「アホか、お前は」

……今日から夏休み。ヴァイスの家に遊びに来て、リアに俺のことがばれたことを話すと、やつは一言の元に斬り捨てた。

「第一、   気絶してるかしてないかくらい、少し気をつければわかるだろう」

「……うるせえ」

確かにもう少し冷静になっていれば気付いてたはずだ。だが、こいつに指摘されるのはムカツク。言葉にも、ついつい殺気が混じったりして……

「……で?どうしたんだ」

「……一応、説明して、口止めしといた」

リアが変な風に誤解しても困るので、最初から最後まできっちり教える必要があったのだ。リアはあっさりと信じて「すごいですね〜」の一言で片付けたが。……変に避けられたり騒がれたりしても困るが、もう少し別のリアクションをとるだろう、普通。

「信用できる子なのか?」

「……信用は出来るんだが……」

ただ……。あいつは嘘を付くのが非常に下手である。ついでに、とてつもないうっかりさんである。誰かが俺のことを怪しんで、更にリアに聞いたとしたら……。

はっきり言ってばれる可能性は高い。そうならないことを祈るばかりである。

「ただいま〜」

狩りに言っていたアミィが帰ってきたようだ。……相変わらず、でかい獲物を担いで。

 

第13話「人外の決戦」

 

「ふ〜ん。ルーファスも大変だ」

「大変なんだ」

最初に訪れたときと同じように、飯をご馳走になる。

昼だというのに、やたら豪勢な料理だ。俺が来たからか?と思ったが、これでいつも通りらしい。

「でも、楽しそうだね。おじいちゃん、私もヴァルハラ学園に通ってもいい?」

なにを言い出すか、こいつは。

「別に構わんが……。その前に、基本的な算術くらい覚えろ」

あっ、アミィのやつ、聞こえないふりを決めこみやがった。

「なんだ、やたら戦闘力は高いくせに、勉強は全然なのか?」

「ちっ、違うもん!できないんじゃなくて、やらないだけだもん!」

「それを人は強がり、もしくは言い訳というのだ」

「ルーファスの言うとおりだ。アミィ、ヴァルハラ学園に通うにしても、通わないにしても、最低限の勉強は出来るようにしろ」

ヴァイスも忠告するが、

「……ふんっ」

今度は無視を決めこみやがった。猛烈な勢いで、料理を平らげていく。

だが、某本編の主要キャラや村娘でもあるまいし、胃袋に関しては常人の域を出ないアミィではすぐ限界が来る。

「無理するな」

のどを詰まらせたらしい。仕方なく、『クリエイトウォーター』で水を作り、コップに注いでやると、すぐに飲み干す。

「……ありがと」

そんな感じで、昼食の時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

「で……だ。今日ここに来たのはもう一つ目的があってな。一つ、頼みたいことがあるんだが」

昼食が終わった後、俺はそう切り出した。

「なんだ、改まって」

「鍛え直すから、修行に付き合ってくれ」

「……フレイにでも頼め」

「あいつはダメだ。剣の勝負しか頭にない」

実際、一度頼んで見たが、魔法を全然使わない。どうも、剣にこだわりすぎている。

「大体、今更なんで鍛え直したりする必要がある」

「なんか勘が鈍っているんだよ。だから、実戦の感覚を取り戻すまででいい」

先日のドラゴン5匹との戦闘も、戦闘それ自体は楽勝だったが、本来なら、危険を察知して回避することも可能だったはずだ。

そのために、リアに正体がバレるという失態を侵してしまった。

「……まあ、200年間も休眠状態だったんだからな」

「だから、同程度の実力のやつと一戦やっておきたいんだよ」

「同程度って……。儂も随分買いかぶられたもんだな。わかった。だが、一回だけだぞ。これでも八百年は生きている老人なんだから」

「了解、じゃ、早速……」

そう言って、家の外にでようとすると、ヴァイスに止められた。

「おい、こら待て」

「……なんだ?」

「外で儂らが全力でやったりしたら、ここら辺焦土になるだろうが。お前の亜空間でやるに決まってるだろ」

……これはうっかり。

「わかった。入り口を開くから」

指で、空間に円を描くと、俺の世界へ続く道が出来る。

この向こうは戦闘用フィールドが広がっていて、そこなら全力でやれるのだ。

ちなみに、“家庭菜園”とはまた別の空間である。

「私も行っちゃだめ?」

後かたづけをしていたアミィが聞くが……。

「死にたくなかったら来るな」

余波だけでアミィくらい簡単に吹っ飛ばしてしまいそうなので遠慮願う。

「そ、そんなに激しいの?」

「激しいのはルーファスの方だ。儂は自然環境に優しいぞ」

「よく言う。アミィ、いいことを教えてやろう。こいつ、昔モンスターに完全に占拠されたでかい森一つクレーターに変えたんだぞ」

過去の恥部をばらしてやると、ヴァイスも言い返してきた。

「なにを言うか。貴様も魔法一つで、魔族の軍勢3000からを壊滅させたことがあるだろうが」

「……あの時は、下級魔族だけだったし」

そこで、アミィが呆れたように呟いた。

「どっちもどっちよ……」

そうかもしれない。

 

 

 

 

 

「……さて、始めるか」

結局、アミィも命は惜しかったらしく大人しく留守番ということになった。

一面の不毛な大地。ここが、ルーファスの戦闘用亜空間。ここが使われるのも200年ぶりである。

「しかしなあ……。正直、儂じゃあお前の相手は務まらんと思うが……『ファイヤーボール』」

いきなり、不意打ち。一抱えもありそうな火球が数十個、ルーファスに殺到してきた。魔法というのは、使うものの魔力によって同じ魔法でも差がでる。ここまでのファイヤーボールをひねり出せるのは、今の時代の人間ではこの場にいる二人だけだろう(ヴァイスは人間でないが)。

だが、もちろんこんな様子見の一撃で倒れるはずもなく……

「うりゃ!」

爆煙を隠れ蓑にして、死角からルーファスの蹴りが繰り出された。

スカッ!

「はい?」

「幻像だ」

あらぬ方向からヴァイスの声がする。どうやら、幻を魔法で作り出したようだ。

恐ろしいことに、もう次の魔法の詠唱も完了していた。

「『カオティック・ボムズ』」

この前のウォー・ダークドラゴンも使っていたカオティック・ボムズである。無論、威力は比べものにならない。

これが通常空間なら、ヴァイスの家がある森など吹っ飛んでいるところだ。

間違いなく直撃。だが、ヴァイスは更に魔法を続ける。

……高速詠唱(クイックロード)と呼ばれる詠唱技術がある。通常の詠唱を、独自の圧縮言語により唱えることで大幅な時間短縮を可能にする。

詠唱省略とはまた違うので、威力が落ちたりはしないが、魔法に適した思考構造を持つ一部のハイエルフにしか使用が出来ない。

そして、ヴァイスはこの高速詠唱の数少ない使い手であった。

「……『グラビティ・プレス!』……『ライトニング・ファランクス!』………『クリムゾン・フレア!!』」

一つ唱えるのも難しい高等魔法が三連発。ルーファスがいるであろうポイントに炸裂した。

ヴァイスは恐らくかわしているだろうと予想していた。

だが、煙が晴れた後、予想を裏切りルーファスはまだそこにいたままだった。……風の精霊力を異常なまでに増大させながら。

「しまっ……」

「『……我らに敵対する者共全てを討ち滅ぼせ。……ライトニングジャッジメント!!』」

瞬間。天空を貫くような稲妻の柱……というより塔がヴァイスに突き刺さる。

さすがに、無事で済むはずもなく、

「き、貴様、儂を殺す気かぁ!?」

服がちょっぴり焦げていた(笑)。

「ぜ、全部無効化しておいてそういうこと言うか!?」

「ばかもん!もう一瞬反応が遅かったら黒こげになっとったわい!!」

「……まあ、それはおいといて……」

「おいとくな!」

「さっきので仕留められないか……。やっぱり、あんた相手に魔法勝負は不利だな」

言いつつ、ルーファスは自身の剣、レヴァンテインを取り出す。

「話を逸らすんじゃない! こっちはちゃんと死なないように気を遣ってんのに……」

「問答無用!」

ルーファスは、剣を大上段に振りかぶり、突進していく。

「もっと老人を労らんかい!」

「くらえええ!」

渾身の魔力をこめたヴァイスの一撃と、ルーファスの剣が激突。

結果……大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな様子を、ヴァイスから渡された水晶で見物していたアミィ。その中では、ルーファスとヴァイスが熾烈な対戦を続けている。

なんでも、「てれび」とかゆうマジックアイテムらしい。

「……人外大決戦ね。っていうか、おじいちゃん、性格変わっているような……」

素朴な疑問を浮かべるが、実を言うとこちらの方がヴァイスの素の性格である。

「……にしても、おじいちゃんが勇者の仲間だったって事、初めて納得できたような……。さらに、納得できないような……」

孫にいたずらばかりする、少し魔法の得意な変なエルフ。

それがアミィの客観的に見たヴァイス像である。それでも、普段はそれなりに威厳というものがなくはないような気がする。

だが今の水晶の中のヴァイスは……。はっきりいって、ただのやかましいじいちゃんだ。いや、“ただの”ではないが。

戦闘力はいやというほど納得させられた。だが、性格の方はとてもそんな偉大な人物には見えない。

「まあ、ルーファスの方も五十歩百歩なんだけど……」

たまに訪れるごくごくふつーに見えるにーちゃんも、やはり一般人ではなかった。

正直、彼がかつて世界を救った勇者などと半信半疑……っていうより、かなり疑わしかったのだが……。

信じざるを得なかった。

「ま、どうでもいいか」

この一言で斬って捨てるあたり、将来なかなかの大物になりそうな予感である。

「ルーファスもどうせ晩ご飯食べていくだろうし、狩りにでも出よっかな」

腰に似合わないごついナイフを携え、狩猟用の弓を持ち、「てれび」のスイッチをオフにして(と、いうより魔力の供給をストップして)外に出ていく。

外に繋がるドアを開けると……

「こんにちは」

まるで、待ち構えていたように一人の女性が外に立っていた。

金髪碧眼。目の覚めるような美人で、仕立ての上品なドレスを身に纏っている。

(この格好で森を突っ切ってきたのか?)

アミィの疑問ももっともで、ヴァイス家はいろいろうっとうしい来訪者を避けるため、森の奥深くに位置している。とてもではないが、ひらひらしたドレスではずたぼろに汚れるのが関の山だ。

だが、その女性……に見えるのはアミィだからで、実際はルーファスと同年代程度だが……のドレスは全然汚れていない。

「……あんた誰?」

「ああ、言い忘れていたわね。あたしは、サレナ・ローラント。一応、ローラント王国の第一王女。ヨロシク」

容姿に似合わず、ずいぶん軽い性格だな、とアミィは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ルーファスあんどヴァイスはと言うと

 

 

「喰らえ! ダブルインパクト!」

「そんなもんが儂に効くかぁ! 『カオティック・ボムズ!』」

まだファイトを続けていた。

ルーファスが一瞬で二連撃をたたき込もうとすると、ヴァイスが魔法で吹っ飛ばす。

ちなみに、現在の戦況はというとほとんど互角。

この人外大決戦はまだまだ続くっぽい。

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