「いやー、やっと試験も終わったわねえ、リム」

「うん。でもルナちゃんたちが羨ましいよ。試験免除だなんて」

「まあねー。みんなが必死で試験勉強している間。ゆっくりするなんて、最高の気分だったわ」

「ルナ、意地悪いね」

「ライル、うるさい」

「だってそうじゃないか。勉強している子のの前で『大変だね〜』とか言って………可哀相だったよ」

うぐっ!事実だけに言い返せない………

この一週間を振り返ってみる……確かにずいぶん楽だったな〜

あの運動会が終わって、学園長は約束通り、私達の試験を免除してくれた。

ライルは死にそうになってたけど、まあ名誉の負傷と言うことで………

そういえば、学園長が言ってた副賞って何だろ?もらった記憶ないけど

「後は、ミッションだけか〜」

「えっ?なにミッションって?」

コケッ!

私とリムは思わずずっこける。

「あ、あんたね〜」

「えっ?なに、僕変なこと言った?」

途中で転入してきたとはいえ、その位知っておきなさいよ!!

 

第13話「ミッションでGO!(学園長通告編)」

 

「あ、あのねライル君。ミッションって言うのはこの学校独特の制度でね。学校側がパーティー全体に出す課題のことなの。内容は色々だけど、薬草を採取したり、国の歴史をまとめたり……それぞれのパーティーメンバーに合った課題が出されるわ。五日くらいそのための期間が設けられてるの。まあ一年生の間はどれも簡単な物ばかりだから、やることやったら後はもうお休みみたいなものだけど」

リムが少し呆れたように説明する。

(マスター、ダメダメね)

事の成り行きを面白そうに見守っていたシルフィがそう感想を漏らした。

(うるさい。転入直後はバタバタしてたし、その後はそんなのちっとも聞かなかったんだ。仕方ないだろ)

(全く……言い訳とは見苦しいわよ?)

(言い訳じゃない!)

(はいはい、そういうことにしといてあげる)

どんなに言っても聞きゃあしないのでライルはもう何も言わなかった。

「そういえば、僕たちはどんな課題を出されるんだろう?」

「さあ?キース先生が今日発表するはずだけど」

そうこう言っていると、クリスとアレンが登校してくる。

「おはよー」

「おはようさん」

それから五人はいつものように雑談をかわすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、これから学期末のミッションの課題を発表するので、パーティーごとに俺の所に来い」

次々と呼ばれていく中、ライルたちのパーティーだけは呼ばれなかった。

「先生、僕たちのは?」

しびれを切らしてクリスが言う。

「ああ、言い忘れてた。お前たちは学園長が直々に課題を用意しているみたいだ。今すぐ学園長室に行って来い」

「ちょっと待ってくださいよ。何で俺たちだけ?」

「アレン。お前らは先の運動会で優勝しただろう?そのご褒美だそうだ。まっ、死ぬことはないと思うから安心してろ。あの人も命に関わることはさせないはずだ」

(やっぱりそういうオチか………)

ライルは心の中で納得する。あの学園長のことだ。これくらいは予想していた。

(さてと……今度はどんなことをしてくれるのかナ〜。ねっ、マスター!)

(僕にはいい迷惑だ)

前にも言ったとおり、ライルは学園長のお気に入りで色々とおもちゃにされているのである。

(でも、いつもマスターの面白い姿が見れて私は満足だけどな)

(やかましい!いつもそんなことを考えてたのか!)

(怒っちゃイヤン)

身体をくねくねさせながら言うシルフィ。

(………気持ち悪いぞ、シルフィ)

(む、なによーそれは!)

(言葉通りだ)

そうこうしていると学園長室の前に着く。

「はぁ……どんなことを押しつけられるんだろうね?」

「入ってみないと分からないだろう」

「まあ、ロクな事じゃないとは思うけど……」

他の三人の愚痴を尻目にライルはドアを開ける。その奥には………

「あら、やっと来たわね♪」

まるで新しいおもちゃを見つけた子供のような表情をしたジュディが待ち受けていた。

その表情に、思わず一歩引いてしまう一同だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「率直に言うわ。あなた達のミッション課題はタラス遺跡の調査よ」

本当に簡潔に言うジュディ。そこでクリスが質問を飛ばす。

「ちょっと待ってください。タラス遺跡って言ったら、たしかもう調査され尽くされた遺跡じゃないですか」

大体10年ほど前に発見されたこの遺跡は、数千年前に滅んだ王国の遺産の一つである。

今では古代語魔法という名の魔法を使いこなし、繁栄を極めた文明が滅んだ原因についてはまだ明らかにされていない。

それはそうとして、タラス遺跡というのはその王国が残した遺跡の中でも比較的小規模なもので、発見されてから10年も経っていることもあって、すでに寄りつく人もほとんどいない。

「言い方が悪かったわね」

とジュディはにっこり微笑んだ。

「調査って言っても遺跡を調べて来いってわけじゃないわ。うちのスタッフが、その遺跡の最深部にあるアイテムを置いておいたから、それを回収してくるって言うものよ」

「なるほどね〜」

ルナは納得顔だ。こういう課題は本来2年生以降がよくするものであるが、別にピクニックと同じようなものである。課題とされる遺跡は調査されたものであるし、全てセントルイス近郊にあるのでモンスターの類も出ない。

だったら他のみんながする課題と、難易度的にはそう変わらないではないか。

と、安心する、クリスを除いた三人。彼だけは少し表情を曇らせている。

「学園長………確かタラス遺跡ってセントルイスから歩きで丸一日くらいかかったと思うんですけど………」

「「「は?」」」

「その通りよ。道中気を付けてね。ああそれと、タラス遺跡には最近モンスターも住み着いたそうだから、装備もしっかりしておきなさい。私の独断でこのミッションにしたんだから、私のポケットマネーから補助金は出すわ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!いくら何でも危険過ぎじゃないですか!!?」

「そ、そうですよ!大体なんで僕たちだけ、そんな厳しいんですか!?」

「なにかあったら責任はとってくれるんでしょーね!?」

ジュディはやっと言葉の意味が理解できて一気にまくし立てる三人(上からアレン、ライル、ルナ)に向かって手を振りながら、

「ああ、少し落ち着きなさい。あなた達は運動会で優勝したでしょう?その賞品の一つよこれは」

「賞品になってないと思うけど………」

ポソッと冷静なツッコミを入れるクリス。

だが、ジュディはそれを無視。軽やかにかわした。

「危険って言っても、知ってのとおりローラント王国周辺にはそれほど強いモンスターは出ないし、あなた達なら楽勝でしょ?」

ジュディの言い分はもっともだ。そもそもこのパーティーには強い人物がそろいすぎているのだ。

ルナは魔法に関して、学園でもトップであり、宮廷魔術師クラスの魔力と知識を持っている(学園の勉強とはかなりはずれた知識だが)。

アレンは一流の騎士と比べても遜色ない剣技の持ち主である(魔法はともかく……)。

クリスは得意の魔法に関してはかなり高水準の実力の持ち主であり、ルナには劣るものの、学園で3本の指には入る。

唯一ぱっとしないと思われていたライルも、実は剣を使わせるとアレンと互角に切り結ぶし、先の格闘技大会でも証明されたとおり、体術もかなりのものだ。ついでに、魔法でもルナとクリスに隠れて目立たないが、ライルに敵う者はそうそういない。

「と、いうわけで頑張ってね。ちなみに、あなた達に拒否権はないから。退学になりたいなら話は別だけど………」

すでに立派な脅迫である。そんなことを言われては断るわけにもいかず、大人しくなる四人だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ったく!なによあの学園長!ちょっと権力を持ってるからっていい気になって……そのうち闇討ちしてやろうかしら……」

「頼むから止めてくれ!」

なにやら物騒なことを口走っているルナを慌てて引き留めるライル。

「はあ……まあやるしかないんだけど……出発はいつにする?」

クリスが始めて建設的な意見を出す。

「そうだな……明日準備して、明後日出発でどうだ?」

「仕方ないわね……それでいいわよ。ライルもいいわよね?」

「うん」

「決まりだな。じゃあ明日5時に校門の前に集合だ」

「ちょっとアレン!なに勝手に決めてんのよ!!大体なに、その異様に早い時間は?」

当のアレンはにやりと笑うと、

「お前ら三人ともセントルイスに来てからまだ日が浅いだろう?俺は親父に色々な店を教えてもらったからな。まあ、俺に任せとけって」

それもそうかと、あっさり引き下がるルナ。

彼女はこう見えても、理由さえしっかりしていれば大抵のことは了承してくれる。

「そういえば、学園長は予算どのくらいくれたの?」

クリスが受け取った、ずっしりと重たそうな皮袋を見て、ルナが聞く。

「大体、12000メルって所かな……」

ちなみに、1メルが大体10円くらいの価値である。地球とは、少し価値観が違うので少しずれはあるが。

「へえ〜ずいぶんたくさんくれたね」

純粋に驚くライルに対しルナは、

「…………ちょっとくらいガメたってわかりゃしないわよね?」

………。あえて何も言うまい。

「それはだめだよルナ。学園長が、きっちり領収書をもらってくるようにってさ」

「ちっ!」

だから女の子がそういう言葉遣いをね………

「はいはい。それじゃ今日はこれで解散だね」

ライルが仲裁して、ライルとルナとクリスは寮に、アレンは実家に帰っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構大変なことになったね〜」

そんなことを言っている割に、顔は楽しげなシルフィ。

ここはライルの部屋である。現在10時夕食を終えて風呂に入り、ライルとシルフィは雑談中である。

この寮は、男子寮、女子寮合わせても40人程度の人数しか住んでいないので結構静かなものだ。

遊戯室には何人か生徒が遊んでいるはずだが、ライルは行かない。

男子の寮生活者はそのほとんどが2,3年生である。

ライルは、クリスやルナが尋ねてきて外に連れ出されるとき以外は、部屋からあまり出なかった。

話し相手には一人、やかましいくらいのやつがいるので問題ない。

夜の暇な時間はいつもそのやかましいやつと話して過ごす。

「ったく……ジュディさんも無茶言うよな〜」

「まあまあ。実際あのメンバーなら危険なんてほとんどないでしょーに」

「………確かにそうなんだけどな」

ずずっと紅茶を啜る。

元の家から持ってきた紅茶の葉もそろそろなくなってきている。

かなり大量に持ち込んだはずなのだが、ルナとクリスにあげたのがいけなかったらしい。

「そういえば、剣の手入れしなくていいの?」

セントルイスに来てから使うことなどなく、部屋の隅に置いてある剣を指さして言う。

学園での戦闘訓練も刃を落とした練習用の剣を使うので、面倒くさくなってもう持って行ってないのだ。

「そうだな……まあ手入れしとくか」

よっこらしょと立ち上がって剣をとり、鞘から抜く。

アーランド山で暮らしていたときは時々襲ってくるモンスターの撃退に使用していたが、あんまり刃こぼれはない。

もともと、彼の父親が趣味で集めたものの一つで、ライルが一番気に入っていた一振りだ。

「こいつ以外のやつは母さんが全部売っちゃったんだよなあ」

「そういえば、そんなこと言ってたわね。どうして?」

「いや、父さんの武具コレクション、母さんあんまりよく思ってなかったんだ。お金の無駄遣いだって。これだって必死に頼み込んで残してもらったんだぞ」

「ふ〜ん」

そんなことを言いながら手入れを始めるライルだった。

 

 

 

 

 

 

〜一時間後〜

 

 

「ふう、こんなものか」

「あっ出来たの?」

ぼけーっと見ていたシルフィが尋ねる。

「ああ」

ライルはそう言って軽く剣を振る。

「ちょっと、止めてよマスター。危ないじゃない」

「平気だって……」

ズバッ!!

「…………(汗)」

「マ〜ス〜タ〜〜〜!!?」

ライルの目の前には横一文字に切られたバスケットがあった。下手に切れ味が良すぎたのがいけなかった。

シルフィ用のベットとしてライルが買ってきたものだ。なかには、ライルが夜なべして作った小さな布団が入っている。

「今日、私は何処で寝ればいいのよ!」

「……すまん」

「全くもう……これだからマスターは……」

ライルは何か言い返したいのをぐっとこらえる。今回に限っては非は間違いなく自分にあるのだ。

「しょうがない。マスターのベットで寝させてもらうからね?」

「………わかったよ」

シルフィはふふふと笑うと、ベットの方に飛んでいった。

「しかし、マスターと一緒に寝るのも久しぶりね」

「そういえばそうだったな。って、そのまんまじゃ潰しちゃうかどうか不安だぞ」

「らじゃ」

そう言ってシルフィは目をつぶる。

シルフィの身体がぱぁーと光ったと思うと、そこには(見た目は)普通の女の子が立っていた。

シルフィ、久々の人間モードである。

大きくなってもいつもの姿とほとんど変わらない。違いと言えば羽根がない事ぐらいのものだ。その羽根だって、出そうと思えば出せるらしい。ただ、このサイズだと邪魔なので出してないだけだ。

「これで問題なしだね」

「ああ」

………全く問題ないとは言い切れないと思うが、それについては追求しないでおく。

「さてと、明日は確か6時に集合だったな」

明日、この勘違いがとんでもないことを引き起こすとは、当のライルには全然予想はついていなかった。

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