守矢神社が主導となって推し進めている妖怪の山の架空索道建設計画。
 ……架空索道、というとイマイチ耳慣れないが、要はロープウェイのことだ。

「しかし、これが中々難航していてねえ。天狗連中が反発してる。自分たちの縄張りに得体の知れないものを設置されるのが嫌なんだと」
「へえ、大変ですねえ」

 と、守矢神社に遊びに来た僕は、神奈子さんの愚痴に相槌を打つ。

「なんか説得できる材料はないかね。良也、どうだい? お前さん、天狗との繋がりがあるんだろ」
「……まあ、か細いながらも、一応」

 射命丸の新聞への協力だったり、広報部の撮る写真に興味を持った白狼天狗へインスタントカメラを卸したり、天狗の一部にうちの菓子店の常連がいたりと、どちらかというと閉鎖的な天狗社会に僕はコネのある方である。
 しかし、だからと言って妖怪の山という縄張りについては連中すげぇ神経質だしなあ。無理をゴリ押しできるほどのコネではないだろう。

「ちょっと力になれそうにないですね」
「……まあ、そうか。今思えば、こっちに来た時に天狗と交渉したが、あん時上手く行ったのは相当運が良かったな」

 守矢神社への参道を通るだけならば目溢しをする。
 そういう約定が守屋神社と天狗との間で結ばれているが、確かにこれを呑ませられたのは結構な偉業だ。神奈子さんの神格がそれだけ高いことの証左だろう。

「多分、こっち来て割とすぐに挨拶に行ったのが効いたな。良也、お前さんに忠告してもらったっけ。早いとこ交渉行けって」
「そうでしたっけ?」

 もう随分昔のことなので、よく覚えていない。

「うん? おや、良也じゃない。いらっしゃい」

 そんな風に守矢神社の境内で神奈子さんと世間話をしていると、空から諏訪子が降りてきた。

「っと、諏訪子か。お邪魔してる」
「うん。まあ、ゆっくりしていきなよ」

 と、挨拶して、諏訪子は神奈子さんに向き直る。

「おかえり」
「ん、ただいま。魚もついでに取ってきたから、晩御飯は川魚ね」
「おう、そりゃいいね。丸々太って美味そうだ」

 どこからか魚籠を取り出した諏訪子は、神奈子さんにその中を見せ、そんな風に話す。

「なんだ、釣りにでも行ってたのか?」
「や、違うよ。蛙の様子を見に遊びに行ってた。こいつは、帰りに見かけたからちょいちょいと取ってきたんだ」

 この発言からすると、どうやら神様パワーで魚を獲ったらしい。
 まあ、そういう超常パワーで根こそぎ獲られると魚が全滅してしまうが、守矢神社の三人の夕飯程度であれば何の問題もない。僕も釣りに出て釣果がなかったらこっそり水魔法で獲ってるし。

「あ、そうだ、良也。神奈子との話ってまだ長引く?」
「? いや別に。世間話してただけだし」
「私も、例の架空索道について、もっかい天狗に話付けに行くから、諏訪子が用があるんだったら切り上げようか?」

 なんだろう?

「や、用ってほどじゃないんだけどさ。うち、電気割りと自由に使えるようになったから、一緒にゲームでもしないかって思って」




















「……うっわ、スー◯ァミかよ」

 東風谷家(母屋は人間のだから東風谷んちになる)の居間のテレビに繋がれていたのは、四色のカラフルなロゴとボタンも懐かしい往年の名作ゲーム機であった。
 発売したのっていつだっけ。

「いやー、押入れの奥に置きっぱだったのを最近見つけてね。動くか不安だったけど、壊れてなくてよかったよ」
「ほー」

 話しながら、諏訪子がテレビの電源をつける。
 研究を続けていた核融合発電の成果は実っているらしく、もう週数回のメンテの時以外では自由に使えるようになっているらしい。

「里の方に展開するはいつぐらいになるんだ?」
「やー、そっちはまだまだだね。家に電装系の設備がないと駄目だし。河童連中は独自に応用してるらしいけど」
「別に個人宅まで引かなくても、せめて街灯でもあれば、色々便利なんだけどなあ」
「この妖怪の山から里まで電線引いても、妖怪の悪戯ですぐ壊れちゃいそうなのがネックなんだよねえ」

 あー、それはあるかもしれん。

「なら、諏訪子の能力で地中化したらどうだ?」
「あ、その手があったか。……うーん、でも、どっちにしろ勘のいい妖怪には気付かれるしなあ」

 難しい問題である。
 ま、それはそれとして、ゲームが起動した。

「懐かしいな。ス◯Uかよ」
「さあ、最新の神遊びだ。良也、ボコボコにしてやるよ」
「……全然最新じゃないと思うぞ」

 まあ、このゲームは昔やったことあるし、現在に至るまでコマンドは大体引き継がれている。ややこしいシステムがない分、久し振りでも問題なく戦えるだろう。

 お互い、キャラをセレクトして対戦スタート。

「……おい、躊躇なく待ち戦法はやめろ」
「飛び道具ないキャラ選ぶそっちが悪い。このアメリカ人の名前、蛙と似てるから好きなんだよ」

 ガ◯ル、カエル。……似てないって。

「やめろ、溜めんな」
「ふんふーん」

 僕が動かす筋肉もりもりマッチョマンのロシア人が近付くことも出来ずにボコボコにされる。
 ……筋肉イコールパワー信仰で、投げキャラ好きだった昔の記憶が蘇った。そういや、あの頃もこうしてボコボコにされてたっけ。

 一戦、二戦、三戦と、碌な抵抗も出来ずに沈んでしまった。キャラ変えりゃいいのだろうが、半ば意地になった感がある。

「……休憩休憩! 指が疲れた!」
「あいよ。じゃ、私はストーリーモードやってるかな」

 ふんふーん、と諏訪子が鼻歌を歌いながらモードを変える。キャラは一緒だった。

「ったく」

 他人のプレイを見るのも結構楽しいもんだ。適当にヤジを入れながら、他のゲームソフト、なにがあるのかを物色する。
 ……見る限り、ラインナップが男子だな。東風谷のあの人格形成の一端を知った気がする。外にいた頃の彼女は、思えば全てではないにしろ、猫をかぶっていたのだろう。清楚系美少女女子高生は所詮幻だったのか……?

 今の東風谷を見る限り、幻だったな。

「そういやさ、諏訪子。神奈子さんは仕事って言ってたけど、お前は手伝わなくていいのか?」
「んー? 今は私、することないねえ。実際に動く段階になったら私も働くけどさ、天狗との交渉とか、私が代表をやるわけにはいかないし」
「ここんちも相変わらず色々複雑だなあ。別に聞く気はないけどさ」

 表向き、神奈子さんがここの祭神だが、諏訪子も裏で重要な役割についている……というのは察しているが、詳しい話は知らない。知らなくてもいいと思うし、知ったところでなにが変わるというものでもないだろう。

「ま、その変の話は実は早苗もよく知らないしね」
「って、おいおい。東風谷にまで秘密にしてるのかよ」
「秘密ってわけでもないけど、わざわざ言い触らすことでもない。あの子は大丈夫だろうけど、あの子の子孫が私を担ぎ出そうとしても面倒だしね」
「いや、神奈子さんとお前を比べて、お前を前に出そうとする奴はいないと思うけど」
「どうだかね。なんせ東風谷の家系は……」

 ん?

「なんでもない」
「そう話を打ち切られると気になるんだけど」
「ちょいと、早苗の家と私に縁があるってだけさ」
「ふーん」

 そりゃ、ここの神社を管理している家系なんだから、縁がないわけないだろうが……
 なんだろ、そういうのとはちょっと違う感じだ。

 まあ、他所の家の事情に首を突っ込む趣味はないけれども。

「ま、今は私と神奈子しか覚えていないことさ。覚えている必要もない」

 と、なにか思うことでもあるのか、諏訪子は少し寂しそうである。
 しかし、それはそれとしてゲームの方は続いており、諏訪子の操るキャラが勝利を収め、勝利台詞を言う。

『国へ帰るんだな、お前にも家族がいるだろう』
「ふっ、国か……私の帰る国はもうないんだよね……」

 画面の台詞を見て、諏訪子がこんなことを言うが、

「いや、諏訪子。ゲームの台詞でしんみりした空気出されても困る」

 阿呆か。

「……ごめん、私も今のはないなー、と思った」
「だよな」
「あー、もう、なんか変な空気だったね。ゲーム変えよ」
「なら、これやろう。マリカー」
「お、いいね」

 昔死ぬほどハマったなあ、これ。

「その前に、なんか菓子でも持ってくるよ。今日はゲーム三昧だ」
「うーっす、ゴチになります」
「酒も入れようか?」
「おう、もらえるならもらう」

 反射神経を要求されるレースやアクション系だと命取りになりかねないが、まあ、それもまた良しだ。

「わかった、ちょっと待ってて」

 さて、と。ちゃんと操作覚えているかな。













 神奈子さんと東風谷が帰ってきた後、二人も交えて諏訪子の言葉通りゲーム三昧であった。
 なんか、諏訪子が帰る国がないとか言ってたが、家族はいるな、と思った。

 なお、ドカ◯ンをプレイした結果、酒も入っていたこともあり、その家族が崩壊の憂き目に合うところだったが……

 ま、まあ、後腐れなく弾幕ごっこで発散していたようなので、大丈夫だろう、多分。



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