お久しぶりだな。ルーファスだ。
作者が題名も決まっていないやたらラブコメっぽい小説にかまけていたせいでここんとこご無沙汰だった。
実はすでに話の中では三カ月と少しが経っている。俺もヴァルハラ学園にだいぶ慣れてきた。この飛び方、本編にもあったな。
だいたい、なんだあの話は? ったく、俺としてはもうすこしシリアスにいってほしいものだ。まあ、次はがらりと雰囲気が変わる予定だそうだが。
………誰だ。そこで俺の状況も大差ないと思っているやつは? 断じてそんなことはないぞ。
「はい。ルーファスさん。今日もお弁当を作ってきましたよ」
断じて違う……はずだ。(少なくとも、リアが俺に食べさせようとしたことはない)
第9話「ミッション、ルーファスの場合。〜その始まり〜」
「そういえば、もうミッションの季節なんですねえ」
「そういや、課題は今日の午後発表だったか」
もぐもぐと昼ご飯を食べながらなんでもない世間話をする。
こういうことをしていても、最近は痛い視線を受けることはない。さすがに慣れたのだろう。友人もそれなりにできた。ダルコなど、まだまだ一部は俺を敵視しているようだが、力ずくで勝てないことがわかったのかおとなしいものだ。
(三日に一度は襲撃を受けているようだが?)
(言うな、カオスさん。忘れようとしているんだから)
(だけど、物事から目を背けるだけでは根本的な解決にはならんだろう?)
うう、正論なんて嫌いだ。
それはそうと、精霊王達もよく俺のそばにいる。常に一人か二人は俺のそばにいる。今日はカオスさんだからましだが、シルフィならいろいろやかましいし、アクアリアスは説教臭いし、ソフィアは人間にあんまり抵抗がないせいかすぐに姿を現そうとするし、ガイアは俺をからかうのがライフワークだとまで言い切るし、フレイはすぐ勝負をふっかけてくるし………ロクなやつがいないな。大丈夫か、精霊界。
「例年、二年生の一学期のミッションはセントルイスの外まで行くんですよね」
「そうなのか?」
俺はそのミッションとやらは初めてだ。当然、そんなことを知っているわけない。
「そうですよ。でも、あんまり危険なところには行かないし、ピクニックみたいなもんです」
リアはにこにこ笑いながら言ってくれるが、俺はそういう油断が一番危ないということを知っている。
冒険には不慮の事故はつきものだ。だいたい、モンスターの出現場所なんてしょっちゅう変わるし。
………そんなことよりなによりも、不思議と俺が行くところにはトラブルの嵐が巻き起こるんだからな!(おおいばり)
「はい、お茶です」
「ん……」
そうそう。読者様方の誤解を解いておきたいのだが、俺は毎日昼飯をリアに世話になっているわけではない。
週に一、二度くらいだ。それ以外はアクアリアスかソフィアを喚んで作らせている。俺の食生活はあの二人に頼りっきりなので、悪いとは思うが、これも運命だと思って諦めてもらおう。二人とも、料理は趣味なのでそれほど嫌がってないし。……でも、そのうち礼でもするか。
「平和ですね〜」
「ああ」
「いい天気ですね〜」
「ああ」
「……ちゃんと聞いてますか?」
「ああ」
「……………………」
「ああ」
俺は幼い頃、村が魔族に襲われ、それから紆余曲折を経て魔王まで倒してしまった。それ自体はよいことだと思うが、こういった平穏な時間を過ごす事は長らく忘れていた気がする。
今日は雲一つない青空。この季節、けっこう暑いのだが、俺の空気調整結界の中は快適だ。この結界、本来は真魔法に属しているもので常に維持しようとしたらそれなりの集中力が必要なのだが、俺の場合精霊魔法で同様の効果を起こしている。最初に術を行使しておけば、あとは勝手に精霊が俺の魔力を吸い取って俺の周囲1cmの気温を調節してくれるのだ。
「………」(ギュウ!)
「のわ!? いてて、何するんだリア」
頬に鋭い痛みを感じると、リアがふくれた顔でこちらを睨んでいた。しかし、もとがたれ目で童顔なためちっとも怖くない。
「無視するからです」
「無視? 俺が? なんのことだ」
「もういいです。さっさと行きますよ。そろそろ次の授業が始まります」
そう言って、さっさと弁当を片付けリアは教室へと向かう。
「ちょ、ちょっと待てよ」
それを俺は慌てて追いかけるのだった。
「薬草の採取?」
帰りのホームルームで、担任に渡された課題がそれだった。
リアが、渡された紙を読み上げる。
「そうです。えーと、セントルイスから2日ほど行った谷にある『テトラルーン』っていう薬草ですね」
「のわにぃ!? 貴様、ルーファス! リアさんと往復四日も二人きりとはそんなうらやま……もとい不埒なことは俺が許さん!!」
「やかまし」
バキッ!!
「ぎゃあ!!?」
でかい声で叫ぶダルコを拳一発で眠らせる。最近、俺ってこいつに遠慮がなくなってきた。
周りもすでに気にしていないし。
「そ……そういえば、パーティーごとだったら二人だけなんですよね……」
「アホか。だからどうしたってんだ」
「え、えーと……」
なにを迷っているのか知らないが、明日の休みに準備を整えて明後日出発。だいたいのパーティーはそうするだろう。
我がヴェスリエントもうかうかしてられない。
「ほれ、いろいろ話し合うことがあるから、お前の家にでも行くぞ」
「は、はい!」
リアが慌てて着いてくる。おかしなやつだな。
「往復で四日か……こういうのって、本職の冒険者の基準だからあんまりあてにならないんだよなあ。とりあえず食料その他は七日分くらい用意しておくか」
今、リアの家で必要物資の相談中。リアは、本当に授業を受けていたのかと疑いたくなるくらいサバイバル知識が皆無だった。つーか、俺も聞いてないんだけどね。でも、俺は実戦で鍛えてるし。
「だったら、あと必要なものと言ったら……ランタンとか、寝袋とかですか?」
「あと、薬草類も欲しいな。薬草は俺、心当たりがあるから調達してくるけど、他の物はちゃんと買いにいかないと」
「ですね。じゃ、明日買い物に行きましょう」
「えーと……あとなんかあるかな?」
「武器がいるだろう」
突然、横からかけられた声に反射的にふり向くと、そこにはリアの父ゼノがいた。
「えーと、大神官さん」
「ゼノでいい。それよりも、武器も持たずに町の外に出るつもりか? 君が気功術が扱えると言っても少し無茶だろう」
余計なお世話かもしれんがね、と付け加えてゼノは去っていった。娘がどこの馬の骨ともわからぬ男と冒険をするというのにずいぶんとあっさりしている。やはり、ゼノは俺のことにうすうす気づき始めているのかも知れない。
「そういえばお父様の言うとおりですね。武器の方も買わなきゃ」
「そーか、武器か……」
俺の場合、戦闘になったら亜空間にしまってあるレヴァンテインを使うので気にしていなかったが、さすがにリアと一緒にいて魔剣をつかうのはまずかろう。きちんとそいつも買っておかなきゃならないな。安物の剣でいいか。
「じゃ、明日十時に商店街で待ち合わせましょう」
「わかった」
そういうことになった。
「ただいま〜」
とりあえず、だいたいのことは決めて家に帰宅したのは九時すぎ。
さっさと風呂に入って寝てしまいたいところだが、薬草を採ってこなきゃならない。
「はぁ……『開け』」
俺が一言となえると、空間に裂け目ができ、俺の『家庭菜園』への入り口ができる。
ここは野菜類だけでなく、さまざまな薬草も栽培しているのだ。
「そういえばルーファス」
「なんだよ、カオスさん」
「お前の薬草畑に、例の『テトラルーン』とやらもなかったか?」
「ああ………」
今回の課題であるその薬草。実は俺も栽培していた。
ローラント王国のごく一部にしかないその薬草は、治癒系の魔法薬のいい材料になるのだ。あと、四属性の精霊魔法の行使の補助もできるので、けっこう珍重している。
ちなみに、ローラント王国にしかないのは気候よりもむしろ周りの精霊のバランスのせいだ。精霊とは自然界のそのものと言ってもいいので、当然植物の生長にも影響する。そして、土地の精霊のバランスを崩したりすることは人間には不可能だ。そのおかげでごく一部の地域にしか存在しない薬草ができる。
ただ、俺の『家庭菜園』は精霊界と直結している。おまけに俺自身、六大精霊王全員と契約しているので、よほど特殊な状況以外は再現できるのだ。よって、ここには古今東西の珍薬草が揃い踏みしている。
「別にいいでしょ。ここにあるのを持っていったらいろいろ怪しまれそうだし」
「それはそうだが……」
「はいはい。わかったら、さっさと必要なやつ集めるぞ。カオスさんも手伝ってくれよ」
「別に構わないが」
「じゃ、怪我の治療用と毒消しと体力回復用。あと、使えそうなもん、よろしく」
「わかった」
それだけ言葉を交わすと、俺とカオスさんは別々の方向を向く。
カオスさんは第一薬草畑へ。俺は第二薬草畑へ。自然とそういう成り行きになった。
「『シルフィードウイング』」
そして、即座に俺は飛行用魔法を発動。この家庭菜園。月くらいの広さはあるので移動に一苦労なのだ。まあ、利用するのは俺か、精霊王たちかくらいなので不便と言うほどではない。距離とかまったく意に介さないメンツだし。
そして、一時間ほどすると、当面必要な薬草はすべて集まった。
ああ、それからそんな広い畑をどうやって世話しているんだという質問には、俺は世話していないと言っておく。管理、その他すべてここの精霊達に任せているのだ。
………ちゃんと代償として俺の魔力をあげているぞ。