抗マナ化装置がランサに到着し、スピリット隊の主だった面々はラキオス王城に集められていた。
エトランジェである悠人と友希、そして第一宿舎のメンバーが謁見の間に集められ、レスティーナに対して静かに頭を垂れている。
そんな彼らを睥睨しながら、レスティーナはクリスタル状の装置に向き合っていた。
ヨーティアが悠人がぽろっとこぼしたテレビの話を参考に、エーテルジャンプの技術を流用して片手間で作った遠くに映像を送る機械だ。
現在、この謁見の間の映像はラキオス王国の全都市に送られ、国民が固唾を呑んで見守っている。
「いよいよ、決戦の時です。マロリガンを打ち倒し、その領土を併呑して、神聖サーギオス帝国に立ち向かいます。
そのためには、スピリットたちだけに任せたままでは叶いません。我々一人一人が、ラキオスの戦士と自覚し、力を合わせねば我が国より強大な二国には勝てないでしょう。
本日これより、生活用のエーテルを一部軍事費に回します」
言葉をあまり飾らないレスティーナの演説に、ラキオス中が聞き入っていた。
カリスマ。そうとしか言いようのない雰囲気に、本来なら反発して然るべき内容にも関わらず、反対の声を上げる者は皆無であった。
「エトランジェ、『求め』のユートよ!」
「はっ!」
レスティーナの凛とした様子に、自然と背筋が伸びていた悠人が立ち上がり、『求め』を掲げる。
「スピリット隊を率いて、スレギトまで進軍! その勢いのまま、首都マロリガンを陥落せしめよ!」
「はっ!」
友希とスピリット達が立ち上がり、その神剣を重ね合わせる。
『求め』『束ね』『存在』『献身』『理念』の五本が共鳴し、白く発光した。
ラキオスの古式に則った開戦の儀。映像をラキオス中に届けることのできるようになった今、戦意高揚のため復活されたその1儀式に、国民が沸き立つ。
城下町の喧騒が、この謁見の間にまで届いていた。
「この大地の、未来のために!」
『未来の為に!』
悠人の少し上擦った声に続いて、友希やアセリア達の唱和が響く。
「よろしい! では、出撃しなさい!」
レスティーナの声に押されて、悠人を先頭として全員が駆け抜けていった。
「よし、行くぞ」
エーテルジャンプで、すぐさまランサに取って返した悠人達は、いつものスリーマンセルの部隊に分かれ、進軍を開始した。
少し遅れて、抗マナ化装置を携えた技術者集団が出発する手筈になっている。
装置が壊されては作戦の大前提が崩れてしまうので、そちらの護衛にもエスペリアを隊長とした二小隊を置いていた。
「っと! 早速来たぞ!」
ランサを出て、五分も経たないうちにマロリガンは稲妻部隊が現れた。
「あの演説、やっぱ見られたんだろうな」
「そりゃ、スパイの一人や二人いるだろうし」
悠人は『求め』を、友希は『束ね』を、それぞれ構える。
「友希、しばらく俺はなるべく守りに回る」
「了解、作戦通りな。……アセリア。バニッシュ、頼むぞ」
「ん」
地球での一件を通じ、友希にもアセリアの表情がなんとなくではあるが読めてきた。
今は『どんと任せとけ』という顔である。
攻撃力の高い二人は、防衛施設が存在し堅固なスレギト攻略まで、力を温存する予定だ。
先頭切って戦った経験は少ないが、やってやる、と友希は『束ね』を握りしめる。
「みんな! 俺達が正面の二部隊引き受ける! 右と左の二隊は頼んだ!」
悠人の指示に、ヘリオン、ハリオン、セリアの隊と、ニムントール、ファーレーン、ネリーの隊が散開する。
「行くぞ!」
足にマナを集め、地面が爆砕するほど大きく蹴り、一気に稲妻部隊に肉薄する。
その速度が意外だったのか、向こうのディフェンダーのカバーは間に合わず、アタッカーに直接攻撃を加えられた。
「ォォォ!」
オーラフォトンの光を纏った『束ね』が、神剣ごと相手のブルーの体を切り裂く。
ぱちくり、と何が起こったかわからない様子の敵スピリットの様子に、少しだけ胸が痛むが、無視してその脇をすり抜けた。
あの様子ならば、もう戦闘力はない。次に向かったのはディフェンダー役のグリーンスピリット。
「っ、く、来るなぁっ!」
咄嗟に突き出された槍の一撃を体を横にズラして避け、突進の勢いのまま『束ね』を突き刺――
「!?」
す、直前、体に黒いマナが纏わりついてきて、全身から力が抜けた。
「ブラックスピリットかっ」
敵の弱体化は、ブラックスピリットの得意魔法だ。少し離れていた敵サポーターからの魔法が友希を蝕み、決定的なチャンスにも関わらず、その攻撃はグリーンのシールドによって弾かれる。
このままでは、倒しきれない。一旦下がるか、と一瞬友希は逡巡し、
「友希、もう一度だ! 力を込めろォォォ! パッッッショオオオオオオオオン!!」
熱情のオーラが友希を鼓舞し、剣を握る力が強くなる。
悠人の魔法は、ブラックとは逆に味方の強化を得意とする。低下した以上に強化され、友希の二撃目が今度こそグリーンスピリットを貫いた。
「アークフレア!」
「……!?」
遠くから魔法の詠唱が聞こえてきた。
正面にいたもう一つの敵部隊からの援護射撃だ。
アークフレアと言えば、レッドの攻撃魔法の中でも極めて強力な部類に入る。
「くっ!」
その場から飛び退いて避けようとするが、
「逃が……さ、ない!」
体の半ばまでもがマナの霧に還っているにも関わらず意識を保っていたグリーンスピリットが、自分の体に刺さった『束ね』を抱え込んで友希を捕まえた。
このままであれば、味方の魔法でトドメを刺されるというのに、凄まじい執念である。そこいらの、神剣に人格を呑まれたスピリットでは不可能な芸当だ。
マズイ、と一瞬背筋に冷たいものが走るが、それはすぐに吹き飛んだ。
「マナよ、消沈せよ。アイスバニッシャー!」
アセリアの魔法により、アークフレアの魔法は掻き消される。熱波の残滓すら残さない、見事なバニッシュだった。
「あ……」
「悪い」
ガクリ、と力の抜けたグリーンスピリットを振り払い、アークフレアを放ってきたもう一部隊に向かう。
こっちの残りはブラックスピリット一人。バニッシュがあるとは言え、レッドの魔法の方が怖いので後回しだ。
「……追ってくるか。悠人、後ろ頼む!」
しかし、当然のことながら残ったブラックスピリットもおとなしくしている理由はない。ハイロゥを広げ追ってくる。
背中から斬られては敵わないと、友希は悠人に声をかけて背中の守りに入ってもらう。
「ああ、任せろ!」
「アセリアも、魔法飛んできたら頼むぞ!」
「わかった」
残りの部隊は、青、黒、赤の攻撃的な布陣だ。黒はカウンター狙いでその身を無防備に晒している。
下手を打つと、手痛い反撃を喰らった上、残りの青の攻撃と赤の魔法で殲滅される。
『主!』
『束ね』からの意思を受け取り、友希は意識を集中する。その身からオーラフォトンを絞り出し、『束ね』に宿る光は徐々に強くなり、
「え?」
今までの間合いの二歩手前で『束ね』を振りかぶった。
相手の神剣の間合いの外。そんなところから剣を振ってどうするのかと、敵のブラックスピリットは眉を顰め、
「なに!」
次の瞬間、『束ね』の刀身が一回り大きくなる。正確には、その刃に宿るオーラフォトンが大きな剣を象ったのだ。
「これで決める!」
「っの、させるかぁ!」
カウンター狙いのブラックスピリットが、待ちの姿勢を解き、前に踏み込みながら居合を繰り出す。
しかし、ワンテンポ遅い。
「っっ!」
肩口に『束ね』が食い込み、ブラックスピリットは神剣を取り落とす。
「かふっ」
吐き出す血もすぐにマナに還る。崩れ落ちるブラックスピリット。
友希は『束ね』を引き抜き、迫ってくるブルースピリットを迎え撃つ。
……が、倒れた側にある自分の永遠神剣を拾い、崩れ落ちたスピリットはせめて一矢報いんと突きを放ってきた。
「しまっ……!?」
所詮、倒れた姿勢から放った攻撃。喰らったダメージは大したことはないが、一瞬姿勢を崩してしまう。
「今だっ!」
「わかってる! 喰らえ、エトランジェ!」
味方のブラックの必死の叫びに応え、ブルーの一撃が友希を襲った。
「シールド!」
オーラフォトンのシールドを展開し、それを受け止める。
ガギン! と、硬い音を立てて攻撃を防ぐことには成功するが、鋭い痛みが腕を駆ける。衝撃を全ては殺せなかったためだ。
「ファイアーボール!」
「通さない」
追撃の赤の魔法はアセリアが防いでくれたが、未だピンチだ。
「この、くそっ!」
左手に力が入らず、ブルーと交わす剣戟に精彩を欠いていた。元々、スピリットを上回るパワーとスピードで、技術の差が現れる前に決着を着けるのが友希の戦いの基本だ。足を止めて斬り結べば、どうなるかは明らかだった。
「っつ!」
足を狙った攻撃を防ぎきれず、浅くない傷を負う。
ガクン、と崩れ落ちそうになる。
「もらったっ!」
そして、ブルースピリットはこれまでで最高のマナを込めて、永遠神剣を振りかぶった。
「させるかっ!」
しかし、その剣を振り下ろしたところで、悠人が現れ、『求め』でその一撃を受け止める。
驚愕するブルースピリットに、チャンスだと友希は体ごとぶつかるように攻撃した。
尻餅をつくスピリットの心臓に剣を突き立てる。
「悠人、ありがと!」
「気にするな、それより、あと一人だ!」
アセリアのバニッシュに攻めあぐねているレッドに、悠人が目を向ける。
「あっちに残ってたブラックは?」
「俺が倒した」
よし、と頷いて、友希は傷口にオーラフォトンを集中させる。
傷が治ったのを確認し、悠人と二人で残りのレッドスピリットに向けて走りだすのだった。
「コー……インさ、ま。申し……訳……」
悠人と友希の友人である、マロリガンのエトランジェの名前を呼びながら逝くスピリット。
「……他のみんなは?」
「大丈夫、終わったみたいだ。見たところ、誰も死んでない」
友希は周囲を探り、そう悠人に報告する。ひとまずの危険が去ったことで、友希は殺してしまったスピリットに数秒だけ黙祷を捧げる。
隣では、悠人も拳を握りしめ、じっと昇華するスピリットを見ていた。
殺しはどうしても慣れない。最後のスピリットは、光陰の名前を呼んでいた。何度かの襲撃でもわかっていたが、光陰は隊長として慕われているようだった。
やるせない気持ちが二人を包む。
身近な人を亡くす気持ちは、友希は元より、悠人にも理解できる。
これだけ稲妻部隊を倒してきたラキオスを、光陰は受け入れるだろうか。今日子さえ助ければ……と考えていたが、不安になる。
なにも話さず沈黙していたが、友希も悠人も、お互い同じことを考えていることは察していた。
「……行くか」
「ああ」
考えていても、仕方がない。
ラキオスとマロリガンの戦争は、今更二人が止めても止まらない所まで来ている。そうなると、友希と悠人は、ラキオスのみんなを死なせないよう頑張るしかない。
なにせ、マロリガンのスピリットは――わかってはいたものの、今まで戦った中で最強の部隊だ。
ラキオスの第一宿舎、第二宿舎のメンバーは、少数精鋭として惜しみなくエーテルが与えられているため、なんとか個々の実力では上回っているが、向こうはこのレベルの敵が後何十といる。
更にはその上に光陰と今日子という、二人のエトランジェが君臨しているのだから、迷いを抱えたまま戦うなど論外だろう。
「光陰と今日子は出てきていないみたいだな」
「スレギトから離れているんじゃないか? 向こうは、エーテルジャンプは実用化していないんだろ」
多くのものがマロリガンに追い付いていないラキオスにおいて、数少ないアドバンテージが技術力だ。
ほぼヨーティア一人に依存した優位性だが、エーテルジャンプを始め防衛施設の性能などはマロリガンを大きく引き離している。
『もう二、三ヶ月もあれば、向こうの凡才がエーテルジャンプを完成させるだろうさ』というのはヨーティアの言だが、現時点では、光陰が報告や訓練のために後方に下がっていれば、すぐさま前線に駆けつけることはできない。
チャンスだった。光陰は、一人の戦士としては元より、指揮官としても凄まじい能力を持っている。スレギトというマロリガン攻略の橋頭堡を確保するに当たり、彼の不在は大きい。
「まあ、スレギトにはいるかもしれないけどな」
「考えていても仕方ない。いたら、戦うだけ」
「……まぁ、な」
アセリアの言葉に、悠人は言葉を濁す。
光陰と戦うことに迷いはないが、それでも思うところはあるのだろう。
そんな悠人の叱咤するように、キィーン、と『求め』が甲高い音を立て、悠人に干渉する。もはや慣れた頭痛に、悠人は僅かに顔をしかめ、『求め』に対して言い切った。
「五月蝿い、バカ剣が! 俺は、絶対に光陰と今日子を助ける。黙ってろ!」
まるで自分に言い聞かせるような必死の声だった。もはや、悠人はほぼ完全に『求め』の手綱を握っており、ちょっとやそっとのことでは干渉は許さない。『求め』の圧力に屈したのは、光陰達のことで精神に隙が出来たからだ。
そんな、明らかにイラついている悠人の手を、側に寄ったアセリアがそっと握る。
「大丈夫」
「ん? ど、どうした、アセリア。なにが大丈夫なんだ」
唐突なアセリアの行動に、悠人は『求め』のことを忘れ、呆けた顔で彼女を見つめた。
「ユートなら、コーインやキョウコのことも、きっとなんとかなる」
まっすぐに悠人を見つめ、なんの迷いもなく断言するアセリアに、悠人は苦笑した。
「なんだよそれ。なんとかって、随分曖昧だな」
「ん、今までもユートは、全部なんとかしてきた。だから、今回も大丈夫」
「……ああ、そうだな。なんだって、やってやるさ」
無垢な信頼を寄せるアセリアの手を握り返し、悠人は不敵な笑みを浮かべる。もはやその目に気弱さは見られなかった。
たとえどれほど困難だろうと、この戦いの後には光陰や今日子と一緒にいられる未来を作る。そう決意したのだ。
「サンキュ、アセリア。元気でた」
「ん、そうか」
さて、ところでこの場は終わったとはいえ仮にも戦場である。
ごほん、と一連のやりとりを見ていた友希は、わざとらしい咳を漏らした。
「二人共、休憩はそろそろいいだろ? 早いとこ進軍しよう。ほら、みんなも待ってる」
戦闘を終わらせ、こちらに集合したスピリットの面々は、手を握り合った悠人とアセリアの様子に、バツの悪そうな表情だった。悠人も『あっ』と気付き、頬を赤らめ慌ててアセリアの手を話す。アセリアの方はと言えば、まるで何もわかっていない様子だった。
なお、一人、ヘリオンだけは二人の仲睦まじい姿に物凄く落ち込んでいる。
『後でフォローしてやったほうが良いんだろうか……』
『やめたほうがいいですよ、主。もはや悠人さんとアセリアの仲に割って入るのは無理です。傷口に塩を塗りこむだけですよ。それとも、主が『慰め』てあげますか?』
『……冗談はよせ』
なにか『束ね』の言葉に嫌なニュアンスを感じて、友希は露骨に嫌な顔になる。
『そういうことは、少なくともこの戦争が終わるまで考えるつもりはない』
『そうですか。私、恋物語は大好物なので、気が向いたら是非』
ゼフィのことを未来永劫引き摺るつもりは……自分ではないつもりだが、今はとても考えられない。
「よ、よし。みんな怪我がある奴はいないな。じゃ、出発するか!」
取り繕うように大声を張り上げる悠人に、全員がどこか呆れた『了解』を返す。
なお、アセリアは悠人と握り合っていた手を二、三度握りしめ、『うん』と頷いていた。
スレギト攻略、マナ障壁の無力化はスムーズに行われた。
勿論、スレギト攻略には、稲妻部隊の抵抗があったが、ここまで力を温存してきた悠人とアセリアの八面六臂の活躍により、一人の犠牲もなく都市を占領できた。
マナ障壁の方も、友希達に遅れること一時間で到着した抗マナ化装置が威力を発揮し、その機能を停止させることに成功した。
後は、マロリガンの体制が整う前に首都マロリガンまでを一気に攻略、それが無理でも、せめてこちらが優位となるように主要都市を落とさないといけない。
マロリガンという国は大統領と議会がその舵取りをしている。これまでの戦争でラキオスが大国マロリガンに対抗できたのは、議会の反対からマロリガンの軍事費に回すエーテルが少なかったからだ。
しかし、外敵が出現したことにより、間違いなく議会の考え方も変わるだろう。今までラキオスを所詮この数年で成り上がった小国と侮っていた議会の人間も、自分の国の都市を奪われたとなれば危機感を覚えることは間違いない。特にスレギトを支持基盤とする議員の行動は早いと予想される。
あるいは、危機感を持った議会はラキオスとの和平を提案するかもしれないが……そのような提案をされた場合でも、無視して侵攻するよう命令されていた。
だが、そんな大戦略があったとしても、流石にスレギトを落とした後は半日ほどの休息を挟む予定だったのだが、
「なんだって!? マロリガンでマナ消失が起きる? 本当か、ヨーティア!」
イオの能力により、長距離神剣通信をヨーティアと行っている悠人が焦っている。
その内容は、友希やスピリット達を青ざめさせるに十分なものだった。この場の全員が、イースペリアのマナ消失に巻き込まれている。特に爆心地に近かった友希は、博打とも言える共鳴の魔法が成功していなければ間違いなく消し飛んでいた。
「ああ……。ああ! わかった。すぐに向かう」
『求め』を電話のように耳元に当てていた悠人は、剣を下ろして集まっているスピリットたちを見渡す。
「みんな。聞いていたと思うけど、マロリガンでエーテル変換施設の暴走の兆候が観測された。恐らくだけど、マナ消失が起きる。その規模が、ラキオスまで巻き込まれる程だって話だ。
……悪いけど、ここからノンストップで首都マロリガンまで向かう。それでも、ギリギリみたいだけど、なんとか止めないと」
「ユート様……あの、間違いないのですか? マロリガンがマナ消失を起こすなんて。なぜそんなことを」
知らなかったとは言え、イースペリアのマナ消失の実質的な引き金を引いてしまったエスペリアが、顔面蒼白になりながら尋ねる。
「わからない。でも、ヨーティアが言うには、多分大統領がやってるって話だ」
「自爆にしてもおかしいです。スレギト戦で負けたとはいえ、まだマロリガンの戦力はラキオスと互角以上のはずなのに」
「俺だってわからないよ。俺たちを焦らせるためのブラフかもな。でも、可能性がある以上、なんとしてでも止めないといけない。イースペリアみたいな悲劇は、絶対にゴメンだ。
みんなも、いいか?」
今や、スピリット隊の全員が悠人を隊長として信頼している。無言で神剣を掲げた。
「パパ、オルファにど〜〜んと任せて!」
「あ、ずるいずるい。ユートさま、ネリーも頑張るからね!」
「シアーも〜」
「ゆゆゆ、ユート様! 私のことも、見ていてくださいね! 頑張ります、頑張りますからっ」
「はぁ、面倒臭い」
……いや、無言なのは年長組だけだった。
「こら、ニム、面倒だとか言ってはいけません」
「そうだ、この戦いが終わったら、とびっきりのお菓子を作りましょう〜」
「ちょっとハリオン、また作りすぎないでよ」
「貴方達ねえ……」
そして、年少組に引き摺られ、年長組も騒ぎ出した。
悠人の隣で、決死の決意をしていたエスペリアが、キョトンとする。
そんな仲間の様子になにか言いたげなエスペリアに、ナナルゥが一歩前に出て、
「リラックスを」
「ん」
アセリアも頷いていた。
「はは。ハリオンのお菓子か。そりゃ楽しみだ。エスペリア、いい茶葉見繕ってくれないか」
「は、はあ。それは構いませんが、トモキ様……その」
年少組は素だったが、年長組は意図してこういう空気を作っていた。実際、今のエスペリアは気負いすぎていて、危なっかしすぎた。
友希も、ナナルゥの一言で自分も緊張していたことに気付き、あえて軽い口調で話しかける。
目を白黒させているエスペリアに、悠人はその肩を叩いた。
「よっし、みんな。いつも通り、勝って帰るぞ! エスペリア、俺達はどう動く!」
「は、はい、ええと」
悠人も勉強はしているが、戦術にかけてはまだエスペリアには届かない。
一瞬考え込んだエスペリアは、全員に見えるように地図を広げた。その目には、もう気負いは見られない。
「ニーハスを経由する、最短のルートでマロリガンに攻め込みましょう。スレギトに、多少の防衛力は残しますが、後は全員で、文字通り一丸となって。……都市の占領や撃ち漏らしは考える必要はありません。邪魔されなければスルーしましょう」
「って、大丈夫なのか? 流石に、後背の都市とか敵を放置したら、挟み撃ちの危険が……」
「ええ。しかし、これは元々片道切符の侵攻です。それに、塊となって動くなら、トモキ様の『コネクト』が有効です。
後、これは推察ですが……マロリガン側も、大統領の暴走に浮き足立っているはずですので、組織だった妨害はあまりないでしょう」
各都市の防衛戦力は、基本的に議会の下なので。とエスペリアは続ける。
「注意すべきは、大統領が直接の命令権を持っている、直下の部隊……」
「稲妻か」
「ええ」
悠人は、一つ頷き、立ち上がった。
「よし、みんな。聞いてのとおりだ。そうだな……ハリオン、ヒミカ、セリア。三人でランサから来る後続のスピリットを指揮して、スレギトを死守してくれ。
残りは、俺を先頭に出発する!
目標、首都マロリガン! 避けられる戦闘は極力避けるぞ!」
悠人の号令により、ハリオン、ヒミカ、セリア以外は走りだす。
マナ消失まで時間がない。急がないといけない。
しかし、光陰は必ず自分たちの前に立ち塞がるだろう。
近付く親友との決戦に、悠人はアセリアがくれた勇気を握り締めていた。
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