「ふーむ」

 幻想郷の人気のないとある森の一角。
 ふと思いついたことを試そうと、僕は試行錯誤をしていた。

「ええと……こう、全身の毛穴から霊力を出す感じで……フンッ!」

 ぼっ、と身体の全周囲に霊弾が出た。

 それを掻き消しながら、うーん、と僕は唸る。

「こうじゃないんだよなあ。こう、留める感じで……」

 そ〜、と慎重に霊力を操作する。……今度は、身体に触れる程近くに霊弾が出た。

「あた! あいたたたた!?」

 攻性の霊力は、触れれば勿論自分にもダメージが来る。慌てて消した。
 魔法なら自分には影響がないよう調整もできるんだが……あ、魔法でやってみるか?

 ……いや、内容はくだらん割に、時間がかかりそうだからやめとこ。

 で、僕がなにをしようとしているか、というとだ。
 身体の周りにオーラを纏えないかと、頑張っているのだ。

 ……あれだ、超サイ◯人的な。最近、映画借りて、久々に漫画必殺技シリーズの開発熱が湧いてきたわけである。

「あー、なんで上手く行かないんだろ」

 しかし、挑戦は難航していた。
 そもそも、あのオーラ的なものって、どうすりゃいいんだろう。可視できる霊力を全身から立ち上らせる……ってやろうと思ったら、もう癖になっちゃってるのか霊弾にしかならねぇし。

 僕の知るところでは、魔理沙辺りなんかは全身に魔力を纏って突っ込む『ブレイジングスター』とか使ってるが、僕がやりたいのはああいうのじゃない。こう、コスプレ的に、見た目だけ再現できれば満足なんだけど。
 本当にあれを再現するなら、髪の毛も金に染めて逆立たせなきゃいけないが――そして、僕は過去の無駄な研究の成果により『眼の色が変わる代わりに失明する』魔眼が使えるんだから、応用で髪の毛の色弄るくらいはできそうだが……毛根に悪そうなので、そっちは考えていない。ハゲになるリスクは極力減らしたいのである。

「うーん、見た目だけ、こう、見掛け倒しな霊力を……霊弾の威力の調整は出来るんだから、よわーく、よわーく出すイメージ……」

 思いつきの割には、三時間も時間をかける羽目になったが。

 その甲斐あって、その日を境に、僕は『ドラゴン◯ールっぽいオーラを噴出する』技術を修めたのである。





 ――こんな思いつきの練習がまさか役に立つとは、この時の僕は全然想像もしていなかった。













「良也くん、今ちょっといいかな」
「あれ? 慧音さん。どうしたんですか。生憎ですが、今日の菓子はカンバンですよ」
「いや、そっちじゃない。まあ、少し付き合って欲しいんだ。大丈夫かい?」

 はあ、と、僕は菓子店の店じまい中にやって来た慧音さんに頷く。
 荷物をまとめて『倉庫』に放り込み、慧音さんに付いて行った。

 案内されたのは、喫茶店。ま、まさかの女教師とのワクワクデートか!? ……なんて妄想は心の片隅だけに留めておいて、

「悪いね、時間を取らせて。お詫びというわけじゃないが、ここの払いは私が持とう」
「いや、いいですよ。別に」
「まあまあ。ほら、好きなものを頼むと良い」

 そこまで言うのならば、と僕はお言葉に甘える事にして、抹茶と草餅を頼む。慧音さんは番茶とみたらし団子を頼んだ。

「それで、何かご用でしょうか? お菓子の注文なら、別にメモでも渡してもらえれば」
「ああ、いや。そうじゃなくてだね。少し相談したいことがあるんだ」

 ……慧音さんが僕に相談など、珍しい。

「まあ、お役に立てるんでしたら」
「ありがとう。実は、近々、子供向けの劇をすることになっているんだが……」
「劇……ですか」
「ああ。例年やっているんだけどね。娯楽と……まあ、物語の中で道徳を培ってもらえればと、そういう趣旨だ。演じるのは私と、里の人間の有志になる」

 ほうほう。まあ、普通の学校行事みたいなイメージだな。慧音さんの寺子屋でもそういうのやってるんだ。

「……もしかして、人が足りないから手伝ってくれとか、そういう話ですか? いや、別に日程が合えば構いませんけど」
「出来るならお願いしたいところだけど、それとはちょっと違う。……その」

 慧音さんは言いにくそうにまごつく。
 しかし、しばらくすると決心したのか、口を開いた。

「……この劇、近年は子供たちの評判が悪いんだよ。つまらない、退屈、外で遊ぶほうがマシ、と、散々な言われようなんだ」
「けしからん連中ですね」

 里の子供連中は、僕もよく知っている。あいつら、劇の内容はともあれ、こんな美人さんをじっくり見物できる機会を無碍にするなど、もったいないおばけが出るぞ。演劇というからには大きく動くだろうし、きっとあの大きめの胸もバインバインと揺れるに違いない。
 ククク……大人になってから後悔するが良い。……え? 女の子? ああ、まあ退屈に思うのも仕方ないんじゃないスかね。

「良也くん。君、今変なことを考えただろう」
「そんなことはありません。……ああ、注文したのが来るみたいですよ」

 仲居さんが丁度茶と菓子を運んできてくれたので、話の矛先を逸らすことに成功する。

「……まあ、思うだけなら私は構わないけどさ。一応、女性の立場から助言しておくと、そういうあからさまな視線はこちらも気付くし、大抵の人は嫌だと感じるよ。いい加減、身を固める歳だろう? 伴侶を得たいのなら、自重した方がいい」
「う゛!」

 ものっそい直球で正論をぶつけられた! これなら拳骨や弾幕の一つでも飛んできたほうがマシだ。心が痛い。
 しかし、身を固める……結婚はまだ早い、早いよ。外の世界の平均結婚年齢まではまだまだ時間があるから。うん、大丈夫大丈夫。僕、まだ男の子だから。

「はぁ……ここのお茶、美味しいですねえ」
「そういうところは、君の悪い癖だね……まあ、私は別にお説教をする立場でもないから、これ以上は言わないけど」

 うう……

「ええと、それで、話を戻しますけど、劇がどうしましたか?」
「ああ、そうだね。要は、目新しく、面白い劇をしたいから、外の世界の台本でも持ってきてくれないかと、そういう相談だよ」

 あー、成る程。

「一応、幾つか流れてきてる外の本とか、東風谷に相談とかは?」
「演劇向けの本は残念ながら見当たらなかった。早苗さんには相談したけど……子供向けの劇と言えば、戦隊ヒーローですよ! と変な方向に発奮して」
「せ、戦隊ヒーロー?」
「なんか、幻想戦隊ダンマクファイブとか言ってたけど」
「……ダンマクレッドは霊夢ですかね」

 グリーンが東風谷、ブラックが魔理沙、ホワイトが咲夜さん辺りで、妖夢も……イメージ的にホワイトだな。
 イカン、ホワイトとホワイトでホワイトがダブってしまった。

「まあ、わかりやすい勧善懲悪の話で、話自体は悪くなかったんだけどね。劇で弾幕ごっこは無理だから却下したよ。会場が壊れる」
「子供が、あれが正義だと勘違いしても困りますしね……」

 悪の怪人には弾幕で制裁――割と幻想郷の現実を表している気がするが、あまりにも現実過ぎて劇でやる意味が無い。

「で、どうだろう。なにか、いい話に心当たりはないかい?」
「うーん」

 つってもなあ。定番の話なんて、昔っからあるやつだし、そのくらいは慧音さんも検討しただろう。
 最近出た物語を持ってこようにも、こっちだと話が伝わらない可能性が高い。電話とかのちょっとした小道具も、前提知識がないと意味がわからないだろうし。

 というかそもそも……子供がつまらないと感じるのは、別に脚本の問題じゃない気がするんだよなあ。
 どんだけ面白い物語でも、子供は話の内容より、見た目の派手さとか格好良さがないと心惹かれないものだ。

 演劇で弾幕は馬鹿――もとい、少々突飛すぎる発想だけど、そういう演出を組み込むこと事態は、まあ悪くないアイディアなんじゃないだろうか。

「……と、僕は思うんですけど、どうでしょうか」
「ふむ、一理あるな」

 とは言え、と慧音さんは嘆息する。

「準備は、仕事の片手間でやらないといけないからなあ。演出用の大道具を作ろうにも、時間も、予算もない。私がハクタクに変身してもいいが、私だけがやってもね」
「あれ? 満月の日なんですか、劇の日って」
「いや。少々疲れるし、ほとんど妖怪としての力は振るえないが、一応満月が出てなくても変身はできるよ。ほぼ見た目だけね」

 ほう、見た目だけ……見掛け倒しな、技……

「あ」
「うん? どうかしたかい」
「ああいえ、ちょっと。僕も、そういう宴会芸って言ったらあれですけど、特に攻撃力はなくて、見た目だけの技なら、実は習得してたり……」
「ほう」

 あれは、子供にはウケるだろう。子供の頃、夢中になってた僕が言うんだから間違いない。
 まあ、かめ◯め波とか出すわけにはいかないが、オーラだけでも間違いなく格好良い。……いや、それを出している僕自身の容姿の問題はあるけれども。

「こう、霊力の光をですね、全身から噴出させるという技なんですが。こんな感じに」

 喫茶店の中で全身やるわけにはいかないので、片腕だけで再現してみせる。

「ちょっと触っても?」
「どうぞ」

 本当になにも影響がないのか、慧音さんがオーラを出してる僕の手に触れて確認する。……あ、冷たくてやわっこい。役得である。

「なんか生温い以外は、衝撃とかも全然ないね」
「苦労しましたので」
「……宴会芸か何かかい?」

 いや、うん。本当、宴会芸以外には使えそうにないもので、なぜ僕はあんなムダな時間を……と思わなくもないが、出来ることが増えたのはいいことだ……よな。

「でも、確かにこれを全身から出せるなら、見た目としては悪くなさそうだ。神仏の加護を受けて光を放つ僧侶が、悪い妖怪を懲らしめる……なんていいかもね。他のみんなにも話してみるけど、是非出演してもらう方向で、考えてもらっていいかな」
「まあ、自分で言い出しましたし、いいですよ。演技は期待しないで欲しいですが」
「その点は大丈夫。どうせみんな素人さ。君はみんなと一緒に練習する時間もあまりないだろうから、台詞だけ覚えていてくれればそれでいい」

 それはありがたい。演劇なんて、高校の頃の文化祭でセリフ無しのモブ役で出たっきりだし。

「しかし、今更ですが、正義の僧侶なんて役だったら聖さんとかは? 僕くらいの芸なら、すぐ再現してくれそうですが」

 あの人なら金も取らないだろうし。

「……子供相手の行事で、特定の宗教の権益を噛ませると色々と面倒なことになるんだ」

 檀家とか、と疲れたように呟く慧音さんは、なんか苦労をしているようであった。世知辛え。





























 そうして、劇の当日。
 練習はしたし、直前のリハでは一応台詞は間違えなかったが……公民館に集まった子供たちの前に出るのは、やはり緊張をする。

「あれ、りょーやだ」
「ホントだ」
「良也ー、お菓子頂戴ー」

 ……で、集まった子供たちはこれだ。
 小さい子たちには飴なんかを配ったりしているため、僕=お菓子の等号が彼らの中に刻まれているらしい。

「こらっ! ちゃんと静かにしていろ。心配しなくても、終わったら私が作ったあんころ餅を配る予定だ」

 やったー! と子供らは大はしゃぎである。
 同時に、『さっさと終わらせろよ』オーラが連中に漂い始めた。

 ……ぐっ、小学生の頃の社会科見学とか、そういやこんな雰囲気だったな!

 早くも、微妙な失敗の予感に苛まれながら、僕は舞台袖に向かう。
 そこには既に、里の有志の皆さんがスタンバイしていた。僕も急いで、衣装の僧服に着替える。

 開始時間になると、慧音さんが公民館に即席で作られたステージに立つ。

「えー、こほん。静かに」

 と、慧音さんが咳払いを一つして呼びかけると、子供たちのざわめきは徐々に収まっていく。
 完全に静かになったところで、慧音さんが再び口を開いた。

「第二十二回こども演劇会をこれより開催する。演目は、今年はオリジナルだ。みんな、楽しんでくれ」

 はーい、とどこか気怠げな子供たちの返事。
 ……まぁいい、と慧音さんは舞台袖に引っ込んだ。

「どうも、お疲れ様です」
「ああ。劇本編の方も、頑張らないと」

 はい、と頷いた辺りでナレーションが始まる。
 働き盛りの娘さんだが、遠くまでよく通る綺麗な声をしているため、語り手に抜擢されたのだ。

『今は昔、名前もない小さな村では、とある妖怪の被害に悩まされていました』

 観客がいる状態では緊張しているのか、少し声が上擦っている。
 でも、そのくらいは気にする者はいない。村人役(実際村人だが)のみんなが舞台に出て行き、困った困ったとそれぞれ話し合う。

 少し間を置いてから、僕は早足にならないよう、気をつけて舞台に歩み出る。……僧衣、動きにくい。

『そこへ、旅の途中の徳の高いお坊様が訪れ、尋ねたのでした』
「やあ、皆さん。お困りのようですが、いかがなされましたかな」

 ……よし、台詞は忘れていない。

 普段の僕の様子を知っている子供たちは、何人かがクスクスと小さな笑い声を漏らすが、このくらいで動じていては職場の全校集会で前に出ることなど出来ない。あっちは数百人、こっちはたかが三十人足らずだ。

 そうして、やれ作物や若い娘を要求するだの、逆らったり朝廷に言いつけたら殺すだの、テンプレ的悪者妖怪ムーブの説明を受け、僕は大きく頷く。

「よし、そういうことならばこの私がその妖怪を懲らしめてあげましょう」

 おお、ありがとうごぜーます御坊様、とやや大げさなお礼を受けて、僕は歩き出す。
 ここで一旦場面転換。

 この後は、慧音さん扮する妖怪を退治して、村人に感謝されて終了。単純過ぎるストーリーラインだが、これ以上複雑にすると小学校低学年な年齢のみんなには付いてこれない。後、素人の脚本の粗が目立ちまくる。
 僧侶の道中に試練を置こうだの、桃太郎よろしくお供の動物を付けようだのという案もあったが、尺と人数の関係でオミットされた。

 慧音さんを妖怪に取り憑かれたヒロインにしてラストは僧侶との結婚式にしようという僕の計画も、僧侶は妻帯禁止だボケ、と却下されたし。
 ちぇっ。今は普通に結婚できるのに。

 閑話休題。

 しばらくナレーションと、僕が妖怪は許せん! と決意を新たにするシーンなどを挟み、僕と慧音さんが対峙する。
 見た目だけとは言え、ハクタク状態となった慧音さんは、迫力満点だ。

「愚かな人間め! その血肉を食らってやろう。坊主の肝は旨いと聞く。生きたまま引きずり出してやる」

 ……怖いよ。めちゃくちゃ真に迫ってる。

 ま、まあ、内心僕はマジビビリしながらも、お経を唱えて対抗するわけだが、

「効かん、効かんわ!」

 それを物ともせず接近してきた慧音さんに首根っこを掴まれ、吊り上げられる。
 ……なお、慧音さんは別に力は込めておらず、これは僕が自分で飛んでいるだけである。

「ぐ、う!」

 必死でもがいた(という演技の)結果、僕は逃れることに成功するが、絶体絶命のピンチである。

 流石に観客の子供たちも少し息を呑んでいる。……いや、これはストーリーとか僕の演技がどうこうじゃなく、慧音さんの動きが恐ろしすぎるためだ。実際に妖怪に喰われる危険のある幻想用の人間は、恐怖を呼び起こされるのだろう。
 ……慧音さん、昔とった杵柄……とかじゃないよね?

 い、いや、余計な考察は置いておこう。とにかく、ここからがクライマックスシーンだ。

 僕はすっくと立ち上がり、高らかに叫んだ。

「おお、天照大神、大日如来、三清道祖よ、我に悪しき妖怪を打ち祓う力を与え給え!」

 神道、仏教、道教の各宗教に配慮した台詞とともに、僕は力を込めてオーラを噴出させる。
 ……うん、僧衣を着といて馬鹿馬鹿しいとは思うのだが、どれかの宗教を蔑ろにしたら、どこからか文句が来るかもしれないのだ。例えばどっかの博麗大結界の側に位置する神社とか。

 面子というものはほとほと厄介な代物である。

 後、妖怪退治なら武神を呼ぶべきじゃね? とも思うが、こういうのはわかりやすさ最優先だ。知名度万歳。

『おおー』
「え、なに、あれ」
「……かっけー、りょーやのくせに」
「フッ、やるな」

 好き勝手言ってるな。でも、見た目のインパクトは大成功を収めたようだ。
 全身から炎のように吹き出す青色のオーラに、慧音さんがたじろいだ演技をする。

「お、おのれぇ! その程度でこの私が怯むとでも思うたか!」
「ふっ、ならばこの草薙の剣の霊威を見るが良い!」

 と、そこで次なる小道具。僕手持ちの草薙の剣レプリカを『倉庫』から取り出す。

 旅の僧侶がなんで草薙の剣なんか持っているんだって? 知るか。その辺の設定はガバガバだ。なんか凄い剣だってことがわかればいいんだよ。

 ……実際、なんでか半妖の店主が本物持ってるし、一介の高校教師が形代持ってて演劇の小道具に使ってるしね。旅の僧侶の手にあるのは、それに比べれば別に大した話でもない気がする。

「さあ、悪しき妖怪よ、退散せよ!」

 ぶるん、と慧音さんの前に空振りさせる。当時に、全身から噴き出るオーラをちょっと調節して、こう、斬撃っぽく光だけ飛ばす。実は、これの練習に一番時間がかかった。

「ぎゃぁあああああ!」

 そして、村を脅かす悪しき妖怪は無事退治。
 しかも、徳の高い僧侶によって心を入れ替えた妖怪は、その後、その村の守護者として暮らすことになりました。

 めでたしめでたし。















 劇が終わった後。子供たちはあんころ餅を貪り食って、帰っていった。
 帰り際、劇中の技を教えて! と言われたが、適当にごまかした。何人か霊力持ちもいるが、まずは自衛出来る技が先決だ。

 んで、今は演劇に協力した大人組で打ち上げである。

「あ〜〜、予想以上に疲れましたね」
「ふふ、お疲れ様。ほら、酌をしてあげよう」
「おっと、こりゃどうも」

 慧音さんの酌を受けて、ぐい、っと一息に清酒を飲み干す。

 疲れた身体にそれはよく染みた。
 大して長くもなく、拙い劇だったが、それでも普段慣れないことをすると疲れる。

「慧音さんもお酒、どうぞ」
「おっと、ありがとう」

 慧音さんは実に美味しそうに酒を呑む。この人も、結構な達成感があったのだろう。

「まあ、例年に比べれば、今年は盛り上がった。来年は、大人の霊力持ちをもう何人か引き込んで、もうちょっと演出に凝ったらもっと人気になるかな」
「参加してくれますかね?」

 霊力持ちは基本的に里においては実力者である。修行に明け暮れたり、妖精を懲らしめたり、僕ほど暇している人は少ない。

「自分の能力をこういう娯楽に使えるというのも、中々悪くないものさ。それに、無理に苦しい修業をするより、楽しいことを目的にしたほうが修行も捗る」
「そういうもんですかねえ」
「君はほぼ趣味だからなあ。実感しにくいかもしれないけど」

 う、否定出来ない。なにがなんでも強くなろうとしていないし、一番時間がかかる霊力の増強とかあんまりいらなかったから、やりたいことやってきた感じだし。

「ま、来年も良ければ手伝ってくれると嬉しい」
「それはまあ、日程が合えば」
「それで十分さ」

 しばし、慧音さんと杯を交わす。

 なお、この時の約束は実現することとなり、次の年は僕は演出係として色々と奔走することになるのだが。
 来年の話をすると鬼が笑うので、ここまでにしておくことにする。



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