それは、いつもの様にパチュリーの図書館で魔法書を読み下していたときの話だ。 って、この始まり方、前にもあったな。 「そういえば良也」 「ん? なんだ」 パチュリーのほうから話しかけてくるなんて珍しい。 「貴方、魔法の修行ばかりで、自分の能力のほうはちゃんと開発しているのかしら?」 「能力ぅ?」 ああ、そういえばあったな。最近すっかり忘れていたが。 「んにゃ、してない」 「しなさい」 「……なんで」 パチュリーは魔法使いなんだから、魔法にこだわるかと思っていたのに。 「使えるものはなんでも使うべきってこと。能力次第じゃ魔法に応用できるしね。正直、貴方に魔法の才能は普通だから」 「才能、ないわけじゃあないんだ」 「才能がある人間しか魔法を使ったりはしないんだから、『普通』っていうのはないのも同然よ」 ……あっそう。 で、なんか自分の能力を開発することになったんだってさ。 『自分だけの世界に引き篭もる程度』の能力。スキマが命名したこの格好悪い名前の能力で何ができるか、正直自分でもよくわかっていない。 今できるのは、周囲の気温を上げ下げする、霊力の壁を作る、空間を曲げる、の三点だけ。 なんか、レミリアとかの能力が効かないという効果もあるらしいが、どういう理屈で効かないのかがさっぱりわからない。 なんてことをパチュリーに話したら『なるほど』と頷かれた。 「ずいぶん無節操な能力ね」 「無節操?」 「だって、気温を操るのは自然干渉、壁を作るのは霊力の操作、空間を曲げるのは物理改変。全部性質が違うじゃない」 んー。そんなこと言われてもなぁ、よくわからないっつーか。 「……特に、空間操作だけはちょっと異質ね。相当レアな能力よそれ」 「レア? まあ、使うのに一番疲れるのは確かだけど」 「空間を操るってことは時間を操ることにも繋がる。限定的な時間操作もできるかも……」 「おいおい、咲夜さんじゃああるまいし、僕にそんなことができるはずないだろ」 ぴしゃり、とパチュリーに頭をはたかれた。 ……パチュリーは、身体能力的には普通の人間より弱いので、痛くはないんだけど、なんつーか心にクル。 「そうやって思考を自ら狭めるのは貴方の悪い癖よ。もうちょっと自由な発想を持ちなさい」 「自由な発想、ねえ」 そーらを自由に飛びたいな、とかか。ドラドラ。……飛べるけど。 「とりあえず、気温を上げ下げする程度の能力って言うけど、どのくらいまでいけるの? 温度を上げて、能力で火を起こすこともできるのかしら」 「……えーと、ね」 そ、そこまで期待されても困るんだけど。 「その、あくまで夏とか冬とかに、快適な温度にするくらいで……。一応、前計ったことあるんだけど、大体十五度から三十度までなんだよね、これが。エアコンと大差ない」 「えあこん?」 「あ、えっと。なんていったらいいかな。ほら、香霖堂にあるストーブとかの同類で、まあ気温をコントロールして夏冬を快適に過ごすという……」 「外の世界の機械ね」 「そうそう」 なるほど、とパチュリーはメモを取っている。こんな時でも未知の知識への探求はやめないらしい。 「つまり、その機械を使えば、能力に目覚める前の貴方でも、気温を操れたということかしら」 「操る……ってのかどうかは知らないけど、まあそうかな」 「壁は、もう聞くまでもないわね。そこらの板でも調達すれば、貴方の作る『壁』程度の強度は得られる」 「いや、そうだけど……何が言いたいんだ?」 要するに、とパチュリーは前置きして、 「これはまだ推測だけど、貴方の能力の範囲は、貴方の『認識』が大きく影響を与えているって事。おかしいとは思っていたのよ。レミィの運命すら断絶するような領域を作っちゃうくせに、そんなにショボいのが」 「ショボ……って、おい」 「事実よ。その能力は、多分本来は領域内では相当の現象を起こせる。仮にも一つの『世界』だからね。でも、貴方の常識にない事象は起こせない」 「要するに、僕が『能力で起こせて当然』と思っていることだけ、ってか?」 「ま、そういうこと」 いや、だとしたらおかしい。 「さっきパチュリーも言ったじゃないか。空間を曲げるなんて、僕はできるとはビタ一文思ってなかったぞ」 しかもこれ、一番最初にできたやつだし。 「それもそうね。どういう状況でその能力が発現したか、詳しく説明なさい」 「いいけど……」 生霊時代のことを思い出しながら、詳しく説明する。 空間を曲げたときのこと……初めてルーミアという妖怪と出会い、その弾の直撃を受けそうになったことを話すと、 「なるほど。良也、貴方、二、三回死んでみない?」 「は? いやいやいやいや」 身の危険を感じて、僕は後退る。 いきなりなにを言うのか、この魔法使いは。 「簡単な話よ。貴方の話を聞く限り、死の危険がトリガーとなって能力が発現したみたいだからね。ま、人間が能力に目覚めるパターンとしてはありきたりね」 「……僕の人生をありきたりとか言うな」 「だってそうだもの。人間誰しも、身の危険があるときは意識が拡張していつもより強い力が出せるわ。それが貴方の場合は、能力の新たな使い方を覚えたってことね どう? 少しは死にそうな目に遭ってみる気になったんじゃない?」 真っ平ゴメンである。 大体なんだ、その能力を強くするために死にかけてみない? 理論は。僕はどこぞの野菜な名前が付く星の人じゃないんだぞ。 「前のフランの時は、きっとあまりに一瞬過ぎて危機を感じる暇もなかったのね」 「まあ、いつの間にやら、という感じではあったが」 でもなー。んな確証もないもののために、死にそうな目に遭うつもりはない。 保留ってことにできないだろうか。 「ま、貴方は死なないんだし、これからそういう目に何度も遭うでしょ。死に慣れるまでが勝負よ。覚えておきなさい」 慣れちゃったら危機を危機として認識しなくなるでしょうから、などとパチュリーは好き勝手に言っている。 ……そう何度もあってたまるか。 「ま、そっちは自然に任せるとして、今日は魔法使いらしく、論理的に行ってみましょうか」 「魔法使いって、理論派だったんだ……」 「当たり前よ。なんでそんな風に言うのよ?」 「いやだって……『普通の魔法使い』が……」 あんな、数撃てば経験値が溜まって成長すると言わんばかりの一昔前のRPG魔法使いが居たら当然の発想だろ。 「あの娘も、ちゃんと勉強や実験は欠かしていないわよ。実践を重視しているのは確かだけどね」 へ〜、あの魔理沙がねぇ。ぜんぜん信じられないが……。まあ言われてみれば、そういうの隠すタイプに見えるし。 「まずは、能力で火を熾すところからね。今の温度操作の延長だからいけるでしょ」 「……いや、いけるでしょ、って、んな簡単に」 「文句を言う前にやる」 へいへい、とパチュリーの言うとおり温度を上げにかかる。 ……んー、やっぱり、イメージはエアコンなんだよな。どれだけ温度の目盛りを上げても所詮は過ごしやすい気温より上げることはできない。 大体、これを使うようになったきっかけだって『できるんじゃねぇの?』という、単なる思い付きからだったし。 「……やっぱり無理っぽいんだが」 すでに汗ばむくらいのところまで上げたが、どうやってもこれ以上上げることはできない。 「そうね。また別のをイメージしてみてはどうかしら? 貴方も、魔法や霊力を集中させて火を熾すことはできるでしょう? そんな感じで」 「えー? まあやってみますけどね」 確かに、能力以外で火を熾すことは割とやっていることだ。 なら、それの応用で……いけるか? 「お、お!?」 温度が上がってきた――! 「いける、いけるぞ、パチュリー」 「そう、よかったわね」 よかったわね、と言いつつ、僕と距離をとるパチュリー。……なんだ? 「ふっ、僕もやれば出来るってところ、見せてやる」 「そう。それじゃあ、見せて頂戴。盛大な花火を」 ……花火? はて、そういえば、火を熾すって、僕はどこに熾そうとしている? 自分の周囲全部に←結論 「は? ってか、熱い、すっごく熱い……でぇ!」 もう自分の意志では止められないところまで熱気は高まり、 「まるすっ!?」 僕は、一昔前の爆破オチのごとく、自分が起こした爆発に巻き込まれ、空を舞った。 | ||
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