リアンっていう人との試合が終わって、5分くらいが過ぎた。

そろそろ決勝が始まる。

さてと、ウインド・ムーブの効果も切れてるし……

(シルフィ、頼む)

最近めっきりと出番のなかったシルフィにお願いする。

(はいはい。『ウインド・ムーブ』!って、マスター。あのガイスって人とやるなら、これだけじゃ、ちょっと敵わないんじゃない?)

(う〜ん、確かに……この際だから補助系の魔法全部かけとくか)

(疲れるから、や)

(おいこら。お前が敵わないとか言ったんだろが!)

(自分の実力で戦ってきなさい。と言うわけで、自分でかけるのもダメ)

(いや、でも……)

(さっさと行く!)

そして、シルフィに押されるようにして、会場に入っていった。

全く……僕が負けたらお前のせいだからな?

 

第12話「炎の大運動大会(後編)」

 

「さーーて!!いよいよ決勝となりました!!この時点で、他の競技は全て終了!そして、ライル選手のパーティーが420ポイント、ガイス選手のパーティーが400ポイント!優勝者が100ポイント、準優勝者が50ポイントですから、この勝負で、優勝チームが決まります!!」

なにげに説明口調。

ちなみに、午後からの競技はそれぞれ二、三人ずつしか出場していなかった。

アレンのパーティーは、その人数の少なさにつけこんで、ポイントを稼いだので、ここまで追いついてきたのだ。

「それでは、選手の入場です!!」

ここまで勝ち抜いてきた猛者がリングに上がる。

一人は闘志を煮えたぎらせ、鋭い目つきをした、筋骨隆々の大男。

もう一人は、やる気なさげな表情の少年。

ただし、その少年が、見かけ通りの人間ではないと、会場の人間はすでに理解していた。

「では、学園長!学園長の見解をお聞かせ願いたいのですが?」

「そうねえ……パワーではガイス君、スピードではライル君、技はガイス君かな。で、総合的にややガイス君の有利って所かしら?さっきのライル君の試合を見て、ガイス君側もなにかの対策を講じているはずだし」

「どうもありがとうございました。まもなく試合開始です」

 

 

 

 

 

 

(全く……シルフィもケチくさいこと言わないで、いろいろかけてくれりゃいいのに。このまんまじゃ勝てる気がせんぞ)

ガイスから放たれる威圧感に、早くも弱腰になっているライルであった。

(せめて剣の勝負なら何とかなりそうなんだけど………)

思いっきり、自分の有利な条件である。

そもそも、ガイスの専門は体術で、向こうからしてみれば、畑違いのはずの格闘で、ここまで健闘しているライルこそが驚異であった。

(全然勝てる気がしないな……まあ、ルナが恐いし、やれるだけやるしかないんだけど………)

そんなことを考えていると、ガイスがこっちに近付いてきた。

「よう」

いきなり話しかけられて、少し動揺する。

「えっと……こんにちは」

「グレイがなにやら騒いでいたぞ。『あいつを再起不能にしろ!』とか言ってた。あんたあいつになにやったんだ?」

「やったというか……勝手にやったことにされたというか……」

そもそも、グレイがライルのことを目の敵にするのは、ルナのことがあるからである。

ただの幼なじみとしては、仲の良い二人の仲を勘違いして、ライルを恋のライバルと認識したのだ。

ライルのとってはいい迷惑である。ルナとは、全く持ってそういう関係とはほど遠い。

つまり、グレイがルナにアタックしても、勝手にやればという感じなのである。

しかし、何度言ってもグレイは耳を貸そうとしない。もはや病的ですらある。

「まあ、どうせあいつが勝手に騒いでいるだけだろうが……なるべく穏便に済ませてやってくれ。あれで根は悪いやつじゃないんだ」

「僕としては反対に一票を投じたいところですが……まあ、好きこのんで誰かと争いたいとは思いませんよ」

「助かる。……でもこの決勝は別問題だぞ。俺としても、試験免除は魅力的な賞品だしな」

そう言って、愉快そうに笑う。

ライルもつられてにやりと笑うと……

「賞品に関しては何か裏がありそうなんですが………僕としても負けられませんね。負けたりしたら恐い幼なじみにはったおされます」

「そうか。まあお互いに頑張ろう」

「はい」

そこまで言って、離れようとしたとき、

「ああ、そうだ」

「なんですか?」

「お前、今も魔法かけてるんだろ?」

「まあ一応」

「あんな手があったとはな……盲点だったよ。でも、この試合は俺もかけてるから、有利不利はないぜ」

実は、そんなこと言われるまでもなく、ライルは、ガイスを取り巻く魔力を感じて気づいていた。

試合場に上がった瞬間、それを感じ取り、予想していたこととはいえ、絶望的な気分になった。

「そんだけだ。それじゃあな」

今度こそ、二人は別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、とうとう、また学園長の気まぐれで起こったはた迷惑な大会の最後の試合が始まります!」

「………あなたの言い方にはいちいち棘があるわねえ……成績下げるわよ?」

「(ビクッ)そ、……それはともかく!泣いても笑ってもこれが最後!果たして、優勝するのはどちらのチームでしょうか!!?それでは審判のキース先生!開始しちゃってください!!」

その言葉に従い、キースが二人を向き合わせる。

「やれやれ……俺の出番はこれだけか?まあ、第5話から一言も出番のないリムよりはマシだが……」

(うるさーい!せんせー後で覚え解きなさいよ!出番のないものどうし、一緒に強く生きていこうっていう誓いを忘れてーー!)

「………なんかいやな声が聞こえたが……っていうか、番外編の性格になってないか?」

第8話でも登場したので、リムの恨みを買っているキース先生。さっさと始めた方がいいんじゃないですか?(by作者)

「………そうだな、気にしないでおくか」

そうそう、それがいいよ。あっ!こらリム、僕に八つ当たりすんな!!

(やかましい!元はと言えばあんたが私を出さないからでしょうが!!)

待て!落ち着いて話し合おう!!暴力はなにも生み出さないぞ!!

(問答無用!喰らえ!乙女の怒りの鉄拳!!)

ドガァ!

あーーーーれーーーーー!!(作者、星になる)

「「「……………(汗)」」」

………そして、あまりの物語を無視した会話に、固まってしまうライル、ガイス、キースの三名だった(リング外にいた人には周りがうるさいから聞こえなかった)

(あっ!しぶとくま〜だナレーターなんかしてんの!?いーかげんどっかいっちゃえーー!!)

ドグシャ!!

ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!(作者、再び星になる)

「…………………それでは、始め!」(←どうやら、気にしないことにしたらしい)

と、まあ、色々あったが試合が始まったわけだ(byキース)

 

 

 

 

 

 

先手必勝!

と、いうわけで、突っ込んでいくライル。

何発か、牽制のパンチを放つが、そんなものが効くわけもなく、あっさりとカウンターを合わせられる。

「とっ!」

なんとかしゃがんでかわし、そのまま手をついてカミソリのような鋭さの足払いを放つ。

ガイスは冷静に、後ろに一歩引くことでかわした。

(………やっぱ一筋縄ではいかないなあ)

一発くらいは入ると思ったんだけど………

そんなことを考える暇もなく、今度はガイスからの反撃が来る。

ライルやリアンほどではないが、それでも常人から見れば反応も出来ないような移動速度だ。

「はあぁ!!」

ビュッ!

ガイスの腰の入った正拳突きが肩をかすめる。

とっさに身をかわしたとはいえ、音だけでその威力は伺えた。たらりとライルの背中に冷や汗が流れる。

(これは……まともに食らったら一発でKOだな……)

やっぱ防御系の精霊魔法も使っとくんだった………

今更ながらに後悔………

「らぁ!」

ガイスがさらに上段回し蹴りを繰り出す。

これはしゃがんでかわす。………が、そこからさらにガイスの足が不穏な動きをする。

「げっ!?」

ライルはほとんど勘だけで後ろに飛ぶ。一瞬後、ガイスの踵落としがライルのいた場所に突き刺さった。

「よくあれをかわせたな」

「こんなにあっさり負けられませんって」

そんなことを言っているが、はっきり言ってさっきのは半分偶然のようなものだ。

能力はほぼ互角でも、対人戦の経験に圧倒的な開きがある。

ガイスはセントルイスでも有数の道場の息子である。幼い頃から大人相手に数え切れないほどの手合わせをしてきたのだ。動きで勝っているライルにあっさりと着いていっている。

(スタミナじゃ明らかに向こうが上………早めに決着をつけるか!)

ライルは一気に間合いを詰める。

そのまま両者は打ち合う。

手数ではライルに軍配が上がるが、そのどれもがガードされ、逆に、ガイス側は徐々にライルを追いつめている。

不意に、ガイスの身体が沈む!

ガスッ!!

「ぐええぇ!!」

ライルはキャリーで5m近く吹き飛ばされた。受け身をとってすぐに立ち上がるが、ダメージは大きい。少しふらついている。

「………驚いた。さっきの技を受けて、まだ戦えるなんてな」

「と、とっさに後ろに飛びましたから……」

「なるほど。道理で手応えが軽かったわけだ………だがいくら何でももう戦えないだろう。降参しろ」

ライルはそれに答えず、無言で構える。

「そうか……じゃあ、悪いが二、三日寝込んでもらうことになるかもしれん」

(やれやれ……そんなこと言って、素直に寝込むやつなんていないって……)

そう考えて、ライルは切り札を使うことにした。………場合によっては、二、三日以上寝込むことになるかも知れないが………まあ仕方がない。

ゆっくりと呼吸を整えていく。細胞一つ一つに力がたまっていくイメージ。その力がどんどん強くなっていく。体が軽くなっていき、力がみなぎる。

………見るものが見れば、ライルの身体が薄く発光しているのが見えただろう。

それは、騎士団でもほとんど使い手のいない気功術の技の一つであった。

 

 

 

 

 

 

「おおー!ライルが奥の手を出したぜ」

アレンが面白そうに言う。

「それって、あんたがライルに教えてたやつでしょ?」

「ああ。あいつも一応はやり方を知ってたみたいだがな、全然荒削りで使いもんにならなかったんだ」

そこで、クリスが思いだしたように言った。

「でもさ……ライルってまだ身体能力増強まで習ってなかったんじゃ?」

「………(汗)」

「………大丈夫なの?」

急に黙ったアレンに不安を感じ、ルナが聞く。

「だ…大丈夫だ!基本は一緒だしな!…………悪くて一週間くらい動けなる程度で済むはずだ」

「ちょ、ちょっと、それって全然大丈夫じゃないわよ!!それに、前、試したときは2日くらいで済んだって言ってたわよ!?」

「いやあ、さっき荒削りだって言っただろ?気を充分に練れてなかったからその程度で済んだんだ。練気法はみっちりと仕込んどいたからちょっとやそっとでは済まないはずさ」

きらりと歯を光らせながら、笑顔で言う

「爽やかに言ってんじゃなーーい!!『サンダーボルト!』」

ビリビリビリ………

「ぎゃああああああああああ!!!」

アレンに責任はないはずだが、なぜか、ルナの電撃魔法を食らう。ちなみに詠唱を省略している。せっかくの高度技術もこんな場面で使われたんではそのすごさが分からない。

ルナもなんだかんだ言って、ライルのことを心配しているのだ。

…………そのことがいいことかどうかは、アレンの様子を見る限り五分五分っぽいが……

 

 

 

 

 

(なに騒いでんだか……)

自分に原因があるとは分かるわけもなく、ライルはのほほんと考えていた。

正面には驚いた顔のガイスが立っている。

「お、お前それ……」

「うちのパーティーにこういうのが得意なやつがいましてね」

「なるほど……アレンか」

納得してガイスが言う。

「だが、そういうことなら修行したのはせいぜい二ヶ月ほどだろう?そうそう長続きはしないはずだ」

 

人間の気というのは、普段は身体に一定量だけ流れているものである。

気功術というのは、その気を通常以上に生み出す練気法。それを操る操気法の二つで構成されている。

どちらもかなりの難度なので、先ほど言った通りほとんど使い手はいない。

ただ、使い手がいないのは難度だけのせいではなく、今ひとつ使えない……と言うところの方が大きい。

気功術の主な使い道は、怪我の治療、直接飛ばしての攻撃、剣や鎧など装備品の強化、そして身体能力増強などである。

前者二つは魔法の方が効果が高いし、後者の二つは効果は高いが、気を付与したものへの負担が大きい。

量産品の剣などは、気を流したとたんに砕け散ることもある。

かたや身体能力増強の方はと言うと、無理矢理に身体に本来以上の動きをさせるわけだから、慣れていないと指一本動かせなくなると言う寸法である。補助魔法などは、言ってみればからだに優しい方法であり、身体への負担の軽減も魔法の効果のうちに入っている。

だが、気功術にはそのような気の利いた効果がない。と、言うより出来ない。

気というのは元々身体に流れている力である。で、身体能力増強というのは要するに普段流れている気を何倍にも増やすわけである。身体への負担を減らすと言うことはつまり、気を抑えると言うことで、これでは本末転倒である。

この身体への負担を減らすには慣れるしかないのだ。そして、全く無理なくこれが出来るようになるには最低でも1年。普通なら3年以上はかかる。そして、その効果も魔力とは違い、その時の体調に大きく左右される。そして、気自体も魔力に比べ才能がないと鍛えるのが難しい……と、かなり使いにくいのだ。

…………………………すんません。説明長すぎました………

 

「と、言うわけで……行きます!!」

先ほどとは比べものにならないスピードで、ライルが突っ込んでいく。ガイスは反応するのが精一杯だ。

「ちっ!」

ガッ!ガガッ!!

避けるのは不可能……と判断して防御を固めるが、ライルはお構いなしにその上から殴りつける。

「っのぉ!!調子に乗るなあ!!」

渾身の一撃をライルに放つが、すでに、ライルは残像だけ残してその場から消えていた。

「!なにっ」

ウインドムーブの効果に加え、足に全気力を集中させた常識外のスピードにガイスは一瞬だけライルを見失う。

「これで終わりだぁ!!」

後ろから聞こえてきた声に、振り向こうとするが、もう遅い。

両手をガイスの背中に添え、気を流し込みながら一気に掌底を放つ。

ドカァ!

完全に決まった。先ほどのライルのように吹き飛ばされるガイス。一つ違うところは………もう起きあがれないと言うことだ。

「……フェザード流体術、奥義参式・双龍砲」

ちなみに、この技はライルの母親が生前、ライルにふざけて使った技だ。流派の名前も彼の母が適当に言ったもの。そんな技であるのに、異様な使い勝手の良さにライルは独自にアレンジを加え、実戦で使用している。

(あっ……やばい)

ライルの意識がだんだんと白くなっていく。

 

 

 

 

 

「おおーーーーっと!!!ガイス選手起きあがれない。きまったかぁ!!?」

フェスタがやかましいほどに実況の声を上げる。

「審判のキース先生が確認しています!さあ、立ち上がれるかガイス選手!?」

そこでジュディ学園長がライルの様子に始めて気づく。

「あら?ライル君の様子が変ね?」

「えっ?」

「あっ……倒れた」

慌てて、キースが両者の確認をする。

そして………

「な、なーーーんと!!両者引き分けです!!引き分けの場合、両チームに70ポイントが加算されますので、この運動会優勝はライル選手のチームだぁああああ!!」

本当に長かった運動会に幕が下りた。

 

 

 

 

 

 

 

それから………

ライルは、一日だけ寝込むことになった。

その後は普通に登校できたが、最後の移動で、足に負担がかかりすぎ、しばらく足の痛みに悩まされた。

さて、試験の方だが………一応免除されたとだけ言っておこう。

それが、さらに厄介な事を呼び寄せることになるとはルナ、アレン、クリスはまったく想像していなかった。

………ライルは何となく気付いていたけど(学園長にさんざんおもちゃにされたから)。

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