たまねぎを良く炒める。
 こいつが味を決めると言っても過言じゃあない。既に三十分、よ〜くよ〜く炒めている。

 飴色を通り越してちょっと焦げているくらいにまで炒まったら、一旦皿に避けて残りの野菜を炒める。じゃがいもとにんじん。まあ定番だ。

 こっちは玉ねぎほどじゃないが、ちゃんと火を通す。
 その後は角切りにした豚肉。こいつは、全面に焼き目をつけるだけにしておく。

 全部炒めたら、それぞれの具材を二つの鍋に分けて投入。分量をきちっと測った水をいれ、煮込み開始。
 ちゃんとにんじんが柔らかくなるまで煮込む……そして、煮込んだ後のものがこれです、とか料理番組のように出てくればいいのだが、あいにくとそんなに便利ではない。ちゃんと時間をおく必要がある。

 火を調節しておけば、ずっと鍋を監視する必要もない。沸騰してから弱火に竈を調節して、僕は外に出た。

「おー、調子はどうだー?」
「まあまあね。この調子なら、あと一週間ほどで神社は完成するわ」

 似合わないヘルメットを被り、博麗神社の修理を行っている天女たちの陣頭指揮をしている天子は、得意げにそう言った。
 ……って、早いなあ。

 生活できなくては敵わない、と最低限だが既に母屋のほうは直っている。
 これがつい先週、あそこまで完璧に倒壊した建物かね。僕がちょっと外の世界で勉学に励んでいた間に、凄まじいスピードで直してきている。

 流石天人……でいいのか? 天人って、大工さんなのか?

「そういえば、巫女はどこに行ったの? 今朝はいたと思うんだけど」
「なんか、様子を見るだけなのも暇だからっつって、どっか行った。釣竿持ってったから、晩御飯の魚でも釣ってくるんじゃないか。昼ご飯食べてけって言ったんだけど、今日は現地調達するらしい」

 せっかくカレー作るって言うのに。
 でも、しかし釣った魚をその場で塩焼きにするとか、美味しいよねえ。とりあえず、おにぎりだけは持たせたけど。

「はあ。あの巫女がいないと、天気が不安定になるから、仕事を進めにくいんだけど」

 ……天子が集めたと言う緋色の雲は未だ空に留まっている。つまり、まだ天気の異変は治まっていないのだ。
 しばらくすると自然に雲は拡散するそうだけど、それまでは変な天気は続くらしい。

 だけど、霊夢がいればその気質の発現は『快晴』なので、大丈夫らしい。ちなみに天子は『極光』。色々な天気がランダムに来るそうなので……はっきり言おう。使えねえ。

「あー、それは大丈夫。博麗神社の敷地内なら」
「? なにそれ」
「いちお、僕の能力がね。あ〜、なんて説明したらいいんだろ? まあ、結界みたいなの張れると思ってもらえれば」

 博麗神社の中なら、僕が創る世界は敷地全部覆える。あとは『壁』を上部分に形成すれば、即席の傘の完成だ。
 なかなか便利。たまに傘を忘れたときなんか重宝している。

「ふーん。そういえば、なんか変な能力を持っていたわね。えっと、『自分だけの世界に引き篭もる』んだったかしら?」
「なんで知っているんだよ……」
「霊夢と話していたら、ふとそんな話になったの」

 ……霊夢と?
 確かに、僕が外の世界に帰っている間は、ずっと一緒にいたわけだから、世間話位してもおかしくはないが。

 い、一体なにを話したんだ? なんか怖いぞ。

「……はあ、しかし。天気の異変もいつ解消するんだ?」
「そのうちね。この神社が完成してしばらくした頃かしら」
「霊夢の快晴とかならまだしも、魔理沙なんて雨降るからなあ……。洗濯物も干せないし、大丈夫か?」

 魔法使いなんだからなんとでもするだろうけど、ちょっと心配。

「さて、と。立ち話もなんだし、お茶でも飲まない? もう疲れちゃって」
「お前、指揮取っているだけだろ」

 その指揮すらロクに取っていないように見える。だって天女さんたち、天子の指示がなくてもキビキビと作業を進めているし。

「気疲れするのよ。あ〜、しんどい」
「……いいけどな」

 じゃあお茶淹れてくるか。






















 前と同じように、天界の茶葉を使って淹れたお茶を持って来た。
 う〜む、相変わらず芳しい香り。さすがにものが違う。

 んで、そのお茶を飲んだ天子は、これまた前と同じように文句を言い始めた。

「下手ねえ。巫女の方が淹れるのは上手いわね」
「あいつとは年季が違う」

 だって、一日に十回はお茶飲む生活をしているんだぞ、あいつ。そりゃ淹れるのも美味くなるだろう。

「それで、今日はお茶菓子はないの?」
「……気に入ったのか。ないよ。だって、すぐ昼ご飯だし。食えなくなったらマズいだろ」
「ちゃんと食べるからさ。菓子頂戴」
「駄目。お前、絶対そんなこと言いながら残すタイプだ」

 子供っぽいし。

「もう。……って、あれ? なんで湯のみそんなにあるの?」
「天女さんたちにもお茶くらい振舞わないと」

 実際、神社を直しているのは彼女たちなんだから。

 お茶を配ると、丁寧にお礼を言われた。……ああ、なるほど。天女ね、天女。いい人たちなんだよなあ。上司がこんなんだと苦労しそうだけど。

 全員に配り終わって、僕は自分の分をお茶を持って天子の隣に座る。

 若干ぬるくなったお茶をぐいっ、と飲み干す。

「そろそろいいか。ちょっと台所行ってくるわ」
「そういえば、貴方がご飯作っているんだったわね。今日のお昼ご飯って何なの?」
「カレー」
「あ、カレーってあれでしょ。香辛料とかたくさん使った印度の料理っ。私、食べたことないのよね」

 ……ああ、そういえば幻想郷じゃカレーなんて食べる機会はほとんどないか。紅魔館あたりだと作っているかもしれないけど。

 でも、別にそんな天子を喜ばせるような意図はなかった。単に、天女さんたちの分も料理を用意しようと思ったら、そういう大人数分作るのが楽なやつじゃないと駄目だっただけで。
 霊夢はご飯も天女さんに用意させているらしいけど、流石にそれは駄目だろう……

「そう。外の世界じゃ、ルーっていう……まあ、カレーの素みたいなのも売ってて、かなりポピュラーな食べ物だ。ちょい辛いけど大丈夫か?」
「う……辛過ぎると、ちょっと」

 だと思った。

「まあでも大丈夫だ。ちょっと待ってろ」

 台所に向かう。

 そのために鍋を二つに分けたんだ。いつも持ってきているリュックの中からバーモン○カレーのパックを二つ取り出す。
 無論、片方は甘口で、もう片方は中辛。甘口ならば、多少辛いのが苦手な人間でも大丈夫だろう。僕は中辛以上じゃないと、どうもカレーを食べた気になれないんだが。

 いい感じに煮えていたので、それぞれの鍋にルーを投入しかき混ぜる。
 どろどろになった辺りで火を止め、皿を人数分取り出し……流石にこれを一人で配膳するのは無理だな。

「おーいっ! 天子! ちょっと皿運ぶの手伝ってくれっ」

 呼びかけると、無視された。
 ……あいつめ。

「来てくれねえと、お前だけ昼飯抜きだぞっ!」

 ちっ、という舌打ちが、ここまで聞こえてきそうだった。
 本当に嫌そうな顔をしながら、天子がこっちにやって来る。

「……なによ。私を顎で使おうって気?」
「立っているものは親でも使え、という格言を知らないのか。一番暇そうだろ、お前」
「暇じゃないわよ。何もしていないように見えて、いつもいろんなことを考えているの、私は」
「はいはい。じゃあ、これ皿とスプーン。ご飯とカレーの鍋は僕が運ぶから」

 聞きなさいよっ、という天子の突っ込みを無視して、食器類を渡す。ここは、宴会が開かれることが多いので、皿とかはたくさんあるから助かる。
 前の地震で全部割れたはずだけど、いつの間にかまた数が揃っていた。

 十人以上はいるため、皿一つ運ぶのも楽じゃない。割と重いから持てるかな……という心配はもちろん杞憂で、天子は片手でひょい、と皿を支えた。

「……さて、と」

 そういや、コールスローサラダも作ってあるんだった。
 ボウルに入れて……よし、運ぶか。


















「それじゃあ、天子はこっちの甘いほうな。そっちの鍋はちょっと辛いから、天女さんたちは好みで好きに選んでくれ。まあ、おかわりは多分あるはずなんで……」

 天女さんたちも、食べたことがないらしく、カレーを見てきゃあきゃあ言っていた。
 ……うん、そう喜んでもらえると、僕も嬉しい。

「なんかぐちゃぐちゃしてる。泥みたいで、あまり美味しそうじゃないわねえ」
「文句を言う前に食え」

 皿にご飯とカレーを盛り付け、天子に押し付ける。

「ふーん」
「あ、まだいただきますしてないのにっ」

 天女さんたち、まだよそっている最中なんだぞ。なんちゅう協調性のないやつだ。

「ん!?」

 くわっ、と天子が目を見開く。

「けっこう美味しいじゃない」
「……とても美味しいようで何よりだ」

 こいつが『不味くない』じゃなくて、仮にも『美味しい』という表現を使ったんだから、多分そうだろう。
 嬉々として食べているし。

 ……やれやれ。さて、僕も食うか。



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