の中で感想を漏らす。言動の一つ一つがどこかのんびりしていて調子が狂ってしまう。
「シルフィちゃん?」
さっきまでとはうってかわって、妙に迫力のある声でソフィアがシルフィに詰め寄る。顔も凄みをきかせているつもりだろうが、元々の顔立ちが柔和なのであんまり怖いとは思えない。
とは言っても、当のシルフィには充分効果があったようだ。
「な、なにかな?」
「これ、なんだかわかる?」
と、束になった紙をどこからか取り出す。
(どこにしまってたんだよ………?)
アレンの素朴な疑問などつゆ知らず、会話は進行していった。
「え〜と………(汗)」
「シルフィちゃんがここ4ヶ月くらいずぅ〜〜〜〜〜っとため込んでた仕事よ。ちなみに、あとこの10倍はあるんだけどな」
「………そんなに?」
「………私がどのくらい肩代わりしてあげたと思う?」
ソフィアは顔は笑っているが、目が笑っていない。その事に言いようのない恐怖を感じるシルフィ。
「ゴメンナサイ………」
「ゴメンナサイじゃ仕事は片づかないよ。一体どうしたのよ。前はそれでも1週間に1回くらいはこっち(精霊界)に戻ってきてたのに」
「実は………」
シルフィはライルがヴァルハラ学園に通うことになった経緯を説明し始めた。
ちなみに………
「ライル、なんか食べるものない?」
「あっ、俺も俺も」
「わかった。クリスもアレンも少し待ってて。食料庫に、少しは残ってたはずだから」
「………あんた、しばらくこの家開けてたんでしょ?その食べ物、大丈夫なの?」
「平気。ちゃんと加工してるし、食料庫は防腐の魔法かけてるから」
「………芸が細かいわね」
この4人は話が長くなりそうだったので、お食事タイムと相成ったようだ。
「ってわけなんだけど………」
「また?」
「そう。また」(ちなみに、この「また」の意味は外伝を参照のこと)
呆れたようにソフィアがため息をはく。これで説教は終わったかに見えたが、ソフィアの爆弾発言が新たな騒動を引き起こした。
「もう………マスターに付いていくのは良いけど、精霊王としての仕事も忘れないでよね」
「あっ!バカ!」
「「「「はい?」」」」
しかし、シルフィの静止も空しく、その言葉は少し離れたところのテーブルで食事をしていたライルたちにもハッキリ聞こえた。ソフィアのよく通る声が災いした。
「あっちゃー」
ぺしっと自分の顔を叩くシルフィ。
「………シルフィ、精霊王ってどういうこと?」
と、ルナ。あまりにも予想通りの質問に、シルフィは頭が痛くなる。
「あ、あれ?もしかして私まずいこと言っちゃった?」
おろおろとうろたえだすソフィア。
「ソフィアさん。さっきのは本当ですか。シルフィが精霊王って?」
「えーと………」
ライルの質問に、どう答えたらいいか分からず、泣きそうな顔でシルフィに助けを求める。
「なあクリス。精霊王ってなんだ?」
こけっ!×4
アレンのどーしよーもない発言にソフィアを除く一同は見事にすっころんだ。
「あ、あのねアレン。本当に知らないの?」
「知らん(きっぱり)。どっかで聞いたことあるよーな気はするが」
「精霊王って言うのは………」
〜説明中〜
「よーするに、とんでもない力を持った精霊たちの親玉ってわけだな」
「い、いや、間違ってはないけどちょっと違うような………」
だが、さっき以上の説明などクリスにはできない。とは言っても、本で読んだ内容をそのまま言っただけだ。精霊界の実情は人間には分からないことが多すぎるせいである。
「間違ってはいませんよ」
そこにソフィアが口を挟んだ。
「元々私達は単なる精霊の代表みたいなものですから。確かに力はずば抜けていますけど、人間界に伝わってるみたいに神がかりてきな存在じゃありません」
「はあ………」
その本人に説明されるとは思っていなかったクリス。一応、彼の一族は大地の精霊王、ガイアと契約しているのだが、王位継承権の優先順位が低いので会ったことなどない。
「それにしても……“これ”がねえ」
「………なんか文句でもあんの?」
またまた険悪な雰囲気になるルナとシルフィ。シルフィの正体がどうであろうが、この二人の関係はこのままらしい。
「……やめてよ。お願いだから」
ライルは彼なりに必死で止めようとする。これ以上とばっちりを受けたらさすがの彼も身が保たない。まあ、なんだかんだ言っても死ぬことはないだろうが。
「………なんか楽しそうな人たちですね」
ソフィアが穏やかな目でその状況を見ていた。