「う〜ん………ここら辺のハズなんだが………」

俺は、ヴァイスに書いてもらった地図を片手に、セントルイスとか言うローラント王国の王都を歩いていた。

まだ、結構早い時間なので、人通りはまばらだ。

とは言っても、ヴァルハラ学園の生徒とおぼしき集団がちらほら見える。

「くそっ!雑すぎて読めん!」

解読を諦め、適当なところにいたヴァルハラ学園の生徒たちに着いていく。道がわからないのだからしょうがない。

昨日、ヴァイス邸で、食った物が残っているのか、胃が少しもたれている。

「やはり、全部食うのは無茶だったか」

あの後、風呂を借りて、ぐーすか寝て、次の朝すぐにセントルイスに出発した。幸い、ここまで歩きで1時間もかからなかったので、早速今日からヴァルハラ学園に通うことにしたのだ。すでに、学園長には念話で話を通してあるらしい。

「本当に助かったな………」

ふと、前を歩いているヴァルハラ学園の女生徒の声が聞こえた。

「(ひそひそ)あの人ずっと私達を付けてるよ………」

「(ひそひそ)鞄持ってないから、うちの生徒じゃないだろうし……」

「「ストーカー?」」

「ちっがーーう!!!」

 

第三話「パーティー結成!ルーファス、いじめられっこ」

 

あれから………例の女の子たちに、今日転入する者だと説明し、学園長室に案内してもらった。

しかし、あいつらはまだ疑いの目で見ていた。…………けっこう悲しい。

「じゃあ、あなたには2年A組に転入してもらいます」

「あっ……はい」

目の前の校長………驚いたことに、エルフだった………は俺が持ってきた紹介状を見終わって、俺の方に話しかけてきた。

見た目はそこそこ高齢なエルフだが、多分ヴァイスより大分若いはずだ。

クラスが決まっていると言うことは、ヴァイスが本当に昨日のうちに話を通していたと言うことだろう。

「ここへ向かう早々、不幸な目にあったらしいですが、元気を出してくださいね。なんと言っても“あの”ルーファス・セイムリートと同じ名前なんですから」

「はあ………」

昨日言っていた設定のことだ。確か、『辺境の村で生活していてヴァルハラ学園に憧れて王都に行こうとしたはいいが、途中の森で迷い、ヴァイスに助けられ、偶然“あの”ルーファス・セイムリートと同姓同名だったのでヴァイスがなにやら縁を感じてヴァルハラ学園に口利きしてやった』(一字一句、覚えてんなよ)…………

今思い出してもムカツク設定だ。それにしても、俺の名前の前に“あの”とか付けるのは勘弁して欲しいな。

「まあ、森で賊に学費その他の生活費全て奪われ身ぐるみはがされた後、何とか逃げたはいいが、更に魔物の尻尾をふんずけて、逃げ回っているうちに崖から落ちるとは不幸にもほどがあると思いますが…………」

かくんと、肩が落ちた。

「なんすか、それ………」

「?昨日、ヴァイスさんが言っていたことですが、なにか間違いでも?」

あのやろう!!

ちょっとでも恩を感じた俺がバカだった!!次会ったら速攻で一発ぶん殴ってやる!!

「?まあ、それはいいとして………」

急に押し黙った俺を無視して、エミリオ学園長は続けた。

「あなたには学費に加え、生活費も学園から支給されます。社会に出てから返却せねばなりませんが、これからの学園での成績如何では減額もあり得ますので頑張ってください。また、筆記用具等も盗まれたと言うことなので、一応、勉強に必要なものはすべてあなたの勉強する机の上に置いておきました。寮の部屋も一つ用意したので、授業が終わったらいったんそっちへ行って下さいね」

いたりつくせりとはこのことだ。

ヴァイスは本気で殴るところを十分の九の力で許しておいてやろう(注:あまり違わない)

「どうもありがとうございます」

「どういたしまして。………あっ、そうそう。うちの学園では、パーティー制というものを実施していますが、そこら辺は担任の先生の指示に従ってくださいね」

「パーティー制?」

聞き慣れない単語に、思わず聞き返す。

「あれ?ヴァルハラ学園を志望していたのに知らないんですか?」

ギク………

「まあいいです。説明しましょう。うちの卒業生は冒険者になる人も多いので、その予行演習として、複数人のパーティーを組ませているんです。他にも、チームワークの重要さを学んだりと言った目的があります。まだ、新しいパーティーが組まれたばかりなので、すぐにメンバーの人とも馴染めると思いますよ」

「なるほど」

確かに、それはかなり有効な制度だ。ただ、俺の場合はそう言う経験はすでに積んでいるのだが。

「じゃ、ミリア先生、後はよろしく頼みます」

と、学園長が言うと、一人の女性教師が入ってきた。

右手にはタバコ、左手には出席簿、そして、体からは酒のにおいがプンプンする。見た目は美人だが、100%ダメ人間だ。

「って!いてててて!!」

突然耳を引っ張った女性教師………学園長の話からすると、ミリア。

「なにするんですか!」

「お前、今不遜なことを考えていたろう?」

事実だけになにも言い返せない。

ふふんと、得意気に笑うと、ミリア……先生(一応、先生と呼ぶことにする)はさっさと進んでいった。

「おら!早く着いてこい!うちの生徒共にお前を紹介しなきゃいけないんだからな!」

「は、はい!」

そう言って、俺はミリア先生についていった。

 

 

 

 

 

 

「え〜、こいつはルーファス・セイムリート。今日転校してきたやつ。以上」

「って!なんだその紹介は!!」

教師に対しては丁寧な言葉遣いを心がけていたが、思わず地が出てしまう。

大体、こういう時は転校生が自分で自己紹介するもんじゃないのか?

………どよどよどよ

………なにやら、クラスのみんながひそひそと話し合っている。

「あーー、言っとくが、名前が一緒ってだけであの伝説の勇者とはなんの関連もないぞ」

あっ、そう言うことか。

「じゃあ、ルーファスの席だが、あの一番後ろの窓から2番目の席だ」

「はい」

と、その席へ向かおうとしたとき、一人の男子生徒が立ち上がった。

「先生!!その席はリアさんの隣です!!」

………何を言っているんだ?

「誰の隣だろうが、空いているんだからいいだろ」

「ダメです!大体、奪い合いになったから、リアさんの隣の席を空席にしたのはミリア先生でしょう!!」

「それはそうだが、リアの近くにしか席は空いていないし、中立のやつがその席に座った方がいいと思わんか?」

「どうせ、そいつもすぐリアさんに『やられる』に決まっています!!」

えーと………よくわからんが、つまりそのリアとか言うやつの隣に座るのが不都合なわけか?

俺の座る予定の席の隣?少し見てみると、かなりかわいい部類に入るであろう女生徒が目に入った。

状況がわかってないのか、ミリア先生と男子生徒Aの言い争いにも、全く動じてない。

ふと、その娘と目があった。

「(にこにこ)」

……………………………

なにやら、とっても嬉しそうな目で見られているんですけど………

「ほら先生!すでに、こいつ、見ほれているじゃないですか!!」

さっきからうるさいなあ………

「(ゾクゥ)」

突如、背中に悪寒が走った。

おそるおそる見てみると、クラスのほぼ全ての生徒が、俺の方を睨んでいた。

俺、なんかしたか?

「うるせぇ………それ以上、ごちゃごちゃ抜かすと………殺すぞ?」

ミリア先生のドスの聞いた声が響くと、とたんに教室中が静かになった。どうやらキレたらしい。

さっきまで威勢の良かった男子生徒も、いそいそと座っている。

「ほらルーファス、さっさと座れ」

まだ、怒りが引かないのか、殺気を隠そうともせずにミリア先生が俺をせかす。

俺も命は大事なので、早く席に付くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

HRが終わると同時に、隣の女の子がルーファスの方に振り向いた。

「こんにちは!」

むやみに明るい声であいさつをする女の子。

先ほどの男の言うとおりなら、リアというらしい。

「これから宜しくお願いしますね。えーと……ルーファスさん」

「あ、ああ。よろしく」

(どこかソフィアと通じるところがあるな、この子)

ルーファスの最初の印象はそれだった。顔が………というより、性格が。

「私はリア・セイクリッドって言います。リアって呼んで下さいね」

なにがそんなに嬉しいのか、本当に嬉しそうな笑顔だ。

「ああ……わかった………リア」

そう呼んだとき、さっき立ち上がっていたやつを始め、ルーファスの声が聞こえたらしいクラスメイトは全員ルーファスを睨んだ。

言うまでもなく、敵意がむんむんとこもっている。

(なんなんだ、いったい………)

モンスターから敵意を向けられることは慣れているルーファスだが、理由もわからず、大勢の人間に殺気をとばされるというのは初めての経験だ。

「私、このクラスになってから、お隣さんっていなかったのでとっても嬉しいです」

ニコニコと罪のない顔だが、この状況に気付いてないのだろうか?

すでに、ルーファスは生きた心地がしなかった。

(コンコン)

隣の席(リアとは逆方向)から腕が伸びてきて、ルーファスの机を叩いた。

「ん?」

ルーファスがそちらを見てみると、いやに軽い雰囲気の男が、にやにや笑っていた。

「よう。俺はアルフレッドっていうんだ。よろしくな。いや〜、ルーファスだっけ?転入早々とんでもないことになったなあ」

自分のペースで話を進める男である。ルーファスに口を挟む隙も与えない。

「……ああ、よろしく。で、一つ聞きたいんだけど、とんでもない事ってなんだ?さっきから向けられてる、このもの凄い視線と関係あるのか?」

相変わらず、リアとアルフレッド以外のクラスメイトから向けられる殺気に少し怯えながらルーファスは尋ねた。

「ああ………それはな………」

アルフレッドはちらりとリアの方を見て、こちらに注意を払ってないことを確認してから小声で話しだした。

「お前がその席に座ったからだ」

「はあ?」

思わず惚けた声を出してしまう。

「なんだそりゃ……」

正直な感想だった。どうして、この席に座ったくらいであんなに睨まれなくてはいけないのだ。

「リアはな、このクラスのアイドル的存在なんだ」

「はあ………」

まあ、これにはそう驚かなかった。

実際、リアの容姿は子供っぽいところがあるもののかなり整っているし、性格も少なくとも人に嫌われるようなものではない。

「で、それが?」

「まあ最後まで聞けって。一年の頃からそんな感じだったんだが、今年このクラスになってリアの隣の席の奪い合いが起こったんだ。男子も女子も血で血で洗う争いが」

話半分だとしても恐ろしい話だ。

「で、これはいかんと言うことで、ミリア先生が席を決めるくじに細工して、リアの席の近くには誰も来ないようにしたんだ」

そういえば、見てみると、リアの前の席も空席だ。

「その後、クラスの中で条約が結ばれて、リアに必要以上近付いたら死の制裁って事に………」

「ちょっと待て!!」

クラスメイトの手前、小声で怒鳴るという器用なことをするルーファス。

「なんなんだそりゃ!そりゃかわいい娘だと思うけど、それはないんじゃないか!?」

「んな事言ってもなあ………実際、俺とお前以外のクラスの連中はそろいもそろってリアに『落とされてる』しなあ………なんか、そういうフェロモンでもだしてんのかなあ?ま、死にたくなけりゃ下手にリアと仲良くしないことだな。ただでさえ、リアの隣の席をGETしたことで睨まれているんだから」

比喩表現じゃなくて……と、アルフレッドは付け加える。

「じゃあ、パーティーは?この学園にはパーティー制度ってあるんだろ?仲良くしちゃいけないって………」

「ああ、それは基本的に学園側が決めるんだが、リアと同じパーティーになりたいって校長に直談判までするやつが後を絶たないんで、リアだけ、今のところ宙ぶらりんだ」

ルーファスは絶句する。

「………ふと思ったんだが、それってリア本人は気付いてんのか?」

「気付いてないだろうな。あの娘はいろんな意味でにぶいから」

「じゃあ、その条約とやらでクラスで仲良くしてくれる人はいないってか………それはちょっと可哀相だろ」

ルーファスの脳裏に自分が隣に来て、とても嬉しそうにしていたリアの顔が浮かんだ。

いくらなんでも、それは喜びすぎだろうと思ったが、そう言う事情なら納得がいく。

それに、いっちゃ悪いが、確かににぶそうだった。とても、クラスメイトの暗黙の了解を理解しているようには見えない。

「俺もそう思ったけどね、なんせ、ちょっと世間話したくらいで放課後クラス全員から尋問だってんだから。さすがに話しかけられなくてな」

いくら何でもひどすぎる。

少し話しただけだが、リアが周りと仲良くしたがっていると言うことはルーファスにはよくわかった。

クラスの連中は悪意ないことなのだろうが………

「っと……一時間目はミリア先生の魔法学だったな。もう来たみたいだ。じゃあ、また後でな」

そして、もやもやした思いを抱えたまま、ルーファス初めての授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、だ………授業を始める前に一つ言っておきたいことがある」

教卓の上に教科書と出席簿をおいてからミリアがそう切り出した。

「このクラスには二人ほど、パーティーが決まっていないやつがいる」

言うまでもない、ルーファスとリアだ。

「てめえらがごちゃごちゃ言うから決まらなかったんだが、私が今決めた。人数的に少ないが、ルーファスとリアでパーティーを組んでもらう」

一瞬、静寂が起こった。

次の瞬間…………

ブーブーブーーー!!

クラス中からブーイングの嵐。

「おいこら!静かに………」

今度ばかりはミリアの声もかき消されていた。

 

 

で、こちらはルーファスの席。

「わあ……やっと私のも決まったんですね。じゃあ、改めてよろしくお願いします。ルーファスさん」

と、にこやかにルーファスの方を向くリア。

「おう、よろしくな」

アルフレッドの言っていたことは気になるが、何とかなるだろうと根拠のない自信の元、ルーファスは返事をした。

「でも、みんなもこんなに喜んでくれて、いい人ばかりですね」

(おいおいおい………)

どこから見ても、喜んでいるようには見えないのだが………

(やっぱり、どこかずれてるな)

200年も眠っていたルーファスも、世間様とは相当ずれているが、完璧に棚に上げている。

「あっ、そういえば………」

思いついたようにリアが声を上げた。

………どうでもいいが、まわりが怒鳴り声でうるさい中、この二人はどうやって会話しているのだろうか?

答えはルーファスが魔法を使っているのである。どうせ気付かないだろうと、決めつけたルーファスもルーファスだが、本当に気付かないリアもリアである。

「ん?なんだ?」

「パーティーの名前とかどうしましょう?」

「そんなのいるのか?」

「別に絶対ってわけじゃないですけどね。学園の行事とかで呼ばれるわけじゃないし。でもあった方がいいじゃないですか。この学園のパーティーの半分くらいは名前、付けてますよ」

ふむ……と、ルーファスは考える。

(まあ、どっちでもいいんだが………)

きらきらと目を輝かせているリアを見ると、どうにも名前を付けたいと言わなければいけないようだ。

「まあ、ないよりはある方がいいな。お前、決めてくれるか?」

「はい!」

こうして、クラス全員(2名を除く)を敵に回し、ルーファスの学園生活は幕を開けた。

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