「決まったーーー!ライル選手の鮮やかなカウンター一閃!!これでベスト4が出そろいました!」
解説者役の放送部一年、フェスタ(女)が興奮気味に叫ぶ。
「よっしゃーー!ライルその調子だーー!!」
応援席から、アレンのやかましい声が響く。
ここは、格闘技トーナメント会場。
中央のリングには、ライルが、拳を突き出したまま、対戦相手を睨み付けている。
「……ふう」
そして構えを解く。
今、ここの応援席は満員だ。
午後からの種目は、一部の人間を除いて、とても出来るようなものではなかったので、どうせならと、見物に来た者であふれかえっている。
ルナたちの方を見てみると、三人とも親指をグッと突き立てていた。
「はあ……やっている方の身にもなって欲しいなあ」
実際。あまりの見物人に、かなりの緊張を強いられているライルであった。
第11話「炎の大運動大会(中編)」
「では、準決勝を始める前に、特別ゲストを紹介いたしましょう!!」
その言葉と同時に、一人の女性が、どこからともなく現れる。
「ヴァルハラ学園の支配者!!ジュディ・ロピカーナ学園長です!」
「何ですか、その支配者って言うのは?人聞きの悪い」
だが、それは生徒みんなの総意であろう。
「それはいいとして、早速準決勝を開始しましょう!!」
「よくはないけど……」
だが、フェスタはキッパリ無視だ。
「では、選手が入場いたします!!」
力の抜けるようなメルヘンチックな音楽と共に(何故?)二人の男がリングの中央には行って来る。
「まずはAブロックを破竹の勢いで勝ち進んできたガイス・ルーファー君です!身長2m近くの巨体に似合わない、その洗練された動きは、まさに優勝候補と言うにふさわしいでしょう」
フェスタが、これでもかと言うほど熱く語る。
「確かに彼は強いわね。攻守ともにバランスに優れているし、対戦相手は苦労しそうよ」
意外にもまともなジュディの解説に、生徒一同はほ〜とため息をつく
「次、Bブロックからは、ライエン・シード君です!攻撃力はさほどではないものの、その鉄壁の防御で、相手に有効打を許しません!!大振りになったところをカウンターで締めるという戦闘スタイルは、玄人の貫禄があります」
「ライエン君ね。あの子の実家は、正統派拳法を伝える、由緒正しい名家よ。当然彼も幼い頃から修練を積んでいるわ。ガイス君との対戦は、かなり見物ね」
「ありがとうございました!!では試合を開始してもらいましょう!!」
フェスタがOKのジェスチャーをすると、審判のキース先生が、二人に向かい合うように言う。
「では……始め!!」
「で、ライル。あんたはここで何しているわけ」
少し怒ったように、ルナが言う。
ここはリングから少し離れた、芝生だ。
こそこそとリングから離れるライルをルナが目ざとく発見したのだ。
「休憩だよ。いつまでもあんな所にいたら息が詰まる」
悪びれもなくライルが答える。
「決勝まで進出したら、あの二人のどっちかと戦うのよ?試合、見とかなくていいの?」
「大丈夫。あの勝負なら、接戦の末ガイスの勝ち。ンで、ガイスの試合は、予選の時にちゃんと見てるから」
「あっそう……ま、総合優勝できればそれでいいけどね。午前中にポイント荒稼ぎしたから楽勝でしょ」
「ところがそうでもないんだよ」
「なんですって?」
一気にルナの表情が険しくなる。
「いや実はね。グレイのパーティーが、かなりのポイントを稼いでいるんだ。僕らが出てない競技でね」
「あ・い・つは〜〜〜。何処まで私の邪魔をすれば気が済むの!?」
四月以降。グレイのアタックは全く衰えることを知らず、ほとんどストーカーと言ってもおかしくないほど、ルナにまとわりついている。まあ、ライルから言わせれば、毎回毎回黒こげにされたり、氷漬けにされたりと、よく飽きないものだなあと、変なところで感心していたりする。
「そういえば、ガイスってグレイのパーティーのメンバーじゃなかったっけ?」
「そのとぉぉーーり!!」
「うげ…」
ルナが露骨にいやそうな顔をする。
「やあルナさん。僕のパーティーのメンバーまでご存じとは……やはり、普段、僕に冷たくするのは、愛情の裏返しだったんですね?」
「勘違いするな!ただ、あんな強い人が、あんたのメンバーなんて驚いたからおぼえていただけよ!!」
「はは…今更照れずとも良いのに……相変わらずシャイな人だ」
「……人の話は聞くようにした方がいいと思うんだけど」
ぼそっとライルが言う。
いつもいつも、自分の都合の良い解釈をして、全然めげないなんともはた迷惑な奴……
それが、ライルのグレイに対する評価であった。
「むむ……!ライル……いたのか」
「気づいてなかったのかよ、オイ」
ルナがツッコミを入れる。
「ふふん……生意気にも準決勝まで勝ち残ったらしいが、貴様に優勝は無理だな。万が一、決勝まで残ったとしてもガイス君にはとうてい敵うまい。ルナさんの前で無様な姿をさらすのだな。それでは、ルナさん。僕は用事があるので、これで失礼します」
言うだけ言って、退場していくグレイ。
「……さてと、そろそろ時間かな」
グレイの行ったことはこれっぽっちも気にせず、ライルは立ち上がる。
リングの方で、歓声が上がっている。おそらく決着がついたのだろう。
そして、二人は、会場に戻るのだった。
「それでは、準決勝、第二試合を始めたいと思います!!」
ワァァーー!!と応援席が盛り上がる。
「リアンVSライル!前の二人に比べると、目立つ組み合わせではありませんが、仮にもここまで勝ち上がってきた強者。きっといい試合を見せてくれることでしょう。それでは選手の入場です!!」
その言葉に反応して、二人が入場してくる。
一人はいかにも活発そうな女子である。長めの髪をポニーテールにしていて、その勝ち気そうな瞳もあって、全体的に気の強そうな印象だ。
全身から闘気を発しており、戦闘準備万端である。
もう一人は、地味〜な男子生徒。格闘をするよりも、図書館で本を読みふけっているような顔だ。その表情からは、やる気というものを感じることが出来ない。いかにも面倒くさそう……と言った感じだ。
「では選手を紹介いたしましょう。まずは、神速の美少女。リアン・シルメリアさんです!彼女は、スピードスターと呼ばれるほど、速さに優れており、このトーナメントも全て秒殺で仕留めてきました!女性ゆえに、力は期待できませんが、その残像しか見えないほどのスピードは、それを十分に補うでしょう!!学園長、どう思われますか!?」
「ええ、彼女の速さは、この学園でも五指に入るでしょうね。スピードに隠れて見落としがちだけど、テクニックも相当なものよ。素早さを最大限に生かしているわね。充分優勝を狙える逸材だと思うわ。」
「なるほどなるほど……では最後に、ライル・フェザード選手。彼は……堅実な戦闘スタイルの持ち主です。見た目の派手さはないのですが、とりあえずはここまで勝ち上がってきた強者です」
何気にひどい言い方である。
だが、フェスタだけでなく、会場のほとんどの人間がそう思っているだろう。
どう見ても、対戦者の方が強いと思われるのに、何故か勝ってしまう。応援席から見ると、ライルはそういう風に映った。
褒める部分が見つからず(ひどい話であるが)、黙りこくっているフェスタを見かねたようにジュディがマイクを取り上げた。
「ライル君は強いわよ。彼の母親は拳聖とまで呼ばれる武術の達人で、その指導を幼い頃から受け続けていたそうだからね。今までの対戦が目立たなかったのは、ただ単に体力を温存していただけで、本当の実力はガイス君にも匹敵するのでは……と私は睨んでいるわ。」
「あ、ありがとうございました!では、準決勝第二試合を開始してもらいましょう」
ちなみに、会場の人間は、ジュディの言葉をほとんど信用していなかった。
「では、試合開始!!」
号令と共に、リアンが突っ込んでいく。
「悪いけど……あんまり時間をかけるつもりはないの」
ライルの目の前まで来ると、加速し、一瞬で背後に回る。
あとは、首筋に手刀を打ち込んで終わり……
その目論見は、あっさりと崩された。
「よっと…」
気の抜けるようなかけ声と共に、ライルは振り向きつつ、手刀をはじく。
「なっ!?」
ついで、牽制のローキック。
リアンは何とかガードするが、その一撃を皮切りに嵐のようなラッシュで畳み込まれる。
「くっ!このぉ!!」
攻撃の隙間をぬい、何度かパンチを繰り出すが、苦し紛れの攻撃などライルには通じない。簡単にはじかれ、かわされる。
「はっ!」
ライルの右ハイキック一閃。
リアンは後方に飛びながら、衝撃を和らげようとする。
(いったん距離を置くしかない!)
そう判断すると、全速力でライルから離れようとする。
スピードなら、自分は絶対に負けないと言う自信があるからだ。
いったん距離を置いたら、あとはヒットア&アウェイで確実に仕留めればいい。
だが、その自信はあっさりと崩された。
―解説席―
「おおっと、ここでリアン選手、いったん後方に飛びました!!」
予想外のライルの健闘に、驚きつつも解説を続けるフェスタ。
なかなかのプロ根性だ。
「甘いわね」
ジュディが独り言のように言う。
「えっ?」
フェスタは次の瞬間、その言葉の意味を思い知った。
(なんなのよ、こいつは!!)
リアンは驚愕していた。
ライルは、離れようとしたリアンに一気に追いついた。
自分が絶対の自信を持っていたスピードにおいて、目の前の一見平凡そうに見える少年は、はるかに上回っていたのだ。
すでに自分の背後に回っているライルに、裏拳を繰り出す。
ビュッ!
だが、手応えはない。
すでにそこには、ライルの姿はなかった。
「……!!」
突如、頭上からライルが降ってくる。
「ハイ、終わり」
気合いの入ってない声と共に、リアンの意識は暗転した。
「こ、これは……」
フェスタは絶句していた。
「まあ当然の結果ね。だからいったでしょ。体力を温存していただけだって」
「学園長!ライル選手は、こんなに強かったのですか!?あのリアン選手にスピード勝ちするなんて……」
「いいえ、純粋なスピードではリアンさんの方が上よ」
「し、しかし実際……」
「あれはね、ウインド・ムーブを使ってたわね」
「って!魔法は反則では?」
「『試合開始後、終了まで一切の魔法を禁ずる』ってルールだし、試合前なら能力上昇系の魔法は使っても問題ないわね」
「そ、そうだったんですか?」
「そうだったんです」
つまりは、そういうことであった。
―応援席―
「へぇ〜、ライルってあんなに強かったのか」
感心したようにクリスが言う。
「当たり前だ。俺だってあいつが本気出したら捉えきれないんだから」
「アレンと前戦ったときより速くない?」
「多分な」
「ちょっと、ライルとアレンって戦った事ってあったっけ?」
「ライルが転入してきてすぐにね。あんたその時風邪で休んでたじゃない」
「あっ、そっか」
「で、そのあとからは『目立ちたくない』とか言って、俺と戦わなかったんだよな」
「でも、ライル今精霊魔法使ってるよね?」
「うん。魔力も感じるし、間違いないと思うけど」
「それにしたって、アレは異常だろ」
先ほどのライルの戦闘を見て、近々絶対に手合わせしてやると、心に誓うアレンであった。