人里から一仕事終えて、博麗神社に帰ってきた。

「ただいま〜……っと?」

 はて……ここは確かに博麗神社があったはず。
 ……なんでなくなっているんだろう。

「霊夢の神社がない」

 って、オイオイ。これはどういう事態だ?

 どっかの妖怪が神社を壊したとか? そんな命知らずが、この幻想郷に存在するとも思えないが。うん、なにせ怒らせた博麗の巫女はもう無敵ゆえ。
 僕が霊夢がとっておいたドラ焼きを失敬したときなんてそれはもう……いや、思い出すのはよそう。

 とかなんとかどうでもいいこと考えている場合じゃねぇ!

「れ、霊夢!? 神社がなくなったぞ!?」

 出かける時はいたはずだから、この神社の異変に気付いていないはずがない!
 い、いや、でも昼寝するっつってたし、今頃寝ている……こ、ろ?

「……神社発見」

 近づいてみると、いつもどおりの位置に神社の賽銭箱が。あと石畳。
 でも、輪郭を現したのはそれだけで、神社の残りの屋根とかなにやらは相変わらずない。せいぜい、僕の半径三メートル分くらいしか見えていな……って、もしかして。

「ん」

 額の奥辺りに霊力を集中するイメージ。この境内なら、ほとんど僕のテリトリーなので能力の効果範囲は最大で二十メートルはイケる。
 徐々に、徐々に自分の『世界』を押し広げ、

「出てきたな」

 神社が完全に僕の能力範囲内に入ると、いつも通りの博麗神社が姿を見せた。
 ついでに、その神社の屋根の上に、驚いた顔でこっちを見ている女の子三人を発見。ある意味、予想通りの顔。

「ま、た、お前らか!?」
『に、逃げろー!』

 まさに脱兎のごとく、逃げ回る三妖精。
 サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア。

 いつも三人つるんでいる妖精で、よくこの神社の周りの人間に悪戯を仕掛けてくる。ある意味、豪胆な妖精どもである。

 そして、連中は光を操ったり、音を消したり、気配を探ったりと、もう実に悪戯向きな能力を有している。
 ちなみに、僕は自分の周りに限って連中の能力が効かないので、歯応えのある相手としてロックオンされているのだ。……はた迷惑なことに。

「逃がすか! 今日という今日は懲らしめてやるから覚悟しろ!」
「ギャー! 変態が追ってくるぅー!」
「どぁあれが変態だぁぁぁぁーーーーー!?」

 サニーの奴が心底人聞きの悪いことを叫び上げた。つーか、本気でパニクっている。

 失敬な!
 自然、怒りを原動力に速度がアップ。

 離れてしまうと、サニーの力で姿を消されてしまう。そうでなくても、博麗神社の敷地外に出られたら僕の能力範囲は激減だ。
 見失う前に、とっ捕まえる必要があった。

「水符ぅ!」

 宣言すると共に、大気中の水分が集まり、十数個の水弾となって僕の周りを浮遊する。

「げっ、妖精相手にスペルカードまで使うつもりだよあの変態」
「水符って。いたいけな女の子を濡らして苛めるなんて、本当に変態ね」

 ルナとスターの台詞に、僕ってば容赦って言葉を心の中の辞書から削除する。うん、なんでこんな単語が記載されてたんだろう。誤植じゃね?

「『アクアァ! ウンディネーーー!』」
「きゃー!」

 いつもはちゃっかり逃げ切ってしまうスターにも水弾を当てることに成功。

 ずぶぬれになった三妖精は、思いっきりベーっ! として、神社の鳥居をくぐって見えなくなってしまった。

「逃げたか……」

 フ……グフッ(←主人公の笑い)

















「あ〜あ、今日はあっさり見つかっちゃったねー。ちょっと近付きすぎたかな」
「でもさぁ、見た見た? 神社がなくなっているのを見つけた良也の顔!」
「見た見た! けっさくだったよね」

 好き勝手なことを言いながら、三妖精が森の中を歩いている。

「今日はサニーのお手柄ね。あんな大きなものを消したんだもの」
「まぁね。ちょっと疲れたけど、その甲斐はあったね」

 思い出し笑いなのか、サニーミルクがフフフフ、と面白そうに含み笑いを漏らす。

「でも……べちょべちょ。帰ったら乾かさないと」
「それより洗濯よ。土が付いちゃって、汚いわ」
「ったくー。今度はとびっきり驚かしてやるんだからねっ、あの人間!」

 姦しく、そうよそうよ、とか言いながら話し合うのは次の作戦。

 ……ほう、道端に犬の糞を置いて、それの姿を消して踏ませる、とな?
 確かに、連中の能力を無効化できるといっても、普段はせいぜい半径数メートル。油断していれば、踏んでしまうのは間違いない。

 でもな。そういうのは、バレちゃあ意味がないんだぞ、そこの悪戯妖精ども!

「ゲット」

 ぬっ、と木の陰から腕を伸ばして、三人まとめてとっ捕まえた。

「え!? え!」
「きゃあ、きゃあ!?」

 暴れるも、所詮は妖精の腕力。しかも、戦闘にはあまり向いていない連中だ。押さえつけることも難しくない。

「ほい、ほいっと」

 昔とった杵柄で、三人を投げ飛ばし、尻餅をつかせる。

「あっっいたた。な、なにするの……よ?」

 猛然と抗議しようとするルナの目の前に霊弾を向けてやると、途端に押し黙った。

「よう、さっきぶり、三妖精」
「な、なんで、あんた」
「だって、そんだけ濡れ鼠で地面濡らしてりゃな」

 んな水滴はすぐ乾いてしまうけど、妖精らしく油断が過ぎる。こんな近くで姿を現してたら捕まえるのは楽勝だ。
 こいつらの危機管理レーダー、スターの気配察知は、あのレミリアにも褒められた僕の隠行の前では無意味だし。ぶっちゃけ悟られないのは僕の能力のおかげだけど。

「わ、私たちをどうするつもり?」
「どうする……って」
「ま、まさかあの巫女のところに連れて行って夜な夜な説教を!」

 いや、そんな面倒なことしたくないし、霊夢だってしたくないだろう。
 ……さて? どうしよう。別に懲らしめるのはいいけど、流石にこんな女の子を苛める趣味は僕には……いや、ないって。ないよ。ないから!

「うーん、お仕置き……は、こんだけずぶ濡れになってりゃいいか」

 うん、土まみれだし、見るからに哀れを誘う姿。……うわ、落ち着いてから改めて見ると、やりすぎたかも知れぬ。

「え、えーと」

 なんだろう、ドロドロの少女たちに尻餅をつかせて仁王立ちする男。傍から見たら、どう考えても悪者は僕?

「ま、まあ立って」
「うん」

 一番近くのサニーを引っ張り上げる。続いてルナ。スターは、自分でさっさと立ってしまった。

「え、えーと、コレに懲りたら、今後僕をからかうような真似はやめろよ」
「うー、わかったわよ」

 とか言いながら、明日には忘れているだろう。
 ……まあ、いいか。

「よし。とりあえず、そのままじゃ風邪引くし、風呂でも沸かしてやろう。神社に来い」
「はーい」
「洗濯もしてよね」
「覗かないでよ」

 最後にスターがとんでもないことを言う。
 っていうか、僕とお前らとじゃあ、別に一緒に入ったって問題ないくらい年齢差があるわけなんだが。

「覗くか!」

 とりあえず、全員にデコピンを見舞っておいた。







 ちなみに、博麗神社の風呂に入れたところ、

「お前ら、風呂場で暴れるんじゃない!」
「なによー。良也はとっとと薪を追加しなさい」
「ぬるいわよ」
「ドサクサに紛れて『よーしお兄ちゃんも入っちゃうぞー』とかしないでよね」
「しねぇ!」

 そんでもって、追加の薪を持ってきたところ、霊夢までも起き出してきて、

「良也さん……なに妖精を風呂に入れているのよ。薪だってただじゃないのよ?」
「い、いや、また僕が拾ってくるから。ちょっと連中を濡らしちゃってだな……」
「ふーん? まあいいわ。私も入るから」
「へ?」

 霊夢もとっとと脱衣場に向かい、風呂に入り、

「良也さん、火力が足りないわ」
「……火符『サラマンデルフレア』」

 しまいには、スペルカードを風呂焚きに使う羽目になってしまっていた。

 ……あの三妖精が関わると、いつも僕が割を食うな。
 というか、なんで僕風呂を必死で焚いているんだろう。誰か、教えて。




 追伸:次回の悪戯は、ギリで躱した。犬の糞なんて、どっから持ってきたんだ、連中。



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