「……なんで、二週連続で外伝なんだよ。作者」(ルーファス)
「仕方ないだろ。お盆だからいろいろ忙しくて、ストックがあったの外伝だけなんだから」(作者)
「俺はしんどいんだが……。仕方がない。そういうわけで、二週連続の外伝に付き合ってやってくれ」(ルーファス)
「一応、新キャラが出てくるぞ」(作者)
第14話「大いなる失敗、再び」
さて、アミィがローラント王国の第一王女を迎えた一時間後。男二人は地面に突っ伏していた。
「……ぐぐぐぐ……。やっぱり、儂ではお前には勝てんか」
服はずたぼろだが、実は無傷だったりするヴァイスが言う。ちなみに彼、ほとんどの攻撃を魔力の障壁で防いでいる。
「いや、やっぱりブランクがひどい。反応できても体が付いていかないことがよくあったぞ」
こっちは正真正銘ピカピカのルーファス。あれだけの爆発やらなにやらに巻き込まれたくせに、服すら少し焦げている程度である。
「……相変わらずの化け物め。パーティーの中でもお前だけは特別だったしなあ」
「……そーでもないと思うが。魔法じゃお前に勝てないし、剣技はレインに一歩譲っていたし」
レインとは、ルーファスの昔の仲間の剣士である。
「黒魔法はな。精霊魔法も入れりゃ、魔法でお前に勝てるわけがなかろう。つくづく、一般の学生に必要ない能力ばっかり持ってるな」
「……いーんだよ。ちゃんと隠しているから」
「バレたくせに」
「うぐ…」
と、まあ内容はともかく、二人が比較的平穏な会話を繰り広げている時、アミィはと言うと……
(ひ〜ん……。おじーちゃん、さっさと戻ってこんかいー!!)
サレナとか言う、自称王女様が訪ねてきてもう一時間ほど経った。
彼女はおじいちゃんに用事(多分、お城に勧誘でもするつもりなんだろう)があるらしい。
おじいちゃんは用事でいないと言ったら、帰ってくるまで待つとか言って、勝手に居座っている。
いつもの私なら、力ずくで追い返しているのだが……。どうも、この王女様には逆らいにくい。そういうわけで、お菓子でも出してもてなしているのだが、
「ちょっと、いつ帰ってくるのよ。ヴァイス様は?」
「も、もう少しで帰ってくるんじゃないかと……」
「それ、さっきも聞いた。もう少しって具体的には? あと何分くらい?」
(ひ、ひ〜ん……)
怖い。何か知らないけど、言葉の一つ一つが異様に怖い。
別に、それほど恐ろしげな声色ってわけじゃないし、鬼のような表情……なんてわけでもない。
自分でもわけがわからない恐怖に襲われ、本能的に低姿勢になってしまう。
「え、えーと……」
「……つまり、わからないわけね。それならそうと、最初から言って。ったく……」
「ご、ごめんなさい」
かといって、おじいちゃん達に連絡をとる方法は私は知らない。
あのおじいちゃんが渡してくれた水晶(おじいちゃんとルーファスの戦闘を映すやつ)なら何とかなるのかもしれないが……さすがに、あの戦闘シーンをこの人に見せるわけにはいかないだろう。
私だって、その位の気配りは出来るのだ。
「そ、そういえば、うちのおじいちゃんになんの用事なんでしょうか?」
ふと、気になって聞いてみる。まあ、これまでと同じようにウチの城で魔法の教官をしてくれ、とかだと思うけど。
でも、それを聞いたサレナ王女は、目を細めて、
「ヒ・ミ・ツ」
ぞくぅ!
いたずらっぽくそう言うサレナ王女に、ものすごい悪寒が走った。
い、いったいどんな用事なんだろう?
「ま、これ以上待っても帰ってきそうにないし、また今度の機会にするわ。いつまでも誤魔化しきれないだろうし」
「へ? 誤魔化し……?」
「ああ、気にしないで。じゃ、そういうことで」
「あ、あのちょっと……」
私の制止の声も無視して、王女はさっさと帰っていった。……いったい何だったんだ。
帰ってくれて、正直嬉しいのだが、どうも釈然としない。
あの性格からいって、そう簡単に諦めるとも思えないのだけれど。
「あ、そうそう」
サレナ王女がドアから顔を覗かせて言った。
「また来るからね」
ガチャ。
「…………」
……勘弁してよ。
その数分後。
俺たちが帰ってくると、アミィがなにやら泣きそうな顔をしていた。
「ど、どうしたんだアミィ?」
ヴァイスが心配そうに駆け寄る。
アミィは、ぼろぼろのヴァイスにすこし驚いたようだが、ぽつぽつと俺たちがいないときのことを話し始めた。
「はぁ?王女様が来たぁ?」
どうも、そういうことらしい。
「別に、王家の使いが来るのは珍しくないが……。王家の人間が直々に来るなんてのは初めてだな」
何でもないことのようにヴァイスが言う。しかし……ヴァイスも苦労しているんだな。
「それと……。何かすごく怖かった」
アミィは再び泣きそうな顔になる。この気の強いこいつがこんな表情をすると言うことは……その王女、よっぽど怖い顔でもしているんだろう。
「……違う。見た目は美人だった」
……さいでっか。
「……それにしても、この森を一人で突っ切ってくるとは……。多分、その王女かなりの使い手だろうな」
「そうか?」
ヴァイスのセリフに思わず突っ込む。この森、モンスターも弱いし、磁場が狂っているわけでもない。
攻略はそれほど難しくはないと思うのだが。
「お前の基準で言うんじゃない。少なくとも……そうだな、ヴァルハラ学園の生徒でここを単独突破できるのは十人ちょっと位だと思うぞ」
「……そうなのか?」
「ああ。って、話がずれてるな。つーことはなんだ。その王女の用って言うのは、例のごとく仕官の話か?」
ヴァイスの問いに、アミィはふるふると首を振って、
「たぶん、違う。教えてくれなかったけど、そんな感じじゃなかった」
「ふーん……」
「また来るって言ってたけど」
「なら、いい。そん時にわかるだろ。それで、ルーファス。お前、夕飯も食っていくか?」
どうやら、その王女とやらの話題はこれで終わりらしい。
「いや、今日は帰る。今日は七時から『夏休み突入おめでとうパーティー』をするんだ」
「……なんだそりゃ」
「俺もよくわからんが、クラスメイトのアルフレッドってやつが何人か集めてやるらしい。せっかく来いって誘われているんだしな」
「……でも、今はもう六時四十分なんだけど……。森抜ける前に時間過ぎちゃうよ?」
アミィが余計な心配をする。
まだまだ俺のことをわかっていないようだ。
「とばせばセントルイスまで5分で着く」
「ご…」
「じゃ、そーゆーことで」
絶句しているアミィを軽く笑いながら、俺は駆けだした。
木から木へと飛び移る。
現在、俺はヴァイスの家がある森を抜けようと疾走――ちょっと違うな、飛んでいるし――していた。
遅れてはなにを言われるかわからないので、一般人が見たらすでに霞んでるように見えるようなスピードで飛んでいく。
ヴァイスの家から出発してだいたい一分。もう数十秒で森は抜けるはず。
「……ん?」
俺の進路の少し右にずれたところで、なにやら不穏な気配がある。
放って置いても、ここはヴァイスのなわばりだからなんて事はないのだが、どうにも気になって、俺はそこに向かってみた。
近付けば近付くほど、嫌な感じがする。まあ、俺に脅威を与えるにはほど遠いが。
だいぶ接近したので、スピードを落とし、気配を断つ。木の上で嫌な感じの元凶っぽい影を観察する。
(……なんだよありゃ)
俺の眼下では目の覚めるような美人が吸血こうもり(かなり弱いが、集団で行動するモンスター)に囲まれていた。
容貌、服装などを見ても、あれがアミィの言っていたサレナ王女とやらに間違いはなさそうだが……。
アミィの話通り、この森を抜けているはずなのに、服に汚れ一つない。まあ、それは汚れ防止の魔法処理でも施しているのだろうと言うことで納得がいくが……
(どこも破れていないってのは違うよな……)
そう、汚れは防げても、枝に引っかかったりして破れたりするのを回避できるわけがない。
あの服が微弱に魔力を帯びていることから考えると、恐らく魔法繊維の一種を使った服。つーことはかなりの高位魔導師ってことになる。
魔法繊維
装着者の魔力を吸い取る特殊な繊維。魔力を吸い取ったこの繊維はかなりの防御力、強度を誇る最高の防具となるが、わずかずつとは言え常に魔力を消費し続けるので、かなりの魔力量がないとすぐに魔力を使い切ってしまう。様々な種類があり、新素材は世界各地で開発中である。
と、まあこういう素材なのだ。
「まったく……。邪魔しないでよね」
余計なことを考えていると、下ではなにやら事態が進行中である。
どうやら吸血こうもりが攻撃を仕掛けているが、彼女の魔法障壁に全部弾かれているらしい。
それよりも不思議なのは、俺が感じた嫌な気配がモンスターではなく彼女から感じられるという事実なのだが……。
(……ん? 攻撃に出るか?)
サレナ王女がどこからともなく(たぶん、服の下にでも隠していたのだろうが)鞭を取り出す。
「死になさい!!」
気合い一閃。
とても俺と同い年くらいとは思えない強烈な鞭の一撃が周りにいた吸血こうもりの三分の一くらいを一度に打ち据えた。
もともと、ものすごい弱いモンスターであるので、それだけで痙攣して地面に落ちる。
(こ、こええ)
別に、俺からするとそれほどの力量というわけではないのだが、その姿には畏怖を覚えた。
彼女はさぞかし立派な「女王様」になるに違いない。
そんなくだらないことを考えていると……
「……っ!? なに!?」
吸血こうもりに加えオーガーが三体登場。こいつらにはさすがの彼女の鞭もあんまり通用しない。
(……援護するか?)
ここから魔法で仕留めて速攻で離脱すれば俺のことを見られる心配もない。
しかし、どうにもサレナ王女はオーガーの登場にびっくりしたものの冷静な様子だ。もう少し見守っていても遅くはない。
「ふふふん。あんたらも運が悪いわねえ。あたしに襲いかかるなんて。来世では襲うのは相手を見てからにするのよ」
……訂正、かなり余裕たっぷりのご様子である。
「『我が従僕たる冥界の悪鬼共よ、主たる我が召喚に応じ、その醜悪なる姿をここに現せ』」
(……ちょっと待て)
彼女が詠唱を終えると、地面に魔法陣が描かれ、そこが魔界への入り口となる。
そこから出てきたのは、人間界のモンスターとは明らかに違う生物。
つまりは「悪魔」と呼ばれる種族である。それが二匹。俺の記憶が確かなら、レッサーデーモン……っていう種類だったと思う。
(召喚師(サモナー)かよ……。しかも悪魔系。どーりでアミィが怖がるわけだ)
悪魔……魔界に住む生物のうち、知性のないものの総称である。ちなみに、人間クラスの知能を持った生物が魔族なのだが……まあ、余談である。
なんにせよ、エルフは霊的に魔界の生物とは正反対の生命体であり、加えて全体的に悪魔などよりも脆弱な存在なので本能的恐怖を感じてしまうのだ。(もちろん、ヴァイスくらいの戦闘力を持つ者になると話は別だが)
そーゆーわけで、悪魔を召喚するサモナーにはそう言う連中の『匂い』というか、魔力がこびりついているので、ハーフエルフであるアミィが恐怖を覚えたのも無理はない。
まあ、一流のサモナーにもなるとそういう気配は完璧に消せるのだが……。そういったところから、彼女のサモナーとしての力量はそこまでとんでもないものではない。
かといって、召喚魔法は最上級に位置する魔法である。本人の努力か才能か――恐らく両方だろうが――、なんにせよ、よくもまああんな年齢でマスターできたものだとルーファスは思った。
(今回、説明が二つ目か。悪い傾向だぞ)
などと、作者に対して軽く忠告をしているうちに、下では文字通り「虐殺」が始まっていた。
なにしろ、それほど強くないとは言え、「悪魔」である。オーガーのたかだか三匹程度で相手になるはずがない。
レッサーデーモンが腕力にものをいわせて腕を振るうだけで、オーガーの頭は吹っ飛ぶ。
暗くなっていてよく見えないことに感謝だ。昼間に直視したら気分が悪くなる。
「ふう……。よし、あんた達帰って良いわよ」
その言葉を理解できたわけではないだろうが、サレナ王女が魔法を解除すると自然と二匹のレッサーデーモンは地面に溶けるように消えていく。
「ああ、ちょっと待った」
と、思ったら途中で一匹引き戻した。
……嫌な予感。時間もあまりないことだし、さっさと逃げ……
「そこに隠れている一匹! あたしから逃げおおせようなんて甘すぎるわよ!!」
そんな言葉と共に、残ったレッサーデーモンがこっちに飛びかかってきた。……気配の消し方が甘かったらしい。
身長は軽く見積もっても3m近く。赤黒い肌に牙だらけの口。そんな感じの化け物がもの凄いスピードで迫ってきた。
……生理的嫌悪がわいてくる。そのまま回れ右をして逃げりゃあよかったものを、俺はなんつーかその場のノリというか、長年染みついた戦闘本能というか……勝手に臨戦態勢をとっていた。
………リアにバレたばっかりなんだから、もう少し慎重になれよ俺。
そんな心とは裏腹に、俺の右手が迫り来るレッサーデーモンの心臓をぶち抜いていた。
(……あ、しまった)
まずい。顔を見られた。
暗がりだから、そうはっきりと見えたわけがないが……。一瞬、自分の行動に呆然としてしまった。彼女が戦闘のためあたりを『ライト』の魔法で照らしているのも致命的だ。
……逃げよ。
「ちょっと待ちなさい! ルーファス・セイムリート!!」
面倒なことは勘弁なので、さっさと逃げようとする俺を後ろで呼び止める声。
おもわず、硬直してしまった。
「……何で俺の名前を?」
木の上で硬直したまま、何とかそれだけ尋ねる。
「一応、今回ヴァイス様の家を訪問するにあたって、彼のことは大抵調べたのよ。」
「いや、そこで何で俺の名前が出てくるんだ?」
「……気になってね。あの伝説の勇者と同じ名前のあなたが。こんな森の中で会うとは思ってなかったけど……まあ、どうせいつかは顔を見に行くつもりだったしね」
……なんか、嫌な予感。
「だいたい、おかしいのよ。調べてみたけど、ローラント王国内の村じゃ、そんな目立つ名前のやつはいなかったし。いつの間にか、ヴァルハラ学園の学園長があんたの戸籍を作ってたりするし」
嫌な予感、更に増大。
「それで、私なりの結論。あんたは本物のルーファス・セイムリートである。どう? 違ってる?」
だ、大正解。
「い、いやだなあ。なにをおっしゃるうさぎさん。そ、そーんな200年以上も前の人間が、どうしてこんな所にいるわきゃありゃしませんぜ」
「どもりまくってる上に、口調が変すぎ。心配しなくても、ちゃーんと裏付けはとれてるわよ。言い訳なんていらないって」
「なんですと―――――!?」
「……あら? 本当にそうだったの?」
だ、騙された!?
「ま、大体私のレッサーデーモンがあっさりやられちゃったのを考えると、そう意外でもないかな」
その言葉を俺は呆然と聞くしかなかった。
なんか、加速度的に俺の正体を知るやつが増えているような……
俺にはもう普通の生活は送れないのだろうか?……送れないんだろうなあ。