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ライルは、思わず安堵していた。
どうやら、このマジック・コンテストとやらは、あくまで『コンテスト』であって、『トーナメント』とか『バトルロイヤル』などといった物騒な催しではないらしい。
その証拠に、対戦相手を不慮の事故で気絶させてルナが勝利した『ミルク☆デリバリー』の後も、実に平和的な対戦方法が取られた。
いくつか例を挙げれば……
魔法の矢を的に当てる『マジックダーツ』。どれだけ華麗な魔法花火を出せるかを競う『グレート・ハナビスト』。魔法薬の調薬を行う『マジカルドラッグ☆メイカー(違法)』。
どれもこれも、ルナがその破壊力を発揮するには、少々不向きなものばかりだった。
「ごめんなさい、司会さん。貴方はちゃんとここまで考えていたんですね」
ライルは手を合わせて、司会に礼をする。
「いや、でもルナは対戦相手、悉くノックダウンしてるんだけど」
クリスが少し苦笑いをしながら突っ込みを入れた。
一戦目はその不思議料理にて少年を撃退し、二戦目は飛行する瞬間の衝撃波で中年男を撃滅。先程終了した三回戦……準決勝では、魔のケミカルドラッグを作り上げ、異臭だけで対戦者及び観客席前列を気絶せしめた。
今や、大会運営側観客共に、ルナには対戦者キラーという共通認識が生まれている。
「でも、ステージデストロイヤーじゃないだけマシだよね」
対戦者諸君には気の毒だが、これも運が悪かったと思って諦めてもらおう。大体、ライルは常日頃から不条理を感じていたのだ。なぜ、僕やアレンだけがルナのとばっちりを受けなくてはいけないのか。ちょっとそこらのパンピーも、少しは僕らの悲哀を分かち合えっ!
「……あれは、いけないことを考えている顔だね」
「しょうがないなぁ~、ライルちゃんは。割とすぐ暴走するんだから……えいっ」
思考に沈んだライルを、酔っ払いフィレアの真下からの蹴りが現実世界に引き摺り戻した。
第178話「新年祭 後編」
うぉのおおおおおぉぉぉぉおーーーー!?
などという奇怪な声が観客席から聞こえ、ルナはそっとため息をついた。
「……なにやってんの、あいつら」
さっきのは、ライルの声だった。また、どこぞの誰かに折檻されているのだろう。あのうかつな幼馴染は、時々突拍子もない事をして周りの人間にキツイお仕置きをされるのだ。
――などと、その九割がたは自分がしているくせに、ルナは偉そうに思った。
「さぁ! いよいよ決勝戦に移りましょう!」
さっきからテンションが上がりっぱなしの司会が、やはりノリノリで宣言する。
逆に、ルナのテンションは下がりっぱなしだった。マジック・コンテストと聞いて来てみればなんのことはない。ただの大道芸大会ではないか。何が『最強の魔法使いを決める』だ。こんなんで最強が決まったら、『最強』という言葉の定義を見直さなくてならない。
「では、この決勝まで勝ち上がってきた勇者二人を紹介いたしましょう! 赤~コーナー! 流石の実力派。現役宮廷魔術士、シャール・ナレッジさん~!」
シャールと呼ばれた魔法使いが、優雅に手を上げて歓声を上げる観客席に答える。
きめ細かな髪、病的なまでに白い肌、すっと通った目鼻立ち。シャープなデザインの眼鏡が異様に似合っている……まぁ、簡単に言えばインドア派の美形であった。
魔法の実力も相応のものを持っているのだろう。優れた実績を上げた宮廷魔術士に送られる、竜を象った杖を握っていた。
まぁ、ルナに言わせれば、部屋でコソコソ研究ばっかやってる青白い兄ちゃんが、祭りの雰囲気に当てられてノコノコ出てきた、なんて評価であるが。
「青~コーナー! ヴァルハラ学園の破壊神。対戦者キラー。ダイナマイト・ガール(文字通りの意味で)の、ルナ・エルファランさんー」
ギャー、と観客席から悲鳴が上がる。しかし、どことなくこれから起こる事をワクワクして待っているような……まるで、プロレスで悪役(ヒール)が登場してきた時のようなテンションだった。
ルナは、顔を引き攣らせつつも、なんとか答えようと手を上げる。すると、その手の先から我先にと人々が散っていくではないか。
あれか。まさか、この手の先から魔法をぶっ放すとでも思われているのだろうか?
「……納得行かないわ」
事実、ルナに対する諸々の噂(校舎を破壊したり、同級生を黒焦げにしたり、アルヴィニアの兵士一個大隊をぶっ潰したり、上位魔族を倒したり)は、このコンテストのルナの対戦者キラーっぷりから、かなり信憑性のあるモノへと昇華していた。
まあ実際、言い訳のしようもないくらい、完膚なきまでに真実なのだが。
……てなわけで、現在、この客席に集う人たちの気持ちはこうだ。『なんか怖い。でも、見てみたい』
まるっきり珍獣扱いである。
「~~! コラ、司会! とっとと対戦方法決めなさいよっ」
その反応に憤ったルナは、こんな下らない催し、とっとと終わらせてやる、とばかりに司会をせかす。
「はいはい。ルナ選手。決勝戦だからって、そう力まないでください。大体、決勝の対戦方法は既に決まっています」
「なによ!?」
「はい。それでは、ルナ選手、シャール選手。……あなたたち、ちょっと戦ってください」
事も無げに司会が告げる。
一瞬、会場中が静まり返った。
その沈黙の中、あっはっは、という司会の笑い声が響く。
「いやぁ、本当はですね。最初っから最後まで、魔法使い同士のガチンコ勝負したかったんですよ、私ゃ。でも、そりゃ流石に危ないだろって上司に止められちゃって」
ぽりぽりと照れ笑いする司会。
なにやらきな臭い空気に、少しずつ会場がざわざわと騒ぎ始めた。
「ですから、こんなクソつまらない競技会になっちゃったんですが……やっぱり、魔法の華は戦闘ですよねぇ。ですから、勝手にやっちまえ、と思って。でも、途中でやったら絶対止められるじゃないですか? だから……」
司会が、ルナとシャール、二人の見る。
「こうやって、決勝まで待ってたんです。あんな競技でも、流石に決勝まで来るにはそれなりの実力が必要ですからね。どうせ止められて一戦しか見れないんじゃ、みんなに注目されて、しかもレベルの高い試合がいいってことで……」
観客席のざわめきが大きくなる。
ちなみに、そのざわめきの中、ライルは立ったまま石化していたが周りの人はまったく気にしていなかった。
「んじゃあ、ルナさん、シャールさん、よろしくお願いしまっす! あ、もたもたしてると、スタッフが来ちゃうんでとっととやりましょう。レディ・ッゴ!」
投げやりな態度の司会が、適当に開始の合図をして避難をする。
ゆっくりと、ルナの口が笑みの形に、その対戦者であるシャールの口が恐怖に歪んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください、司会さん!? ぼ、ボクはどっちかっていうと研究職で、魔法の戦闘実践とかはあんまり……」
「大丈夫です! 予め、このステージには結界が張ってあります。客席には多分被害は行きませし、魔法ダメージもきっとかなり軽減されますから!」
「今ちっさな声でなんか言わなかった!?」
「いやぁ、他のスタッフに隠れて構築したもんだから予算も時間もなくて……超簡易型の魔力減衰結界なんです。すんません」
ぐだぐだを文句を言うシャールに、司会は無情にも死刑宣告をして去っていった。
魔力減衰と言っても、簡易型だと得られる効力も高が知れている。あの少女相手では、紙の盾程度にも役に立つものか。
シャールは、流石にプロの魔法使いだけあって、ルナの実力を今までの試合などを見て正確に見積もっていた。
恐らく、魔力量では自分のざっと十倍以上。補助系、移動系の魔法式は自分と同程度だが、攻撃系の構築速度及び精度は第一級。身のこなしは魔法使いとしては及第点以上。
知識は……勝っていると信じたいが、アレだけの魔力量を持つからには、天性の才能だけでなく、たゆまぬ訓練と相応の知識が必要不可欠だろう。馬鹿が闇雲に訓練して得られるほど、ルナの魔力は安っぽいものではない。
今すぐにでも、従軍魔法使いとして前線で大活躍できそうなスペックである。
「へぇ、司会。アンタなかなか粋な計らいするじゃない。ようやっと、楽しくなってきたわ」
ニィ、とルナは不敵な笑顔を浮かべる。
「こ、怖い……」
元来、気の弱いタチであるシャールは、それはもう震えた。だが、逃げることはしない。
彼は魔力に恵まれず、それでも魔法使いに憧れ、勉強しまくって宮廷魔術士の『竜杖』持ちにまで出世した人間である。少々のことではへこたれない精神力があった。なよなよした外見に似合わない、ナイスガイなのである。
「くっ、来るなら来い! 観客席に攻撃はさせないぞ!」
ただ、少し先走りが過ぎるのと、思い込みが激しいのが欠点であった。
「……あのね。これは、私とあんたの勝負なの。な~んで、客にまで攻撃しなきゃいけないのよ」
観客席を背後に背負って立つシャールをルナが半眼で睨む。
「え? あ、そうですか」
いや、信用できない、とシャールは警戒したままで観客席の前から動かない。
なんだ、その右手に集まった凶暴な魔力は。それをただ開放するだけで、この一晩で作った安っぽいステージなど、簡単に壊れてしまいそうではないか。
「『き、来たれ不破の盾。我が意、我が導きに従い、』」
「おっそい!」
シャールの防御魔法が完全に発動する前に、ルナの掌から凝縮された魔力弾がすっ飛ぶ。
「『アイギス……』ぶろぉあ!?」
おしい、あと一越えで盾が出来たのに。
発動しかけだった盾を薄皮のように貫いて、ルナの弾がシャールのどてっ腹に炸裂する。
「ぐぎゃぁ!」
観客席から悲鳴が上がる中、吹っ飛ぶシャールはくるくるときりもみ回転をしながら、観客席に飛び込む。
「なんで狙い済ましたようにっ!?」
そして、すぐに逃げられるよう、ビクビクしながら見物していたライルをクッションにしてやっと止まった。
「なに? 終わり?」
軽い様子見のつもりだったルナは、それから動かないシャールを油断なく見据えながら、不満に口を尖らせる。
「……念のため、もう一、二発ぶち込んどいた方がいいかしら」
うわぁああああぁぁぁ! とその呟きを耳聡く聞き届けた観客たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「いや、冗談……なんだ、けど」
なんで、そんなに怖がるかなぁ。私ってそんな怖いかなぁ、と一応、十代の少女であるルナは、少々凹む。
「ちゃんと手加減したのに」
ちなみに、シャールは本当に衝撃で気絶しているだけで、傷はせいぜい掠り傷程度。
何度も何度も何度も何度も人間相手に魔法をぶっ放しているルナは、どの程度なら相手が傷つき、どの程度なら洒落にならないかをしっかり把握しているのだ。
……まったく自慢にはならないが。
「さぁ、あまりにあっさり決まってしまって、正直私も拍子抜けしているのですが、なんにせよ、今回のマジック・コンテスト優勝者は、ルナ・エルファラン選手でした。みなさん、ありが……あれ? 私の上司であるところの大会運営責任者さん? なんでそんな怖い顔……え? 私はクビ? 給料もなし? ちょ、まっ」
「あんだけ変な競技に付き合わされて、優勝賞品が酒一樽ってのはどうなのよ」
ぐびっ、と賞品であるワイン一樽を煽るルナ。
「いやぁ、でもこれって割といいワインだよ。こんなのを一樽って随分頑張ってると思うけど」
大粒のルビーを付けたクリスが、くいっ、と優雅にワイングラスを傾ける。
「あ、アレン。君が呑むとすぐ無くなるから、君はこっちの安物のエールを呑みなさい」
「えぇ? いいじゃん。俺にも呑ませろ」
「わたしにもー」
「いや、フィレア先輩はこっちのオレンジジュースで……」
さすがにこの小さな体にこれ以上のアルコールはまずかろうと、気を利かせたライルが、傍にあったジュースの瓶をフィレアに渡す。
彼が今いるのは、ライルの部屋。
今日がシルフィの誕生日であることみんなに告げると、『よし、じゃあ(それを口実に騒ぐため)祝ってやろうか』と実に心温まるやり取りが行われ、ライルの部屋に突貫することと相成ったのである。
ちなみに、乾杯の音頭が『新年、あけましておめでとう!』であったあたりで、シルフィの扱いについては察していただきたい。
「うう~、なんで、一年に一度の誕生日が、こんな乱痴気騒ぎに……」
とか言いながら、つまみを親の仇のように食べ、大いに呑みまくるシルフィは、これはこれで満足そうだ。
「うがー、わたしにもお酒呑ませろー」
「フィレアー、やめとけー」
「アレンちゃんからも言ってやって!」
「俺も、今日のお前は呑みすぎだと思う。自重しろー」
「わたしにこーんなアルコールも入ってないシケた飲み物飲ませる気なら、アレンちゃんが口移しでー」
「阿呆―。ライルたちの前でんなことできるかー」
いなかったらやんのかよ、とその場にいた全員が思ったが、馬に蹴られたくはないので全員放っておくことにした。このカップルに対して突っ込みを入れることほど不毛なことはない。
「そういえば、ルナさー」
「あに?」
「……やっぱ、なんでもない」
ライルは誤魔化すようにグラスの中身を一気に空にすると、再びワインを注いだ。
あの不幸な青年、シャールが吹っ飛ばしたとき、自分の方へ来たのは偶然なのかどうなのか、なんて聞けやしない。
もし、わざとだったら……どうなんだろう。どう解釈すべきか。
ルナに嫌われているのか、それとも単にやりやすかったからか。もしくは、(ちっともうれしくないが)自分ならあの青年をうまくカバーして怪我はさせまい、と信頼されているのか。
どれにしてもはた迷惑な話ではあるが……
「ま、悪い気はしないか」
いい加減、ルナの相手も慣れてきた。きっと、自分は一生、こんな風にルナの尻拭いに奔走することになるんだろう。嫌じゃないか、と聞かれたら断固として『嫌だっ』と叫ぶが、彼女がいなくなったら、それはそれでつまらなさそうだ。
損な人生だよなぁ、などと自覚しながらも、もうすぐ訪れる卒業式の後も、きっとこのまま変わらないどたばたが来るであろうことに、ほっとしてしまうライルであった。