死んでから生き返るこの瞬間は、いつもなんか変な感じだ。
 海より深い眠りから目覚めるような、奈落から『よっこいしょ』と這い出てくるような、爽快さとダルさが一挙両得に味わえる瞬間。

 あ〜、そういえば、お空に殺られたんだった。何気に、あいつは勘違いばかりで僕を殺したランカー上位にいる。フランドールといい勝負だ。
 もはや、恐怖とかそーゆーのはあんまり感じなくなってきた。慣れって怖い。

 んで、意識が浮上してくるとともに、ドッスンバッカンと、戦いの振動が感じられるようになってきた。

「核熱『人工太陽の黒点』!」
「秘法『九字刺し』!」

 段々と戻ってきた聴覚から、お空と東風谷の争いの声が聞こえる。
 あ〜、早いとこ起きないと、またしても余波で消し炭になるなあ。

 とは言っても、すぐ動かせるようになるなら苦労はない。

 ある意味のんびりと、体が動くようになるのを待ち……それが終わる頃には、二人の争いも終わったようだった。

「この地下に、巨大な物は隠されていませんか?」
「ええ? どんくらいのヤツ?」

 東風谷がお空を問い詰めている。
 しかし、要領を得ない。『そんなものはあるはずがない』と、流石のお空の鳥頭でも理解できるらしく、呆れたように去っていった。

「……ふぁ、東風谷、ぉはよう」

 時をほぼ同じくして、僕の体も全快する。

「あ、先生。おはようございます」
「……なあ、東風谷。僕が言うのもなんだけど、僕が生き返ったことについて、少しは驚いたりは?」
「今更ですね、先生」

 そうなんだけどさあ。昔はかたくなに信じようとしなくて『私を騙そうたって、そうはいきませんよ』なんて言っていた東風谷がねえ。

「お、でも服は無事か」

 立ち上がって自分の体を見下ろす。ボロボロながらも、着ていたシャツとジーパンが、なんとか体を隠す用を足していることを確認した。
 いつものパターンなら、服ごと消し炭になって『いやーん』な羽目になっているのだが……ありがとう草薙の剣。本当、ありがとう。我が家の家宝にするからなっ!

「先生、それよりも先生も手伝ってください。熱いだけの場所ですが、もしかしたらどこかに巨大ロボの格納庫が隠れているかもしれません」
「……うーん、どうだろうなあ?」

 そんなもの、このシンプルな炉に隠せておけるとは思わないんだが。

「それにしても、すごい蒸気……この蒸気のせいで、ここにいた人影が投影された? ……違いますよねえ」
「だな。ありゃ影なんかにゃ見えなかった」

 しかし、なんで蒸気がこんなに? 蒸気でタービン回して発電する実験はしているはずだが、普段はここまで派手には……。

 ドスン、と突然床が激しく振動した。

「うお!?」
「これは――」

 ドスン、ドスンと規則的な振動。そう、なにか巨大な何かが歩いているような……

「まさか、これは本当に!? 外の世界では実用性とか言う下らない理由で実現しそうにない人型巨大ロボが!? 憧れのリモコン式二足歩行巨大ロボットが幻想郷にあったとは!」
「な、なんでリモコンなんだ?」

 発想が古くね?

「だって、普通の人間があんなロボットのコクピットで操縦できるわけないじゃないですか、常識的に考えて。絶対すごい振動ですよ。酔います」
「言っていることはごもっともだが、今の東風谷が常識を語る資格はないと思う」
「え? ええ? なんでですか、先生」

 なんでと聞くかな!? 大体、どう考えてもロボットを操縦するような人間は普通じゃないから。乗り物酔いになんて縁のなさそうな人間は何人もいるから。

 と、東風谷と二人、ここに来て一気に現実性が増してきたロボットについて話しあっていると、

「下! 危ないよー!」

 そんな声が上から聞こえて、一秒もしないうちにすごい勢いでぐちゃっ、と地面に叩きつけられた。

「んがっ!?」
「だから危ないって言ったのに……って、あれ、良也?」
「す、わこ、かっ。どけっ、とりあえず!」

 僕を押し倒して腹の上で蛙立ちをしているのは、守矢のもう一柱の神、諏訪子だった。

「諏訪子様っ」
「あれ? 早苗まで。良也はともかく、早苗がここにいるなんて珍しいね。どうしたの?」
「だから、早くどけって! 最近はアレか? 僕を上から押し潰すのが流行っているのか!?」
「失敬な。押し潰すほど重かないよ」

 文句を言いながら、諏訪子は僕の上からどく。つつつ……骨とかは折れて……ないな。

 幸いにも、諏訪子は本人の言うとおり軽い分、霊夢よりダメージは少ないようだった。着地寸前に勢いを殺していたし。
 ……いや、別に霊夢が重いって言っているわけじゃないよ? あくまで比較対象が子供なせいで……ってなんでこの場にすらいない霊夢に、心の中で言い訳しているんだろう僕は。

 僕の心を読んで、針を構える霊夢を空中に幻視しつつ、立ち上がる。

「それで諏訪子様。諏訪子様はなぜこんなところに?」
「いやー、ちょっと野暮用でねー。そういう早苗は?」
「ああ、そうそう! 聞いてください、諏訪子様。なんとあの巨大ロボットがこの幻想郷に存在したんですよっ」

 すっげー嬉しそうに諏訪子に語る東風谷。

「巨大ロボット? そりゃ凄い! あれかい、シャア専用○クでもいたかい?」
「なんで専用!?」
「だって、三倍なんだよっ!?」

 わけはわかるけど、なぜにそんなに熱くなるかな。

「いやあ、放送当時はあの白い悪魔がここまでメジャーになるとは思っていなかったよ。いや、私はすごく燃えたけどね」
「……ああ、考えてみれば、諏訪子はそのナリで、僕より年上だったな、そういえば」

 リアルタイムでファーストガン○ムを見ていたのか、もしかして。

「しかし諏訪子様。この幻想郷は外で忘れ去られたものが訪れるといいます。ガ○ダムはまだまだ現役。ここはガンガルあたりかと」
「そうかもねー」
「何の話をしている、何の」

 ちなみに、外の世界では等身大のガンダ○がお台場にあったりするが、言わない方が吉だろうか。

「で? どこでそのロボットを見たんだい?」
「ええ。丁度ここの上に。あいにくと蒸気で正確な姿は確認出来ていませんが、間違いありません」
「僕も見た。確かにでかい人影だった」
「大きな人影? ここの上で?」

 諏訪子は少しキョトンとしたと思うと、いきなり笑い始めた。

「ハハハハ! も、もしかして、早苗と良也が見たロボットって!」
「な、なんだ? 諏訪子、もしかして知っているのか」
「知っているも何も、多分そりゃ非想天則だよ。私ゃ、そいつの調子が悪いから様子を見に来たんだ」

 非想……なんだって?

「いやあ、巨大ロボットかあ。うん、本当にいたら面白いことになりそうだったけど、残念だね。でもさ、懐かしいね、巨大ロボットって響き。エ○ァ辺りからだと思うけど、最近はロボットらしいロボットって少なくなってきていない?」
「しっかり見ているんじゃないかよ!」

 それに、それなりにロボット物もありますよ? まあ、社会現象にもなったあのアニメが一つの分岐点だったことは認めるけどさ。

「でもま、早苗も馬鹿だねえ。いや、観察力が足りないと言うか。非想天則はさ、ただのでくのぼうだっていうのに」
「諏訪子様、一体先程から何を仰っているんですか?」
「ん? だから早苗が見たって言う人影。非想天則のことでしょ」
「……その非想天則とやらは、神奈子様はご存知で?」

 『知らないんじゃないかなー』と諏訪子は適当に言う。
 うーん、そういえば、ここにくる前に会ったけど、特に巨大な人影に心当たりはないみたいだったしな。

「まったくもう。神奈子様といい、諏訪子様といい、最近、勝手な振る舞いが少々多いですよ? ここを作るのだって、地底の妖怪と一悶着あったそうですし」
「今は落ち着いてるからいーじゃん。あ、あんときはありがとーね、良也」

 言葉だけかよう。あの針の筵のような神奈子さんとさとりさんの間に立つのはすげぇ胃にキたんだぞ。
 まあ、今回、神奈子さんからは礼をもらったし、いいけどさ……

「よくありませんっ! なにもしていないのにネチネチと文句を言われる、人間の私の立場も考えて下さい」
「え? 誰に言われてんの?」
「霊夢さんとか魔理沙さんとか。昨年の冬の異変で未だに文句を言ってくるんです。神奈子様たちに直接言ってくれればいいのに」

 あ〜〜、言いそうだ。サバサバしている癖に、妙にねちっこい連中だからな。いや、矛盾しているが、あいつらの中では見事両立していると言うか。

「人間の立場って。早苗は確かに人間でもあるけど、現人神……私たちと同じ、神でもあるよね」
「なら、同じ神として一言言わせてもらいます。諏訪子様は、身勝手な行動を取り過ぎです! 自重して下さい」
「嫌だって言ったら?」

 反応を楽しむように、諏訪子が含み笑いを漏らしながら東風谷に聞く。
 東風谷は、そんな諏訪子にお払い棒を向け、

「ならば仕方ありません。少々痛い目に遭ってもらいますよ!」
「うひゃ〜! なに? 遊んでくれるの?」

 ……本来なら、うちの早苗がって嘆くところだと思うんだけど、テンション上げ上げの諏訪子は嬉しそうにしか見えない。

「諏訪子。自分とこの子の変貌ぶりに、なにかないのか……?」
「なぁに、良也? 無粋なこと言うじゃないか。外じゃあ早苗は良く言えば素直、悪く言や自分を押し殺していたんだ。私ゃ、早苗が強くなってくれて嬉しいね」
「強く……強いけどさ」

 なんだろう。東風谷の変身っぷりは、保護者の教育方針にも問題がある気がしてきた。

「ふふーん、でも早苗? 地底は私の土俵だよ。ここで私とやりあう気?」
「望むところです」
「いいねっ、そうこなくっちゃ! さあ、存分に私に痛い目を見せておくれよ。出来るもんならね!」

 腕をぶんぶん振り回して、諏訪子は凄いテンション上げている。それに応えるように、東風谷はスペルカードやらなにやらを構え、今にも飛び出しそうな体勢になった。
 いや、しかしなあ。別に、お仕置きするんだったら……

「なあ、東風谷。別に物理的に痛い目に合わせなくてもさ。東風谷は守矢神社の台所を握っているんだから、飯抜きにするなり酒抜きにするなりしてやれば……」
「勘弁してください」

 一転、態度を変えて諏訪子が泣きついてきた。

「え、えっと?」

 いきなり出鼻をくじかれて、東風谷が戸惑う。
 その隙をついて、諏訪子が僕に抗議してきた。

「良也! あんた人の勝負に横から口を出して、なんて鬼畜なことを言うんだ!」
「いや、お前ら食わなくても平気なんだろ? 神様なんだから。だったら、たまには神社の家計に貢献するのも悪くないんじゃないかなー、と」
「くぅ〜! これだから神遊びを解さない無教養なヤツは」

 あんな弾幕あふれる危険な遊びが理解出来ないと無教養っつーなら、僕は無教養でいいわい。

「え、えっと。それじゃ、向こう一ヶ月、いつもの晩酌はなしってことで」
「あああああ゛〜〜〜〜」

 絶望に諏訪子が打ちひしがれる。

 先程までの元気は見る影もなく、ヨロヨロと東風谷と対峙した。

「じゃ、じゃあさ。早苗が勝ったらそれで、私が勝ったらいつものお銚子を三本にするってのはどう!?」
「ええと、それなら……」
「いや、東風谷。そこで引くなよ。つけあがるからなあ」

 余計なことを言うなと、なんか諏訪子が……なんつーのか、岩って言うか岩盤を投げてきた。

 ずおおお! と迫る石壁だが、慌てず騒がず、草薙の剣を構えて受け止める。ぐっ、とかなりの衝撃はあったが……

「……うおお、防げた」

 剣に当たった瞬間、勢いは嘘のようになくなり、ドスンと地面に落ちて消える。あんな物理攻撃まで防げるのか―。便利だ。

「うっ、良也の癖に!」
「そののび○のくせにー! って言い方はやめろ」
「っていうか、なにその剣。妙に力を感じるんだけど」

 はっはっは、確かに強いよ、この剣。でも、切り払わないといけない以上、弾幕にはあまり意味がないって弱点も露呈しまくっているけどねっ。

「……ああ、もう。なんでもいいや、早苗の今の力も見極めたいし……。いくよ、早苗!」
「はい!」

 なんかこう、グダグダになりつつあった場を吹き飛ばすかのように諏訪子は言い張り……そして、東風谷VS諏訪子の、家族喧嘩というか、神遊びが始まった。



前へ 戻る? 次へ