ナズーリンに、道すがら色々と話を聞いた。 どうも、この船の名は聖輦船と言うらしい。……んで、ここの妖怪一味は聖さんとやらを復活させたい、ってのはさっきの一輪さんに聞いたが……そのために、この飛宝が必要とのことだ。 「……ふーん。これがねえ」 「聖の弟様の霊力が必要でね。それが篭っているのはもうそれしかないんだ」 「よくわからないなあ……。どういう封印なんだろう?」 血縁の力を使って解ける封印? ん〜、そういうのがあるのかな。 「そして、もう一つ必要なのが、この毘沙門天の宝塔。いやあ、ご主人様がなくしたって聞いたときは、焦った焦った」 「……君んとこのご主人様って」 かなりのうっかりさん? んな大切なものを、何故なくすのか。……まあ、世の中にはそういう間の悪い人も、いるにはいるけど。 「しかも、途中で飛宝を集めていた変な人間と遭遇して、落とされちゃうし。やれやれ」 「……悪い、その変な人間、僕の身内だ」 ここの関係者とばかり遭遇しているのは流石というかなんと言うか…… まあ、連中の前に立ったのが不幸だったってことで。 「ってことはだ。この飛宝とその宝塔。必要なのが揃ったんだから、封印を解きに行くんだよな?」 「そう。さて、ムラサ船長がちゃんと仕事をしていればだけどね」 ムラサ? 聞いた名前だな……たしか、ぬえがそんな名前を言っていた気がする。 「しかし、君はいいのかい? 向かっている先は、魔界の一部、法界だ。普通の人間は、瘴気にやられて死ぬもんだが」 ……今、なにかスゴイことを聞いた気がする。 耳がおかしくなっているのかなぁ〜、あっはっは、と耳の穴をかっぽじる。 「……スマン、なんだって?」 「この船は、魔界に向かっているんだよ。飛宝は、君のと合わせて十分な数が揃っているし、今まさに向かっているはずだ。……と、言うより、そろそろ境界に入っているかな。瘴気が濃い」 ま、魔界? その、悪魔とかが蠢いている、あの魔界? パチュリーんとこで、文献とかをちらっと見た程度だけど……生きている人間が帰ってきた例はないとかなんとか。 じょ、冗談じゃないぞ!? 死にはしないかもしれないけど、魔界で正気を保てるか僕!? あっ、でも霊夢たちが……ええい、殺しても死なないようなあいつらだから、自分でなんとかするだろっ! 「ま、マズイ!? か、帰る!」 「途中下船? 構わないけど……あ、魔界に入ったみたいだよ?」 キャー。 魔界に入ったといっても、なにが違うのかよくわからないが、ナズーリンがそう言うならそうなんだろう。 うーむ、どうしたものか……ちゃんと帰れるんだろうな? そう疑問に思うと、ズズーン、と大きな振動と音が、すぐ近くで聞こえてきた。 「な、なんだなんだ?」 「あ、ムラサ船長じゃないか」 音源である前のほうを見ると……見覚えのある三人と、もう一人見たことのない妖怪らしき人が戦っていた。あれが、ムラサって人か。 霊夢たち三人対妖怪、の図ではない。だとしたら、とっくに勝負は付いている。 あくまで、四人でのバトルロワイヤルだ。もしかして、ずっとあの調子でここまで来たのか、あいつら。 「霊夢! 魔理沙! 東風谷!」 とりあえず、呼びかける。 あいつら、ここがどこに向かっているのかとか、ここの妖怪が封印されている聖さんとやらを復活させようとしていることとか、絶対知らない。とりあえず、話し合いをすれば、双方にとってそんなに悪くない結果が―― 「良也?」「先生?」 「! もらったぁっ!」 と、魔理沙と東風谷が僕のほうを振り向いた瞬間、それを好機と見た霊夢が、スペルカードを使った。 よく使っている『夢想封印』。虹色の光弾が、魔理沙と東風谷を襲い、 「し、しまった!」 「キャーー!」 ……二人が、落ちた。ついでに、ムラサって妖怪も落ちた。 えー? 「ナイスアシスト、良也さん。いや、神社からずっと互角だったけど、良也さんがうまいこと気を逸らしてくれたおかげでやっと決着がついたわ」 「お前なあ!?」 イイ笑顔で親指を立ててくる霊夢に、思い切りツッコミを入れる。 他の二人と違い、僕が異変に付いて来ることに慣れている霊夢だけが、僕が来たことに驚かなかったのだろう……とかなんとか予想を立てるが、卑怯なことに変わりはない。 「なにやってんだよ。ったく、生きているのか?」 けっこうな高度から落ちたけど……と、落ちた魔理沙と東風谷を見てみると、二人とも『あたた』とか言いながら上半身を起こしていた。 ……もう考えまい。 「……うーむ、なんという強さか。いつの間に人間はこんなに強くなったんだろう」 「妖怪に褒められたって、嬉しくはないわね」 もう争う気がなさそうなムラサは、水兵服をボロボロにしながらも、霊夢に感心している様子だった。……水兵服。セーラーかあ。別に僕はセーラーフェチじゃないけど、この白い水兵服も、これはこれで…… 髪の毛もおかっぱっぽい黒髪で、古き良き時代を想起させるし。 「なに?」 「なんでも」 僕の視線に変なものを感じたのか、ムラサはちょっと困った風に僕に聞いてきた。 当然、僕は今まで培ってきた誤魔化し術を駆使して、華麗に誤魔化す。誤魔化せている、よな? そこで、『どうでもいいけど』と霊夢が前置きして、ムラサに尋ねた。 「そう言えば、貴女船長とか言っていなかった? 貴女が負けたのに、まだ船動いているんだけど」 「そ、そりゃそうさ。なにせこの船は自動操縦だからね」 ……船長の意味は? いや、電車とかであるワンマン車両みたいなものなのか? 「ついさっき、目的地の魔界に着いたところだ。もう戻れないよ」 「戻れないの!?」 船長の言葉に、僕は思わず声を上げた。 やべぇ〜、魔界ってことは、漫画とかないよな? 僕、三日以上インターネットから離れると発狂する体質なんだけど。 「それで、このお兄さんは誰だい?」 「うちの丁稚さんよ」 「違ぇ!?」 誰が丁稚か!? いや、その表現に違和感がない自分が嫌だけど、給料は貰っていないし逆に上げているほうだぞ僕? 「冗談よ」 「本当に冗談なのか? 本音がぽろっと漏れただけじゃいだろうな」 疑り深いわね、と霊夢がため息をつく。……こいつは。 「なあ、霊夢。とりあえず、変える方法を探さないか? まだ魔界に入ったばっかりなんだったら、なんとかなるかもしれないし……。 それに、この船には、お前の欲しがっている財宝はないそうだぞ?」 「らしいわね。まあ、興味はかなりなくなっていたんだけど……」 霊夢が思いのほか鋭い視線をムラサと、僕と一緒に来たナズーリンに向ける。 「向かってきたのが魔界で、この船が宝船じゃないとしたら、妖しいわね。ちょっと気になってきたわ。このUFOの件もある……し? って、なにこれ」 霊夢が懐から取り出したのは、飛宝。しかし、霊夢にはUFOに見えていたはずだから、いきなり木に変わって驚いたんだろう。 言うまでもなく、僕が近くにいるせいだ。 「あ、霊夢。どうやら、その木片は飛倉って言って、ぬえって妖怪がUFOに見せかけていたらしいぞ?」 「なんですって?」 と、それに反応したのはムラサだった。 「あの正体不明め。そんなことをして、私たちを妨害していたのか」 「いや、なんか面白そうだから、とか言ってたけど……」 「飛宝がバラけたのもそのせいね……。まったく、次会ったら、仕返しをしなきゃ。教えてくれてありがとう、人間さん」 「良也だ」 ムラサは、なんか怒った顔をしながらも、どこか楽しそうだった。……なんだかんだで、仲は良いのかもしれない。 いや、それとも、妖怪は基本的に長命で気が長いからな。結果的に集まったなら、多少遅れたくらいは気にしないのかも。 「それにしても、そっちのネズミ。なに、そのお宝の匂いのする変なのは?」 霊夢が、ナズーリンの持つ宝塔を見て、目を輝かせながら尋ねた。 ……まだお宝を諦めていなかったのか。っていうか、霊夢が手に入れてもどうせ売りに行くのは香霖堂なんだから、またナズーリンが買い戻して、の永久ループか? ……森近さんの高笑いが聞こえてきそうだ。 「これ? これは毘沙門天の宝塔。そういえば、君にはさっき世話になったね」 「はて?」 霊夢が小首を傾げる。ナズーリンの話だと、彼女は一度霊夢たちにやられたそうだけど……覚えていない? 覚えていないね? ナズーリン、表情は普通だけど、こめかみに血管が浮いているような気がするぞ。 「ふふ、この毘沙門天の力。主人様にお渡しする前に君に試してみるか」 「なんか知らないけど、やるっていうなら相手になるわよ。なんか知らない妖怪」 ナズーリンが怒っても、無理がない気がする……っていうか、顔くらい覚えておけよ。 霊夢とナズーリンが、いきなり弾幕を始めたので、僕は避難した。 ついでに、魔理沙と東風谷と合流する。 「よぉ、良也。しばらく」 「先生も付いてきたんですね」 「まあね……」 色々と言いたいことはあるけれど、とりあえずまずはアレだ。 「いや、その、なあ? お前らさあ、もう少し穏やかに道中行けなかったのか? っていうか、話し合いをしろ、話し合いを」 「それは誤解だ。私は平和的にお宝を強奪するだけのつもりだったんだが、この巫女コンビが邪魔立てをしてきたんだよ」 「わ、私は妖怪を退治しろと仰せつかっていますから。……ちょっと楽しかったし」 うわーい、二人ともツッコミどころ満載ですね。 っていうか、ツッコミますよー? いいですかー? スゥ…… 「平和的な強奪ってなんだよ! あと、東風谷、先生はとてもとても悲しいですっ」 魂の叫びだった。魔理沙のタチの悪さは重々承知だったが、東風谷のほうも、まさか妖怪退治に楽しみを見出すようになっていただなんて。 「まあいいじゃん、細かいことを気にするな」 細かいこと、で済ませるな。 「いや、あんまり細かいことじゃないと思うんだけど」 魔理沙はカラカラと笑っているが、これが細かいことだとしたら世の中の大抵のことは細かいことになりますよ? 「それで良也? アンタが来てから、私の素敵なUFOがただの木片になっちまったんだが、こりゃどういうことだ?」 「あ、ホントだ。昨今の宇宙人は木の破片で飛んでくるのかしら? やった、雑誌に投稿できる」 「……いや、それはな」 東風谷の間の抜けた言葉に、ちょっと脱力する。っていうか、どうやって投稿するつもりだよ。……僕か? とりあえず、そんな東風谷にもちゃんと理解してもらうため、僕がここまでで集めた情報を説明する。 飛宝の正体、それを隠していたぬえって妖怪。さらに、この聖輦船という空飛ぶ船は、飛宝を集めて聖って人を復活させようとしている。 んで、魔界に向かっている――というより、突入したという話をすると、魔界というのをよくわかっていない東風谷は兎も角、魔理沙は興奮し始めた。 「ほう、私は魔法使いとして、もう一度魔界に来たいと思っていたんだ。なにせ魔界には沢山の面白いものが落ちているからな」 「……そうなんだ。っていうか、来たことあるんだ」 「まあな。ただ、前来た時は色々と忙しくて拾えなかったんだよ。魔界の神とかとやりあう羽目になったり」 ……なんか、今さらりととんでもないことを言わなかったか? 「なあ、魔理沙?」 「お、決着着いたな」 事の次第を問いただそうとしたら、魔理沙の声に遮られた。 上を見ると、ナズーリンがまさに逃げるところだった。……落とされていない、ってことは余裕があるんだろうけど、なぜ逃げる? あ、もしかして、宝塔を『ご主人様』に届けに行ってるのか。 「って、霊夢! ちょっと待てお前!」 それを更に追いかける霊夢……って、やっと追いついたのに! 「魔理沙、東風谷。僕は霊夢を追っかけるけど、どうする?」 「あー、私はもうかったるくなったからいいや。好きにしてくれ。適当に休んだら、魔界に宝探しに行く」 「私は……そうですね、適当に休んだら、帰ろうと思います」 とりあえず、適当に休むところは共通か…… まあいいけど。っていうか、帰れるのかなあ? 「ちょいと待ってください。船から下りるなら、貴方たちの持っている飛宝を置いて行ってくれる?」 「……む、さっきの妖怪か」 僕たちと同じく、霊夢とナズーリンの弾幕から避難していたらしいムラサがやって来た。 ……そうか、そういえば飛宝って大切なものだったな。封印解くのに必要だし。 「いいよ、別に」 「ええ!?」 「……なんだよ、良也」 魔理沙がすぐに了承したことに、僕は驚きを隠せない。 「これから、魔界のお宝を集めに行くんだ。荷物が多いと、拾えないだろ」 「そ、そういうことか。危うく、僕の中の魔理沙像が崩れ落ちるところだった」 「私も構いませんよ。UFOかと思っていたら、ただの木片だったなんて。期待を裏切られたので」 ……どーゆー期待をしていたんだろう。 「さて、それじゃあこれは星様のところに届けないと……」 「星?」 また聞いた事のない名前が…… 「ええ。あの毘沙門天の宝塔の持ち主、そして聖の信仰を一身に受けていた毘沙門天の弟子です」 「……ああ、ナズーリンの言ってた『ご主人様』か」 「はい。彼女が封印を解く役目なので」 ふーん。んじゃ、霊夢たちの向かった方にいるんだな、その星って人は。『彼女』ってことはまた女の子か……いいよ、もう慣れたから。 「……あれ? どうして毘沙門天の宝塔をナズーリンが持っていたのかしら?」 「き、気にしないで上げるのが吉だと思う」 ちょっとの間とは言え、ナズーリンとは道中を共にした。そのご主人様とやらも、庇ってやるのが人情だろう。 「さて、それじゃあ良也」 「あん?」 なぜ僕に飛宝を渡してくる、魔理沙。 「む、これは、僕に届けろってか?」 「どうせお前は霊夢を追いかけるんだろ? その先に星って奴がいるならもののついでじゃないか」 ……そうだけどさ。 「じゃあ、先生。どうぞ」 「東風谷まで……いや、いいけどさ」 「あ、お願いできるんですか? ええと、良也さん、でしたっけ」 「……まあ、成り行き上」 ムラサも、けっこうボロボロだし。一番元気な僕が行くのが道理……なのかな? ……はあ、また貧乏くじを引いている気がする。 | ||
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