最近はいつも幻想郷にいるような感覚だが、あくまで僕の生活の拠点は外の世界。こっちを『外の』とか言っている時点で、僕の感覚は向こうに言っちゃっている気もするが、無視無視。 基本的に、こっちでの僕の生活圏は下宿先のアパートと大学と塾。 大学の方は、去年事故ったせいでダブり、意外と暇……でもない。教員免許、せっかく余裕があるんだから取っとこうかなぁ、と結構軽い気持ちでカリキュラム変更。 おかげで、大学も充実した日々……はいいんだけど、今日はちょっとしたトラブルがあった。 「ったく、そろそろ壊れたかね」 起動したパソコンの時計を見て、腕に巻いてある某Gな腕時計の時刻を合わせる。けっこう前から使っている愛用品だ。何より、売りである頑丈さがいい。 まあ、以前まではそこまでの耐久性は必要なかった。だから、海外の軍隊が使っているとかアイスホッケーのパック代わりに使っても壊れないとか聞いても、過大広告じゃね? と疑っていたこともある。 しかし、今や僕のその認識は大幅に改められた。なぜなら……そう、まだちゃんと『動いている』。 凄いよ、Gの時計。さすが世界のカ○オ。あの弾幕やらなにやらに良くぞ耐えてくれた。 そんな愛用品なんだけど、時刻の自動補正機能が付いていなく、今日はちょっと家を出るのが早すぎた。 そろそろ壊れてるのかなぁ、と不安になりつつも、時刻の補正、完了。携帯の方の時間とも……うん、ばっちり。 「しかし、二十分もズレるなんて」 ……マジ、壊れたか? 土曜日。いつものように幻想郷を訪れた。 僕が、博麗神社と人里の次によく訪れるのが紅魔館だ。 目的は、無論魔法の勉強のため。決してここの欠食吸血鬼二人に血液を提供するためではない。ここテストに出るからヨロシク。 で、魔法を勉強するのはなんでかというと、今は半分以上は趣味が入っているんだけど、当初の目的は弾幕ごっこの腕を上げるため。 本当に純粋な魔法使いなら理論を捏ね繰り回しているだけで満足らしいけど、幻想郷で生きている以上、理論の実践は不可欠だ。 そして、その用途が弾幕ごっこである以上、模擬戦をするのがテストには手っ取り早い。 なにが言いたいのかというと、 「こ、小悪魔さぁぁーーん! もうちょっとレベル下げてくださいっ!」 「なんだかんだと、避けているじゃないですか!」 定期的に、パチュリーの図書館で僕は小悪魔さん(たまに興が乗ったレミリアの場合もある)と練習試合をしているのだ。ちなみに、徐々に手加減の度合いが減っていて、ただいまのレベルは四。 レベルの基準は良く分からないが……先日までのレベル三より弾幕が激しいということだけは分かる。 「アガッ、なんと! ロックンロール!」 なんか勝手に口が動く。出ている言葉は意味不明だと内心わかっているんだけど、なんか止まらない。 ……しかし、小悪魔さんの言葉ではないが、なんだかんだと避けれるようになっているな、僕。 弾幕の速度も、以前に比べたら遅く見える。弾速に慣れたのと、僕の類まれなる集中力が時間の感覚を引き伸ばしているに違いない。 ほら、野球漫画とか格闘漫画とか、一回の投球や一発のパンチの間に、普通ねえだろってくらい思考しているよね。あんなイメージ! そんな風にイメージすると、実際弾の速度が遅く見えるから不思議だ。 ふふふっ! さらに、目の前の迫り来る弾幕の隙間を縫うこの技術っ! 我ながらほのぼのするぜっ! ……うん、ほのぼのじゃないな。 しかし、そんな綱渡りがいつまでも持つはずがない。 避けきれず、直撃コースの弾が一発。左右に回避、駄目、上下も駄目。後前その他全方向却下。 しかしっ! 「くっ! こなくそぉ!」 空間歪曲を発動。直撃コースの弾の軌道をわずかに逸らし、あいたスペースに身体を潜り込ませる。 ……服に掠ったりして冷や汗を流しながらも、回避成功っ。 「お返しだっ。くらえ、火符『サラマンデルフレア』!」 球状に押し固めたいくつもの炎の弾を放つ。 相変わらず速度がネックだが、この弾はたとえ避けられてもその熱気で体力を奪う。そういう風に弾を動かすということも、ちょっとは覚えた。 まあ…… 「えいっ!」 「あがすっ!?」 ……最後には、やっぱり負けちゃうんだけどね。 「駄目ね」 「駄目っすか」 僕が小悪魔さんの弾を顔面に喰らって落ちて、 我が師匠は一瞬でばっさりと、先ほどの模擬戦の評価を下してくれた。 「魔法を使ってそっちにばかり気をとられて、回避が疎かになっているのよ。まったく、思考分割の真似事くらいできないの?」 「思考……分割?」 なんじゃそりゃ。それも魔法か? 「速読と同じで、ちょっとした技術よ。……さて、それにしても」 「?」 じろじろとパチュリーが僕を見る。は、はて、なにかいらんことでも言ったっけ? 「けっこう前から気になっていたんだけど……今日はっきりしたわ。貴方、最近時間操ってない?」 「はあ?」 なにを言い出すかと思えば。確か、前もそんなありえない話をしていたな。空間を操れるんだから、時間も操れるとか何とか…… 言っておくが、そんなこと、できるわけが、ないっ! 「おいおいパチュリー。前、お前僕の能力が認識に影響されるって言ってたろ? 言っておくが、あの頃から僕のに認識は変わっていないぞ」 「そうかしら。でも、実際遠くから見ていると分かるのよ。咲夜みたいに時間を止める、っていうほどじゃないけど、貴方の周囲の時間だけちょっとだけ早くなっていたわ」 ほんとかよ。 ……って、あ。そういえば、つい最近それを裏付けるようなエピソードがあったような。 「ちょい待ち」 壊れてはいけないので、パチュリーのところに預けておいた携帯電話を開き、時計を確認。 十五時二十八分。腕時計のほうは……三十五分。 時計を合わせたのはほんの三日前。ってことは…… 「マジか……」 「納得できたの? なんで?」 「時計が」 パチュリーに説明すると、なるほど、と頷かれた。 「まあ、気付かないのも仕方ないかもね。傍から見ていて、相対速度はせいぜい一・三倍から二倍ってところだし」 「しかし、なんで使えるんだ? こんなの」 「仮説だけど」 パチュリーが指を一本立てて、師匠モードに入る。 「走馬灯を見るときとか、死に際に時間間隔が引き伸ばされるってのがあるわよね」 「あ、ああ」 「それで、今まで死ぬ寸前、そういうことあったでしょ?」 あった……なぁ。いや、毎回流れ作業のように死んでいるけど、そういうことは何度もあった。つまり、何度も死んでいるってことだが、これを考えると鬱になるのでやめよう。 「その感覚に、貴方の世界の方が追いつこうとしている、とか」 「……えーと、つまり、僕が集中すればするほど、時間が加速する、と」 いや、んなバカな。 じゃああれか。ぼーっとしていると、時間の進みが遅くなるのか? 「そこまで単純じゃないかもしれないわね。時間に関わる力は相当高位の能力だし。なにか、時間が加速するような意識をしていた?」 「いや、だからそんなこと意識なんてしていな……」 ……はて、そういえば。 ここ最近、弾が遅く見えるのを見て、集中力が時間の感覚を引き伸ばしているとかなんとか考えていたよな。 『時間』が。 「あ〜〜〜〜」 「なにを頭を抱えているのよ」 「いや……我ながら、あんまりにも適当な能力で呆れているというか情けないというか」 いや、多分すごいんだよ? 時間操るとかウワマジスゲー。 でも、なんか喜べないんだよっ! 「適当、というか、自分の能力を自分で分かっていない、というのは危険といえば危険ねえ」 パチュリーが頭を悩ませる。流石はししょー。少しは僕のことを考えてくれているんだなぁ。 「うん、そろそろ魔法の腕も頭打ちだし、しばらく能力の方を開発しなさい」 「……え?」 「なによ、文句あるの?」 いや、能力の開発、というと。 僕が思い出すのは、こう自分の周囲全部の温度を上げすぎて自爆したあの記憶しかないというか。 「まあ、文句があっても聞きつけないけど。さて、とりあえずはその時間操作ね。幸い、ここには専門家がいることだし」 「……いや、咲夜さんの手を煩わせるほどのことじゃ」 「咲夜っ! ちょっと」 パチュリーが声を張り上げる(でも声小さい)と、どこからともなく咲夜さんが登場した。 いや、この人、一体いつもどこから出てくるんだ。 「なにか」 「いえね。良也がちょっと時間を操れるようになったみたいだから、色々教えて欲しくて」 「え?」 「なにその露骨に嫌そうな顔」 僕の練習に付き合うのがそんなに嫌か。いやいや、わかるけどね。紅魔館のメイド長は忙しいらしいし。 「いえ、そんなわけでは。ただ、私の能力のイメージが悪くなるなぁ、と」 「あなた、時々ナチュラルにひどいですよねっ!」 泣いちゃうぞ、こら。 それにしても……はぁ。 どうせ使いやしないのに、なんかちょっとずつ出来ることが増えているなぁ。 | ||
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