「と、ゆーわけで。ただいまから『ようこそヴァルハラ学園へ!転入生歓迎会〜ライル編〜』を始めたいと思います!!」
………何でだろう……
「よーし!めしだめしーー!!」
どうしてこの人たちは、僕の部屋で好き勝手に飲み食いしているんだろうか?
「うん。なかなか……ライル、料理上手いね」
「あんたたちー!私の分まで食べないでよ!!特にアレン!!」
しかもどうして主賓の僕が料理しなくちゃいけないんだ?
「むぐむぐ……それはね。ルナが料理しようとしたのを止めたからだろ?アレンも僕も料理はできないし、消去法で必然的に君が料理しなくちゃいけなくなったんだ」
クリス。的確なツッコミありがとう。
だけどルナが料理が出来るというのは間違いだぞ。あいつが作るものを料理と呼ぶのはたとえ世界が滅びようとも、僕は認めない。
「あっ!ルナ、ドサクサ紛れに僕の唐揚げとるな!!」
聞いてくれよ。
「なによー!ちょっと位いいじゃない!!」
「さっき俺がとった時は、烈火の如く怒ったくせに」
「ふん!乙女の食べ物を奪うからいけないのよ!!」
「ちょっと待って。それなら『私も乙女よ。ルナさん私の食べ物をとるのは止めていただける?』」
「クリス!女声を使うのは止めなさい」
もう何がなんだか……
(マスター。強く生きてね)
ちゃっかり自分の料理をキープして避難しているやつに言われたくないやい。
第9話「嵐の宴会模様」
「へ〜。じゃあアレン以外はみんな寮生活って事か」
「そ。こいつだけセントルイスに家があるの」
とルナ。
「剣術道場だっけ?」
以前聞いたことを思い出し、ライルが尋ねる。
「ああ。よかったらお前も通うか?」
「遠慮しておくよ。月謝を払えないし」
すでにアレン以外は満腹になったのか、談話モードに入っている。
「大変だね。生活保護を受けている人は」
「クリスはお金持ちだからいいよなあ」
「そうでもないよ」
「あんだけ持っててよく言うよ」
そう言って、自分で煎れた紅茶を啜る。
「それにしてもいい葉使っているわね」
ルナが感嘆して言う。
「まあね。ライル君スペシャルブレンドだ」
本当は、シルフィ直伝、精霊界の特製製法である。
「ふ〜ん。少し分けてよ」
「あ、僕も欲しいな」
ルナとクリスの二人がねだる。
「……まあ少しくらいならいいけど」
アレンは紅茶には興味ないらしい。
「そういえばさ、ライルってここに来るまでは何処で暮らしてたんだ?」
アレンが尋ねる。
「あ、そう言えば私も山奥ってだけで何処で暮らしてたかは聞いてなかったわね」
「ああ、僕が住んでたのはアーランド。アーランド山」
「ええと……たしかここから馬車で四日くらいの所……だったっけ?」
クリスが、合ってる?と言う目で見る。
「うん。そこで一人暮らし。結構大変だったけどね」
「ふ〜ん。よくやるなあ」
感心したようにアレン、
「でもさ、一人で寂しくなかった?」
ルナが尋ねる。
「別に。それほどでもなかったかな」
「ふ〜ん。結構寂しがり屋に見えるけどなあ」
と、クリス。
(私がいたからね)
(……まあそうなんだけど)
(およ?マスター、やけに素直じゃない。いつもなら「そんなことはない」って言ってる場面だよ)
(否定しようにも事実だし)
「と、まあライルの身の上話はここら辺で終わりにして」
ルナが、割り込むように声をはさむ。
そして、懐からばかでかい袋を取り出し……
「って、お前それ何処に持ってた」
「アレン。細かいことは気にしない。やっぱり宴会と言えば、これが無くちゃね」
ふふふ…と不気味に笑う。
そして、一時間後。
「飲めー!歌えー!騒げー!!」
ルナは、かなりイっちゃっている。
「うまい!こらうまい!!」
アレンはアレンで、もの凄い勢いでテーブルの上のものを食べている。
「ムグムグ……」
クリスは一人、マイペースに食べている。
そしてこの宴会の主役であるライルはと言うと……
「うー…僕だってねえ…もう少しわらぶき屋根のおうちでサボテンを育てていたかったんだよ……でも…でもお菓子の王国の女王様が…」
(は、はあ……)
ルナがどこからか持ち込んだ酒に酔って、シルフィ相手に得体の知れない会話をしていた。
シルフィは姿を消しているため、端から見ると、空中に話しかけるアブナイ人だ。
よく見ると、『ド根性』と書かれた一升瓶を小脇に抱えている。
ちなみに、他の三人もすでに酔っている。
「では!一番ルナ・エルファランいきまーす!!」
懐からマイクを取り出し、ルナがイスの上に立つ。
ちなみに、ここで言うマイクとは、声を拡大するマジックアイテムである。
「おー!歌え歌えー!!」
と、アレン。食い物に目を奪われ、この中では一番飲んだ量は少なかったはずなのに、見事なまでに酔っている。
「ぱちぱち……」
クリスは口で言いながら、ちびちびと、ライルの料理をつまみにワインを飲んでいる。
「………!!………!!」
狭い部屋にルナのシャウトが響き渡る。
すでに歌と言うよりは単なる叫び声だ。
「でね……ミイラを作るときはやっぱり八丁味噌の配合が大事なんだよ」
淡々とライルが語る。周りの喧噪など、耳に入っていない。
(ああ……もう何がなんだか……)
特製の遮音結界(文字通り、音が通らないようにする結界)を自分の周りと部屋全体に張りながら、一時間前のライルと同じ台詞をのたまうシルフィであった。
それから深夜遅くまで、ライルの部屋の明かりが消えることはなかったという。
シルフィの機転により、他の寮生から苦情が来ることはなかったが、その部屋で展開された光景は……
「まさしく地獄絵図だったわ」(byシルフィリア・ライトウインドさん)
とのことである。
後日。酒を飲んだことが、教師に知れ、四人はこっぴどく叱られたのだが、それはまた別の話。