「……百花繚乱だ」 幻想郷に足を踏み入れ、開口一番そんな四文字熟語が浮かんだ。 なにせ花だ。 桜、チューリップ、ひまわり、たんぽぽ、彼岸花に薔薇。季節感もなにもかもぶち壊しな感じで、ヤケクソ気味に咲き誇っている。 「霊夢。これはどういう状況だ? 幻想郷の春は、いつもこんなんなのか」 「そんなわけないじゃない」 花に見惚れているのか、ぼけーっと境内に立っていた巫女に聞いてみると、そんな答えが返ってきた。 「んじゃあ、なんでこんなに花が咲いているんだよ?」 「知らないってば。またぞろ、異変でも起こったんじゃない?」 「いや、そんな軽い……」 でも、昼なのに夜だった前の時に比べれば、まだまだ常識の範囲内なのかもしれない。 まあ綺麗だしな。 「解決には行かないのか?」 「どうしようかしら。それほど危険は感じないしねぇ。妖精が暴れているのと、幽霊がいつもより多いくらいで」 「……十分危険だと思うんだが」 前に聞いた話だが、異変が起こったとき、人里の人たちはほとんど出歩けないのだという。 里の中なら慧音さんが守ってくれるので大丈夫だが、一歩でも里を出ると途端に妖精や興奮した妖怪に襲われる。 なので、釣りや山菜を取りにいけず、割と深刻な食糧不足に陥るそうだ。 なんてことを霊夢に話すと、こいつは笑って、 「大丈夫よ。花は食べられるものもあるんだから」 「また適当だなおい。大体、異変で咲いた花なんて食べて大丈夫なのか?」 「大丈夫だったわ」 「食ったのか!?」 そこまで博麗神社の台所事情が困窮していたとは思わなかったぞっ。 「失礼ね。お茶にしただけよ」 「な、なんだ。驚かせるな」 流石に、うら若き少女がそこらの花をちぎって食べる図はちょっと哀れすぎる。しかもなんかリアルに想像できちまうし。 「すごく馬鹿にされている気がするわ……」 「してない。してないからスペルカード構えるのやめろ」 最近、突っ込みに容赦がないですよね! 「はぁ……まあ、折角だし、散歩でもしてくるわ。こんなに花が咲くの初めてだし」 「そ。いってらっしゃい。あ〜あ、でもそろそろ解決しないと、私がサボってると思われるわねぇ」 「安心しろ、事実サボっているだろ」 「あら、それは盲点だったわ」 それが盲点って、どんだけ節穴なんだよ。 まあ、この巫女が仕事をしていないのは周知の事実ではあるのだが。 「はぁ、本当に咲きまくりだな」 呆れるほどだ。 空中から下を見ると、その異常さが良くわかる。 普段なら、地面の色は土色だったり木の緑だったりするんだが、今日はとてもカラフル。赤、青、黄、その他諸々の色が交じり合って、なんとも言えず綺麗だ。 空気もなんか甘い匂いで、落ち着く…… 「……のはいいけどそろそろヤバいか?」 どしどし妖精が集まってくる。さっき、第一波を蹴散らしたばかりだというのに、本当ゴキ○リみたいにしつこい。 流石にそこらの雑魚妖精に落とされるほど僕も弱くはない。魔法使いとしてさんざん修行してきた成果か、割と楽に退けられるようになっているが……少々どころではなく面倒くさい。 「逃げるか」 幸い、連中は僕を狙っているわけではない。地上の方は全然妖精がいないみたいだし、そちらに避難しよう。 折角花が一杯なんだから、飛ぶよりも歩くのも一興だ。 「っと」 地上に降り立つ。 ここは、ちょうど桜がたくさんあるところらしい。 ……しまったな。酒でも持ってくればよかった。花見酒としゃれ込みたかったのに。 桜の幹に背中を預けて座る。散る桜がなんとも言えず幻想的で、センチメンタルな気分だ。 しかし、やっぱり酒が欲しいな、こりゃ。 「……里に行って買ってくるかなぁ」 背中のリュックの菓子を捌く必要もあるし、名残惜しいけど行くかなぁ…… なんて思っていたら、舞い散る花びらが凍った。 「へ?」 小さな氷の塊となった桜は、次の瞬間砕け散り、きらきらと輝く粒子となって宙を舞う。 先ほどにも勝る綺麗な景色だが、どこのどいつだ。咲いてるほうの花びらまで凍っちゃったぞ。 「見て見て! 綺麗でしょう!?」 「あ、あの〜、チルノちゃん? なんか、桜の方も一部凍っちゃってるみたいなんだけど」 「あれ?」 あれ、じゃねぇよ。 というか、あれはいつかの馬鹿妖精チルノではあるまいか。隣の娘はちょっと見たことないけど、友達か? 二人とも妖精のはずだけど、そこらの妖精とは比べ物にならない霊力を持っている。……逃げようかな? 「あっ! あんたいつかの人間っ!」 「見つかった……」 なんていうか、元気な子供の相手は疲れるからヤなんだけどなぁ。 「よぉ。元気してた?」 「あのあと低温火傷で大変だったんだからっ」 「あー、そりゃ悪かった。もう治ったか?」 「え? あ、うん」 意外にも素直に返事をするチルノ。 「って、そうじゃなくてっ! この前の借り、ここでまとめて返してあげるよっ」 「あ〜、折角感傷的な気分に浸ってたのに……」 火符を取り出す。こいつに弱いのは実証済みだ。とっとと一発当てて逃げよう。 「チルノちゃん!」 あ。 緑髪の妖精さんがチルノの額にデコピン喰らわせた。 「い、いったぁ?」 「もう。人間さんに手を出したら、また博麗の巫女にお仕置きされるよ?」 ビクッ、とチルノの方が跳ねた。……ボコられたな、霊夢に。 「だ、大丈夫だもん。あたい最強だしっ!」 「僕に追い払われた程度のくせに『最強』は、ちょっとサバ読むのにも程があると思うぞー」 チルノは僕の声に、口を尖らせるが襲ってこない。 ……どうも、隣の妖精さんに手綱を握られているらしい。 「あー、っと。君ははじめまして、だな。土樹良也だ」 「大妖精です。どうぞよろしく」 小悪魔さんもそうだが、どうして種族名を名前にするんだ? 呼びにくいんだが。 「大ちゃんー。こいつ凍らさせてよー」 「駄目。もう、別に私たちは妖怪じゃないんだから、人間を襲わなくてもいいじゃない」 「ぶー」 あ〜、なんだろう。しっかり者の姉としつけのなってない妹って感じ? しかし大ちゃんか。うん、それいいかもね。 「んー、まあ仲直りってことでいいのかね。別に喧嘩してたわけじゃないけどさ」 む、握手しようと手を差し出すも、チルノは無視している。 ……ふっ、仕方がない。 「よし、飴をやろう。そっちの大ちゃんもどうぞ」 「飴!?」 うぉう、予想以上の反応。 「よしよし、チルノには特別にイチゴ味だ。あ、君はどれがいい? イチゴ、オレンジ、パイン、あとコーラ味があるが」 「あ、いいんですか? そ、そのコーラっていうの、食べてみたいです」 ほい、と二人に飴を手渡す。 チルノはすぐさま包装をはがし、口の中に入れた。 「あ、甘い」 「そうだろうそうだろう。と、いうわけで仲直りの握手」 「んー」 味わうのに夢中なのか、ほとんど自動的にチルノが腕を上げる。 ちっちゃい掌を握って、上下に振って、とりあえず友誼を結ぶことに成功。 ……しかし、冷たいなぁ、手。 「あ、本当に美味しい」 「まあ、外の世界のだからな。菓子を作る技術も、向こうは発達してんだ」 「あー、あの外の世界のお菓子売りさんですか。噂は聞いています」 僕も有名になったなー。 「むぐむぐ……良也、もう一個!」 「虫歯になるから駄目」 「ならないもんっ、あたい最強だって言ったでしょ」 「いくら最強でも虫歯にはなると思うが……」 というか、最強じゃないっつーの。 「チルノちゃん。あとで歯磨きしようね」 「はいはい、わかってるよ」 あー、本当にしっかりしている感じだなぁ、大ちゃん。 「ところで、良也さんはなぜ外出を? 今は妖精や幽霊がたくさんで危ないですよ」 「花が綺麗だから誘われて」 「なるほどー」 納得するんだ。 「大ちゃんはこの異変の原因ってわかる?」 「さあ。ちょっとわかりません。花の妖怪の仕業でしょうか?」 そんな風雅な妖怪もいるのかー。ちょっと会ってみたいな。 ……そしてチルノ。なぜに僕のリュックに手を伸ばしている。 「ていっ」 「あっ」 僕の菓子を狙うチルノの手を打ち払う。 「ふっ、僕の菓子を盗もうなど、笑止千万」 なにせ、僕の世界に入ったものは、なんか見えなくてもほんのり感知できるしっ。弾幕勝負じゃ無意味だけどっ。 「いいから、それよこしなさいっ」 「金を払え、金を」 「もういい、力ずくで……」 あ、大ちゃんがチョップ食らわせた。 「い、いたぁ?」 「だからやめなさい」 っていうか、さっきと同じ光景だ。 「なんか、ループ入ったみたいだなぁ……」 「どうもすみません」 「いやぁ、別にいいよぉ」 盗まれなかったしね。 「あ、大ちゃん大ちゃん、大発見!」 「もう、どうしたの?」 「花を凍らせて寝っ転がると楽しいっ」 あ〜、また自然に優しくない遊びを。んなどたばた転がるとスカート捲れるぞ。や、別に全然興味ないけど。 「こらこら、チルノ。花も生きているんだから凍らせるな。こういうのは眺めて楽しむモンだ。酒がありゃ一番だけど」 「良也もやってみない?」 「む?」 むう、確かに楽しそうだ。パキパキ凍った花が砕けてて、花の絨毯みたい。 でもなぁ、氷が溶けたら服濡れるだろうしなぁ。 「断る」 「なんで答えるのに一瞬間があったんですか」 「大ちゃん突っ込みキビシーね」 いやほらね。童心を忘れないのが大切だと、どこかの誰かも言っていたし。 「あ、あー。よし、大人な僕は静かに花見でもするか。どうだい大ちゃん。一緒に花見ツアーといかないか?」 「はぁ。別にいいですけど」 よしよし。 そのあと、チルノと大ちゃんと、花見をして楽しんだ。 | ||
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