外の世界の学生、宇佐見菫子が引き起こした異変もひとまず収束を見せた。 霊夢との最終決戦に破れた宇佐見は、霊夢とか魔理沙とかマミゾウさんとか華仙さんとかに囲まれ、もう幻想郷に手出しはしませんと誓約し、開放された。 まだ都市伝説を使ったお遊びは流行っているが、飽きっぽい幻想郷の人妖のこと。すぐに流行りも廃れることだろう。 これにて、一件落着。 「と、思ってたんだけど。なにやってんの、宇佐見」 さあ、今日も元気に菓子を売るか、と幻想郷にやって来た僕の目に飛び込んできたのは、博麗神社の境内で霊夢と談笑している宇佐見の姿だった。 「あ、裏切り者だ」 「誰が裏切り者だよ。僕はどっちかっつーとお前を止める側だったんだ。騙し討ちみたいになったのは謝るけど、裏切りじゃないぞ」 「詭弁よ、詭弁。教師ともあろうものが、可愛い学生のささやかな願いを踏みにじるなんて、許されないことだわ」 「全然ささやかじゃなかったんだが」 自分の命を犠牲にして幻想郷の結界を破壊するとか、なにが凄いって誰一人得をしないところが凄い。 「ま、私としては楽が出来て助かったけど。無粋な真似だったのは確かね」 霊夢はそう言って、これみよがしに溜息をつく。 「お前らの粋は僕には理解できん……」 「だったらすっこんでればいいのよ。まったく」 あれー? そ、そんなに責められるようなことしたのか、僕? い、いや。一応、幻想郷のピンチを未然に防いだんだよね? 別に僕が止めなくても霊夢がなんとかしただろうけど、万全を期すという意味では良いことだったと思うんだけど。 「ま、まあそれはともかくだ。宇佐見、なんでお前こっちにいるんだよ。もう幻想郷に来ないって約束だったんじゃないのか?」 「不可抗力よ、不可抗力。なんか、霊夢さんにやられてから、眠っている間だけこっちに来ちゃうようになったのよ」 眠っている間だけ……? 「ん? それじゃ、寝てる間、宇佐見の身体ってどうなってるんだ?」 「一応、消えたりはしていないみたい。授業中で居眠りしている時とかもこっちに来るけれど、騒ぎにはなってないし」 「……授業中の居眠りについて、教師として物申したいところだが、取り敢えず置いとこうか」 と、すると、無意識の幽体離脱かなにかか? いや、寝ている間に異界に行くという逸話はいくつかあるし、その類? ……うん、わからん。 「しかし、寝てる間はこっちに来るって、それじゃ気が休まらなくないか?」 睡眠中に幻想郷に来る。起きてる間は向こう。 ……僕だったら精神的に滅茶苦茶疲れそうな気がする。 「あら、せんせったら。こんなに楽しい世界に来ているのに、疲れるはずなんてないじゃない。最近じゃ、ほとんど眠って過ごしているわよ。まあ、ホントに熟睡すれば来れないみたいだし」 「おいおい、大丈夫なのか? 勉強とか、友達とか家族とか」 「私、頭いいし。友達はいないし。家族も放任主義だから」 なんだ、この超不健全な学生は。夜中に歓楽街に赴く学生といい勝負だぞ。 「霊夢、いいのか? 宇佐見がこっちに来ないよう約束させたじゃないか」 「異変を起こさないんだったら、私としては別に掣肘する理由はないのよね。自分で制御できるわけじゃないみたいだし」 駄目だ。そういえば、霊夢はこういう奴だった。 「……あんまり、外の生活をないがしろにすんなよ。将来、苦労するぞ」 「平気よ、平気。これでも私、取り繕うのは上手なのよ」 それは平気とは言わない気がする……。 「ったく。ああ、霊夢。これ、前約束してた羊羹な。帰ったら僕も食うから、全部食べるなよ」 「はいはい。わかりましたっと」 外の有名店の菓子だ。霊夢はここのが好きで、たまに頼まれる。 「あらー、せんせ。外の世界のお菓子を売り歩いているとは聞いたけど、本当なのね」 「まあ。霊夢には別に売ってるわけじゃないけどな。こっちに来た時泊まらせてもらってるから、そのお礼だよ」 え? と、宇佐見が固まる。 「? どうした」 「え、えーと」 声をかけると、宇佐見は僕と霊夢を見比べ、うぬぬ、と唸る。 「も、もしかして、せんせと霊夢さんはそのような関係で?」 僕は、今更な指摘に深々と溜息をつく。 「宇佐見。こっちにゃ宿とかないんだよ。で、軒先借りてるだけだ。ここだと、色々便利だしな」 「はあ」 イマイチ納得のいっていない様子の宇佐見だが、ちと恋愛脳が過ぎる。 まあ、女の子って色恋沙汰は好きだから、色々と勘繰るんだろう。まあ、こっちに来るようになったということは、そんな誤解はすぐに解けると思う。 「そんじゃ、ちょっと菓子売ってくる。霊夢、なんか帰りに買ってくるものはあるか?」 「そうねえ。それじゃ、お塩とお味噌とお米とお醤油。後、お酒を一斗樽で四つ。ああ、料理酒と味醂もね。……うーん、ついでだから、焼酎もお願い」 「多い多い多い。しかも糞重いのばっか」 「丁度良也さんが来る頃に切らすよう調整していたからね。よろしく」 こ、この女。その調整する手間を使って買い出しに行けばいいものを。僕を使いっ走りにすることに全力を注ぎすぎだろ。 「いけるでしょ?」 「多分、ギリッギリでな」 僕の能力の『倉庫』の容量はそれほど大きくはない。しかし、入りきらない分は手で持てば、なんとか持ち帰れる量だと思う。 ……こいつ、僕の『倉庫』の容量なんて教えていないはずなのに、どうしてこうまで限界を見切ってるんだ。 「持ちきれなかったら酒の量減らすぞ?」 「明後日宴会やるから駄目。ちゃんといつもの量買ってきて」 「……何故僕は自分が参加しない宴会のために買い出ししないといけないんだろう」 はあ、と溜息をついて踵を返す。いざとなったら、二往復くらいするしかないだろう。 「あ、せんせ。人里ってところに行くなら、私も付いてっていい? 昼間の里って、そういえば行ったことなかったから」 「いいぞー」 まあ、そういうことになった。 里の大通り。いつも店を出している場所に降り立つと、宇佐見が感嘆の声を上げた。 「へえー! 結構賑わってるんだ。夜は人通りがなかったからびっくり」 「そうだなあ。異変が起こってると、出歩く人は減るから。特に夜は。異変が起こってなければなー」 暗にてめぇのせいだぞ? と突いてみるが、宇佐見はどこ吹く風だった。 「こっちはアクセサリのお店? へえ、木で出来てるんだ。こういうのもいいわねー」 向かいに露店を出している人のところへ向かった宇佐見が商品を冷やかす。 「おう、お嬢ちゃん。見かけない顔だが、土樹の知り合いか? よかったらおひとつどうだい?」 「うーん、おいくら?」 「そうさなあ。お嬢ちゃんは可愛いから、おまけしてこんなもんでどうだ?」 指で金額を提示する店主さん。相当安い値付けだ。 うーん、と宇佐見が悩み、こっちに振り向く。 「せんせー。これって、どのくらいなの? こっちのお金のこと、全然わかんない」 「……安いよ。でも宇佐見、お前幻想郷の金持ってるのか?」 「え? 日本銀行券じゃ駄目なの?」 「使えるわけねえだろ」 僕は仕方ない、と懐からこっち用の財布を取り出し、数枚の硬貨を宇佐見に投げる。 適当に投げたのでバラバラに飛んでいったが、宇佐見は念動で受け止めて自分の手の平に集めた。 「ありがとっ。おじさん、これでいい?」 「ああ、一枚で十分だ。はい、お釣り」 木彫のブローチを受け取って、宇佐見がはしゃぐ。 その間に、僕は菓子店の準備を進めた。 「せんせ、ありがと」 「ああ。残りは取っとけ。返すのはいつでもいいけど、なんか稼ぐ手段は考えとけよ」 「うーん、バイトの経験はないんだけどなあ」 つっても、宇佐見がその気になれば、幻想郷で稼ぐ手段はよりどりみどりだ。 数度の弾幕ごっこを観察した限り、テレキネシス、テレポート、アポート、ハイドロキネシス、パイロキネシス辺りが高度に扱える超能力者である。どこでも食いっぱぐれないだろう。 「おすすめは畑仕事かな。開墾したり、用水路引いたり、楽勝だろ?」 「それはそうだけど、なんか格好悪いなあ。こう、もっと私に相応しい、面白くてスリリングなお仕事はないの?」 宇佐見は幻想郷の八割を占める農業従事者に喧嘩を売りたいらしい。 ……うーん、まあ、現代を生きる女子高生がそういった仕事を嫌うのはわからんでもないが。 「面白くもスリリングでもないが、僕みたいに外の世界のものを持ってきて売る、とかかな。っと、いらっしゃい」 話している途中にお客さんが来たので対応する。 その様子を見て、宇佐見は唸る。 「面倒臭そう……」 「あれも嫌、これも嫌じゃ何も出来ないぞ」 「というか、そもそもの問題として、私、こっちに持ち込めるのは寝てる時に着てる服とせいぜい手回り品くらいなのよ」 「ふーん」 じゃ、僕みたいに菓子で薄利多売とかは難しいか。 「まあ、のんびり考えるわ。今のところ、どうしても欲しいものがあるわけでもないし。……っと、せんせ、お客さんよ」 「はいはい。いらっしゃ……なんだ、鈴仙か」 三度笠を目深にかぶり、大きな薬箱を背負った行者風の格好で立っているのは、永遠亭の兎の鈴仙だった。 その出で立ちからして、どうやら置き薬の営業の帰りのようだ。 「なんだとはなによ。仮にも客に対して、その態度はないんじゃない?」 「確か、以前永遠亭に来た客を門前払いにした兎がいたような」 「……まあ、それはいいのよ。今日のおすすめは?」 あ、話変えやがった。 「せんせ、知り合い?」 「ああ。鈴仙つって、迷いの竹林にある永遠亭ってとこの妖怪だ。薬師だから、こっちで病気になった時は頼るといい」 言うと、鈴仙が嫌そうな顔をした。 「あんまり人間に頼られたくないんだけどねえ」 「お前、それは今更だろ。永遠亭の置き薬は随分と評判だぞ」 「そうだけどさ。ていうか、そっちの人間、誰? 着物からして、幻想郷の人間とは思えないけど」 鈴仙の値踏みするような視線にもたじろがず、宇佐見は笑顔を返した。 「これはどうも、宇佐見菫子です。こっちの人風に言うと、外の世界からやって来ました。寝てる時だけ来れるんですが、どぞ、よろしく」 「外の世界の人間……?」 「はい。ところで鈴仙……さん? できれば、ご挨拶の時は帽子を外していただけませんか」 宇佐見も自分の帽子を取って鈴仙にそう促す。 鈴仙は少し迷った後、一つ嘆息をして笠を取った。 「鈴仙・優曇華院・イナバよ」 「……!?」 素っ気ない言葉に、しかし宇佐見は反応せず、こちらにひそひそ声で話しかけてきた。 (せんせっ! うさみみですよ、うさみみ!) (おう、どうだ) (バニーさんとかじゃなくて、本物ですよね? うわー、妖怪っぽい!) 妖怪っぽい……? そうか? (いや、それよりもだな。可愛いだろ? ケモミミっ子) (…………) 内緒話をしている僕らを不審に思ったのか、鈴仙がジト目で睨んできた。 「……ところで貴女。良也みたいな変態じゃないわよね」 「異議あり」 「ええ、せんせ程変態ではありません」 「宇佐見ぃ!?」 てめえ、一秒の迷いもなく同意しやがったな!? 「それは重畳。うちはさっきそこの男が言った通り、薬師を生業にしているわ。お近づきの印、ということで、腹痛の薬の試供品ね」 「あ、これはどうも」 「さて、それじゃ……良也、そこのたけの◯の里をおひとつくださいな」 あれ? フォロー無し? 「……毎度」 なんか、ものすごく貶められた気がする! なんか見てると面白いとかで、宇佐見が僕の菓子店を見学しながら時間を潰していると、またも見覚えのある奴がやって来た。 「ワタシがキレイじゃなかったら飴を寄越せ!」 「ひぃ! 口裂け女!」 なにかトラウマでもあるのか、宇佐見が悲鳴を上げる。 しかし、口裂け……おん、な? 都市伝説にしてもひん曲がりすぎだろ。 「……こころ、なんかこう、その台詞は色々とおかしくないか?」 「?」 あ、駄目だこの付喪神。 「とりあえず、菓子が欲しいなら金払って買ってくれ」 「飴を寄越せ!」 「買えっての!」 ぽく、ぽく、ぽく、とこころは困惑の面を付けて考えこみ、 「飴をくれない……つまり、ワタシがキレイってコト?」 「あー、はいはい、それでいいそれでいい」 間違いじゃないが、それに同意するのは滅茶苦茶抵抗あるぞ、この状況。 とりあえず、色々となだめすかしてなんとか代金をいただくことに成功。 飴一つ売るだけなのに、妙に疲れた。 「うわー、せんせってば、口裂け女相手にも商売するんですね」 「前も言ったが、あれは口裂け女じゃなくて面霊気だ」 「面霊気?」 「外に帰ったら『百器徒然袋』でググれ」 僕も新しい知り合いが増えたら、その妖怪の詳細をインターネットで簡単にだが調べている。時々、文献にもなにも残ってない奴がいたりするけど。 「へー」 「っと、次のお客さんだ。話はまた後でな」 「良也さん、こんにちは。……ところで、そちらの女の子は一体?」 と、買い物帰りらしき妖夢がやって来た。 「ああ、こっちは宇佐見つって、外の世界の人間だ。たまにこっちに来るらしいから、よろしくしてやってくれ」 軽く雑談をする。 しかし、宇佐見が口を挟んでこない。さっきから、僕が客と話すごとに話に混ざってきたくせに。 「せ、せんせ……?」 「ん?」 「こ、この人、日本刀持ってるんですけど」 ようやく口を開いたかと思えば、そんなことを思っていたのか。 「こっちじゃ銃刀法なんか関係ないからなあ。持っている人、そこそこいるぞ」 まあ、妖怪相手だと荷物を少しでも減らして逃げ足を早めたほうがよっぽど生存率が高いので、普段から持ち歩いているのは武芸者の人くらいだが。 「? 良也さん、外の世界では帯刀は一般的ではないんですか?」 「当たり前だろ。ヤッパなんて持ち歩いてたら警察が飛んで来るわ」 「馬鹿な……それではどうやって人やモノを斬ればいいんですか」 その発想が馬鹿な……だよ! 「さ、殺人鬼の人?」 「失敬にもほどがあります。改めて自己紹介をしましょう。私は魂魄妖夢。殺人鬼ではなく、冥界の庭師をしております」 「冥界……死神?」 「死神の方とは管轄が違います」 でも、里の人的にも、冥界からやって来たということで、死神と似たような扱いなんだよな。 「その程度の違いなんだ……私はまだ若い身空だから、殺されたりしないよね?」 「だからそれは別の担当の仕事ですから。いい加減にしないと、良也さんの知り合いと言えど斬りますよ」 「うわっ、物騒な人だ……!」 「大げさな。ただ貴女を斬ろうというだけですよ?」 「だから、斬ろうとしているんだよね?」 「……解せないですね。やはり、外の世界の文化は幻想郷とは違う発展をしているみたいです」 いや、妖夢。それ、幻想郷的にも異端だから。 普段は良識を持った子なんだが、とりあえず物事を斬って解決しようとする癖だけはなんとかして欲しい。 「……で、妖夢。なんか買うのか?」 「あ、はい。それではそこの……」 妖夢は、幽々子への土産と思われる菓子を幾つか見繕って購入し、礼を言って去っていった。 「……せんせ」 「なんだ」 「まさかこっちって、目と目が合ったら斬り合うような時代劇な世界なの?」 「あれは例外だから」 この後、宇佐見の誤解を解くのに苦労した。 「あれ、先生。そっちの子の格好って……」 今度は東風谷が来た。今日は千客万来である。 「東風谷、こっちは宇佐見。宇佐見、こっちは東風谷つって、元は僕達と同じく外の世界の人間だ、色々聞いとけ」 「え? え?」 「はい、ゴー。っと、いらっしゃい。え? 今日はうま◯棒は売り切れだよ。チョコはそっち」 今はちょっと客が押し寄せてくる時間帯なので、東風谷に詳しく話している暇がない。まあ、同じ出身なのだ。うまいこと話を合わせてくれるだろう。 「えっと、釣りが、ひーふー。はい、どうぞ」 そうしてお客さんを捌いている間に、宇佐見と東風谷は少し離れたところで話をしていた。 それなりに会話は弾んでいるようで、なによりのことだ。 三十分ほどのラッシュが終わり、商品の売り切れとともに客足がようやくなくなったころ、宇佐見と東風谷が戻ってきた。 「あら、完売ですか」 「ああ、東風谷の分、一応残しといたぞ。ポッキー」 「あ、どうもどうも」 東風谷は甘いもの好きなので、一つだけ取っといた。 「早苗さん。色々聞かせていただきまして。ありがとうございます」 「いえいえ、私もこちらに来た当初は本当に苦労しましたからね」 遠い目になる東風谷。 そうだねえ、かまどでご飯を炊けずにオロオロしていた頃もあったなあ。 「でも、そういった苦労があってこそ、今の私があるわけです。私の経験が菫子さんの役に立ったなら何よりですよ」 「はい、早苗さんの教えを胸に、頑張ります」 なんか、変な先輩後輩関係ができている気がする。 「そう、この幻想郷では」 「常識に囚われてはいけません!」 「常識は捨てちゃ駄目なやつだよ!?」 もはやこの二人については手遅れな気がするけど! 博麗神社への帰路につく。 頼まれたお使いについて、宇佐見にヘルプを頼んだが、断られた。なんでも、女の子にそんな重い物持たせようとするなんてサイテーな行為、だそうだ。 ……絶対に宇佐見の方が運べる量多いんだけどなあ。 「しかし、せんせ。今日だけで結構な人と知り合いになったけど」 「ああ。でも、気をつけろよ。基本、今日会ったのは善良な方の連中だけど、東風谷以外は妖怪だからな、なんだかんだで」 「いや、それはいいんだけど。……女の子の知り合い多いね、せんせ。すごく意外」 い、意外? 「それはどういう意味で?」 「だってせんせってモテなさそうじゃない」 い、言い難いことをはっきりと。 「……別にモテてない。単に知り合いに女子が多いってだけで」 「あー、そっか。でも、せんせみたいな人だと、あんな綺麗な人達と知り合いってだけで結構な幸運だと思うよ」 ……幸……運? そういった一面が皆無であるとは言えないかもしれないが、幸運と不運の天秤が全然釣り合っていない気がする。僕、死亡回数三桁行ってるんだぜ。 「なんか誤解されている気がするが……」 「でも、妖夢さんとか、せいぜい中学生くらいにしか見えなかったわー。あ、そうだ。せんせと妖夢さんが並んでるところを写真に撮って教育委員会にタレこめば……」 「絶対にやめてくれよ!?」 なにを恐ろしいことを企んでいるんだ、こいつ。 まあ、流石に冗談だったようで、宇佐見はからからと笑っていた。 「……はあ。なあ、宇佐見。幻想郷はどうだ?」 「ええ、怖いこともあるけれど、不思議な光景ばかりでドキドキしているわ! 次はなにしようって、いつも楽しみよ」 なら、いいか。 苦労させられたが、宇佐見が幻想郷を好きになってくれたなら、まあ悪くない気分だ。 なんだかんだで。 自分が好きなものを、他の人に好きになってもらえるのは嬉しいものだと。そう、思った。 なお、霊夢への土産の羊羹は全部食べられていた。 「私は確かに半分しか食べていないわよ」 「わりっ、良也。ゴチ!」 ……残りはこの白黒の魔法使いに食われたらしい。 ガッデム。 | ||
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