失敗………あれは完全な失敗だった。

いくら、全員が気絶していたかと言って、あそこまで力を解放したのは我ながらアホとしか言いようがない。

あの後、ゼノとリアが起きた後の俺の言い訳。

「俺は何も知らん!!」

………説得力の欠片もない。リアが気絶した後、俺もすぐ気を失って、それからのことは何も知らないということにしておいたが、リアはともかく、ゼノは疑いの目で俺を見ていた。その場ですぐに追求されなかったのは不幸中の幸いだ。

(まったく………ダメダメね。マスター)

(うんうん。警戒心ってのがゼロなんだからな。こんなだからいつも貧乏くじばっかひくんだ)

うるさいわ!!

 

第7話「そして次の日」

 

目の前にいるのはシルフィとガイア。

この二人は精霊界の仕事を抜け出して、こちらまで遊びに来たらしい。

もちろん、小型化して姿を消している。

今は俺の転入2日目の授業の真っ最中。ちなみに3時間目。魔物学なんてあくびのでそうな内容だ。

(………で、ルーファス。今回はまたどういう理由でキレたんだ?)

俺の机の上で偉そうにふんぞり返っているガイアが尋ねてきた。

(………ちょっとな。知り合いが殺されそうになったんで気付いたら………こう)

(で、その殺されそうになった子って、やっぱりその子?)

シルフィがリアの方を見ながら言う。

俺がその通りだと、頷いてみせると、二人は何やらぼしょぼしょと内緒話を始めた。

(………?なんだお前ら)

なんか、気持ち悪くなってきたので、尋ねてみると、二人はニヤリと言う擬音がぴったりの笑顔を浮かべながら、

(やっぱりルーファスも男と言うことか。結構かわいい子じゃないか)

(相変わらず手が早いわね〜マスター)

………なんて事をほざいた。

(大体、朝会ったとたんに『ルーファスさん!!』………な〜んて、嬉しそうに寄ってくるもんだからそんなところだろうとは思ってたけどねえ〜♪)

(マスター、美人の知り合いは多かったけど、結局恋人っていなかったわよね。良い機会だから、付き合ってみたら?)

こいつら………

(くだらないこと言ってんな。俺は寝るぞ)

そう言って、さっさとうつぶせる。

(あっ!逃げやがった!!)

(マスター!ちゃんと話を聞きなさーい!!)

勘弁してくれ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーファス。なに疲れた顔してるんだ?」

「ああ……アルか」

次の授業までの10分の休憩の間。アルが話しかけてきた。

「ちょっとな………」

とりあえず、それだけ答えておく。俺が疲れている理由は多すぎでとても説明できるものではない。例えば、昨日から全然変わらないクラスメイトの視線とかな。

「ふ〜ん。おおかた、昨日のセイクリッド家襲撃事件にでも巻き込まれたんだろ?幽霊がいっぱい出たんだってな」

ズルッ!

「何で知ってるんだ!」

思わず“精神的に”ずっこけてしまった(本当にずっこけてたまるか)。昨日の出来事は、ゼノが揉み消したはずなのだが………

「ああ、そう言えば話してなかったな。俺、趣味で情報集めなんてしててさ。で、セントルイス内の出来事なら人の心以外俺にわからない事なんてないんだな、これが」

まあ、それは言い過ぎか………と付け加えるアル。

だが、仮にも教会の大神官が揉み消したことを当然のように知っていることから考えて、それほど言い過ぎでもない気がする。

「ま、なにか知りたいことがあったら相談してくれよ。力になるぜ」

「そ、そうか。ありがとう」

色々謎が多いな、こいつも。

「と、言うわけでだ。お前のプロフィールを教えてくれ」

「………なんでそうなる?」

「いや、何か昨日から聞いてくるやつが激増してな。まああれじゃないか?敵を知り、己を知らば百戦危うからず、ってやつ。なんか、お前を抹殺する計画が着々と進められているらしいし」

……………………

「まぢですか?」

「おおまぢだ」

まさか、それほど話が進んでいたとは………やっぱ原因は………

「?何ですか、ルーファスさん?」

俺の視線に気付いたリアが話しかけてくる。無邪気な顔をして、俺を地獄へ落とそうとする小悪魔だ。本人が無自覚なだけに手に負えん。

かといって、今更距離を置くというのも出来そうにない。

(お前はお人好しすぎるんだよ。だからこういう事態になるんだ)

(ガイア、うるさい)

ついでに言うと、お人好しってだけじゃここまで絶望的なことにはならない気がする。やっぱり、俺の運が悪いんだろうか?

(ま、マスターなら殺しても死なないだろうし、いいじゃない。どうせ一回死んだようなもんだし)

シルフィが、あっさりと言い捨てる。

(お前、それは洒落にならんぞ………)

なんせ、200年も眠らなきゃいけないような傷だったんだからな。

「で、だ。教えてくれるよな」

と、気付くとアルが詰め寄ってきていた。

「なんでわざわざ自分に不利になるような情報をやらなきゃならん」

「下手したら、俺にもとばっちりが来そうなんだよ………」

やれやれ………

 

 

 

 

 

 

 

で、質問ターイム

「で、お前、誕生日は?」

「10月8日」

「は?」

しょっぱなから、アルは驚く。

「なんだ、どうした?」

「いや、それリアと同じ誕生日だよ。お前」

ぺらぺらとメモ帳をめくりながら答えるアル。

「本当か?」

「ああ。ほれ」

と、メモ帳の『リア・セイクリッド』の欄を開けて見せる。誕生日の項を見ると………確かに10月8日と書いてあった。

「つーかお前。全校生徒のプロフィールを集めてるのか?そっちの方が俺には驚きだぞ」

「ま、需要があれば供給もあるんだよ。次の質問行くぞ」

じゃあ、女子のプロフィールにあるスリーサイズの項目もやっぱり需要があるんだろうな。でも、これがバレたらこいつもボコられるだろうな。

「じゃあ、趣味は?」

「趣味ぃ?………そうだな絵……かな?」

「似合わないぞ」

「うるさい」

(俺もそう思う)

(私も)

なにやら、馬鹿な精霊が二人なにか言っているが、無視だ。無視。

(でも、マスターって、似合わないけど、けっこううまいのよね〜)

(うん。下手の横好きならからかいがいがあるのに………)

………無視すんの止めた(←早い)

(お前ら強制送還するぞ)

見る見るうちに、二人の顔面が蒼白になる。

(か、勘弁してくれ。今帰ったら、ソフィアたちにお仕置きされる!!)

(わ、私も遠慮する!)

うむ。大人しくなったな。だがな、お前ら。後から帰ってもお仕置きされるのは目に見えているぞ。

「ま、いいや。次だ。好きな食べ物と嫌いな食べ物は?」

アルの質問が続いた。

「好きな物は卵料理。嫌いな物はセロリ」

「OK。じゃあ、得意な戦闘方法は?」

「剣と精霊魔法」

「ふ〜ん………まあ、剣が得意だってのは昨日ので予測が付いたけどな。精霊魔法ね………」

すらすらとメモ帳に書き込んでいく。

「あと、武器なら一通り扱えるぞ。普段は剣以外使わないけど」

「ふ〜ん。器用だな………じゃあ、戦いにくいタイプは?」

「そうだな……強いて言うなら、パワータイプが嫌いだ」

俺、少しパワー不足だし。って、

(お前らなに呆れた顔をしている?)

軽く、ガイアとシルフィの方を睨む。

(アホか………楽々、象だって投げ飛ばすくせに………)

(そりゃ、マスターのスキルで、一番低いけど、不足って事は絶対にあり得ないと思う)

………反論できないところが悲しい。俺だって、ふつーの学生なのに………

「なるほど。じゃあ、俺はこれで………」

聞きたいことは終わったのか、アルが自分の席(つっても隣)に座る。

それとほぼ同時くらいに、次の授業の先生が入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「ルーファスさん!お昼休みですよ!!」

4時間目の授業が終わると、いきなりリアが迫ってきた。

「な、なんだよ………」

奨学生に学園から支給される食券を握りしめ、いざ食堂に向かおうとしていたルーファスはいったん足を止め、リアの方を見る。

「一緒にお弁当を食べて同じパーティー内の親睦を深めましょう。ちゃんとルーファスさんの分もあります」

と、言って誇らしげにでかい弁当箱を掲げる。

いったいどこにしまっていたんだと聞きたくなるほどのでかさだ。

「いや、俺は食堂に行こうかと………」

「いいじゃないですか。確か月の半分くらいの分しか食券は支給されないはずですよね」

事実を言われ、うぐっとつまるルーファス。彼とて、周りに誰もいなかったら喜んでその申し出を受けただろうが、周りのクラスメイトはそれを許してはくれない。

「さ、行きましょう。この季節は中庭で食べると気持ちいーんですよ」

「おいちょっと待てーーーーー!!」

だが、そんなことには全く気付かないリアは、意外に強い力でずるずるとルーファスを引っ張っていった。ルーファスの言うことにも耳を貸さない。けっこう強引なところもあるらしい。

その姿を見たアルフレッドは、静かにルーファスの安全を願ってやるのだった。

 

 

 

 

「………それでですねえ」

中庭に広げられたシートの上で、リア特製の弁当をおいしく頂いた後、お茶を飲みながらリアは話を切りだした。

シルフィとガイアも隠れて弁当をつまんで、今は木の上でのんびりと雑談をかわしている。

「………なんだよ?」

ああ、やっぱこいつのペースに巻き込まれているなあ………などと、自分の押しの弱さを嘆きながら、ルーファスは返事を返す。

「昨日言ったパーティーの名前、考えてみたんです」

「ふ〜ん」

(そういえばそんなことも言ってたか)

今の今まですっかり忘れていたらしい。

「言ってみろよ」

お茶をずずっと飲み干す。リアはルーファスにお茶のおかわりを注ぎながら告げた。

「『ヴェスリエント』……なんてどうですか?」

「古代精霊語で『勇者の再来』ね。何でそんなのにしたんだ?」

ルーファスが聞き返すと、リアは驚いたように言った。

「ルーファスさん、この意味わかったんですか?古代精霊語ってもうほとんど使われてないのに。わたしはお父様に教えて貰ったんですが………」

それに対して、ルーファスは曖昧な笑みを浮かべながら、

「ま、俺にも色々秘密があってね。で、さっきの質問に答えてもらえるか?」

「いえ、ただ単にルーファスさんの名前がアレなので、お父様がこれでどうだって………」

「ふ〜ん」

ルーファスはゼノのことを思い浮かべる。

昨日、例のグレートスピリットを倒してから、大体10分ほどで目が覚めていた。ルーファスもその時は気絶した振りをしていた。

が、前後の状況から判断して、なにかに気付いたのかも知れない。第一、ごまかし方に無理があり過ぎるのだ。

(ま、確信は持ってないだろ。これから気をつければいいだけだしな)

とりあえず、そこまででゼノのことは放って置いて、ルーファスはリアに向きなおる。

「ま、悪くないがな。別に」

「じゃあ、いいんですね」

「ああ」

「じゃあ『ヴェスリエント』で決定です!!」

嬉しそうにするリアを見て、思わず頬がゆるむルーファスであった。

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