注意

今回、かなりキャラを壊しています。てゆーか、これは本筋とは関係ない話です。次からは何事もなかったかのように通常のヴァル学が続くと思います。

それを覚悟してから読んでください。

 

第51話「彼の主張」

 

さて、入学式から一週間が過ぎた。

その間、毎日が騒ぎの連続だった。主に、フィレアさんとミリルちゃん、そしてアレンが起こす騒ぎだったが……

主人公のはずの僕がないがしろにされているのは、この際よしとしよう。……あんまりよくはないけど。

さて、問題はだ。

「あ〜〜〜」

なにやらいきなり部屋に押しかけてきて、『朝は作るのが面倒だから飯を食わせろ』とか言ってきたルナだ。現在、とんでもなく不機嫌な声を上げる。仕方なくつくって上げた朝食はぺろりと平らげおかわりまでしたのだから、食欲がないと言うことはないだろう。

君子危うきに近付かず、とは言うが、その危うきから近付いてくるのではどうしようもなかった。逃げ道のない事を悟り、渋々とルナに話しかける。

「で、なにうなってんの、ルナ」

「あー、うん。なんかね。芸風が変わってきたなって」

「……はい?」

「だから〜。なんか、アレンとその他二名がラブコメってんJAN」

いや、JANとか言われても。

その他二名というのは、フィレアさんとミリルちゃんのことだろうか。しかしラブコメ? あれはどう見ても、アレンが一方的に小突き回されて……いや、そーゆー趣向なのかもしれないが、とりあえず、傍目で見ている限りではそんな様子はない。

「いや、別にアレは違うと思うけど」

「でも、あのアレンと新参者がでかい顔しているのは気に食わないわ……」

「でかい顔って。新しいキャラだからこそ、目立っているんじゃないかなあ」

これは当然だと思うが。

……そこはかとなく、異次元っぽい会話だけど、今回はそーゆー方面で攻めていくらしいので、気にしないで頂きたい。こんなことは今回だけだ。うん。

「でもさあ、ぶっちゃけ、私たち日陰者に押しやられてるじゃない」

「まあ、それは……」

「私はまだましだけどさ、あんたとクリスなんて、もうすでにいてもいなくてもいい存在? ぶっちゃけ、背景でツッコミする脇役かな」

「………………(ガーーーーン)」

(図星を指されたわね、マスター)

どこからかシルフィの声が聞こえる。

でも、脇役? 主人公の僕が脇役? ちょっと待て。それはそこはかとなく、物語的に破綻していないだろーか?

「私も、あの三人には辟易しているところだし、ここは手を組まない?」

「手を……組む?」

それがどんな意味なのか、ショックを受けた脳では理解しきれない。

「そうよ……。あのでかい顔している三人をちょっと懲らしめて上げましょう」

「こら……しめる」

目の前で、ルナの指先からでた炎がゆらゆら揺らめく。

それに眼を奪われ、思考が働かない。

(ちょっと、ルナ。催眠術とはたちが悪いわよ)

「へーきよ。これは、ライルの中に確かにある衝動だから。ほぅ〜ら、暗示にかかってきたかかってきた」

すでに、何を言っているのかはよくわからない。

だが、一つだけ確かな事がある。その思いを、思いっきり叫んだ。

「これ以上、主人公をないがしろにしていいのか!!?」

否! 断じて否である! 間違いは是正されねばならない!

そう! フィクションの秩序を保つために!! 僕は……いや、俺は今ここに立ち上がる!

「行くぞ、ルナ! ついて来い! 俺は……俺はアレンを一発殴らなきゃなんねぇ!」

そう、主役を無視して、上級生と下級生に手を出している鬼畜野郎を! そのおかげで、俺は影の主役に徹することになっちまったんだ!

全速力で走る、走る、走る! 俺は風だ! 風になったんだ。見よ、このスピードを!

 

 

 

「よし、完璧(ぐっ)」

「……ねえ、ルナ。本当に成功なの?」

「な、何よ、シルフィ? 見てのとおりよ。見事な主人公っぷり。これでヒロインの私も際立つってもんよ」

「……ほんとに?」

「本当よ」

「マジで?」

「マジ……よ」

「神に誓って?」

「ち、誓える……と思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレーーン!!?」

邪魔っけな扉を開けて、教室に飛び込む。

この時間ならたいていアレンは来ているはずだ。道場の朝錬のおかげで、アレンの起床時刻はかなり早い。

「おわ!? なんだ、どうしたライル?」

ビックリした様子でこっちを見てくる。

だが、既にアレンはなにやらフィレアさんとミリルちゃんに囲まれている。……なんて奴。この二股野郎め。

「コラ待て。なにかとってもむかつくことを思わなかったか、お前?」

「気のせいだ」

きっぱりと断言してやる。そんな瑣末な事を議論している場合ではない……!

「アレン!」

「な、なんだ?」

「一発殴らせろ!」

アレンに踊りかかる。

こちらを呆然と見ているだけのアレン。なので、簡単に入れられる、と思ったのが間違いだった。

横合いから、こちらの攻撃を防がれる。

「……!? アルヴィニア王国第三王女!」

「……なんですか、その堅苦しい呼び方は」

「ええい、うるさい! アレンを庇い立てするならアンタも同罪だ! なんだよ、もう十七歳の癖に、その十歳で成長が止まったかのようなボディは? よくそれで、格闘家なんて言えな!」

「ひ、人が気にしている事をぉ〜……」

なにやら、傷ついた様子。眼に涙が浮かんでいたりする。ちょっとだけ残った良心がほんのり痛むが、それもすぐに掻き消えた。

「……いいでしょう。アレンちゃんに襲いかかろうとしていましたし、この前の決着もまだです。ここで引導を渡して上げます!」

フィレアが飛び掛ってくる……。

「応! きやがれ!」

そして、俺はそれを真正面から向かい討った。

……だがまずい。以前の手合わせでもわかっているが、素手の対決なら、彼女の技量は俺よりワンランク上だ。だったら剣を使えばいいんだが、さすがにこんなことに使うのは気が引ける。

よくて相打ち。それではアレンをしばくことができない。

ここは誰かの力を借りるべきか……

「――クリス!」

眼をパチクリさせながらこちらを見ているクリスに気がついた。アレンと同位置だったにも関わらず、先にアレンに出世されてしまった不遇の王子様。彼なら、俺の気持ちもわかってくれる!

「え、な、なに? ライル?」

「手伝ってくれ!」

「な、なにを?」

「決まってるだろ! アレンにお灸をすえることをだ!」

フィレアの相手をしながら怒鳴る。クリスは目を大きく見開いて、ブンブンと首を振った。

「ちょ……ライル!? なんか、今日、おかしくない!?」

「そんなことはない。俺はいつもどおりだ!」

「一人称、俺になってるし!?」

それがどうした、と思いながら、一旦間合いをはずす。息は向こうが荒くなっている。体が小さいから、当然と言えば当然だ。加えて、俺は今、ちょっとした興奮状態にあるから、多少は無茶できる。

「な……! おい、クリス! どうやらライルは本気だ! 止めてくれ!」

懇願するアレン。でも、無駄だ。

「で、でも……」

「そうだよなあ、クリス。君も心のそこではアレンに嫉妬していたんだろう……?」

僕の怪しげな声に、クリスが呆然と振り返る。……自分で怪しげと言うのもなんだが、事実だ。

「――ら……いる?」

「だってそうじゃないか。いつもは同じくらいの出番しかなかったのに、いつの間にかアレンは可愛い(?)後輩とかわいらしい(?)先輩を仲良くなって、おかげで主人公の僕を食うくらい目立ってんだから」

「そ、そうかな? 言うほど目立ってないと思うけど?」

「い〜〜や。目立ってる。この前の話なんか、アレンの独壇場だ。僕とクリスはただの解説役」

ぽう、と指先に炎をともす。

「ちょっとライルさん!? 今の撤回してください! あたしはこんな人と仲良くなった覚えは……」

ミリルちゃんの声は無視だ。今はクリスの説得が最優先。

「僕たちは……解説役」

「そう。憎いとは思わないか? なんかずりぃよなあ」

「そうだ、ずるい。なんで、僕は出番がない」

わなわなと震えている。

「僕は……僕は。……私は……」

突如、クリスは教室から飛び出る。あっけにとられている周囲が固まっている間、約一分後、

「私も出番が欲しい!」

見目麗しい少女へと変身を遂げたクリスが帰ってきた。

久々の女装。そして、その気合。

「うむ! それでこそ我が陣営の尖兵!」

「わけわからーーーん!!」

反逆者、アレンの絶叫が響き渡る。

フフフ……こちらの陣営に恐れを抱いているようだ。

「そ、それなら私も!」

「私もだ!」

「せ、先生も……!」

上からリムちゃん、グレイ、キース先生だ。その他有象無象も続々と名乗りを上げている。

「ふはははは!! どうだ、アレン! 我が陣営は着々と拡大中だ! もはや、君の命など、風前の灯火と言えよう!」

じりじりと包囲する。すでにフィレアさんも抵抗する意思はなさそうだ。多勢に無勢だと悟ったのだろう。

「ら、ライル……どうしちまったんだよ?」

「どうもこうもない。ただ、我々は出番のなさをアレンに、ひいては作者に訴えているだけなのだ!!」

「つーか、んなこと言うんだったら、お前、ユグドラシル学園でさんざん目立ってたじゃないか! 俺が目立ったのはここ二話くらいだぞ、ほんと」

たらり、と汗が流れる。

後ろではクリス嬢のノートパソコンで、『ヴァルハラ学園物語』を読み直している連中が。

「あ、ほんとだ。アレンはここ二話。おまけに、ライルも一応、同じくらいしゃべってる」

「むう……アレンの出番が増えたから、勢いだけで書いては見たものの、実はそんなに出番変わってなかったな。やはり、主人公か」

段々と、さっきまで仲間だった連中が冷えた目で見始める。

「お、おい? キミタチ?」

ウラギリモノメ、とその目が告げている。

そりゃそうだろう。音頭を取った僕の出番も実はそう変わらない、と言うこととなると、みんながそう思うのはすっごくわかる。

まあ、主導権というか主役はアレンに握られているような気もするが……そんな理由な納得してくれないだろう。

僕への包囲網が完成し、だんだんと狭められ、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていう夢を見たんだけど」

「……マスター、ストレス溜まってるのね」

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