第1話「ある少年の生活」

 

(退屈だな…)

ふとそんな思いに駆られる。

毎日朝起きて畑をいじって、狩りに行き、その日の食べ物を確保して、午後は森で遊んだり昼寝や鍛錬をしたりして過ごす。

夜になればお茶を飲みながら母の残してくれた本を読む。

平和な生活だと思う。しかし変わり映えのない毎日。唯一面白いと思えるのは剣術と読書。しかし普段魔物もほとんどでてこないので張り合いがない剣術。そしてこんな山奥では新しい本など手に入るわけもなく、今読んでいる歴史小説ももう何十回読んだかわからない。

2年ほど前、一緒に暮らしていた母が逝き、一人で暮らしている僕。だがそろそろ一人暮らしも限界に来ているのかもしれない。

「何考えてんのマスター?」

(前言撤回)

一人暮らしではなかったなと目の前でお気に入りの紅茶を飲みながらほけ〜としている人物を見ながら思った。

いや人物というのは間違いか。

目の前の奴は髪の毛は淡い緑、ほっそりしていてなかなかかわいい部類に入る顔だとは思う。

しかし身長が15cmくらいで、しかも羽まで生えている。

こいつの名前はシルフィ。本名はシルフィリア・ライトウインドとか言うらしい。僕と契約している風の精霊だ。

かなり上位に位置する精霊らしいが、僕が作ってやった専用のカップを持ってテーブルの上に座っている姿からはとても想像がつかない。

「まあ…今の生活について少々……」

「あっ、毎日の生活に刺激を求めているわけね?」

この辺はさすが5年も付き合ってきた相棒なだけある。僕の気持ちをぴたりと当ててしまった。

「まあそんなところさ。こう平凡な生活が2年も続けば仕方がないだろう?」

「だからマスター。町に移ろうって私がいつも言ってるじゃない」

「でもなぁ〜…」

それには一つ問題があるのだ。

お金だ。少しは両親が残した金が残っているが、町で生活しようとしたら3日で底をつくほどのものだ。

働こうにも僕は今15歳。この国の法律では18になるまでは働けない。理由は『多くの若い才能を潰してしまわないため』と言うことである。

つまり18歳になるまでは学問なり、武術なり、魔法なりの勉強に時間をとれと言うことらしい。

よって生活費が稼げないのだ。これでは町で生活するなど到底不可能だ。

「まあ18になったらな…」

「いつもそう言うんだから。もう少し現状打破に意欲を燃やしたら?」

僕の目の前まで飛んできてシルフィが言う。

確かにそうしたい所なんだが…

「仕方ないだろ。具体的にどうしろって言うのさ?」

「それは…」

何も考えてなかったのか、どもるシルフィ。

「ハイ、この話はおしまい。そろそろ僕は寝るよ。」

壁に掛かっている古びた時計を見るともう11時。明日も早いのだ。早く寝ないと。

「全く…じゃあマスターおやすみ。また明日ね」

「おう、おやすみ」

シルフィは専用のベットに飛んでいってさっさとねてしまった。

僕も自作のベッドに潜り込んでさっきの会話について考えていた。

(町へ…か。本当にできることならそうしたいんだよ…)

それから急に眠気が襲ってきて、この家の南に3歩行ったところには宝箱が…などと訳のわからん話に思考回路が脱線したので、強制的に脳の活動をシャットアウトした。

 

 

 

「マスター起きて…」

ううん、なんだ?

「起きてってば!」

何かが僕の顔をたたいてる…

 

「起・き・ろおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

「って!痛い痛い痛い!!!」

 

がばぁ!

僕は布団を跳ね上げて飛び起きた。

「一体何するんだシルフィ!!」

「あっ、起きた」

僕の耳をつねっていた手を離してシルフィが言う。

……って!シルフィが僕より先に起きてる!?いつも僕が起こすまでそれこそ冬眠中の動物よろしく寝ているシルフィが!?

「マスターが私のことどう思っているか、よっっくわかったわ…」

「なにぃ!心を読まれた!?」

「声に出してたわよ…」

心底あきれたようにシルフィが言う。失敗失敗。あまりに予想外の出来事に直面したせいで少し混乱してたようだ。

「私が早起きしたんじゃなくて、マスターが寝坊したの」

「へっ?」

外を見ると確かに煌々と太陽が輝いている。

「今まで寝坊なんかしたことなかったのにどうしたの?」

「いや…疲れてんのかな?」

そんなことはないと思うのだが。

「せっかくだし今日は一日ゆっくりしたら?食料も蓄えはたくさんあるし」

「そうだな…」

たまにはそんなこともいいかもしれない。

それに自覚がなくても体が疲れているのかもしれないし。

そういうわけで僕は今日一日休むことにした。

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