僕はこれまでの人生で、こんなに強力な魔法を見たのは初めてだった。

うちの城にいた魔術師達でも、クリムゾン・フレアなんて使える人間はごくわずかだと思う。

やっぱりルナはスゴイ。同じ年齢とは思えないくらい。

王子として、僕もヴァルハラ学園に入学するまで、かなりの英才教育を受けていたが、とても敵わない。

だけど…………全てを燃やし尽くす紅い炎が収まった後には、多少ダメージを負っているようだが、しっかりと立っている魔族………スレインの姿があった。

…………死んだかな、僕。

 

第18話「ミッションでGO(決着編)」

 

「グッ………ナカナカ効イタゾ」

と、言ってもまだまだ余裕っぽい。

「ま……マジ?」

絶望したように呟くルナ。自信の渾身の一撃。間違いなく仕留められたと思っていたのに………

「アレでも倒せないのかよ!?」

魔法の効力の近くにいたため、その威力を肌で感じ取ったアレンが叫ぶ。

「確カニクリムゾン・フレアハ強力ナ魔法ダガ、私ヲ滅ボスニハイササカパワー不足ダッタヨウダナ」

勝ち誇ったように言うスレイン。

「サテト……ソロソロオ前達ト遊ブノモ飽キタ。………本気デ殺サセテモラウゾ」

クリムゾン・フレアによって作られた巨大な穴からゆっくりと歩いて出る。

「『………スベテヲ燃ヤシ尽クス力持チシ火球ヨ、我ガ思ウガママ敵を討テ。ファイヤーボール』」

スレインによって作られた巨大な火球がちょうど四つ、ライル達に襲いかかる。

茫然自失としていた一同は、はっと我に返り、おのおのの方法で、それを防ぎ、あるいはかわした。

「…………集合!!」

ルナが一際大きな声で、叫ぶ。

その言葉に反応して、ライル達はルナの元に走り寄った。

そして、ルナはスレインをきっと睨み付けると、

「わかってるわね?」

「………マアイイダロウ。辞世ノ句デモ考エテオクコトダナ」

スレインはそう言うと、また体育座りをした。なんというか、シュールな光景である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうするよ?」

アレンが切り出す。

「どうするって……どうしたらいいんだろう?」

クリスが腕組みをしながら唸る。

「逃げるってのは?」

ぽんと手を叩きクリスが言う。

「だめね。クリスも気付いているでしょ。あいつ、この部屋に結界を張って逃げらんないようにしてる」

「僕とルナとライルで何とか破れない?」

ルナは魔法的な視界で部屋を取り巻く結界を見る。

「やっぱむり。今まで見たことないような術式だから解呪することはできないし、力押しでもさっきので私、ほとんど魔力が残ってないからね。大体、結界を解いたところで素直に逃がしてくれるとは思えないわ」

「テレポートの魔法は?」

深く、練気法で消耗した分の気を少しずつでも補いながらアレンが言う。

「今の魔力じゃ厳しいわね………私一人でもこの遺跡から脱出するのが精一杯。第一、この結界、瞬間移動でも越えられないと思う」

「僕はそもそもテレポートなんて使えないし………」

魔法担当二人の声に、アレンはがっくりとした。

「おい、ライル。お前もなんか言えよ」

アレンがそう問いかけるが、当のライルは虚空に向かって一心に何かを話しかけているように見えた。

「お、おい?」

「……え?」

やっと自分が呼ばれたことに気付くライル。もちろん、シルフィと話していたのだが、シルフィの姿が見えず、声も聞こえない三人には誰もいないところに向かって話しかける変なやつである。

「大丈夫?死に直面して狂っちゃったの?」

「ち、ちがうよ。ちょっといい手を思いついたんだけど……」

「「「なんだ!!?」」」

「(ビクゥ)た、多分だよ。多分。だからあんまり顔を近付けないで」

必死で興奮している三人をなだめようとするライル。

彼とシルフィの間にいかなる会話がなされたのか?少し時間を巻き戻してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

(………何とかする方法はないかなあ……シルフィ、どう?)

(………………………)

しかし、シルフィは考え込んでいて答えない。

(どうした?)

(マスター。いろいろ考えたんだけど、やっぱりあれを使うしかないと思うんだけど)

(あれ?)

本気で何かわからないのか、ライルは首をかしげる。

(もう!前に教えたでしょ!こういうときに使うやつ)

(…………ま、まさか『あれ』か!!)

(そう!)

みるみる顔面が青くなっていくライル。

(ぼ、僕は嫌だぞ!あんな恐ろしいものを使うなんて!大体、シルフィだって滅多なことでは使っちゃダメって言ったじゃないか)

(今がその滅多な時でしょうが!!私は嫌よ。こんなところでマスターが死ぬなんて)

(うう………)

ライルは考え込む。どうやら『あれ』とやらを使うのは嫌だが、死ぬのも嫌だという葛藤に陥ったようだ。

だが、ライルは別に自殺願望者ではないし、ルナやアレンやクリス達もいるのだ。答えは決まっていた。

(うう……わかったよ。だけど、あれを使うにはシルフィも透明化を解かないといけないんじゃなかったっけ?)

(そうよ)

(じゃあ……)

なにやら、熱心に意見を戦わせているルナ達を見る。

(いいよ。あんな勘の鋭い子たちだし。どうせ、一年間も隠し通せないわ)

(……わかった)

「お、おい?」

「……え?」

 

 

 

……と、繋がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、それはどんな手なの?」

ひとまず落ち着いて、ルナが聞く。

「………僕、ちょっと隠し事があってね」

「もったいぶらずにさっさと言ってよ」

クリスがせかす。

「わ、わかったよ。……シルフィ」

ライルが言うと、何もない空間から、ゆっくりとシルフィが姿を現した。

「は、はろー」

シルフィとしては、驚かせないよう、なるべくフレンドリーに話しかけたつもりだが、やはり無駄だったようだ。

「「「はい?」」」

と、三人は呆然とする。

弱ったなあと、頬をぽりぽりとかくライル。はぁ……とため息をつくシルフィ。

「……ちょ、ちょっと、あなた確かこの前ライルと一緒に寝てた………」

ルナがシルフィをしげしげと見て言う。サイズは小さいが、さすがにわかったようだ。

「うぐっ……嫌なこと思い出すなあ………」

ルナの言葉にアレンとクリスが再び騒ぎ出す。

「なんだそりゃ!!?おい、ライル説明しろ!」

「面白そうだね……もっと詳しく教えてよ」

………なんか、戦闘シーンのハズなのに収まりがつかなくなってきている。

「マダカ?」

「「「「「(ビクゥ!!)」」」」」

スレインの不気味な声が響く。

「も、もうちょっと!!」

必死でルナが叫ぶ。

「ソウカ。ナニヤラ精霊マデ出テキタヨウダガ………マアヨイ。ドウセ下等ナ精霊デアロウ」

「(ピキッ)ぬわぁんですってぇ!!!」

「わぁ!!シルフィ落ち着けぇ!!!」

スレインに飛びかかっていきそうなシルフィを必死で止めようとするライル。

「じゃ、もう少しそのまま待っててね〜」

と、ルナが言ってから、再び円陣を組む一同であった。

 

 

 

 

 

「………その子、精霊だったんだ」

「うん。こいつは僕と契約している精霊でシルフィ。本名は………シルフィリア・ライトウインドって言うんだ」

「………マスター、私の本名、忘れかけてたでしょ」

「まあ、それはいいとして……」

さらりと流すライル。付き合いが長いせいか、シルフィだけは扱いがぞんざいである。

「僕とシルフィで、かなり強力な魔法が使えるんだ。もしかしたらそれで倒せるかも知れない」

「………それで倒せる?」

不安げにクリスが言う。彼も魔法が得意なので、ルナが使った魔法がどれほど難しいかよく知っている。

それでも倒せなかったのだ。不安にもなる。

「さっきのルナじゃないけど、これが効かなかったら終わりだと思う。威力は保証付きだよ」

ライルは心の中で威力だけは、と付け加える。

「あんたの保証じゃ今ひとつ信用できないんだけど………」

ルナが不審な瞳で見つめる。

「少なくともさっきのルナの魔法よりは強いんだな?」

「うん。ただ、アレン。当然だけど、魔力をためたりする時間がとても長いから………」

「俺たちで足止めってわけだ」

と、アレンは剣を掴み直す。

「全く……またこんな役目か………」

と、クリスも杖を握りしめる。

「もしうまくいかなかったらとっちめるからね」

と、ルナも立ち上がる。

うん、と首を立てに傾けるライルとシルフィ。

最後の決戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話ハマトマッタヨウダナ。早速イカセテモラウゾ」

長い間待たされて、いらついているのか、スレインは問答無用で魔法を放った。

「『我ガ魔力ヨ、破壊ノ具現トナリ全テヲ塵ト化セ………』」

ゆっくりと、噛み締めるように詠唱する。

「!!くそっ。みんな僕の後ろに来て!!」

知識の一番豊富なクリスが、詠唱から魔法の正体を見抜き、そう警告する。

「クリス、何する気!?」

ルナの声には構わず、クリスも急いで詠唱をする。

「『大地の精霊王よ。我が血に刻まれし盟約のもと、その力を強固なる盾と変え、我らを守り給え!!』」

スレインがゆっくりと詠唱していた分。何とか間に合う。

「『カタストロフィー・アッシュ』」

「『ガイア・シールド!!』」

スレインが放った激しい闇の奔流を、クリスの作った巨大な盾が防ぐ。

ギ…ギギ…ギッ!!

盾の形状をした結界が軋む音がするが、大地の精霊王の力を借りた結界はそう簡単には壊れない。

スレインの、カタストロフィー・アッシュを防ぎきる。

「あーきつかった」

「「「ク、クリス?」」」

ライル達の驚いた声にクリスはいたずらっぽく笑い、

「実はうちの王家も代々大地の精霊王と契約しているんだ。今は父上が正統契約者だから僕は少し力を借りるのが精一杯だけどね。攻撃には使えないし。さ、ライル、早くその魔法とやらの用意をしてよ」

「う、うん」

クリスにせかされて、ライルはシルフィと魔力を同期させる。

「さてと、行こうか。ルナ、アレン」

「りょーかい!」「わかった!!」

そして、アレンはスレインに向けて突っ込み、クリスとルナは援護用の詠唱に入った。

「ずえりゃあああああああ!!!」

毎度の事ながら、とてもうるさいかけ声でアレンが斬りかける。

そして、そのかけ声がスタートの合図となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シルフィ」

「おっけーだよ、マスター」

自分とライルの魔力が完全にリンクしたことを確認して、シルフィが答える。

「おし、いくかシルフィ」

普段以上に、呼びかけに答えてくれる風の精霊達を感じながらゆっくりと呪文を唱える。

 

天空に存在する数多の風の精霊らよ………』

 

ライルが風の精霊達に心で語りかけながら呪文を唱える。

「キ、貴様、マサカソレハ!!」

ルナ、アレン、クリスの攻撃を防ぎながらスレインが驚きの声を上げる。先ほどのルナの時と同じような反応だが、今度は本当に驚愕している。

「よそ見してんじゃねええええ!」

暑苦しい雄叫びを上げ、アレンの奥義が炸裂する。

「奥義之伍・烈光封魔神撃!!」

これでも、スレインには大したダメージはない。だが、足止めくらいにはなる。

「グッ……ソコヲドケェーー!!」

 

古の聖なる契約のもと……』

 

シルフィの透き通った声が大気を震わせる。それと共に、精霊達が集まってくるのをルナ達もハッキリと感じ取れた。

「どけ、なんて言われてどくわけないでしょうが!!『エクスプロージョン』」

足止めが目的なので、詠唱を省略して魔法を放つルナ。彼女は、クリムゾン・フレアで魔力のほとんどを使ってしまったので、これくらいの魔法が限界だ。

 

『我、ライル・フェザード……』

 

「全く同感だね……『全てを地に繋ぐ大いなる大地の力よ、我が命に応え、黒き圧力となりて、大地を蝕む者に裁きの鉄槌を』」

自分の最強の魔法を唱えるクリス。

どうでもいいが、彼は今回のことで、自分の攻撃力のなさに密かにショックを受けている。(周りが異常なだけなのだが)

「もいっちょ、奥義・烈光封魔神撃!!」

アレンは、すでにバテバテである。が、ほとんど気合いだけで奥義を放つ。もし生きて帰れたら筋肉痛で一週間以上寝込むこと請け合いだ。

 

『我、シルフィリア・ライトウインドが命じる……』

 

「ソンナモノハ使ワセンゾ!!」

スレインは、黒い気弾をライルとシルフィに向けて放つが、その軌道上にルナが立ちふさがり、

「甘いわ!!」

ガキッ!!

魔力を込めた槍で気弾を弾く。

「喰らえ!『グラビティ・プレス!!』」

さらに、クリスが重力の塊を8個ほど飛ばす。

 

闇を切り裂く浄化の閃光』

 

ライルの高らかな声。スレインも焦る。

だが、クリスのグラビティ・プレスが四肢を拘束しており、解くのに数秒かかる。

その間に、アレンが身体に鞭打ってさらに技を繰り出した。

「らぁ!剛雷戦牙!!」

 

『邪悪を滅ぼす神の槍』

 

「グッ…クク……」

全くの無防備の状態で受けて、スレインは少し後退してしまう。

マズイ、と理性が警告をならした。あれを喰らったら、いくら自分でも待っているのは死だ。

逃げることは出来ない。それはプライドが邪魔をしたし、なにより、あの精霊がいる。

自分の作った結界の外に、更に結界が張ってあるのだ。結界の魔力から判断して絶対にあの精霊の仕業だ。あんな魔法を詠唱しながらこんな結界を維持するとは……間違いなくあれはとんでもない上位の精霊。何で人間などと契約しているかはわからないが……

いや、そんなことよりも、今重要なことは、あの魔法の発動を防ぐことだ。

 

『全てを裁く聖なる雷よ』

 

詠唱がもう半分終わっている!!

「『レイ・シュート!!』」

ルナが、また威力のない魔法を放つ。

「コンナトコロデ死ンデタマルカァ!!」

スレインが少し錯乱気味に、全力で気弾を放つ。

だが、アレンが横から少し剣で押すと、簡単にそれた。

「『大地の精霊よ、空に向け突き出よ!!アースライズ!!』」

気弾を放った直後に、スレインの視界を岩がふさぐ。

「ふん、そんな無茶苦茶な気弾の軌道を変えるのなんか簡単だぜ」

アレンが不敵に言い放つ。その間にシルフィの詠唱パートが紡がれていた。

 

『はるかな昔からこの世に秩序をもたらす、その真なる力を解放し……』

 

 

(マスター、もう少しだよ)

(うん)

ライルとシルフィがテレパシーで短い会話をする。

ガァ!

スレインが、クリスの作り上げた岩を砕く。

「ガァアアアア!!『エクスプロージョン!!』」

スレインのエクスプロージョンによって、土煙が上がり、ルナ達の視界が閉ざされる。

「しまった!!」

それによって出来た隙をついて、スレインが低空飛行によって、壁となっていたアレンを振り切る。

アレンの舌打ちの声も無視して、ライルに近付いていった。

 

我らに敵対する者共全てを……』

 

スレインがぐんぐんと近付いていく。

(トッタ!!)

自分の闘気を刃に変えて、スレインはそう確信した。邪魔な奴らも振りきったはずだ。

まだ間に合う。あとは、術の中心である、この小僧さえ殺せば………

だが、その目的が果たされることはなかった。

 

『『討ち滅ぼせ!!』』

 

キィィィン!!

「グワッ!」

詠唱が完成すると同時に、ライルとシルフィの周りに強固な結界が張られ、スレインの攻撃を防いだ。

見ると、ルナとアレンとクリスにも、同じ結界が張られている。

「こいつはすこ〜し威力が大きすぎるから、これがないといけないのよねえ………」

シルフィがいたずらっぽく笑いながら言う。

「こらシルフィ、集中しろ」

今にも暴走しそうな精霊の制御で、脂汗を浮かべながらライルは手を振り上げる。

「わかったって………じゃ、いきましょうか」

シルフィも同様に手を振り上げる。

「クソォ!クソォォォ!!」

 

『『ライトニングジャッジメント!!!』』

 

「ギャアアアァァ!!」

ライルとシルフィが叫んだ瞬間、空から雷が落ちてきた。

まさしく神の裁きとばかりの巨大な雷は正確にスレインのいるところに落ちた。

もちろんただの雷のハズがなく、半径50km以内の風の精霊を総動員したとてつもない威力の雷である。

ついでに、通常の雷も数十本誘導しており、その全てが対象であるスレインに向かっている。

いくらなんでも耐えきれるはずもなく、スレインは断末魔の悲鳴を上げて一瞬にして消滅してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あんたねえ」

「いや、しょうがないじゃないか」

ルナがはぁと息をつく。

「だって、あれしか手がなかったし………僕だって、もうへとへとなんだよ。倒れそう………」

「マスターしっかりしなよ。とりあえず、夕飯作るまでだけでも」

シルフィがけっこう薄情なことを言う。

「そうだぞ。晩飯を作ったら倒れていいから」

「うん。とりあえずご飯だけはつくってね」

アレンとクリスも続いて言う。

「………僕の存在価値ってそれだけか?」

呟きながら、いそいそとエプロンを身につける。

ライトニングジャッジメントの魔法のとばっちりで、荷物やなにやらは全て吹っ飛んでしまったので、残っている持ち物といえば、各自の武器くらいのものだ。

というわけで、近くの河で捕った魚と、運良く見つけたうさぎをナイフで捌いていく。

「しかしなあ……実際どうするこれ?」

アレンがいままで頭の隅にやっていた事柄に目を向ける。

「どうするって………どうしたらいいんだろうね」

実際、クリスは何もかも忘れたかったりする。それほど、目の前の現実は非常識だった。

「これのおかげで生き残ったわけだから、何も言えないんだけど……」

苦渋の瞳でルナもそれを見つめる。

「う〜ん………前よりは被害が少ないと思うけど………」

「これで言う!?そゆこと言う!!?」

シルフィの呑気な言葉に、ルナが思わず叫ぶ。

彼らの目の前には、かつてタラス遺跡と呼ばれていた土地が広がっていた。

だが、そこには何も建物がない。

かわりに、半径50m以上はあろうかという巨大なクレーターが出来ていた。

「前使ったときは山一つ吹き飛ばしたんだから、まだましでしょ。知ってる?冒険者七不思議のカラバ山クレーター化事件はそれなのよ」

シルフィが大いばりで言う。ルナは頭が痛くなってきた。

「ライトニングジャッジメントなんて……精霊魔法でも最強クラスの魔法だったらもう少し使い勝手がよくてもいいのに………」

「無理ね。下手に威力を集中させようとすると精霊達が暴走してこっちに逆流してくるわ」

こともなげにシルフィが説明する。

「でも、学園長にどう言おう。一応、この遺跡、王家の所有物だし……」

クリスが説明する。

「やばいな……」

アレンが冷や汗を流す。

「でも私達は関係ないわ。やったのはライルとこのバカ精霊なんだから」

「(ムカッ)なんですって?」

「何よ?」

ルナとシルフィの間に剣呑な雰囲気が流れる。

「だぁああ!!ケンカすんな!!」

アレンが慌てて止める。

「ふん!」「ふん!」

同時に顔を背ける。

「さっき会ったばっかなのにどうしてこんなに仲が悪いんだ………」

アレンが愚痴をこぼすが、その原因っぽいやつは今料理中だ。

「実際問題どうしようか。まず間違いなく、僕以外は罰せられると思うんだけど……」

王子である彼は何とかなるかも知れないが、能力が異常でも一般市民であるライルとルナとアレンはやばい。

「「「う〜ん」」」

その場にいるクリス以外の三人が唸る。

何か思いついたように、ルナがクリスも含めた四人を集める。

そして、指を一本突き立てて言った。

「………ばっくれましょう」

その意見は満場一致で可決された。

「できたよ〜」

おいしそうなにおいと共に、のんびりしたライルの声が響く。

そうして、昼、食べられなかったライル達は腹を満たして、早めに寝袋に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとした後日談………

 

 

 

 

 

 

「………じゃあ、あなた達が到着したら、もうすでにタラス遺跡はなかったと?」

「「「「はい!」」」」

ジュディの質問に、元気よく返事する四人。

後頭部にはでっかい汗が一つ流れているが、気付かれてはいない………ように見える。

「現地を調査した人の話では、『超強力』な『魔法』が使われた形跡がある……らしいんだけど」

と、ジュディは疑わしげな視線を向ける。………主にルナにだ。

「知りません!!」

「私たちには全然関係ないです!!」

「なんスか、それ!!」

「初耳です!!」

上から、ライル、ルナ、アレン、クリスの順番である。

その態度が、さらなる疑惑を買っていることに、四人は全然気付いていない。

「…………まっ、いいでしょ。調査隊の人も、あなた達とは無関係の方向で調べるつもりらしいし。………どんな事情があったかは知らないけど、あんまり遊ばないように。いろいろ誤魔化すのに苦労したんだから」

ばっちりライル達の仕業だとバレていたようだ。一つ違うことは、遊びでなくて、命がけだったことだ。

「「「「は、はい………」」」」

だが、素直にそう答えるしかない一同だった。

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