僕が復興途中の神社をお茶を飲みながらぼけーっと眺めていたら、空から女性が降ってきて言った。

「忘れた頃に地震が起きます」
「……いや、なんなんだあんた」

 いきなり目の前に現れて、また唐突だな、おい。
 ……ってか、この人って。

「えーと、衣玖さん、だっけ?」
「あら。そういう貴方は巫女と一緒に雷雲に入ってきた人間? なんだ、この神社に住んでいたの」
「いや、ここはたまに泊まるだけ……で、何しに来たの?」

 聞くと、衣玖さんは困ったように空を見上げ、

「地震の予兆である緋色の雲の濃度が基準の百倍を超えました。もうすぐ地震が起きます。その忠告をしに回っているんです」
「へえ」

 それって天子が集めたやつだよな? この人知らないのか。

「それでですね。途中で胡散臭い妖怪に会いまして。彼女から、地震に関するなにかがこの神社の屋根の下にあると言うので確認しに来たんです」

 胡散臭い……スキマか(断言)。

「地震? いや、確かにこの神社は地震で倒壊したんだけど」
「そういえば、そんなことを言っていましたね。そんなことはないはずなんですが。……おや、修理しているのは天女たちじゃないですか」
「あ〜、それは天子っつーやつがつれてきた……」

 あ、天子がこっちの様子に気付いて戻ってきた。

「あれ? あんた確か龍宮の使いの……誰だっけ?」
「衣玖です。永江衣玖。総領娘様。一体こんなところで何をやっているんですか?」
「なにって、見てのとおり神社の復旧作業よ。私が壊しちゃったからねえ。まあ罪滅ぼしさ」

 その言葉に、衣玖さんは合点がいったように頷く。

「なるほど……。地震が起きたと言うから何かと思いましたが、総領娘様の仕業でしたか」
「そうよ」
「悪戯はほどほどに。そういえば、緋色の雲の濃度が限界近くになっています。六十年に一度クラスの地震は避けられそうにありません。今は地上の皆さんに知らせている最中ですが、報告までに」

 地上の皆さん……ねえ。
 衣玖さんの衣装が微妙に煤けているところから見て、どんな『皆さん』だったのか嫌って言うほどわかるけど。

「あらあら、馬鹿ねえ。それなら最初に私のところに来ればよかったのに」
「? どういうことですか」
「もう地震は起きないよ。神社に要石を挿したから」

 は? と衣玖さんがぽかんと口をあける。

「か、勝手にそんなことをして。地震は起きるべきときに起きていなければ、ひずみが溜まってしまいます。総領娘様は、なにか思惑があるのだと思いますけど……」
「うんにゃ、ないよ」

 ……内容はほとんど理解できないけれど、なにかあんまりよろしくない会話だと言うのはわかる。

「ちょ、ちょっと待ってください。えっと、衣玖さん。要石って?」
「比那名居の人が護っている、地震を鎮めることのできる石です。これを大地に挿すと確かに地震は起きなくなりますが……。大地の力を無理矢理に押さえつけるので、もし外した場合、反動で大地震が起こります」

 ……うわーい、超危険。
 ってか、いつの間にそんなのを挿したんだ。霊夢は知っているのか?

「なによ、騒がしいわねえ」
「……おーい、霊夢ー? ちょっとこっち来い」

 昼寝していた霊夢が起き出してきた。って、ああちょっと。寝癖ついてんぞ。

「霊夢。寝癖」
「ああ、ありがと」

 適当に髪の毛を梳いて体裁を整えてやる。……こいつも、もう少し外見に気を払えばいいのに。折角造形はいいんだから。

「で、何事?」
「なんか、衣玖さんが来た。ほら、お前も会ったって言ってたろ? 天子んとこに行く途中にいた龍宮の使いさん」
「ああ、そういえばいたわね。羽衣をドリルみたいに使うびりびりね」

 ドリル!? マジか。それは知らなかった。
 ドリルはやっぱり男の浪漫だよねえ。円錐形でぎゅいいいいん、って回転して天を貫いたりするんだ!

 やっべ、そういえばドリル忘れていたよ、ドリル。ぜひとも次のまんが必殺技シリーズにはドリルを……

「で、なんであいつがここにいるのよ」

 はっ……!?

 あ、危ない危ない。ちょっとトリップしていた。

「ああ、それがな。どうも彼女、天子の知り合いらし……」
「ちょっとお灸をすえたほうがいいかもしれませんね」

 あれ? なんか衣玖さんがスペルカードなんて取り出して臨戦態勢に入っていますよ?

「あら。龍宮の使いごときが私に? 身の程を知ったほうがいいんじゃない?」
「貴女は少々甘やかされすぎていたようですね。時には痛い目に遭ってみないと、反省しないのでしょう」
「ふん、生意気な。反省? 私のやることは常に正しい。天道は私の手にある!」

 ねぇよ。













「うわ、あぶね」

 天子と衣玖さんの弾幕ごっこが始まったので、僕と霊夢は急遽避難した。神社の修理をしていた天女さんたちも、無事隠れているようだ。
 ……無闇にこの手のスキルが上達した気がする。

「まったく、いきなり始めないでよね」
「……お前、人のこと言えないだろ」
「言えるわよ」

 断言しやがった、こいつ。

「なあ、ところでさ。天子のやつが要石とかいうやつを神社の下に挿したそうなんだけど、お前知っているか?」
「ああ、聞いたわね、そういえば。地震が起きなくなるんでしょ?」
「地震を押さえつけていると、要石を外したら反動ですごい地震が来るそうなんだが」
「外さなければいい話じゃない」

 ら、楽観的な。今回の異変みたいなことがあったらどうするつもりだ、こいつ。
 ……まあ、霊夢なら大丈夫か。

「とりあえず、あの二人の弾幕ごっこを止めたいと思うんだが」
「良也さんはいつもそれねえ。放っておきなさいよ。あの二人も、加減は分かっているでしょ」
「いや、そうじゃなくて」

 いい加減、弾幕ごっこについては諦めている。輝夜と妹紅のやつみたいに、殺し合いと言うわけじゃないみたいだし。
 ただ、なあ?

「復旧途中の神社の近くであんなのやったら、また壊れないか?」

 衣玖さんの放つ雷が建材に落ちたら火事になるだろうし、天子はさっきから緋想の剣を地面に突き立ててどっすんどっすんと地面を揺らしている。
 修理中で、特に結界も張っていない神社が、そうそう耐えられるとも思えないんだが。

 ……って、うぉおおおお!? マジ衣玖さんドリル使ってるっ! 羽衣がなんかこう、形状を変えて、ぎゃりぎゃりと天子の防御を削っているっ!

 すげぇ! 衣玖さんすげぇ! これは惚れた、あとであの技教えてもらおう!

「ん? 霊夢、どうした?」
「……これ以上」

 なにやら霊夢は顔を伏せていて、目元が見えない。
 でも、なにやら妙な殺気が……あと、その取り出したカードは一体?

「これ以上! うちの神社を壊すんじゃなぁぁぁぁーーーーい!!」

 あ、ブチキレてる。
 全力でスペルカードを発動した霊夢。七色の光弾が、争っている二人に殺到し、

「……あ〜あ」

 問答無用で二人ともノックダウンした。
 ……早い。始まってから三分と経っていなかったぞ。

















「えっと、大丈夫ですか、衣玖さん」
「……ええ」

 霊夢の夢想封印を受け、倒れていた衣玖さんを助け起こす。

 天子のほうは、霊夢が引っ張り上げている。……あ、とっとと神社を直せって言って蹴ってる。容赦ねえ。

「まったく、総領娘様にも困ったものです」
「いや、困りっぷりは十分分かっているんで」

 そろそろ一発どついてみる必要もあるかもしれない。すぐさま反撃されそうだけれども。

「まあ、しかし。総領娘様はああ言っておられましたけど、要石のことはなにか考えあってのことでしょう。心配する必要はないかと。名居様にも報告は入れておきますし」
「名居って、偉いさん? ああ、よろしく」

 まあ、ある意味、要石が外れたら起きる、ってことで。トリガーさえ分かっているんだったら、人里の皆全員避難の上、定期的に抜くっていう手もある。
 どれだけの大地震でも、事前に起きるってことが分かっていればどうとでもなるだろう。

「しかし、総領娘様。こちらでは楽しくやっておられるようですね」
「楽しく……?」

 はて、まああれだけ好き勝手やっていればそりゃ楽しかろうが。

「あの人は、あまりに自由すぎて天界でも手を焼いていたのですよ。そのくせ、いつもどこかつまらなさそうにしておられました。こちらにいるほうが、あの人にとっては良いのかもしれません」
「ふむ……」

 そういえば、退屈退屈って言ってたよな。……でも、

「衣玖さん。なんかいいこと言っているように聞こえますが、それって単に厄介ごとを地上に押し付けようとしているだけじゃないですか?」

 ギクッ、と衣玖さんの肩が跳ねる。
 やはりか……

「それでは、もう私が居る空気ではないので去りますね」
「あ、ちょっと!」

 呼び止めるも、衣玖さんはさっさと行ってしまった。

 ……あの不良天人、引き取っていってくれよ。んで、もうちょいマシな施工主を連れて来てくれ。



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