「サテト、ソロソロ始メヨウカ?」

スレインが不気味な声で言う。

「返り討ちにしちゃるわ!!」

興奮しすぎて、少し言葉が妖しいルナ。

「ハッスルしすぎて、詠唱ミスんないでよね……」

ゆっくりと剣を構えながら、ライルが言う。

「僕は援護の方に回るから」

クリスが妥当な判断を下す。彼は、どちらかというと、直接攻めるタイプでない。

「みんな、死ぬなよ!」

アレンが、その言葉と共に突っ込んでいく。ライルもそれに続く。

そして、闘いの火蓋が切って落とされた。

 

第17話「ミッションでGO(死闘編)」

 

「はあぁぁぁ!!」

ブン!!

アレンの全力斬り。上段からの振り下ろしを、スレインは指先だけで止めてしまった。

「フッ!」

そのアレンの身体を隠れ蓑にして、ライルが、横から飛び出して、突きを放つ。

だが、それすらも予想していたのか、スレインは身体に纏った黒い闘気で防いでしまう。

「『全てを地に繋ぐ大いなる大地の力よ、我が命に応え、黒き圧力となりて、大地を蝕む者に裁きの鉄槌を!!』」

クリスの詠唱が響く。それを認識すると同時に、二人は飛んでスレインの元から離れていた。

「『グラビティ・プレス!!』」

瞬間、クリスの上に現れた直径3mほどの黒い球体がスレインのいる場所に飛ぶ。

それは、通常の数十倍もの重力を発生させ、スレインの身体を締め付ける。

本来は攻撃用の魔法だが、高位魔族が相手ではせいぜい足止めにしかならない。

「ルナ!!」

クリスが言うまでもなく、ルナは詠唱に入っていた。

「『すべてを滅ぼす炎の力よ、彼の一点にて集い、その力を解放せよ!!』」

ルナの詠唱に答えて、彼女の槍に埋め込まれた宝玉が強く輝く。

それは、ルナの魔法の威力を増大させる。

「『エクスプロージョン!!』」

以前、寮の庭に小規模のクレーターさえ穿った爆発が、スレインを包む。

煙が晴れた後には、何事もなかったようにスレインが立っていた。

「やっぱりあれくらいじゃ効かないか……」

「分かってたんならもっと強力なやつを使えよな」

「そうそう。いつものように遠慮なんかしないでぶっ放してよ。僕相手にやったときはあのエクスプロージョンももっと強力だったよ」

前衛組二人が文句を言う。

「うるさい!あんた達も、本気でやりなさい!」

「わかったよ」

「了解」

渋々といった感じで、返事をする二人。

「………ずいぶんお気楽な会話だなあ。大丈夫なんだろうか?」

クリスがそう心配するのも仕方がなかった。

 

 

 

「フム、ナカナカヤルヨウダナ」

スレインが感心したように言う。

「ソロソロコチラカラモイカセテモラウゾ」

ギュオンとスレインの手に、黒い気が集中する。

「んなもんさせるかぁ!!」

気功術に長けているアレンは、それの正体を一瞬で見抜き、突進をかける。

「だりゃあ!!」

スレインの手から発射された気弾を、同じく気を込めた剣で切り裂く。そして、その勢いのまま、スレインにも特攻をかける。

その間、ライルはというと、

(シルフィ!とりあえずあの魔法かけてくれ!)

(お任せ!!)

そう言いつつ、二人とも詠唱を始める。

「『永遠にして暗闇を照らす天空の明星よ。その力、今こそ剣に集いてその証を刻め!』」

(『この世のすべてに満ちし、風の精霊らよ、汝らが盟友たる我が請い願う。我が主の身に宿りて、共に駆け、共に踊り、共に戦い給え』)

ライルの言葉で、光の精霊がライルの剣に。シルフィの言葉で、風の精霊がライルの中にそれぞれ入り込む。

「『サンシャインブレード!!』」

(『シルフィード・ブレス!!』)

力の言葉を唱えると、ライルの剣は眩く輝き、身体に風の精霊がとんでもない量で宿る。

ちなみに、シルフィの唱えた魔法は、彼女のオリジナルで、一般に知られているほとんどの補助系風精霊魔法の効果がある。

「いっくぞ〜〜!!」

(随分気の抜けたかけ声だけど……頑張れマスター!!)

何気にひどいことを言っているシルフィを無視して、ライルはアレンの加勢に言った。

(さってと……問題はあっちね。マスターとアレンだけじゃあ、あいつの相手はちょっとキツイし………ルナかクリスがあいつを倒せるだけの魔法を持ってなかったら、あれを使うことになるかも………)

ぶつぶつと、説明口調で呟きながらシルフィはライルの後を追っていく。ライルのサポートをするためだ。なにも、魔法をかけるだけがシルフィの役割だというわけではないのだ。

一方そのころ、ルナ&クリス組はというと………呑気に会話をしていた。

「で、どうする?なんか効果のありそうな魔法ある?」

「どうするって言ってもねぇ……ちなみにクリスは?」

「いや……攻撃魔法じゃさっきのグラビティ・プレスが最強だよ。やっぱりここはルナに任せるしかないと思うんだけど………」

ルナは腕を組み、う〜んと唸る。

「私の手持ちじゃ……あっ、そうだ」

「なんかあったの?」

「うん。まだ完成したばっかでろくに試してもないんだけど………いいや、この際実験ついでに使っちゃおう。うん。き〜めた」

「ちょ、ちょっと、そんないいかげんな………」

クリスが慌てて止めようとするが、そんなことは無駄だということを彼本人も分かっていた。

「そうと決まれば、いったんライル達が帰ってくるまで援護しましょう。下手すると巻き込んじゃうから」

「分かったよ………」

クリスは仕方なく、援護のための攻撃魔法を唱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「喰らえ!クロウシード流・爆斬咬!!」

アレンが、剣を地面に叩き付けると、岩石に混じって気の奔流がスレインに向けて走った。

「んがっ!これでもダメか」

さっきから、何度も攻撃しているのに、スレインはまるでダメージがない。

「ソレ」

スレインの、暗黒闘気が投げつけられる。それも、かわしやすい所に、全然威力を込めないで。

完全に遊んでいる。

「ちっ!」

かといって、まともに受けるわけにもいかず、アレンはいったん後方に飛ぶ。

気弾を放った直後の瞬間をライルが狙った。

「はぁ!」

短い息吹と共に、スレインに斬りかける。

サンシャインブレードの魔法により、切れ味が増し、また光の精霊の力を帯びたその一撃は、スレインの気の壁を斬り、本体に一撃を加えることに成功した。

「まだまだぁ!」

風の精霊により、加速されたライルは、無数の剣を放つ。全てヒットしているはずだが、スレインはびくともしない。

「フン……『スプレッドボム』」

ボンッ!

「わあぁ!?」

詠唱無しでスレインが放った魔法は、ライルをはじき飛ばす。が、衝撃自体はシルフィが緩和してくれたのでダメージはそれほどない。

(サンキュー!)

(そんなことより!ほら、次が来るわよ!!)

「『レイ・シュート』」

「わわ!!?」

ライルは、ほとんど瞬間移動並のスピードで、スレインが放った光弾の射程から逃れる。加速された彼の動きは、もう常人では、見ることが出来ないような領域まで達していた。

「「『『ファイヤーボール!!』』」」

ルナとクリスが同時に、ファイヤーボールを打ち出す。それは、空中で激突し、煙でスレインの視界を0にする。

「ライル!いったん戻ってきなさい!!」

「ルナ……!わかった!」

そして、ライルは100m5秒台のスピードで、ルナ達の所へ引き返した。

 

 

 

 

 

 

「………で、どうする?」

アレンがみんなに問いかける。

「さっきの僕の攻撃も、全然こたえた様子がないし………」

「オイ、貴様ラ、ナニヲ話シテイル」

スレインが、少しずつ近付いてくる。

「あんたはそこでストップ!!作戦会議中よ!!」

「ハ?」

とりあえず、スレインを視線で牽制しながら、ルナもライル達の円陣の中に入る。

「で、ルナ。どんな魔法があるんだって?」

アレンが小声で問いかける。

「つい一週間前ほど習得したやつでね。威力は私が使える魔法のなかでも一番だけど、ちょっと魔力をためる時間が多いから………」

「僕たちで足止めって訳だね。念のために効いておくけど、本当に効くのかな?」

「クリス。もし効かなかったら、僕たちの負けだよ」

このメンバーの中ではルナの魔法攻撃が一番破壊力が大きい。そのルナの最強呪文で効果がないなら、彼らにはどうしようもない。

「だな。よし、いっちょルナにかけるか。後のことは考えないで、全力で行くからな」

アレンが、練気法で、消耗した気を充填する。

「頼むわよみんな。あいつも私がこれを使おうとしたら止めようとするかも知れないから」

「おっけー!」

「任しとけ!」

「多分……」

ライルだけ、頼りなさげな返事であるが、彼はこういう性格なので誰も気にしない。

「作戦会議トヤラハ終ワッタノカ?」

律儀に体育座りで待っていたスレイン。彼もたいがい変な魔族である。

「まあね」

ルナが不敵に笑う。それを合図に、ライルとアレンが飛び出した。

 

 

 

 

 

「『全てを地に繋ぐ大いなる大地の力よ、我が命に応え、黒き圧力となりて、大地を蝕む者に裁きの鉄槌を!!』」

クリスのグラビティ・プレスだ。先ほどのとは違い、黒い球体が、4個ほど出現する。

「いっけー!『グラビティ・プレス!』」

4個の球体は、それぞれスレインの手足に凝縮してその動きを封じた。

「ヌ……」

はじめて、スレインに効果が見える。

「『我が力の具現、永遠に消えることなき真紅の炎よ………』」

ルナが詠唱を始める。

「ソ……ソレハ!?」

「おらおら!よそ見してる場合じゃないぜ!!」

「『炎を司りしものよ、汝が剣を取りて邪なるものに等しく終焉を!!』」

アレンが小さくジャンプして剣を振りかぶり、ライルは横に周りながら、呪文を唱える。

「クロウシード流奥義之壱!神龍雷光烈破ぁ!!」

「『サラマンダー・プレイズ!!』」

叩き付けた剣から眩いばかりの光が飛び出し、そこへさらに地面から炎が巻き上がる。

(『大地を駆け抜ける風よ。真空の牙、大気の爪………』)

さらに、シルフィの詠唱から、ライルが言葉を重ねて呪文の効力を引き継ぐ。

「(『『我が手に集いてその力を示せ!!』』)」

手に集まった風の精霊を解放。

「『ウインディ・スラッシャー!!』」

何十個もの真空の刃がスレインにめがけて解き放たれる。

「ウオオォォ!!?」

さすがに、この怒濤の攻撃に耐えかねたのか、スレインが声を荒げる。

 

 

 

 

 

(よっしゃ!いい感じだわ)

三人の予想以上の攻撃に、ルナは心の中で賞賛を送る。

(私もがんばんなきゃね)

「『全てを浄化するその力を以て………』」

ルナが無断で学園の禁止書庫からガメてきた魔法書にあった現代で知られている古代語魔法でも最強に近い……『クリムゾン・フレア』。

これならスレインを倒せるはずだった。これが効かなければ後はない。

「まだまだぁ!!奥義之参!旋風翔撃砲!!」

バカみたいに技の名前を叫ぶアレンに少し笑いが漏れる。

(……まあ、自己暗示かなんだか知んないけど威力は大きくなるみたいだし、いいか)

「『我に敵対する全ての愚かなる者共を………』」

言葉を紡ぐごとに、自分の中に力が集まっていくのを感じる。

「『………にて集い、その力を解放せよ。エクスプロージョン!!』」

すぐ前にいるクリスが、エクスプロージョンを放つ。

考えてみると彼も王子様のくせに、妙に自分らに馴染んでいる。

(やっぱりもとの性格かな……王家の人間だってのに、どうしてこうフレンドリーなのかなぁ……)

もしかしたら、死ぬかも知れないと言う状況のせいかもしれない。ルナは普段でも考えないようなことを考えていた。

「『暗き深淵へと帰し、彼の者のあるべき場所を知らしめ給え』」

ふと、視界の端に幼なじみの姿を捉える。魔法のかかった剣を持ち、常識では考えられないスピードでスレインを翻弄している。

(………いっつも自信のないようなことを言ってるけど、やっぱり強いんじゃない)

いつもいつも前にでようとせず、平凡が一番と言い、あくまで一般生徒Aを演じようとしているが、やはり彼も常識外の人間だ。

(まっ、あの運動会でそんなイメージはなくなったと思うけど)

それを知ったとき、彼はどういう顔をするだろうか?想像して、少しおかしくなる。

(ま、それを見るためにもちゃんと帰らなきゃね)

そして、最後の一小節を唱える。

「『我が名、ルナ・エルファランの名に於いて、大いなる炎よ、その力を示せ!!』」

下手に触れると吹き飛ばされそうな力を必死で制御しながら、タイミングを待つ。かわされては元も子もないのだ。魔力もほとんど限界に来ている。これを外せば後はない。自分に言い聞かせる。

(焦るんじゃないわよ、ルナ。まだ……もう少し………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……!!向こうは完成したみたいだな)

途方もなく高まる魔力を感じ、魔法の完成を悟るライル。

(じゃあ、こっちもがんばんないと………)

牽制の剣を数発振りながら、周りを見る。どうやら、アレンとクリスも気付いたようだ。

当然、スレインも気付いているはずだが、どういう訳か動きを見せない。

(なら、遠慮なく行かせてもらうだけだ!)

「『風を司る者達よ、その身を怒れる雷へと変え、邪なるものを滅せよ!!』」

まるで、示し合わせたように、一気にスレインの動きを止めようと動き出すライル達。

「うらぁ!!クロウシード流奥義之壱・神龍雷光烈破!!」

「『グラビティプレス!!』(×16)」

「『サンダーソード!!』」

アレンの気の塊が、クリスの重力球が、ライルの雷の閃光がスレインを貫く。

その攻撃を喰らって、スレインは一瞬動きを止める。

三人は同時に飛び退きながら、叫んだ。

「「「ルナ!!!!」」」

そして………

「くたばれぇ!!『クリムゾン・フレア!!!』

そして、ライル達の視界を紅に染める炎が駆けた。

---

前の話へ 戻る 次の話へ