それは、突然のことだった。
 いつものように博麗神社でゴロゴロしていた僕は、突然天地がひっくり返ったかのような衝撃に襲われた。

「じ、地震!?」

 ま、まともに立てねえ! くっそ……外に、外に逃げないと……。いや、机の下か!? い、いやこの揺れはヤバイやっぱり外だっ。

「うおおおおおおおお!?」

 無理矢理走ろうとしたら、バランスを崩してしたたかに転げて、腰を打った。

 くっ……逃げられない!?

「って、飛べば!」

 宙に浮けば、地面が揺れようと関係ない。
 慌てて僕は床を蹴り飛び上がって、

「あ」

 天井が落ちてくる。時間を遅くしようとも到底外に出るのには間に合わない。絶望的な気分で、落ちてくる天井を見上げ、
 博麗神社の屋根に僕は潰された。こう、ぷちっとね。





















 ………………

「わ、私の神社がぁ〜〜!?」

 霊夢のやつの悲鳴が聞こえる。……っていうか、その神社の中にいた僕のことを少しは心配してくれ。

 しっかし、時々霊夢は本当は確信犯じゃね? と思うくらいに運がいい。
 普段は僕が来ているときは掃除任せっぱなしなのに、ここぞとばかりに『たまには私がするわね』と境内の掃除をしてて難を逃れた。

 ってか、暗い。そして重い。多分、感触からして今僕の体死んでいる。腹が潰されているにも関わらず、全然痛みないしね。
 あ〜、しかし、これは発掘してもらわないと、生き返ってもすぐ死ぬなぁ。HAHAHA、何故ここまで死ぬことに慣れてるんでしょうか、誰か教えてくれ。

「うう……耐震補強しておけばよかった」

 そうだな。そうすれば僕が死なずに済んだ。

 そして、崩れた神社を前に、霊夢が嘆くこと十五分。
 ところで、そろそろ僕の安否に言及してくれてもいい頃じゃあないか?

「また見事に壊れちゃって……。これは掃除どころじゃないわねえ」

 おーい。

「なんだこりゃ? おい、霊夢、一体神社に何があった?」

 この声は魔理沙か。この際、魔理沙でもいい。なんとかこの上の瓦礫を取っ払って、僕を救い出してくれ。そろそろ体が生き返りたがっている。
 でもこのままだと、生き返る→圧死→生き返る→圧死の無間地獄!

「なにって、あんたんちも大丈夫なの? さっきの大地震」
「地震だぁ? いつ?」
「ついさっきよ。ほら、良也さんの流血がやっと流れてきたわ」
「へ? 良也、中にいんの?」
「ええ。この分だと、死んじゃっているかもね。よかったわ、良也さんで」
「だな。こういうとき割を食うべきは、ああいう殺しても生き返るやつだな」

 おーい。……こいつら、とんでもないな。

「しかし、ここは晴れているな。ここんとこ雨続きだったってのに」
「雨? 何を言っているのよ。この数週間、雨なんか降っていないわよ」
「そんなことはない。……ほれ、降ってきた」
「……ホントだ」

 雨? やばいなあ、死体が雨に打たれたら腐敗が早くなるんじゃない? いや、よく知らないけど。

「でも、本当に地震に気付かなかったの? とんでもない揺れだったわよ」
「いくら空を飛んでいたからって、地面が揺れているのに気付かないほど間抜けじゃないぜ」
「……怪しい。異変の匂いがするわ。地震といい、この急に変わった天気といい」
「奇遇だな。私もちょうどそう思ったところだ」
「ところで、雨を運んできた魔理沙は、なにか知っていないのかしら?」
「お? それを言うなら、神社を潰された巫女も怪しいぜ」

 そして、唐突に始まる弾幕ごっこ。衝撃で分かる。

 ……ええい、あいつら、完璧に僕のことを忘れているな。これは僕はどうせ死なないからと安心されているのか、それともどーでもいいと思われているのか。
 前者であることを切に祈る。

 しかし、真面目にどうしたもんか。
 待ってれば、流石にそのうち誰かが助けてくれるだろうけど、それまでずっとこのままというのも嫌だ。

 ふむん……そういえば、永琳さんが言っていたな。蓬莱人の肉体の再構築は、離れた場所でも可能だと。
 魂は物理的な距離や質量に影響されないからとか何とか。

 やってみる価値はあるだろう。

(ふぬっ!)

 とりあえず、肉体は動かないので心の中で気合を入れる。
 廃墟となった神社の外で、肉体を再構成。幽霊時代の感覚を思い出し、霊質だけを外に移動……

「あ、できた」

 気がつくと、まるで最初のころのような幽霊状態となった僕が、空中に浮かんでいた。

 ……おー、おー。霊夢と魔理沙め。僕が潰されているというのに、のんきに弾幕ごっこなんぞしやがって。

「ふんっ!」

 気合を込めて、肉体を再生。
 死体となった元々の体が火の粉のように分解され、霊体である僕を護るように集まってくる。

 あれだ、質量保存の法則? とりあえず、体を作り直すには、元々体だったタンパク質やらなにやらを使うのが一番手っ取り早い……らしい。
 詳しいことはよくわかんない。永琳さんがなんかそんなことを言っていたような?

「復っかぁつ! おいこらお前ら! 僕のことを無視して弾幕ごっこなんてしているんじゃないっ!」

 僕が大声で文句を上げると、ぴたりと二人の動きが止まる。

「……全然平気そうじゃない」
「その様で心配しろって言われてもなあ」
「ぐぬっ!?」

 いや、仰るとおりなんですけどね。その、ほら? 親しき仲にも礼儀ありとか、なんかそんな感じ。せめてポーズだけでも心配してくれてもさぁ。
 なんて思っていたら、魔理沙が僕から視線をそらして、ぼそりと、

「……それより、とりあえず隠してくれないか?」
「はい?」

 既視感(デジャヴュ)。
 アレは確か、蓬莱人になって最初の死亡時。フランドールに細胞を一つ残らず燃やし尽くされた日の記憶。

 ……あの時は、パチュリーに。

 恐る恐る下……自分の体を見てみると、あれまぁ、真っ裸ではあ〜りません……か!?!?!

「ぎゃあああああ!? お前ら見るなぁ!」

 ま、またこの失敗を!? く、くっそ、服、服……! は母屋の中の荷物ん中だ!?

「服ぅうううう!!」

 母屋のほうも当然のように潰れている。……で、でもよかった! 持って来たリュックは下敷きになってないっ! 瓦礫のスキマから微妙に除いている。

「と、とっとと着替えろよ」
「お前に言われんでも!」

 余所見している魔理沙に返す。しかし、こいつは割と純情なのかもしれん。霊夢のほうは、完璧普通だし。

「! 今!」
「え?」
「宝符『陰陽宝玉』!」

 霊夢が魔理沙が僕に気を取られた一瞬をついて、スペルカードを使用する。

 うわぁぁぁ〜〜〜、と、魔理沙が情けない声を上げて、霊夢の放った玉に吹き飛ばされていった。

「ふっ、勝利!」
「いや、お前な」

 これって勝利って言うのか? っていうか、弾幕ごっこでこういうのありなのか?
 悩みながらも、母屋の瓦礫の中からリュックを引っ張り出し、とりあえず着替え。……ったく、生き返るとき服も一緒に再生してくれればいいのに。

 下着と服を身に着けて、どうにか人心地つく。

「さて、と。良也さん、私は異変を解決しに行くわ」
「……異変? 今の地震がか」
「だって、魔理沙はここ以外には地震が起きていないって言ってたし、それにほら。雲の色が」

 霊夢の言葉に従い、上を見てみると、なんか雲の色が緋色だった。

「きっと、この地震も誰かが起こしたものね。そいつに直させなきゃ」
「地震を起こす?」

 んなとんでもないことができるやつがいるのかなあ? 昔から地震雷火事親父というように、恐ろしい天災の一つだというのに。
 ……いてもおかしくないけど。

「じゃあ、良也さんは留守番をお願いね」
「ちょっと待て」

 霊夢を押しとどめる。
 じゃあ、なにか。あの地震が人為的なものだとしたら、その、僕が潰されたのは、

「なに?」
「僕もお返しくらいしたい。留守番はできないな」

 なにせ、一回死んだのだ。そろそろ慣れてきたとは言え、やっぱり死ぬのはすごく嫌だ。あと、霊夢たちに裸を披露する羽目になったのは輪にかけて許せない。
 下手人がいるというのなら、少し懲らしめなければならない。

 無論、僕にはできないから、霊夢がボコるのを見物して溜飲を下げるのだ。情けないとか言わない。

「ふーん? 勝手にすれば。私は私で動くから」
「え? ちょっと、霊夢。その、僕も……ついてく」
「別に構いやしないけど、遅れるようなら置いていくわよ? こっちは急いでいるんだから」
「冷たいなあ。ってか霊夢、実は神社壊されて怒っている?」

 こいつが本気で怒るところなんて、なかなか想像がつかないけれど。

「早いところ責任が取れるやつを探さないと、今夜の寝床もないからね」
「そういうことか」

 納得。でも、もし今日中に犯人を見つけても、今日中に神社を直すのは流石に無理だと思うぞ? それとも、犯人のところに泊まる気か?

「ま、僕は外に帰ればいいけど」
「いいわねえ。気楽な人は」
「待て待て、一回殺されたんだ。気楽じゃないぞ、僕だって」
「あっそ」
「なにその気のない返事」
「だって、もうあんまり気にしてなさそうなんだもの」

 ……だって、もう怪我一つないしね。でも、理性は怒らなければいけないと訴えているんだよ。感情は萎えてるけど。

「と、言うわけで魔理沙ー!」
「留守番よろしく!」

 神社の跡地にまで吹き飛ばされて、憮然としている魔理沙に、僕と霊夢は呼びかける。
 一応、敗者としていうことは聞くつもりなのか、魔理沙はやる気なさげに手をひらひらと振った。

「って、霊夢! 早い!」
「置いていくって行ったでしょー」

 霊夢は、ほぼ全速力な感じで魔法の森のほうへ飛んでいった。
 ……まあ、のんびり行くか。



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