「霊丸!」

 と、某霊界探偵の技を指先から飛ばす。
 いつも使っている霊弾より、威力もスピードも数段増した弾が、一直線に伸び、

「おっとぉ! 一発だけじゃ無駄だぜ!」
「ぎゃぁ!?」

 それを、ほんの少しだけ身体を傾けて躱した魔理沙から、反撃の弾幕が襲い掛かってきた。

 し、しかしっ! スペカも使っていない弾幕くらいなら――!

「うおおおおおお!? ナイス! 僕!」
「お、今のを避け切ったか」

 魔理沙がちょっとだけ驚いたようにする。……ふん、僕も少しは成長しているんだよ。

 ……本日は、紅魔館に勉強に来た。そして、またしても僕のいるときに図書館に突っ込んできた魔理沙。
 我が師匠は『貴方が止めなさい』と無理難題を突きつけ……この状況である。

「良也、避け方が危なっかしいわよ。もう少し、余裕を持って躱しなさい」

 と、下から喘息の発作でごほごほ言っている師匠が、なんか励ましてくれる。
 って、その隣でワクワクしながら見てる吸血鬼の妹。お前がやってくれれば、僕はこんなことしなくても済むんですけど……ああ、駄目だ。小悪魔さんまで混じって、お茶を飲みながら鑑賞モードだ。

 ……ええい! 味方はいないのか、味方は! ここにいない紅魔館のメンバーで味方になってくれそうなのは……メイドと吸血鬼(姉)は役に立たんし……美鈴くらい? あかん、魔理沙がここにいるってことは既にノックダウン済みだ。

「っていうかな! お前、盗むのやめたんじゃなかったのか!?」

 確か、借りた魔導書は写して返すって約束したよな!?

「人聞きの悪い! ちょっと続きの気になる本があっただけだぜ!」
「へえ! ほお! ふーん! 十冊もか!?」
「……そういうこともある!」

 あ、開き直りやがった。
 魔理沙め。少しはお灸を据えないといけないようだ。

 しかしなあ……今の僕じゃあ、魔理沙に勝つどころか一矢報いることすら至難の業だ。さっきの某なんとか白書をインスパイアした『霊丸』も、遅い弾に慣れさせたところにぶち込む、割と自信のあった新技だったんだけど。
 ちなみに、多分威力は霊光玉を手に入れる前の幽助くらい。……冷静に考えると凄いな。漫画の主人公並ってことだよな。

 ……しかしまあ、弾幕がメインのこっちの戦いには全然役に立たない。当たんないし。
 ここはやはり、いつも一対多数の戦いをしてきた仙水さんの裂蹴紫炎弾を練習するべきだったか。

 普通の霊弾も、少しは工夫して形を変えられないかと試してみたけど……まだまだってことだな。

「風符……『シルフィウインド!』」
「げっ」

 あ、魔理沙がほんの少しだけ鼻白らんだ。
 ふっふっふ……不可視の風の刃の弾幕。流石の魔理沙も躱せまい。っていうか、こんなん躱せたら人間じゃねえ。

「いけっ!」

 無数のカマイタチが魔理沙に襲い掛かる。
 術者の僕だけはその不可視の刃を見れるんだけど……あれ? なんか魔理沙の奴、フツーに避けましたよ?

「あ゛ーーーッ! 私の帽子が!?」
「ぼ、帽子? 帽子がどうかしたか?」
「ここ! ちょっと切れてる!」

 ……あのー、僕の位置からじゃ全然見えないくらい、ちょびっとなんですけど。

「このぉ、良也。私は怒ったぜ」
「ま、待て待て! なぜに八卦炉を取り出す? その物騒なスペルカードはなんだ? とりあえず落ち着けお前――」

 慌てて魔理沙を止めに入るが、頭に血が上っている魔理沙はどうにも止まらない。

「行くぜ良也! 恋! 符!」
「待て待て待て待て!! 何をする気だ魔理沙コラお前「『マスタぁぁぁーーースパーーーークッ!』」

 ぎゃあーーーー!? と、僕の悲鳴が図書館に木霊する。

 ……うう、直撃は避けてくれたけど、余波だけで僕もうボロボロッスよ。

























「駄目ねえ」

 と、身も心も(いや心は微妙だが)傷ついた僕の手当てを終えた師匠様は、いきなり駄目出しをしてくれた。

「……なにが?」

 わかってはいたが、一応聞き返してみる。もしかしたら、慰めの言葉なんかを……

「弱いわ、貴方」

 ズビシ、と豪速直球。もう少し、僕の心情に配慮した言葉を選んではくれないものだろうか。慰めどころか、止めを刺しに来ましたよこの病弱魔女。

「……んなわかりきったことを」
「どうにも、貴方には上を目指す気概が足りないわね……」

 いいもんいいもん。弾幕ごっこの腕が上がったって、別にお金になるわけでもなし。逆に、僕が強くなって勝てたとして、年下の女の子をボコボコにするような絵面は、考えるだに情けないし。

「もう、良也! 強くなって私とやろうって約束はどうしたの?」
「あ、あれ? あれって約束だったんだ」

 僕、強くなっても嫌だって言った覚えがあるんだけど。
 なんか、フランドールが不満そうにしている。……うーん、そんな期待されても、僕は答える気はこれっぽっちもないぞ。

「もう!」
「拗ねんな」

 ぷい、と顔を背けるフランドールの頭を撫でる。……あー、機嫌直らんな、これは。
 とか思いきや、撫でる手に頭をぐいぐい押し付ける辺り。どうにも、この子は甘えん坊だ。……なんでこの年で父性に目覚めないといけない。

「とにかく。これじゃあ、私の弟子を名乗らせるわけにはいかないわ。もう何年も学んでいるというのに、この程度じゃあね」
「……はあ、そうスか」

 でも、別に僕は毎日通っているわけじゃないしなあ。つーかパチュリーに面倒を見てもらったのは最初の頃だけで……
 別に師匠ってのは名目だけじゃね? と思うわけですよ。

「そもそも、スペルカードが四種だけってのがいけないわ」
「四属性に特化するって言ったじゃん」
「いつの話よ。それに、属性が四つだからって、応用を効かせたり、弾幕に変化を加えることはできるでしょう? 貴方、全然新作作らないから、もう見切られちゃっているのよ」

 む。それでか、魔理沙があっさり躱したのは。……きっと、それだけじゃないけど。

 しかし、確かに、考えてみれば一から新しいの作るのが面倒だからって、僕のスペカの作り方って、いつもの四枚にアレンジを加える程度だったな。

 別の属性とか、弾幕に変化……ね。

「氷とか、雷とかかな……」

 ぱっと思いつく属性はその辺りだ。今までが西洋の四大を使ってきたので、五行に行くのは難しそうだし。

 しかし、氷も雷も、前例がいるんだよなあ……。特に氷。パクると、あの妖精は煩そうだ。

「ま、いいか。作っちゃえ」
「……どうやら、やる気になったようね?」

 いや、インスピレーションがね。こういう時はモノ作りたくてたまらなくなるんだよなあ。

「小悪魔さん。札と筆をお願いします」
「はい。少々お待ちください」

 小悪魔さんに頼んで、スペルカードを作るための道具一式を持ってきてもらう。
 待つ間、頭の中で術式を構築。

「えっと?」

 いまいち思い出せない箇所を、僕手製の魔導書(大学ノート)を捲り確認する。

「面倒なことしているねー。魔法使いって、そんな風にスペルカードを作って楽しいのかしら?」
「いや、これはこれでけっこう楽しいぞ。お前らみたいに、感覚だけで組んじゃうようなのとはまた別の意味で」
「そうなの?」

 フランドールが小首を傾げる。
 それに、僕とパチュリーは揃って苦笑をした。

 妖怪なんかは、自分の力を本能で扱っているから、スペルカードもほぼ感覚だけで作っている。力と、その使い方を無意識に熟知しているから、それで十分なのだ。
 と、すると、魔法使いという人種は、力の使い方について普通の妖怪よりずっと劣っているのかもしれない。

 ……まあ、定型的な術式があると、先人の成果を模倣できたり、とことんまで突き詰められたりと、これはこれで利点もある。時間をかければ、そんじょそこらの妖怪が作るものよりずっと強力なものが作れる。
 でも、霊夢とか。ああいう天才がぽっと作っちゃうようなやつには、なかなか敵わないんだよなあ。……なんて、魔理沙がぼやいていた。

「よし、出来た。名付けて氷符『マイナスC』」

 前、チルノが使ってたマイナスKのパクリである。Kは多分ケルビンの意味……だろ? あのおつむの弱いチルノがそんな頭良さそうな単語使っているとは思えないけど。多分そう。きっとそう。そう解釈することにする。

 それに対して℃である。名前的にはとても弱くなっているが、気にしないことにする。

「見せてみなさい」

 すらすらと完成させたスペルカードを、パチュリーに取り上げられる。……別に良いけどね。もう一種類作っとこう。

「ふーん」
「肩に頭を乗っけるな。手元が狂うだろ」

 フランドールが、後ろから僕の書いているスペルカードを覗き込んできた。

「よくわかんないや」
「……興味なくすの早いなあ」

 本でも読んでくるー、とフランドールは行ってしまった。やれやれ……まあ、いきなり分かられても、僕の立つ瀬がないけど。

「はい。一応、チェックしておいてあげたわ。基礎は出来ているみたいね……まだまだ改善の余地はあるけど、ちゃんと発動すると思うわ」
「そっか。よかったよかった。……これで、雷も完成だ」

 雷符『エレキテルショック』。扱いが難しそうなので、威力は多分大分低い。

「これで六つの属性ね……七つまであと少し。頑張りなさい」
「使えるのが増えてもなあ……」
「対応力が上がっていると思えば良いわ。……じゃ、早速、小悪魔相手に試してみる?」

 え?















 新しいスペルカードはあんまり役に立たなかった。新技編み出した直後って、普通勝利フラグだよね?

 っていうか……小悪魔さん、最近容赦がなくなってません?



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