「はぁ……魔理沙のやつめ、覚えてろ」

 コンビニ袋をぶら下げて、悪態をつく。ついでに買った肉まんを、コンビニの前でパクついた。

「ったく、なんでこんなのを」

 魔理沙の味覚はちょっと変で、キワモノ系のお菓子が大好きなのだ。この前、洒落で持っていったその誰も買わなそうな菓子を、魔理沙はたいそう気に入って、次も持ってこいと命令してきた。
 しかし、流石はキワモノ系。商品の寿命は至極短くて、僕が前に買ったコンビニではもう取り扱いがなくなっていた。

 その旨、この前伝えたところ、どうにか探して来いバカヤロウ、というありがたい言葉をいただき……

 結局、二駅離れたこの町のコンビニで、やっとこさ見つけた、というわけだ。

「考えてみれば、メーカーに直接注文すればよかったかもしれん」

 もしくはネット通販。
 ……やれやれ、魔理沙には色々と借りがあるから仕方ないけど、コイツの代金は三倍増しだぞ……と?

「あれ?」
「え?」

 肉まんを食べ終わり、ゴミを捨てていると、コンビニの中から見覚えのある女の子が出てきた。……むう、肉まんに夢中で気付かなかったか?

「こんにちは、つかさちゃん」
「あ、その。こんにちは、土樹さん」

 柊のかがみさんとこの妹、つかさちゃんだ。こなたのクラスメイトでもあるらしい。
 どうも、姉よりだいぶおしとやかと言うかのんびりと言うかヘタレているというか……まあそんな感じの娘だ。

 何度かかがみさんとラノベを交換するうちに、いつの間にか顔見知りになっていた。実は、以前こなたと初遭遇のときも会っていたんだけど……イマイチ印象が薄かった。

「なんでこんなところに? ここ、神社からも高校からもだいぶ遠いと思うんだけど」
「えっと、その……これが」

 と、見せられたのは、今僕が買っているのと同じお菓子。

「……キワモノ娘がここにも一人」
「え? え?」
「僕も、それ買って来いって言われて、はるばるこんなところにまで来たんだよ」

 がさり、と自分の袋の中を見せる。
 すると、つかさちゃんはぱぁ、と花開く笑顔を見せた。

「うわあ、これ好きな人いたんですね。お姉ちゃんやこなちゃんは、絶対売れるわけがないって言うんです」
「僕もそう思う」

 この、あえて超少数派に向けて開発したかのような菓子、正直言って売れるわけがない。自然、店頭から淘汰されていき……今や、もしかして日本全国でこのコンビニにしか売ってないんじゃないか? とまで思える。

「まあ、好きならなにより。多分、もうすぐ販売中止になるだろうから、早めに買い占めときな」
「うう、そんなにお小遣いないよー」

 そうかも。ていうか、いまどきの高校生のお小遣いって何円くらいなんだ? バイト始めてから、どうも当時の金銭感覚が思い出せない。
 とりあえず、いつも金ない金ないと思っていたような。

 今は自分で小銭を稼ぐようになって、使えるお金は増えている。でも、やっぱり今も金がないな……

「そ、そんなもんだ」
「そんなものかぁ」
「うん、そんなもんだ。じゃあ、気をつけて帰りなよ」

 ここから彼女の実家である神社まではちょっと遠い。とりあえず、そう忠告だけしておいて、僕は帰ろうと……

「あ、あの!」
「……ん? なに?」

 で、呼び止められた。






















 立ち話もなんだったので、目に付いた喫茶店につかさちゃんを連れ込む。
 決して妙な下心とかはないのでその辺ヨロシク。

「えっと、なにかな? 聞きたいことって」
「あ、あの……。えっと、その」

 つかさちゃんは、しどろもどろになる。
 そうこうしているうちに、店員さんが注文をとりに来た。

「ケーキセット二つ。僕はミルクティーで……つかさちゃん? なににする?」
「え? あの」
「こんくらい奢るさ」

 高校生の女の子にお金を出させるほど甲斐性がないわけじゃない。まあ、喫茶店くらいならね……。

「じゃ、じゃあ私もミルクティーで」
「かしこまりました」

 店員さんが伝票に注文を書き込んで、去っていく。

「あ、ありがとうございます」
「気にしない。君のお姉さんには、色々貸してもらっているし」

 ラノベを。

「えっと、実は相談って、そのことで……」
「ラノベ?」
「あ、いえ、それだけじゃないんですけど。その、こなちゃんもお姉ちゃんも、そういうのが好きで。時々話についていけないから……」

 たどたどしくつかさちゃんが話す。

 こなたはもちろんだが、あのかがみさんも結構オタクなので、二人の話についていけない。それがちょっと寂しいので、色々教えてくれないか、と。

 ……ふむ。しかし、かがみさんは思い切り自分がオタクであることを否定していたが、妹からはこんな風に認識されているようだ。
 ご愁傷様というか、ラノベをあれだけ読んでいる時点で言い訳はできないことをそろそろ自覚したほうがいい。

「……で? 何で僕に聞くの?」

 それこそ、一つ屋根の下で暮らしているお姉ちゃんに聞いてもいいし、こなたあたりに聞けば嬉々として教えてくれるだろうに。

「いや、その……恥ずかしくて」
「よくわかんないけど」

 まあ、別にオススメを教えるくらいは構わないけどね。

 しかし、あの二人の話題に付いて行きたいんだったら、あの二人の趣味に合わせるか……。

 こなたは、基本全般的にいける。漫画、アニメ、ギャルゲと一通りのジャンルは網羅している。好きなのは萌え系。しかし、その他のジャンルも大抵は押さえていて、正直僕も半分くらいしか分からない。
 かがみさんは……ラノベと、一般ゲームを少々。ラノベはフルメタやハルヒなんかが好きで、新作もけっこう頻繁にチェックしている。

 さて……そうすると、こなたご推薦の十八禁ゲームはとりあえずハブるとして。アニメもDVDは高いしなぁ……最近はようつべとかでアニメ全話上がっていたりするが、流石にしょっぱなからそんなディープなところを攻めさせることもないだろう。

 ……そうすると、初心者のつかさちゃん向けの作品って、実はあんまり思いつかない。
 大体あの二人、趣味が男寄りなんだよ。少女漫画とかこなたはほっとんど読まねぇし、かがみさんも基本的に読むラノベは電○とか富○見だ。ここで十二国記とか女性向けのを読んでくれれば、まだ勧められたのに。

 ……仕方がない。

「えっとねー」

 とりあえず、僕の趣味に走った作品を紹介した。基本的には、こなたかかがみさんのどちらかが持っている作品。
 極端に萌えに走った作品は、僕の名誉のために伏せる。断固として伏せる。いや、好きだけどさっ! でも、やっぱり『うわ、キモッ』とか言われるのは傷つくのです。

 ……つかさちゃんが、そんな娘でないことは信じているが、念には念を、だ。

「はぁ、なにか聞いたことのある名前ですね」
「まあ、二人がハマっていたことのあるのだし」

 こなたの趣味は長年のオンラインのやりとりで熟知しているし、かがみさんも同好の士を求めていたのか、会うと割りと中身の濃い話をする。
 ……って、ああ、オンライゲーはいいかもしれない。

「いや、駄目だな」
「?」

 あれは万が一にも嵌ったらリアルの生活をブチ壊しにする。僕はあまり熱くなりすぎるほうじゃないし、こなたは別の趣味も多いのでなんとか踏み止まってたけど、一緒のギルドにいた仲間の中には、そのせいで大学辞めたやつもいたり。

 まさかそこまで嵌るとも思えないが、念には念をだ。

「ケーキセットおまたせしました」
「お、きたきた。続きは食べながら話そうか」
「はい」

 イチゴのタルトとミルクティーのセット。
 基本的に僕は甘党なので、こういうのは大好きだ。一人だとちょっと入りにくいけど、以前友人二人とともにケーキバイキングに乗り込んだこともある。

 ……うん、美味い。

「あの、それじゃあ、今度こなちゃんにクラ○ドってやつ借りてみますね」
「うん、それは名作だ」

 十八禁じゃないしねー。









 後日。
 かがみさんに、妹に妙なのを教えるな、と怒られた。

 ……?????



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