今日は、過日のお礼にと、永遠亭にやって来た。

 この前、ここんちに来たとき、丁度作っていた色とりどりの団子を頂いたのだ。
 食紅もない幻想郷で、どうやって青とか紫とか赤とかの原色バリバリを付けたのかは知れないが、意外にも美味かったし珍しい味だったので、お礼にいくつかの品を持ってきた。

 まあ、世の中ギブアンドテイク。……いや、それはドライすぎるか。
 親しき仲にも礼儀あり、ってところか?

「たのも〜う」
「…………さようなら」

 そして、永遠亭の門を開けたところ、丁度門近くにいた鈴仙が、門を閉めた。
 し、親しき、仲にも……ゴメン、あんまり親しくないかもしんない。

「なあ、地味に傷つくから、こういうのやめてくれない?」
「わかっているわ」

 と、意外と素直に開けてくれる。
 ……いやあ、大分鈴仙も学習したなあ。以前はこの対応がデフォだったのだが、ある日永琳さんに見つかって『永遠亭は客を追い返すって噂が立ったらどうするの』と、仕置きされた結果……まあ、渋々ながらも、普通に応対してくれるようになったのだった。

「今日はなんの用? また、二日酔いの薬? それとも、二日酔いの薬かしら」
「あのな」

 確かに、それをもらいに来ることが一番多いけれども! でも、他にも永遠亭にはたまに来るぞ? 竹林に筍取りに来たついでとか。

「この前、美味い団子をもらったからな。そのお礼」
「へえ、義理堅いじゃない。……って、あの時の? 美味しかった? 本当に?」
「あ、ああ。けっこう美味かったけど……なに?」
「別に、それならなによりだけど。あの材料でねえ」

 ちょっと待て。

「なにから作ったんだよ?」
「聞かない方がいいと思うわよ。色を最優先で作ったから」

 な、なにを混ぜたんだ? う……なんか、今更気分が悪くなってきた。

「それで、礼を持ってきたって? 生憎だけど、今、姫様は今留守よ」
「あいつが? そりゃ珍しいこともあるもん――

 ドォーーンッ! と鈴仙の背後……永遠亭からそこそこ離れた位置で、火柱が上る。気のせいか、この位置まで気温が二、三度上がった気がした。

「いや、もういい。なにしているかはよくわかった」

 また妹紅と喧嘩か! 最近、あいつらはもしかして、喧嘩するほど仲が良いを死ぬ気で体現しようとしているんじゃないかと思い始めてきた。
 って、それはいい。

「いや、輝夜はいいんだ。団子作ったの鈴仙だろ?」
「そうだけど……下賜したのは姫様よ?」

 下賜とか言うな。僕はあいつの臣下でもなんでもないんだから。

「絶対にあいつは余り物を僕に押し付けただけだから。だからほい、鈴仙」
「まあ、ありがたく受け取っておくけど……なにこれ」
「目には目を、団子には団子ということで、普通に外で買ってきた団子。あとは……」

 まずは、みたらし団子とか三色団子とか。適当に目をついた団子の入った袋。そして、クリアファイルに挟んだプリント用紙だ。

 何かと言うと、こーゆーのって見たいのかなあ? と思って、プリントアウトしてきた月面の写真だ。月くらいはこっちでも見えるけど、望遠鏡なんてないのでここまで詳細には見れないだろう。

「……まったく。私が住んでいたのは月の都よ? 表の荒野なんて、行ったこともないわ」
「ありゃ。そう? ならまあ、次の月都万象展のネタにでもしてくれ」

 完全に輝夜の気紛れで開催されるイベント、月都万象展は、意外と人気だったりする。

「そうね。なんだかんだで表の月の写真なんて、なかったし」
「ん?」

 ふと、気が付いた。

 口調は興味なさそうな感じだけれども、鈴仙はじーーっ、と月の写真を凝視している。
 そんな、注目するようなもんか? 所詮、家庭用プリンターの画質だぞ。

「……泣いてる?」
「まさか。単に懐かしいだけよ。もう私は地上の民だし、別に未練があるわけじゃないけど……やっぱり、思うところはあるわ」

 んじゃ、気のせいか。

「さって、渡すもん渡したし……僕は帰ろうかね」

 輝夜がいるなら、適当にダベってもいいんだが、いないなら仕方ない。永琳さんは薬が怖いし、てゐは油断ならんし、鈴仙は僕を避けている。
 さて、帰って霊夢と酒盛りでもしようかなあ。

「ちょっと待ちなさい」
「ん?」

 しかし、僕はそこで、鈴仙に呼び止められたのだった。






















「……まさか、酒に誘われるとは思わなかった」

 鈴仙に酌をしながら、我ながら怪訝そうな目で彼女を眺める。
 軒先に腰掛けた鈴仙は……やっぱ可愛いなあ。うさみみ撫でてぇ。

「ふん。ちょっと話し相手が欲しい気分だっただけよ。他に適当な相手がいないのよね」
「適当な相手って……ここんちの人がいるだろ」

 返杯を受けつつ、僕も視線を鈴仙から庭に向ける。

 永遠亭の軒先からは、立派な庭が見える。少し上に目を向けると、周りが竹林にも関わらず、意外に開けた空も見える。
 日はそろそろ傾いていて……うっすらと、月が見えていた。満月じゃないのが残念だが、もう数日後には満月なだけあってほとんど満ちている。

「姫様や師匠に話を聞いてもらえって? 酒の席の話なんて無理よ」
「……だな」

 目上の人間相手に、『話し相手が欲しいから』で付き合わせるのはちょっと駄目だろう。

「てゐは……」
「本気で聞いてる?」
「いや、本気じゃないけどな」

 話し相手としては甚だしく不適切だ。いつ悪戯が来るか、ビクビクしながら話すのも馬鹿らしい。

「そうすると……それ以外だと?」
「残念ながら。友人らしい友人はいないのよね。不本意ながら、誘えそうなのは貴方くらい」
「そりゃ光栄だ」

 別に、だからって友達のいないぼっちだなんて思わない。妖怪なんて、自分の身内以外にはあんまり興味がなく、交友もしない連中ばかりだから。だから、もしかしたら鈴仙ですら、永遠亭以外だと僕が一番仲の良い人間なのかも知れない。

「ふん……」

 馬鹿にされたとでも思ったのか、鈴仙はぐいっと盃を傾けた。
 僕も、同じように酒を呑む。

「しかし、つまみが……。今更だけど、なんか作らないか?」
「別に良いわ。どうせ、今は台所に大したものはなかったはずだし」

 ちなみに、おつまみは僕の持ってきた団子である。
 ……酒には合わんな。

「だったら、里の飲み屋に行こうつったろ」
「人の多いところは嫌って言わなかったかしら」

 ……やれやれ。
 まー、いい月だし、鈴仙とサシだし、文句はないけどね。

 お互い、酌を交わし合いながら、ぽつりぽつりと話をする。
 別に、話すのは下らないことだ。僕が話すのは、博麗神社の騒動、前の団子の感想、外の世界の話など。鈴仙からは、てゐへの愚痴、永琳さんへの愚痴、輝夜への愚痴。
 ……どんだけ愚痴が多いんだよ、なんて思わない。そりゃ、あの三人だったら当たり前の話だ。

「ほれ」
「ん」

 酒も進む。
 団子はとっくになくなって、今は酒だけだ。

 それなのに結構なハイペースで呑んでいるから、僕はもとより鈴仙だって顔は赤い。

「月、綺麗だな」
「……そうね」

 事の発端だった例のプリント用紙を、鈴仙が広げる。

「この無骨な岩の星の裏に、穢れのない都があるっていうの。外から見ると信じられないわね。こんな星が、遠くからだと綺麗だって言うのも」
「その穢れってのは、未だ僕にはよくわかんないんだけどな」
「私もわからなくなったわよ。地上暮らしが長いから、穢れきっちゃったのね」

 わかんないんだよねえ、やっぱり。
 まあ、鈴仙だってわかんないんだから、僕にわかるはずも無し。

 大体、穢れたって……

「なによ?」
「いや、別に」

 そうは見えんけどなあ。

「そういえば、里帰りとかしないのか、里帰り」
「そんなことしたら、あっさり捕まっちゃうわ」
「どうだろうな。なにせ、幽々子が一ヶ月くらい普通に潜伏してたくらいだし」

 僕もちょろっと関わった、レミリアの月面旅行とスキマの仕掛けた第二次月面戦争。まー、色々と貴重かつ下らない体験だったが。
 とにかく、あの時幽々子は普通に潜伏して、普通に酒を盗んできたのだ。鈴仙が里帰りしても、全然気がつかない気がする。

「穢れの無い亡霊じゃね。今の私は無理」
「でも、友達とか会いたくないのか?」
「そんなのはいなかったわ。綿月様のペットだったのよ私」

 だっけか。

 寂しいとうさぎは死ぬと聞くが、そんなことはなかったのか。

「ん、っく」
「ほれ」
「ん」

 鈴仙が一気に酒を飲み干したところで、即座に注ぐ。
 ……いまさらだが、ちと呑みすぎじゃね?

 目も座ってきた気がするし……

「月はもういいのよ、月は」
「ほーか」
「それよりてゐよ、てゐ! まったく、あの子が好き勝手するお陰で、私がどれだけ苦労しているか……」

 ……それ、さっきも聞いたぞ。
 いかん、ループ入った?



 結局、その辺りから僕の記憶もない。阿呆みたいに酒を呑んで……最後に時計を見たとき、日が変わっていたのは覚えているのだが。
 ……そういえば、途中で……人数が、増えていた、ような。



















「……はっ!?」

 ふと、目を覚ますと、もう辺りは明るかった。
 太陽が真上……ほぼ正午だ。

「っちゃ〜、あのまま寝たのか」

 僕は、まだ軒先に座ったままの体勢である。どうやら、このまま寝入ってしまっていたらしい。器用なことをするな、僕も。全身が固くなってて、なんか痛いし。
 というか、それよりなにより頭痛い。超痛い。酒ばっかりあれだけバカスカ呑んだら、当たり前っちゃ当たり前だ。

「うう……水でももらうか」

 永遠亭では、もう誰かが活動している気配がする。さて……永琳さんが起きてたら、二日酔いの薬ももらうかな。

「……ん?」

 と、立とうとしたのだが、なぜか立てない。足に重みがある。
 なにか乗っかってんのか? と下を見ると……

「はあ!?」

 ……何故か、僕の膝を枕に、鈴仙が寝てた。多分、僕と同じく酒に苦しみながらすうすうと。
 やけにあったかいなー、と思ったら……

「どうしてこうなった」

 天井を見上げて、呟く。
 役得か、それともこれが災厄の始まりなのか、判断がつかない。

「およ? 起きたのかい」
「……てゐ」
「んじゃ、一応朝……じゃないな。昼ごはん食べてく? って」

 てゐが、僕の膝のところを見て、ニヤニヤと面白そうに笑う。

「ありゃりゃ。鈴仙が邪魔しちゃってるね。悪い悪い。ほら、起きなよ鈴仙。客人の邪魔をしちゃいけないな」
「お、おい!」

 僕は今まさに、気付かれないうちにそっと鈴仙をどかそうと思っていたのに!

 しかし、現実は非常である。てゐが話しかけると、鈴仙はパチッと目を覚まし……

「……ぉはよぅ」

 目が合ったので、僕は力なくそう挨拶するしかなかった。

「あ、おは……!!!??!?」

 ぼけーっと、返事をしかけた鈴仙だが、がばっと飛び起きて、僕から距離をとる。
 ……あ〜〜、このパターンはあれだな。弾幕。いやもう、わかっているけど、完全に不可抗力なんだけどなあ。

「待て、誤解だ」

 一応言っておく。まあ、意味はないだろう。
 真っ赤になって(顔も目も)こちらを睨みつけている鈴仙。……あ〜、やるならさっさとしてくれ。こう焦らされると、怖いじゃないか。

 しかし……

「……二日酔いの薬、処方してあげるからついて来なさい。私も飲むから」
「え!?」

 弾幕は!? お尻がむずむずする形をした、あの変な弾幕は!?

「なによ」
「いや……あの、怒らないの?」
「……大体、状況はわかるし。昨日、付き合わせたのは私だし」

 おお〜〜〜〜〜。
 すげぇ、デレた。初めてだ、鈴仙のデレ。デレていると言う程でもない気がするが、しかしこれは人類にとっては小さな一歩だが僕にとっては大きな一歩なのだ。

 よしよし、順調にルートを邁進ちゅ……う?

「あら、おはよう。ウドンゲ」
「あ、師匠。おはようございます」

 永琳さんだ。

「すみません、昨日、呑みすぎまして……。御用なら後ほどでもいいですか?」
「そうね、たくさん呑んでいたものね」

 見てたのか。
 記憶にはないが、もしかしたら途中で永琳さんも入ってたのかもな。

「そう、私の目の前で私の愚痴を言うくらいですもの。さぞかし、美味しいお酒だったのね」
「……へ?」

 ……へ?

「不満があれば、そうと言ってくれればよかったのに……。さ、向こうでお話しましょうか」

 ずるずると、鈴仙が引き摺られて行く。

「ちょ、ちょっと師匠!?」
「ああ、良也。貴方の薬よ、はい」

 紙に包まれた粉薬が渡される。ありがたい。ありがたいのだが……流石に、鈴仙を見捨てるのは。

「あ、ありがとうございます。で、そのぉ」
「なに? 貴方も来たい?」

 ぶるんぶるん、と僕は首を振るのが精一杯だった。

 裏切り者め……という鈴仙の視線が痛かった。



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