午前中の授業が終わった。

そして僕は、ルナ、アレンの2人と共に食堂に来ていた(リムさんは自分のパーティーのメンバーと食べるらしい)。

ここは値段も安く、味もそこそこと言うことで、結構人気があるらしい。

事実、とても安かった。

しかし…

「いくら何でも多すぎじゃないか?」

そう、目の前には10人前はあろうかという食べ物の山があった。

 

第6話「ライルvsアレン」

 

「そうか?普通これくらい食べるだろ?」

いや!いくら何でも多すぎだ!

僕も結構食べる方だが、これは人間の限界を超えている。

「そんなに買って、残しても知らないぞ」

そう忠告しておいて、自分で買ったA定食を食べ始める。

これはパン2個とクリームシチュー、それからサラダのセットだ。

しめて20メルなり。

「その心配はないと思うわよ、ライル」

そういって僕と同じA定食を買ったルナが言う。

「でも、いくら何でも…」

「じゃあ見てみなさいよ」

そういってアレンの方を指さす。

そこには……

 

「うりゃああぁぁぁぁ!!!!」

 

無駄にでかい声を張り上げながら人知を超えたスピードで食っているアレンの姿があった。

「んなっ!!?」

バクバクバクバクバク

ちゃんと噛んでる…飲み込んでいるわけじゃないんだな。

て言うか、何で叫んでるんだ?

などとどうでも良いことを考える。

「あはは、やっぱり驚いた」

ルナが脳天気に言う。

だが、驚くなという方が無理だ。

「もう食堂の風物詩みたいなもんよ」

確かに周りを見てもこちらを見ている者はいない。

(世の中にはまだ人の知られざる世界があるのね)

僕の服の内側で、パンを食べているシルフィが言う。

「まあすぐに慣れるわ」

ルナはそういうが…

(慣れることはないだろうな)

(同感)

「なんだお前ら、まだ食ってるのか?」

もう食べ終わったらしい。

ちなみにこれまで3分とかかってない。

「さっさと食えよ。午後はずっと戦闘訓練の授業だぜ。

準備運動もしなきゃなんないだろ?」

そういえばそうだった。

「それでもあそこまで早く食べる必要はないんだけど…」

ルナが呆れたように言う。

「まあ出来るだけ早くするけど…」

それでもあと5分くらいはかかりそうだ。

「おう。でも俺ももう少し食べとくかな

少しもの足りん」

こ、この上まだ食べるのか?

そのあと、アレンがもう2,3人前食べてから、僕たちは訓練場である第2体育館へ移動した。

ちなみに僕たちはアレンの食べっぷりを見て腹一杯になった。

 

 

 

「お〜しやるかぁ!」

やる気満々のアレン。それとは対称にルナは…

「はぁ〜だるぅ」

やる気ゼロ。

「おいおい、もっとしゃっきりしないと怪我するぞ」

「私、肉弾戦は苦手なのよぉ」

「でも準備運動くらいはちゃんとしないとダメだ」

「わかってる…」

そうして、ルナは渋々準備運動を始める。

「しかし、結構いい設備だな…」

第2体育館はむやみに広い。

クラス全員で約40人。

だが、100人くらいいっぺんに訓練しても大丈夫そうだ。

そして、倉庫には刃を潰して殺傷力を除いた剣やら弓やら槍などが大量にあった。

戦闘訓練の授業があるなら自由にとっていいらしい。

ちなみに僕とアレンは剣。ルナは槍をとっている。

自分の武器があるにはあったが、さすがに危険だからな。

「ふう、こんなもんかな」

準備運動を終えたらしいルナが槍を構える。

突き、払いなどをダミー人形に繰り出す。

肉弾戦は苦手といっていたが、別にそれほどひどくはないと思う。

僕も準備運動を終えて、素振りをする。

まだ早い時間なので第2体育館には、誰も来ていない。

「なあ、ライル」

いつの間にかアレンが僕のすぐ近くに来ていた。

「なに?」

素振りを中断して尋ねる。

「少し試合をしてみないか?」

「は?」

「いや、お前がどのくらいの実力か知っておきたいし、時間も十分あるしな」

「いや、でもまずいんじゃないか?」

「ばれなきゃ平気さ」

つまりばれたらまずいことらしい。

(良いんじゃない?マスターも私とばっかり訓練していたし)

ものすごく意外だが、シルフィはこう見えて僕の剣の先生である。

何処で習ったのか知らないが、かなり強い。

基礎はすべてシルフィから習った。今でもまだかなわない。

(いや、でも…)

(れっつごーマスター!)

シルフィはのりのりだ。

「で、どうする?」

「面白そうだしやりなさい」

僕の周囲はすべて賛成派。

おまけにルナが「やらないとぶっ飛ばすわよ?」という目で僕を見ている。

昔からこういうのが好きだったな、そういえば…

まあ、僕に選択の余地はなかったということだ。

 

 

 

「じゃあ、さっさとやろう」

「……OK」

もうどうにでもなれという気分で練習刀を構える。

「がんばれ〜!」

(一気に行けマスター!)

少し離れて無責任に声援を飛ばす2人。

しゃあない、やるからには全力で行くぞ!

「おし、やるか!お〜いルナ。開始の合図を頼む」

そういってアレンも構える。

「わかった。それでは…始め!」

 

 

 

まず仕掛けたのはライルであった。

一気に間合いを詰めて斬る。

だが、アレンはその斬撃をやすやすと受け止め、押し返す。

「はぁ!!」

気合いの入った声と共に、アレンの打ち下ろしが一瞬前までライルのいたところに突き刺さる。

すでにライルはアレンの間合いの外に逃げていた。

「速いな…」

アレンがそっとつぶやく。

「それほどでも…」

そういいながら、ライルは再び構える。

今度はアレンが仕掛けてきた。

ライルほどではないが、それでも十分なスピードで近寄って、振りかぶる。

「がっ!!」

ライルの口から苦悶の声が上がる。

アレンの攻撃を剣で受け止めたがパワーでは圧倒的にアレンが有利らしい。

支えきれなかった衝撃がライルの体に走る。

続くアレンの攻撃を何とか捌くが、腕がしびれて、なかなか攻撃に移れない。

「たっ!」

ライルはアレンに蹴りを入れ、その反動で距離をとる。

少したつと腕のしびれも抜けてきた。

(よし、いける!)

そう判断してライルは駆け出す。

スピードでは自分が勝っていると悟って、フェイントを織り交ぜアレンを翻弄する。

だが…

(入らない!)

そう、ライルの攻撃は一つもアレンに当たらないのだ。

すべて受けるかよけるかされ、アレンにダメージを与えられない。

確かにスピードではライルが勝っているが、ことごとく先読みされているのだ。

純粋に剣の腕で負けている。

(これは…勝てないかな?)

 

 

 

ライルが考えているほどアレンに余裕があるわけでもなかった。

(くそ〜、全然とらえきれん!)

カンと先読みで、なんとか捌いているが、はっきり言っていつまでもつかわからない。

一撃、受け止めたと思ったら、もう真横に移動しているのだ。

とてもじゃないが追いきれない。

(こうなったら…)

アレンは賭けにでることにした。

 

 

(なんだ?)

ライルの突然変わったアレンの気配に戸惑った。

高圧のプレッシャーがアレンの体から放たれている。

(なにか…やばい)

そう思ってライルはいったん離れようとする。

…が、遅かった。

一瞬アレンの体がぶれたと思うと、ライルの目の前に現れていた。

「クロウシード流剣技!!剛雷戦牙!!!」

そのあとアレンの繰り出した斬撃にライルは吹き飛ばされ……

思考はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりやりすぎたんじゃ……」

「そうは言うけど、ああしなきゃ俺負けてたぜ。だいたい俺だって体中が痛いんだって……」

「それはあんたの自業自得でしょうが!」

なんだ?

なにやらうるさい話し声が聞こえる。

頭がぼーっとして考えがまとまらない。

とりあえず閉じていた目を開ける。

目の前に男と女の二人組がいた。

男の方は嫌にぐったりしている。

「あっ!ライル目が覚めたの?」

「大丈夫か?」

「自分でやったくせに」

「うるさいな」

その二人はなにやらケンカを始めた。

ええと…僕はどうしたんだっけ?

(そのアレンっていう人にこてんぱんにのされたのよ)

そうだった。戦闘訓練の授業の前にアレンと軽く試合したんだった。

それで吹き飛ばされて……負けたんだろうな……

(そう、見事な負けっぷりだったわ)

うるさいな……

だいたいお前は誰だ?人の頭の中でごちゃごちゃと……

(まだ混乱してるの?全く……肩の所を見て)

言われたとおり見てみると、人形くらいの大きさの女の子が浮かんでいた。

(シルフィ)

(そう。マスター目、覚めた?)

(ああ)

やっと脳が活動を始めた。

(マスター相当混乱していたみたいね。思考がだだ漏れだったわよ)

そう。僕は精神が不安定になるとシルフィに考えを読まれたりする。

普段のテレパシーではそんなことは起こらないのだが…

「ライル、大丈夫?」

気づくとルナが心配そうに僕の顔をのぞき込んでいた。

まだぼーっとしていたらしい。

全然気づかなかった。

「あ、ああ。大丈夫」

よっと立ち上がる。

周りを見てみると同じクラスらしい人が何人か来ていた。

それぞれ思い思いに準備運動をしたり雑談したりしている。

「僕、何分くらい気絶していた?」

「5分かそこらだったわよ」

「そう」

「……すまなかったな」

申し訳なさそうな表情でアレンが謝る。

「別に良いよ。僕が負けただけなんだし」

「良くはないでしょ。ヘタしたら死んでたんじゃない?」

「そういえば最後の技はなに?なんか急に強くなった感じがしたけど……」

「ああ、あれはな、うちの実家剣術道場だって話はしたよな?それで、その剣術って言うのが剣と気功とを組み合わせたやつだから……」

なるほど、それで肉体の能力を一時的に上げたって訳だ。

「いやあ、俺はまだ未熟だから全身が筋肉痛だ」

ははは、とアレンが笑い飛ばす。

それはそうだろう。

気功で肉体の能力を上げるなんて真似はそこいらの騎士でもできはしない。

………実際一度シルフィに教わって試してみたときは、2日ほどベッドから動けないくらい疲労した。

実はこいつってものすごいんじゃ……

「さて、そろそろ授業も始まるぜ」

アレンの言葉に反応したように、担当のハイン先生が入ってきた。

---

前の話へ 戻る 次の話へ