襲い掛かってくる妖精を適当にあしらいつつ、妖怪の山に向かう。 ……適当、とか言いながら、ついさっき一回落ちちゃったけど。まあ、このくらいならいつものことなので、気にしない。 とりあえず、妖怪の山の麓まできた。ここまで来ると、霊夢が通った後がわかる。そこだけ妖精が少ないから とはいえ、いつもより多いことに変わりはない。 「……はあ。これも、妖怪の山にできたっていう、神社の連中の仕業か?」 特別、なにが起こっているというわけでもないので、異変というわけじゃないんだろうけど、妖精が環境の変化に反応しているということはありうる。 まあ、季節の変わり目なんかにも、妖精は活性化するから、特別不思議なことでもない。 ……さて、とりあえず、目の前の妖精の群れを突破して、霊夢を追いかけないといけないわけだが。 「風符」 大勢を蹴散らすのに向いている風の魔法で、 「『シルフィウインド!』」 カマイタチを伴った突風を巻き起こし、怯ませた隙に脇を突破した。 範囲を広く取ったので妖精を落とすことは出来なかったけど……まあいいや。 しかし、さっそく一枚使っちゃったな。スペルカード、あと六枚しかないんだけど…… 「ま、まあなんとかなるか」 我ながら適当な戦略だが、今までも何とかなったんだからどうにかなるだろう。妖怪の山なら、知り合いもいることはいるし。 「ふう、しかし、紅葉が綺麗だ」 しばし、妖精の攻勢が止んだ隙を見計らって、地上を見下ろす。 真っ赤な風景。先週来た時はここまで色付いていなかったのだけど、ここのところで一気に秋っぽくなったな。 人里では、今収穫の時期が近付き、収穫祭でワクワクしている頃だろう。 ただの収穫祭と思うなかれ。ここは八百万の神々がおわす幻想郷。当然、秋の収穫祭には秋の神様なるものまでもが登場し、呑めや歌えの大騒ぎなのだ。 「って、ん?」 そんなことを考えていたからだろうか。 件の秋の神様が地上にいることを、ふと気がついてしまった。 「んー」 急いで霊夢を追わないといけないのも確かなのだが、かといって神様とすれ違ってそのまま通り過ぎるのも無礼すぎる。 それに礼儀だけの問題じゃなく、神様の力の強いここでは、神々への信仰は直接的な利益にも繋がったりする。秋の神様なら、ちょっと収穫が多くなったりとか。 別に、僕はここに根を下ろして生活しているわけではないけど、それでも間借りはしている。神様に挨拶位しておくのも悪くないだろう。 秋の神様といえば、人間の里において最も信仰の篤い神様の一柱だし。 「あのー、こんにちは」 「ん? あ、あんたはー、えーと」 去年の収穫祭。僕も参加したそのお祭りで主賓を務めた豊穣の女神様がうーん、と唸る。む、豊穣とか言いながら、胸はそれほど……ゲフンゲフン。 「良也です。土樹良也。ほら、外の世界の……」 「あ、あー、あー。そうだね、何回か会ったことがある。姉さん、こいつ、あのお菓子売り」 「へえ。聞いたことはあるよ。こんにちは」 お姉さん、かな。そういえば、豊穣の神には姉神がいるということを聞いたことがある。 「私は秋静葉。紅葉を司ってる。よろしくね」 「よろしくお願いします。紅葉かぁ。そういえば、そろそろ紅葉狩りもできますねぇ」 「いいねぇ。そのときは、是非私も呼んでくれよ。とびっきりの紅葉を見せてあげるから」 むう、いいかもしれぬ。 今度、霊夢とか妖夢とか、みんな誘って行こうかな。 そのときは、今年の初物を持っていって、酒も……。今年は特に色々豊作みたいだし。 「いいなぁ、秋の味覚で一杯。穣子さん。今年も人里は豊作だそうで、ありがとうございます。収穫祭の方も例年通りお呼びする予定だそうなんで、そのときはよろしく」 「え? あ、いや、収穫の前に呼んでくれないと、私としては豊作を約束できないっていうか」 なんて言う穣子さんだけど、この幻想郷で凶作というのに見舞われたのは、たまたま異変が重なった数度だけらしいし、彼女の力の大きさのほどが伺えるというものである。 信仰が神の力になるという。人里のみんなに慕われている穣子さんの力はきっとすごいんだろう。 ……むう、しかし紅葉狩り。去年は魔理沙の持ってきた茸で一杯やったけど、場所は香霖堂だった。紅に染まった木々に囲まれて、炭火で茸、落ち葉の焚き火で芋、栗なんかを焼いて日本酒で一杯……う、涎出てきた。 「穣子さんは、相変わらずいい匂いですね」 それもこれも、この豊穣の神が美味そうな芋の匂いを漂わせているからいかんのだ。 「あ、貴方も食べる気? さっきの巫女といい、最近の人間ときたら……」 「いやいや、食べやしませ……巫女?」 はて、そういえばこの姉妹。出会った時から気になっていたが、やけに服がボロボロじゃなかろうか。 「……少し時間をくれますか?」 「え? どうしたの」 さて、ここで問題。 穣子さんと静葉さんは服がボロボロになっている。現在活発化している妖精にやられた、という線もなくはないが、戦闘に長けていないとはいえ神である彼女らがそうそう遅れを取るとも思えない。 そして、今穣子さんからでた巫女という言葉。そして、この場所は博麗神社と妖怪の山の丁度途中にある、と。 「つかぬことを伺いますが、もしかしてその巫女って」 「博麗神社の巫女よ。たまたまそこで出会ったんだけどね、『何だか美味しそうな匂いが……』とか言うから、身の危険を感じて」 「……で、弾幕ごっこですか」 「ええ」 むう、それだけ聞くと、穣子さんにも非はなくはないが、かと言って仮にも巫女が神様をボコにするってなぁ、どういう了見なんだあいつ。 「すみませんっ! あとで僕がきつく言っておきますから、許してあげてくださいっ!」 「ええー? でもなぁ」 「いや、本当に、僕に出来ることならなんでもしますんで、どうか平に!」 霊夢のせいで来年の収穫が落ちたとなると、ただでさえ人気のない(というかほとんど気にされていない)博麗神社の人望は地底を掘り抜きマントルまで達する。 もしや、人里に買い物に行く度石を投げつけられるような苛めもあるやも……いや、ないと思うけど。 「ん〜、私たちも悪いところはあったしねえ」 「まあ、怪我したくなけりゃ異変解決時の博麗の巫女には近付くな、が暗黙の了解だし……。でも、異変なんか起こってないと思うんだけど」 「あ、なんか妖怪の山に神社が出来たから、どっちが上か教えに行くそうです」 魔理沙から聞いた話を僕なりに纏めた結果、こうなった。 ちょっとニュアンスが違う気がするが、おおよそ間違ってないだろう。 「ああ、あそこの神様ね。最近、新参者が来たって噂だよ」 「本当にいるんですか……。神社なんて、眉唾だと思ってましたが」 なにせ、ここには神社などなくても神様が身近にいる。博麗神社の不人気っぷりを見ていれば、需要のほどがわかるというものだ。神社というのは霊夢か魔理沙の勘違いで、単なる別業種かと思ってた。教会とか巫女喫茶とか。 ……どちらかというと、博麗神社の客のなさは、頻繁に来る妖怪と巫女の人格のせいな気もしなくもないが。 「ええ、天狗の連中も、いきなりやって来た連中に手を焼いているみたい」 「やって来た、ってどこから」 「さあ?」 むう、なんかますますよくわからなくなってきたぞ。 そもそも、博麗神社を営業停止しろ、なんて博麗大結界のことを知っていたら言わないと思うんだけど。 一体、その神社の連中とやらはなにを考えているんだろう? 「ありがとうございました。教えていただいて」 さてはて。てっきり、向こうの挨拶に霊夢がいちゃもん付けに行ったのかと思ったけど、新しい神社の人も問題あり、かあ。 幻想郷の神社はこれだから。外の世界の神社……今はないけど、守矢神社とは大違いだな。 「とりあえず、僕は霊夢追います。なんかややこしいことになってそうだし」 「危ないよ」 「それはまあ。でも、僕死にませんし」 秋姉妹に別れを告げて、再び妖怪の山に向かう。 なんか、きな臭くなってきたなぁ。 | ||
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