紅魔館の大図書館。
 一応、ここの主のパチュリーの弟子として僕に与えられた本棚の小さなスペース。

 コツコツと書き溜めた写本が数十冊と、個人的なまとめノートがこれまた数十冊。パチュリーのそれに比べれば悲しいほどにお粗末だが、僕のささやかな魔術師としての財産である。

「……増えたなあ」

 弾幕ごっこでは、熟練した数種のスペルカードを使い回している僕だが、実のところそれなりに色々出来るようにはなっている。
 属性的に得意分野というものがないのだが、その分広く浅く、興味の惹かれるまま色んなものに手を出した。メインはあくまで精霊魔術なのだが、おかげで習得しているカテゴリーだけは広い。

 まあ、練度と言えば、殆どの分野が初心者レベルで止まっているわけなのだが。

「そろそろまとめ直したほうがいいかな」

 んで、実のところ、自分でも一体何が出来てなにが出来ないのか微妙になっている。ほら、一番古いノートの中身など、こんなんやったっけ? って感じ。
 気分的には、大学生の頃、高校の時習った数学をまるで思い出せなかった感覚に似ている。使わないと忘れるよね。こういう時、阿求ちゃんの求聞持の能力は羨ましい。

 パラパラをノートをめくり、あー、こんなこともやったなあ、と懐かしい気分になる。

「なに?」
「のわっ!?」

 いきなり後ろから見られて、僕は飛び上がった。
 振り向いてみると、我が師匠が興味深そうに僕のノートを覗き見していた。

「な、なんだ、パチュリーか」
「それ、貴方の研究ノートよね。まとめるの?」
「研究ノートっつーか……まあ、そうだけどさ」

 ぽりぽりと頭を掻く。
 パチュリーの書く、見ているだけで頭が痒くなってくるような難解な論文に比べれば、お子様のお絵かきノートってなもんなんだが。

「そういえば、それ見せてもらったことないわよね」
「いや、僕、普段の字汚いからさ……」

 板書や、仕事の書類なんかは丁寧に書くのだが、このノートは走り書きもいいところだ。割と速筆な代わりに綺麗さを犠牲にしている。見せるのは恥ずかしい。まあ、写本の方は、一応それなりに丁寧に書いてあるけれども。

「ふーん」

 と、パチュリーは無遠慮に、本棚に挟まったノートの一つを手に取った。

「あ、こらっ」
「別にいいじゃない。弟子の成果を見るくらい。それに、このくらいの悪筆は可愛いものよ」

 ……っはあ。まあいいけどさ。別に、落書きをしているわけでもないし。
 つまんないとは思うけど。

「へえ、貴方、魔眼の研究なんてしてたの」
「う゛」

 あ、あのノート、魔眼のやつか。アレは、ノート数冊まるまる使うほどハマってたな、一時期。

「ま、まあな」
「便利だけど、後天的には難しいんじゃない。……ああ、貴方は死なないんだから、ちょっと無茶な肉体改造でも平気か」

 御伽話なんかでも有名な所謂魔眼は、種類が多い。大きくは二つに分けられて、ここんちのレミリアを筆頭とした吸血鬼が持つ魅了の魔眼に、石化や金縛りなんかの相手に干渉する能動タイプ。後は『本来見えないもの』……幽霊や未来の映像なんか見る受動タイプ。
 まあ、要は、漫画やゲーム、アニメでよくあるやつは、大抵はある。

 ……んで、魔が差して、使えたら格好いいなー、という動機で研究を始めたのだ。

 だけども、この手の変な目は血筋や種族に依存するものが多い。まあ、成果は大したことなかった、と。

「……色彩変更。赤と青のオッドアイに成功。代償は視力の喪失……?」
「うが……」

 パラ読みの癖にちっちゃく書いた最終成果の書き込みを見つけやがった。

 そう。実は研究は微妙に成功していた。そのため、僕は魔眼持ちである。
 目に霊力を通すと、赤と青のオッドアイになるのだ。そして、代わりにその間は目が見えなくなる。

 効果は……その、見た目が格好いい?

「良也……もしかして貴方、こんな無駄な研究ばかりしているんじゃないでしょうね? 私が目を離している隙に」
「む、無駄とはなんだ。これはこれで、多分コスプレする時とかに便利だぞ。後、お前、目を離すというかこっちに目を向けてきたことないだろうが」

 一応、反論する。……反論になっていない気がするが。

 そして、無駄で非効率なことを嫌う魔法使いであるところのパチュリーは、弟子のしょうもない研究にご立腹なのかなんなのか、有無を言わせぬ口調で、

「ちょっと他のノートも見せてもらうわよ」
「……はい」











































 そしたらまあ、出るわ出るわ。自分でも、こんなことしたっけ? 酔っ払ってたのか当時の僕、と思うような研究成果(?)がどっさりと。

 いちいち上げていくならば……

 魔法少女ばりの、一瞬にして衣装が変わる『変身』が可能になるステッキの開発。
 可愛い(ここ重要、と強調されていた)な使い魔の作成。
 漫画必殺技シリーズ、『竜○斬』『七鍵○護神』『メド○ーア』になぜか『光魔法○ラキラ』。

 等々。

 ちなみに、これら三つは、一つ目は技術的な問題で、二つ目は倫理的な問題で、三つ目は僕の霊力出力の関係で頓挫したものである。やる前に気付けと言いたい。

「……にしては、けっこう長いこと研究してたものもあるみたいだけど」
「か、勘弁してくれ。真面目なのもあるだろ?」
「比率的には五分五分かしら。よくもまあ、こんな無駄なことばかり……」

 パチュリーの声に、呆れの色が濃くなる。

 無駄じゃないやい。研究の過程で、それなりの知識とか仕入れたんだぞう。
 ちなみに、魔法薬も少しはやったが、媚薬的な魔法薬の研究は流石に自重した。僕はどこぞの薄い本で大活躍の薬を作るつもりはない。いや、ちらっと頭をよぎったことは否定しないけどさ。

「でも、この必殺技の構想は面白いわね」
「ひ、必殺技?」

 はて、そんな研究は……沢山ありすぎて、どれだかわかんない。オール実用性皆無のものだったことはわかるのだが。

「ほら、これ。上空ン万メートルから、空気抵抗をなくして、ついでになんか重いものでも持って、重力加速度を乗せた高速飛行で敵に体当たり。自分ごと相手を粉砕する『セルフメテオ(仮)』」

 自爆技じゃねぇか! なに考えてたんだ、当時の自分!

「使えるか!」
「使えるわよ、宴会芸として」

 宴会芸かよ、それだけやっても、連中の宴会じゃ芸にしからないのかよっ。

「それは冗談として。……本当、これだけ時間があれば、もっと有意義なこともできたでしょうに」
「うぐ……」

 改めて冷静に自分の研究成果を羅列されてみると、そんな気がしないでもない。

「まあでも……魔法使いにとって好奇心は大事なもの。心が枯れる前に、こういうお遊び的な研究をするのも、悪くないかもしれないわね」
「ん?」
「いいわね、ちょっとノってきた」

 ぱ、パチュリーさん?

 な、なんか普段は本を読むことと魔法の研究以外、殆ど動かないパチュリーがウキウキしてる。

「ちょっとこのノート借りるわよ」
「あ、ああ」

 一度見られたのだから、今更隠す気はないが……もしや、

「僕が出来なかったやつを完成させるつもりか?」
「さあ。吟味して面白そうなやつがあればね」

 も、元ネタ的に実現しないほうがいいのも多いんだけどな。
 出来るかな〜、と研究する前に思いつくままにメモした内容の中には、ゲームやアニメから引用した、もし本当に実現したら文明崩壊級の代物もあるんだが。

 まあ、心配は無用だと思う。いかにパチュリーとて、月○蝶や縮○砲までは再現できまい。……いや、実に僕が当時やってたゲームがわかるラインナップだが。

「ああ、じゃあ、魔法少女とか、平穏な奴にしといてくれ」
「……魔法少女? 私がどうかした?」
「パチュリーが魔法少女?」

 引き篭もり系魔法少女とか地味に新しい路線だな。ストーリーが進まねえだろ。

「いや、そうじゃなく……なんていうのか、変身、ヒーロー……?」

 悩む。昨今、魔法少女の定義がブレまくっているし。

「どれどれ……ああ、これね。ええと、変身用のステッキ……杖と、変身によるパワーアップ機構?」
「是非に」

 いや、多分比較的お手軽な部類だと思うんだよ。他の妄想としか言えないようなものに比べれば。
 魔法の道具は、勿論この大図書館にもいくつもあるし。

「……これ、衣装にも、魔術的意味があるのかしら」
「え? いや……」

 うーむ、グッズの売上には密接に関わると思うが、服にモノホンの呪術的な意味を含むアニメなんて嫌だぞ。

「……特にないんじゃないか。露出が多いと僕は嬉しいが――って、のわっ!?」

 パチュリーが、僕の頭上に金属性魔法で鋼のギロチンを作り、叩きつけてきた。
 ごろごろと転がって躱す。

「貴方を喜ばせるつもりはないわ。まったく。……じゃ、これ借りていくわよ」
「はぁい……」

 ギロチンを消してさっていくパチュリーを見送る。
 ……さてはて、一体どんなものが出てくるやら。







 ちなみに、一応僕の意見は尊重してくれたらしく、最初は魔法少女ステッキとなった。
 まあ、玩具みたいなものだとパチュリーも理解したので、興味を持ったフランドールのために作ったのだが、

 まあ、なんだ。完成直後、魔理沙が興味を持って、『ちょっと借りてくぜ』と、盗み出した。そして衣装設定がフランドール用だったので……

 多くは語るまい。魔理沙に少女趣味な服は意外と似合ってたとだけ。……サイズ以外は。



前へ 戻る? 次へ