攻撃してきた妖精の弾幕を、草薙で払い、弾幕が掻き消えるのを見て『おお〜』と僕は感激の声を上げた。

「うーむ、なかなか強し」

 攻撃は、自前の弾幕で。
 どうにも、この剣は攻撃には使えないっぽい。

 神奈子さんが言うには、このレプリカの力は『脅威を払うこと』であるらしい。日本武尊が野火攻めをこの剣で払った古事の再現……だそうだ。なので、特に火属性に対しては強力な対抗手段となり得る……と言っていた。
 どうも、本物に備わっているそれ以外の能力は、弱すぎて使い物になりそうないとのこと。
 神様ってスゴイ。色んなことを知っている。

 まあ、要するに。生き残ること第一な僕にとっては、最適な力だったってことだ。

「これで怖いもんなしだなっ!」

 気が大きくなる。
 今までは、虐げられるだけだった僕も、この剣さえあれば……うん、なんとか逃げるくらいはできそうだ。

 ルンルン気分で山を降り、里に向かう。

 途中、湖の上を通り、そういえばここら辺はチルノの縄張り、僕のニューウェポンを見せびらかそうか、とキョロキョロすると、

「……なんだあれ」

 件のチルノと、なにやら青っぽい衣装を着た巫女が取っ組み合いをしているのを発見した。

 優勢なのはもちろん巫女――東風谷の方で、キックキックパンチ払い棒スペルカード。
 うわ、妖精相手に大人げねぇ〜、という感想を抱きつつ、そのまま通り過ぎるのもなんなので、二人の元へ針路を変える。

「――これでトドメです!」
「うわぁああ〜〜〜」

 情けない悲鳴を上げながら、東風谷のキックを受けたチルノがワンバウンドツーバウンド。
 スリーバウンド目はせず、そのまま地面に突っ伏して、動く気配を見せなかった。……逝ったか?

「ふっ、勝ち!」
「いや、なにやってんだ、東風谷」

 一人勝ち名乗りを上げる東風谷に、ぼそっとツッコミを入れる。
 東風谷は、今初めて気付いたらしく、『あら』と声を漏らして振り向いた。

「こんにちは、先生。どうしたんです、こんなところで?」
「単なる通りすがり。で、なんでこんなところでバトってるんだ、お前は」
「いえ、少々巨大ロ……大きな動く人影の調査をしておりまして。この妖精が見かけたらしいので、尋問を」

 尋問? ……僕の狭い知識では、あれは尋問という行為ではないと思うのだが。

「で、巨大ロボがどうしたって?」
「う゛っ。これは、言葉の綾で……」
「神奈子さんが思い切り言っていたけど。『早苗は巨大ロボを探しに行った』って」

 守矢神社に寄っていたんですか……と、東風谷はげんなりして、『はい』と認めた。

「先生は見ませんでしたか? 霧の中にいる大きな巨大な人影。アレは、動きといい大きさといい、間違いなく巨大ロボ」
「……何メートルくらい?」
「百メートルというところでしょうか」

 でかっ。

「……そりゃ、ガン○ム系じゃないな。百メートル級のロボットというと」
「イ○オンとかですかね」
「だからなんでそんな古いんだ」

 スーパーロボッ○大戦でもやったか?
 しかし、そんな巨大な妖怪だかロボだかがいたら、話にくらい聞きそうだけど……最近発生した妖怪か? 幻影かなにかならいいけど、本当にそれだけのデカさの妖怪がいたらヤバくないか?

「あ、先生もお詳しいんですね、ロボット」
「……人が珍しく真面目に考えているのに」

 まあ、そんなこと僕が気にするこっちゃないけどさ。なにかあったら、この目の前の巫女か、もしくはもう一人の巫女か、はたまた魔法の森の魔法使い辺りがなんとかするだろう。
 と、いうわけで、

「詳しいって程じゃないけど。まあ、オトコノコですから。ロボット大好き。リアル系よりスーパー系」
「ですよねー。やっぱり、核融合炉なんかより、勇気とか愛とか根性で動くロボットがいいです」
「今、神奈子さんの事業を全面否定したからな、東風谷」

 なんのことです? と首を傾げる東風谷。
 いや、知っているだろ。神奈子さんが地底に核融合炉作ったの。まあ、ロボットに搭載できるような小型のやつじゃないけどさ。

「でも、東風谷の世代なら最近のガ○ダムも好きなんじゃないか? ほら、女子に人気のあったSE○Dとか」

 言うと、東風谷はめっちゃ蔑むような目で僕を見下してきた。
 ……うぉおう。こんな目も出来たんだな。

「そうですか。先生はああいうのが好きなんですね」
「いやいやいや、途中で切った。最初はそれなりに楽しんだけどな」

 などと、何故か幻想の郷の一角で、僕と東風谷は大いにSF的な話で盛り上がった。

 話を進めるに、どうにも東風谷の趣味は大分男っぽいようだった。女性が好みそうなお耽美なキャラより、一にも二にも熱血がいいらしい。ホモが嫌いな女子はいないらしいのに。
 J○M最高! というのは全力で同意だけれども。

「ん〜〜〜、あ! なに楽しそうな話してんの!? あたいも混ぜてっ」
「チルノ、起きたのか」

 東風谷との話が大分盛り上がったところで、コテンパンにやられて死んでいたチルノが顔を上げて突っ込んできた。

「あ、そうそう。貴方、だいだらぼっちを見たって言っていたわね」
「……〜〜♪ 〜♪」

 東風谷の指摘に、チルノは明後日の方向を向いて口笛を吹いて誤魔化そうとする。
 ……それで誤魔化そうって、ナメてんのか。

「チルノ?」
「な、なにさ良也! だいだらぼっちはあたいが手懐けるんだ! あっちの方にいたとか、絶対言わないよっ」

 と、律儀に指差してまで教えてくれるチルノ。ありがとう、馬鹿。

「そうか、あっちか。協力感謝する」
「いや、あっちじゃなくて。〜〜〜ううう!」

 言い繕おうとして、言葉が思い浮かばなかったらしく、チルノは思い切り地団太を踏む。
 まあ、その、なんだ。素直な子って(扱いやすいから)僕は好きだぞ?

「あっちって……紅魔館の方? はて、確かにあそこは幻想郷のパワースポットの一つだけど」
「行ってみます」
「あ、ちょっと待て、僕も行く。ロボットには僕も興味がある」
「そうですか? 構いませんが」

 うむ、もし本当に巨大ロボットがこの幻想郷にあるって言うなら、是非とも乗ってみたい。そんでもって巨悪(スキマ辺り)と戦ってみるのだ。

「う〜〜、ふん、あたいはあたいで、だいだらぼっちを探しに行くもんねーっ!」

 飛び上がった直後、そんなチルノの捨て台詞が聞こえた。





















 飛んでいる最中、東風谷がふと尋ねてきた。

「そういえば、先生。随分物騒なものを持っているんですね」
「あ、この剣か? いいだろう」

 自慢するため、鞘から抜いて刀身を見せ付ける。しかし、東風谷は今ひとつピンと来ていないようで、首を傾げた。

「刃物は包丁以外は不如意ですけど。しかし、また随分と古い形の剣ですね。モノ自体は新しいみたいですが」
「ふ、ふ。聞いて驚け。これは、森近さん作の、草薙の剣のレプリカだっ!」

 言って、さぞかし憧れの目で見るだろう――という僕の目論見は儚く潰え、なにやら東風谷は可哀相なものを見る目で僕を見た。

「先生……。もういい大人なんですから」
「あれ!? そういう反応!? さっきまでロボット談義していたじゃん!」
「あれは浪漫です。しかし、先生のそれは……なんていうのか、玩具の剣を振り回して喜んでいる子供みたいで」

 巨大ロボも大して変わらない気がするんですがこれいかにっ!?

「しかも草薙の剣って……。また、そんなご大層な神剣の名前を借りて。ゲームでも確かに強い武器ですけど」

 思っていたが、意外と東風谷ってこっち(オタク)の文化に詳しい?
 くっ、外の世界で塾通いしていた頃にはそんな素振り全然見せなかったくせに!

 いや、それはともかく、

「あのな、東風谷。これは、本物をモデルに作ったんだぞ? いや、実は本物の金属粉も混ぜ込んであるから、草薙の剣の力も少しだけ宿ってる」
「……はい?」
「いや、実はな」

 何故か、香霖堂の片隅で本物の三種の神器の一つが眠っている、という話をする。
 東風谷は、とてつもなく胡散臭そうな顔になった。

「また、そんな馬鹿な。日本でも最強の神剣ですよ。こう言ってはなんですが、あんな店にあるはずが……」
「いや、僕もそう思わなくはないんだけど、本当なんだって! 神奈子さんのお墨付き!」
「神奈子様が?」

 自分のところの神様の名前を出されたおかげで、東風谷がやっとまともに聞いてくれそうだ。

「そうそう! 昔、見たことがあるんだってさ、本物を。んで、この剣も元々僕使えなかったのを、使えるようにしてもらった」
「ええ? でも、いや……しかし、神奈子様が仰るなら」

 ブツブツと、東風谷は納得いかないように独り言。
 ふん。せんせーを子供扱いしやがって。

「……ふぅ、わかりました。信じますよ。先生は兎も角、神奈子様がそう仰られるなら、是非もありません」
「微妙に、僕に対する東風谷の信頼度が透けて見える発言だな……」

 いや、微妙にというか駄々漏れ……

「いえいえ。私、先生のことは信頼していますよ? でも、微妙に信用ならないというか」
「どっちだよ!?」

 どっちでしょうねえ? と自分のことの癖に、東風谷は首をひねった。
 っていうか、僕ってばそんな微妙な存在なの? ねえ?

 問い詰めたい気分で一杯になっているうちに、紅い館が見えてくる。

「あ、先生、見えてきましたよ。そういえば、以前紹介してもらいましたけど、結局行ったことありませんでした」
「……そうかい」

 なんとなく、自分の在り方に悩みながらも、僕は東風谷と連れ立って紅魔館に降りていくのだった。



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