UFOに乗っていた蛇っぽいなにかを追う。 どうも、あの白いのが向かったのは霊夢たちと同じ方向らしい。なぜわかるかっていうと、明らかに妖精の数が少ないからだ。 「……大暴れだな」 いつもの霊夢一人でも、通り道の妖精を殲滅する勢いなのに、今回は三人だ。妖精に同情してしまう。 ……でも、妖精は一旦退治しても雲霞のごとく沸いて出てくるんだよなあ、これが。 「ほっ、っと。よいっと」 一度は全滅させられたはず(絶対させられている)なのに、それなりの数を揃えて僕に襲い掛かってくる妖精たちを迎撃する。 いくらなんでも、数が少なくなった妖精に落とされるほど、僕も弱くはない。 「火符『サラマンデルフレア』」 例の蛇を見失ってはいけないので、スペルカードで一掃した。 一瞬、妖精たちがいなくなって開けた道を一直線に飛ぶ。 「しかし、なんだこのUFO」 小さなUFOを見かけたので拾う。 ……相変わらず、僕が近付くと、UFOのカタチをしたそれは木片に変化。蛇みたいなのが離れていく。 どうも、あの蛇のようななにかが、この木片をUFOに見せているみたいだけど……。 「に、しても、これもただの木片じゃないなあ」 手で掴める程度の大きさの木を眺める。なにか、大きな構造物が壊れた破片のようで、千切れたようになっているけど……篭っている霊力が尋常じゃない。 持っているだけで飛ぶスピードが上がっている気がするし、力も沸いてくる感じ。 リュックに三、四個ほど木片を入れて背負っているんだけど、明らかにいつもの僕より強くなっている。 「うおっと!?」 油断していて、目の前に迫っていた妖精の弾を間一髪躱し、反撃で落とす。 ……ほら、いつもの僕だったら、ここで顔面に弾を食らって、『ぐおぉおお〜〜』って唸っているはずなんだよ。 ちょっと強くなった感じで、とてもいい気分だ。 「ふふ……今宵の弾幕は血に飢えておる」 適当なことを言って、霊弾を撃ちまくった。 ……強い! 今、強いぞ僕! とっても輝いているネ! 「ん!?」 遠く。チカチカと光る球体を発見。 件の蛇は、その球体に吸い込まれるようにして消えた。 ふむ? 気になって、スピードを上げる。 状況からして、UFOの幻影を見せたのは、あの光球なんだろう。妖怪かなんかだと思ったが……あんな正体不明の発光体だとは。もしかして、本当に本物のUFOなのか? いやそれとも…… 「近付けばわかるか」 更にスピードを上げて、光球に追いつ―― 「ぬぉわぁぁあ!?」 もう少しで触れられる、という位置になって、突如発光体は僕に弾幕を撃ちこんできた。 ふ、服に掠ったぞ、今。 「なんだなんだ!?」 続く弾幕を『壁』を作って逸らす。……よし、イケる! 「今の強くなった僕ならあるいは――! 風符『シルフィウインド』!」 スペルカードを使って、畳み掛ける! いくつもの風の刃が発光体を切り刻み…… 「……あれ?」 あっさりと、それを突き抜けてきた光体からの弾幕が、僕の体を打ち据えた。 「ぐっはっ――!」 意識が遠のく。 ああ……無双できたのは、時間にして一分もなかったな。 なんて感想を抱きつつ……僕は、地表に向けて落下していった。 ……ん〜〜。なんだ? 僕、どうなった。 周りが暗い……ああ、これは一回死んだかぁ。しかも、頭打ったみたいだなあ。意識がはっきりしないや。 「あー、しまった、しまった。人間は怖がらせるのが美味いのに、殺しちゃったかあ」 殺しちゃったかあ、って、そんなちょっと落し物をしたみたいに言われても。 「仕方ない。狩ったら食うのが礼儀だ。南無南無……じゃ、頂きます」 なにやら、物騒な呟きが聞こえて、左腕が持ち上げられる。 意外に小さな手っぽい……けど、『あ〜ん』とか聞こえるんですけど――!? 「だらっしゃぁっ!」 「んあっ!?」 一気に意識が覚醒して、捕食者の拘束を振り解いた。 あ、あぶね〜。今まで、何度妖怪に襲われて殺されても、喰われなかったことだけが自慢なのに。だけが。 「って、あれ……妖怪?」 体を起こして、僕を喰おうとした妖怪を見ると……なんか見覚えのない娘だった。 「んあ!? しまった! なんか、正体見破られた!?」 僕の呟きに驚いたのか、その妖怪らしき女の子は『んっ!』と力を込めた。 「ふう。んじゃ、いっぺん離れるかね」 「……なにやってんの?」 「まだ見えてる!?」 いや、見えているに決まっているだろう。なに言っているんだ? ……ん、いや待て。そういえば、僕はなにを追ってきた? なんか、幻覚を見せる蛇っぽいなにかを追ってきたんじゃなかったか? その蛇は、確か妙な光球に吸い込まれて……その球からの弾幕で落とされたんだった。 で、女の子の腕に巻きついているの……あれ、蛇だよな。 「もしかして、さっき僕を落とした変な光の玉の人?」 「バレた!?」 いや……そんな、正直に答えてくれなくても。 っていうか、 「君は一体なんなんだ」 じっくり観察する。 ……もう女の子型だってことは、突っ込みを入れないとして。なんか変な形の翼に黒髪。んで、腕には蛇が巻き付いているのは、もしかしてアクセサリーのつもりなんだろうか。 そしてミニスカ。……いや、今は平気だけど、空を飛ぶと下から見えますよ。ナニとは言いませんが。 「私? 私は鵺! 正体不明がウリの妖怪よ」 「……………」 正体不明がウリの癖に、自分から正体をばらしてどうする。 鵺っつーと、アレか。なんか、キメラみたいな妖怪だったか。尻尾が蛇で……他なんだっけ? しかし、女の子なのは驚かないって言っても、明らかに動物っぽい外見だと伝えられているはずの鵺までこうだと、ちょっと違和感だ。 「鵺っぽくないなあ」 「鵺っぽい? どんなのが鵺っぽいと思うの?」 「いや、ほら。なんかこう、色んな動物の合いの子だったよな、鵺って」 まあ、人間もある意味動物だけどさ。 「ふふん。鵺は正体不明の代名詞。そんな妖怪が、本当の姿を人間に晒すと思って? そういう姿を見せて、人間を怖がらせていたのよ」 「いや、今まさに晒している」 「……しまった」 あ〜、と鵺さんが懊悩する。 「貴方、正体不明の私が怖くなかったのかしら? あんなズケズケと近付いてきて……。思わず、攻撃しちゃったけど」 「正体不明のナニカより、怖いものを沢山知っているからな……」 そりゃ、未知に対する恐怖はあることはあるが、もっと卑近で物理的な脅威がたくさんあったりするので。 「正体不明以上に怖いものなんてない。世間知らずの人間ね」 それは、きっと君が強い妖怪だからだよ。世の中、本当に怖いものなんていくらでもあるんだからなっ! 「ああ、それとも、近付けば私の正体がわかるから怖くなかったのかしら。今、私、姿を消しているはずなんだけど、貴方には効いていない。……それが貴方の能力よね? 正体不明を見破るのが」 「うーん、その一つではある」 とは言っても、能力が効かなくなっただけだから、彼女がどんな妖怪かは自己紹介するまでわからなかったんだけど。 「ふ……ん。そんな人間がいたら、私の沽券に関わるわね。私の正体不明を取り戻すため、死んでもらうよ」 「へ?」 死んでもらう、という物騒な言葉に、理解は追いついていなかったが体は勝手に反応していた。 「うおおおおおお!!!?」 地面に座った状態から、空を飛ぶ要領で横っ飛び……鵺の出した弾幕を躱した。我ながら、見事な反応だった。こんなのばっかりが上手くなって、もう! 「な、なにすんだいきなり!?」 「言ったでしょう? 貴方みたいなのがいたら、私は正体不明じゃなくなるじゃない。そんなのはゴメンだわ」 「っていうか、そっちが勝手に正体を明かしたんじゃないか! 君が鵺だなんて、最初僕はわかんなかったぞ!?」 それは、単なるツッコミだった。会話に乗ってくれれば、逃げる時間が少しは稼げるなあ、っていう、それだけの言葉。 でも、なんか知らんけど、効果は劇的だった。 「え……? 気付いて、なかったの……?」 「へ? い、いや。君のその姿を見て、鵺だって分かる人は少数派だと思うけど。そりゃ、正体不明の光の玉じゃなくて、正体不明の女の子ってのは分かったけどさ」 「そ、そうなんだ……私がバラしたのか……。自分から」 あ、なんか懊悩している。 正体不明ってのをウリにしておきなら、見事墓穴を掘ったんだから、妖怪としての尊厳とかアイデンティティに関わってるんだろう。 「大体、一度殺したくせに、また殺すなんてやめろよ」 「……貴方、生きていたじゃない」 「違う。一回死んで生き返ったの!」 不老不死だから僕、と言うと、鵺さんは顔を引き攣らせて、どーん、と落ち込んだ。 「ああん……そんなのに知られたら、私の正体を隠せないじゃない」 すごい落ち込み具合だった。……なんていうのか、 「あ〜、その、なんだ。そんなに自分のこと知られたくないんだったら、僕は言い触らしたりしないからさ。元気出せって」 「……本当? 私の正体を知ったのに、槍とか剣とか札とか持って封印しようとしないの?」 「しないしない」 そういうのは、紅白とか白黒とかに任せている。 とは言っても、あの二人も気分が乗らなきゃやらないけど。 「君のやったことって、空飛ぶ変な木片を、空飛ぶ変な円盤にしただけだろ」 「あ。あんたには円盤に見えたんだ。私の撒いた正体不明のタネは、その人の認識によって別々の物を見せるから、他の人には鳥や船……弾幕なんかにも、見えたかもしれないわね」 そういう能力かあ。面白い能力だな。 しかし……ってことは、もしかして、あの時魔理沙が『UFOだっ!』って、やらなきゃ別のものに見えていたってこと? あんな古臭いUFOに見えたからって、別に僕の認識が古臭いわけじゃないよな? 「いやいや、それはいいとして……。とにかく、そんくらいでわざわざ退治するような暇人は幻想郷にはいないよ」 「本当? それじゃ、ちょっと大量虐殺しても大丈夫?」 「いや、それは人里の守護者がすっ飛んでくる」 漏れなくオマケに、最近人里と交流の厚い焼き鳥になる蓬莱人とかも付いてくる。 それだけならまだしも、もちろん霊夢とかも出てくるだろうし、そうなったら僕だって紅魔館とか白玉楼とか永遠亭とかその他諸々のところに頭を下げて、退治してもらうぞ。 「意味ないじゃんー」 「いや、そんなことより、もうちょっと有意義なことに意味を見出してくれ」 ……さて、とりあえずUFOの正体は分かった。 物騒なことを言っているが、別に今すぐ霊夢たちに危害を加えるようなものじゃないだろう。んじゃ、とっととあの暴走娘たちを追いかけるとするか。 「ん? どこ行くの」 「ちょっと、異変となればとりあえず首を突っ込む巫女たちを追っかけに」 「巫女って、ムラサ達を追いかけていったあの紅白たち?」 ムラサってのが誰なのかは知らないけど、紅白と言えば霊夢だ。そうそう、と頷くと、鵺は嬉々とした顔で、 「んじゃ、私も一緒に行くよ。あいつら、正体不明のタネを植え付けた飛倉を嬉々として集めてた。正体不明を怖がらないなんて、面白いじゃないか」 「……いや、正体不明って言うか」 UFOだし。大体、さっき鳥とかに見える人間もいるって言っていたけど、それならば別に怖がることはないんじゃないのか? 「まあいいや。じゃ、自己紹介。僕は土樹良也。魔法使いだ」 「私は封獣ぬえ」 ……いや、だから。 正体不明とか言いながら、なんで名前からして自己主張しているんだよ? | ||
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