さて、夏休みはまだまだ続く。
 前にも言ったとおり、今年の夏は割と暇な僕は、のんびりと有給を消化しながら過ごしている。いつもなら帰省ラッシュに巻き込まれるお盆の時期にしか休めないが、今年は少し早めに帰ることができた。

 まあ、いい年こいた大人が、夏休みにゲーム三昧というわけにも……わけにも……ごめんなさい、親不孝と言われようと、ゲーム三昧な休みにしたかったです。

 ……まあ、ともあれ。

 最近、年下の後輩らしき子もできたなのはちゃん達は、きっと思い切りレベルを上げているんだろうなあ、と想像しつつ、僕は帰省から戻り、海鳴市へと帰ってきた。

 少し暑いので、ちょうど帰り道にある翠屋に寄ることにする。

「おいっす、高町さん」
「おーう。どうだった、実家は?」
「いやー、やっぱ家だとすることないっすね。昔の友達と呑んで、親戚に挨拶して、後は墓参りして、以上! って感じで。三日もいると、暇で暇で」
「そうかそうか。注文はどうする?」
「アイスコーヒーで」

 はいよー、と、高町さんがひらひらと手を振り、僕はカウンターの席に座る。

 学生の夏休み期間でいつもより混んではいるが、流石に世間的には平日で、しかも昼もだいぶ過ぎたこの時間となると、空いている席もそこかしこにある。
 まあ、もう少し遅くなれば午後の部活帰りの学生でごった返すことになるんだろうが。

「お待ちどうさん」
「ども」

 運ばれてきた汗を掻くグラスにストローを突っ込み、ずず、と啜る。
 爽やかな苦味が広がり、実家からここまで移動して疲れた体に染み渡った。

「あー、美味いです」
「そりゃよかった。まあ、ごゆっくり……っと」

 客がたくさんいる中、僕と雑談というわけにもいかずキッチンに取って返そうとした高町さんは、ふと思いついたように足を止める。

「そうそう。明日の朝にでも、うち来れるか?」
「は? いや、いいですけど、なんでです?」

 夜なら晩酌にでも付き合って欲しいのかと思うが、なぜ朝。

「今、うちちょっと変わったお客さんを迎えててな……多分、お前さん案件だと思うんだ」

 なんのこっちゃ。



















「あ、あの、こんにち……じゃ、なかった。はじめまして。高町ヴィヴィオです」

 と、翌日、引き合わされて自己紹介しているこの子は、高町姓を持つ金髪虹彩異色のなんともファンタジックな女の子であった。
 なのはちゃんと同じか、少し年上だろうか。そのなのはちゃんは、彼女の後ろでニッコニコと笑ってる。

「えーと、はい。はじめまして。僕は――」
「あ、知ってます! 良也さんですよね。すごく変わった、弾幕タイプのバトルをするデュエリストの」

 おお、僕がそこまで知られているとは。まあ、第一回ブレイブグランプリで本戦にまで出た唯一の大人だしな。――若干浮いていたという意味で、それなりに名は通っている。……笑えよ。

「えっと、高町さんの親戚の子?」
「その、親戚というか、これから親戚になるというか」

 なんか歯切れが悪い。これから親戚になる……と、いうと、誰か高町さんの親族が結婚して、向こうの家の子、とか?
 うーん、でも、そんな遠い関係でわざわざ家に来るかぁ? まあ、ブレイブデュエルやってるみたいだし、今やブレイブデュエルにおいて一番ホットな海鳴に遊びに来たんで、そのついで、ということなら辻褄は合うか。あるいは、なんかの拍子に年の近いなのはちゃんと仲良くなったとかかね。

 そんな予想を立てていた僕に、ヴィヴィオちゃんは予想外の一言を告げた。

「あの、実は私、未来から来たんです。それで良也さんのことも知ってて……」

 ……ホワーイ?

 って、いやいや。落ち着け、僕。考えてみれば、なのはちゃんを筆頭に、僕の知り合いの女児達は精神年齢が高かったから勘違いしていたが、小学生くらいならこの程度のごっこ遊びはそうおかしな話ではない。

 そう、ここで僕の取るべき態度は、

「そうなんだ、すごいね!」

 これだ!

「し、士郎さーん!? 良也さん、全然信じてませんけど!」

 うわーん、と高町さんに泣きつくヴィヴィオちゃん。高町さんは『あー』と察したような苦笑いだ。

「良也。それがな、本当らしいんだよ。ほら、あの偉い博士さん……スカリエッティさんが間違いないって、紹介してくれたんだ」
「……いや、自称世界征服を目論むマッドサイエンティストな人の言うことを鵜呑みにするのも」

 少し前にブレイブデュエルに不正アクセスして、自分の親戚の子供を乱入させていたスカリエッティさんのことは、僕も知っている。
 スカリエッティさんに悪気はなかったというか、純粋によりゲームを楽しくしたいという思いでやっていたらしいのだが、それはそれとして不正なハッキングは犯罪である。結構な騒ぎとなった。

 まあ、その件については、グランツ博士と最終的に和解して、二人の間で色々と妥協点は見つかったらしいので、ひとまずは一件落着となったのだ。その後、スカリエッティさん率いる新勢力『セクレタリー』は、ブレイブデュエルの悪『役』として、たまに乱入してくるようになった。
 なお、撃退すればショップから感謝の品(という名の賞品)として、レアカードを貰えるので、僕は積極的に戦っている。今、十回くらい戦って、二回ほど勝って賞品をゲットしていた。

 閑話休題。

 ともあれ、スカリエッティさんは、あのグランツ博士とタメを張る天才科学者だということは、どうやら本当らしい。
 どーも、あの子供っぽい言動からはその天才性は伺えないが、そこはまあ事実としよう。

 ……だが、このヴィヴィオちゃんとやらが未来から来たということを、彼が言っているから信じられるかと言えば、それはまた別の話である。

「ほ、本当なんですってば〜」
「う、うーん」

 必死だ。うーむ、信じてあげたいことはあげたいが、だからってちょっと荒唐無稽すぎるというか。

「っていうか、良也。お前もなんか時間を云々できるとか言ってたじゃないか。そう疑うことはないだろうに」
「僕は時間の流れを早くしたり遅くしたりはできますけど、タイムワープはできませんよ」
「それはそれでどうなんだ、おい」
「……あの、良也さん、それって一体」

 あ、そうだった。そういや、なのはちゃんは僕のこと知らないんだったっけ。
 突然、父親とその友達がおかしなことを話し始めたのだ。そりゃ疑問にも思うだろう。

「う、うーん。あのねー」
「あ、それなら……おいでー、クリスー」

 さて、別にまあ話しちゃってもいいか、となのはちゃんへの説明の言葉を考えていると、ヴィヴィオちゃんは誰ぞを呼ぶ。
 その言葉に反応してやってきたのは、果たしてうさぎのぬいぐるみ。

 ……チヴィットか。相変わらず、どういう原理で空飛んでるのかわかんねえ。

「ええっと、確か去年の夏休みに……」

 クリスと言うらしいチヴィットからディスプレイが空中投影される。それを慣れた様子でヴィヴィオちゃんが操作すると、そのディスプレイに動画が表示された。

 ……っていうか、写ってるの僕だ。

『ん? 花火もうなくなったんだ』
『うんー、良也さん。だからちょっとお願い。最後に締めで、ちょっと派手なやつ』

 って、なんだこのなのはちゃんを大きくしたような子?

『いいけど……なのはちゃん、そのために僕呼んだだろう』
『うん。大きい花火は売り切れちゃってて。ごめんね?』

 ぺろっ、と舌を出す仕草は、若干大人びているが、なのはちゃんが何かをねだったりするときのそれにそっくりだった。……え、本物?

『はぁ、仕方ないなあ』

 昔から、この子にお願いされるとどうにも断れない僕は、動画の中でも同じなようで、

『っぃよいしょ!』

 どんどんどん! と、ダミーの音まで上げて、上空に霊弾の応用で花火っぽいのをぶち上げていた。

『うわぁ〜』
『きれい……』

 そして、アングルが変わり、それを見上げる女の子たちが写る。そのうちの一人は目の前のヴィヴィオちゃんだ。

 んで、動画は終わる。

「これが、去年の夏休みに、良也さんが魔法で花火を上げてくれた映像で……」
「い、今の、ブレイブデュエルの中……じゃないんだよね」
「うん、そうだよ、なのはマ……なのはさん」

 勿論、僕にあんなことをした覚えはこれっぽっちもない。

「え? まさか本当に?」
「って、『本当に?』は、わたしの台詞!」

 なのはちゃんが割って入ってきた。

「あー、はいはい。霊弾霊弾」

 いくつか、光の玉を浮かべて周囲を旋回させる。

「う、うわぁ」

 なのはちゃんが、恐る恐るツンツンしてる。物怖じしないなあ。まあ、威力は最低にしてるので、触ってもちょっとピリッと来るくらいだろうが。

「はい、外見て」

 あんまり素直に驚いてくれるので気を良くした僕は、部屋の中の時間の速度を倍くらいにする。
 通り掛かる車や鳥の速度が、一気に見た目半減し、僕が能力を解除すると普通の速度に戻った。

「こんなこともできたんだな。……反則くさいなあ」

 実際に、僕の時間操作を体感するのは初めてである高町さんが言うが、なにを言ってるんだこの人は。

「前、神速見せてもらった時、これ使ってもマトモに追いきれなかったんですけど」

 生身の人間が使っていい体術じゃねぇぞ、アレは。

「え、ええと。とりあえず、信じていただけたんでしょうか」
「あ、うん。まあ、流石にね。まさかこんな動画をでっち上げてまで僕を騙すわけないだろうし……」
「よかったぁ」

 まあ、びっくりはしたが、僕もうとっくに幻想郷で一生分のびっくりは味わっているからな。そうなんだ、と証拠を見せられればあっさりと納得できた。

「でも、どうして、どうやってこっちに来たんだ? ヴィヴィオちゃんは」
「あ、それはですね」

 説明を受ける。

 なんでも、ブレイブデュエルでは未来では国家競技にまでなっているらしく、そこでかなり強いプレイヤーであるヴィヴィオちゃんは、初期の強豪であるなのはちゃん達と一度は本気で戦ってみたかったらしい。
 だけど、大人と子供である。本気ではやってくれない。……この辺りはアレだな。ただのゲームから国家競技にまでランクアップしたこともあるし、今はゲーム自体始まったばかりだからそうでもないが、未来になると経験年数の差がかなり広がるからだろう。

 だから、今の僕が子供相手に本気で戦っているのは、別に変な話ではない。
 うん。

 で、とにかくだ。ヴィヴィオちゃんはそんな感じのことを、未来でも愉快なマッドサイエンティストをやってるスカリエッティさんに相談し、

「過去のデュエリストと戦うためのプログラムが暴走して、時間遡行してしまった、と?」
「はい!」

 いや、はいじゃなくて。

「こっちの時代のDr.スカリエッティが言うには、凄まじい演算能力を持っているブレイブデュエルシステムの能力がフルに発揮されれば、四次元空間にも干渉できることが証明されたとか」

 どっかで聞いた設定だ。ウィザーズ・○レインかな? あれは未来では完結しているんだろうか。

 ……いやしかし、いくら信じられなくても、この子は現実としてここにいるわけで。
 うーむ、グランツ博士といい、スカリエッティさんといい、ちょっと現代の技術水準を軽いノリでブレイクスルーさせ過ぎじゃないかな。

「で、高町さんがそもそも僕を呼んだのは」
「いや、案外お前なら、ヴィヴィオちゃんのことを元の時代に安全に戻せたりしないかな、と」
「え! おとーさん、そんなこと考えてたの!?」
「そりゃなあ。ヴィヴィオちゃんがいて、俺も楽しいけど、未来の親御さん……も心配してるだろうし。早く帰れるに越したことはないだろ?」

 うー、と、新しい友達と引き離されることに抵抗を感じつつも、高町さんの言うことも一理あるのか、なのはちゃんは唸った。

「で、どうだ、良也?」
「いや、さっきも言ったでしょ。僕には無理ですよ。まあ……眠れる森の美女的な眠りの魔法で、元いた時代まで寝るとかなら」

 でも、スペースの確保が大変だし、狙ったとおりに目覚めるかもわからないし、失敗したら普通に年取ったりしそうだし。

「え、えっと。すみません、それはちょっと怖いかなって」
「だよねー」

 言っておいてなんだが、こういうのは僕も使ったことないし、ちょっとリスクが高すぎる。

「そっかー。じゃ、やっぱりグランツ博士達が帰る方法を見つけるまで、ここにいないとだねー」

 ニッコニッコと実にいい笑顔ななのはちゃん。末っ子だからか、実年齢はともかくとして年下の親類っぽいのが出てきて嬉しいんだろう。そういえば、新しくデュエリストとしてデビューした下級生の中島とランスターの二人にも、ぞっこんって感じだったな。

 ともあれ。
 頼りにしてくれた高町さんには悪いが、僕としては呼ばれた理由は大体終わった感じである。色々と衝撃的な事実だが、『だからなに?』と流せる範疇だ。

 まあ、せっかくブレイブデュエルをするために時を越えた彼女のことである。一度くらい対戦してみようか、と思っていると、ふと携帯電話が震えた。

「っと、あれ、メールか」

 相手は、今まさに話題に出ていたスカリエッティさんだ。

 ええと、なになに?
 あの色々と表現が装飾過多なスカリエッティさんには珍しく、短い文面だった。

『土樹君! 至急、我がラボに来てくれたまえ! 未来の君からコンタクトがあった!』

 マジすか。





























 スカリエッティ家。家主が自分の家をその有り余る技術力で改造した結果、なんかもう、見た目からして近未来感あふれる感じになっているその家の地下に僕は通された。
 未来から、ということでヴィヴィオちゃんと、彼女が来るからにはなのはちゃんも一緒である。

 しかし……上は外見に反してふつーのご家庭だったのだが、地下の方はすげぇな。こっちがスカリエッティさんの研究所になっているらしく、なにやら得体の知れない機材がそこかしこにごろごろしている。

「やあ、よく来てくれたね土樹君! どうだい、私のラボの感想は!」
「いやあ、なんかすごいっすね」
「ははは! そうだろうそうだろう。将来、世界征服に乗り出す暁にはここが我らの拠点となるのだ。それがわかるとは、やはり君はなかなかに見込みがある。……ブレイブデュエルで、君の実力は知っている。どうだい? 我が配下として、栄えあるセクレタリーの一員とならないか?」

 要は、ブレイブデュエルで僕は今ミッド陣営にいるけど、人数少ないセクレタリーに移籍しない? という意味である。
 世界征服? それはスカリエッティさんのいつもの戯言。

「いや、僕の戦い方はミッドチルダが合っているんで」
「そうか、残念だ」

 セクレタリーのメンバー……スカリエッティさんの娘さんたちは、下は子供だからともかく、上二人はどっちも美人で、お近付きになりたくなくはないのだが。
 そっち行くと、アリシア辺りが『裏切り者〜』とか言いながら喜々として攻撃してきそうだし。まあ、それも楽しそうだけどさ……僕、ゲームじゃ良い者側でプレイする派なんだよね。

「で、スカリエッティさん。さっきのメールの件」
「おっと、ここではドクターと呼んでくれたまえ」
「はいはい。ドクター。用件について、詳しく教えてください」

 ちら、とスカリエッティさん改めドクターの目がヴィヴィオちゃんに向く。

「彼女と一緒ということは、事情は聞いているのかな?」
「ええ、まあ。粗方。未来のドクターもろくなことしませんね」

 後、僕が知らなかったらどうするつもりだったのだ。『未来の君からコンタクトがあった』ってメール見て、普通ならそっ閉じするぞ。……いや、多分変に思いながらも来てただろうけどさ。

「なにを言う! 恐らくは人類初の、科学技術による時間旅行なのだよ! やはり、ブレイブデュエルに無限の可能性を感じた私の感覚は間違っていなかった!」

 無限の可能性が洒落にならなくなっている。いくら高度でも、ただのゲームに過ぎなかったはず……なんだけどなあ。

「それで、だ。今は、ヴィヴィオ君とアインハルト君を安全に未来に戻すべく、研究を進めている真っ最中なんだが……そのための装置に、アレだ」

 と、スカリエッティさんが指を指したところには、確かになんかの機械が鎮座している。
 ちょっとした台座のような形。周囲からケーブルやらが接続しているそれ。そのちょっと上の方に、なんか手が生えていた。

「……え?」

 空中に手首から先だけがにょきっと生えてる。……ええー。

「土樹君、この時代の君が来たよ」
「どうもです、ドクター。ぃぃ、よいっしょ……!」

 そして、その手が力を込め、空間を押し広げるようにする。
 空間に小さな穴が開くと……その先に見えたのは、毎日鏡で見ている顔だった。もしかしてあの穴、未来と繋がってんの!?

 内心びっくりする僕をよそに、その彼は言った。

「やっと会えたね……もう一人の僕!」
「AIBOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 ……コホン。

 ヤベエ、同一人物だってことが魂の底から理解できた。ドッペルゲンガーとかに会ったら一回やってみたかったネタなんだよ。今ですら懐かしネタになってるこれを未来でやるとは、流石僕だ。

「っと、ちょちょ! あの、これ維持すんの大変だから、手伝って!」
「あー、了解」

 両手で押し広げている空間が、だんだん閉じようとしている。僕はその穴の縁に手をかけ、力を込める。

 ……二人がかりなら、なんとか安定して固定できるな。

「いやあ、キツかった。ヴィヴィオ? 元気かー?」
「あ、はい!」

 未来の僕が、ヴィヴィオに声をかける。

「いや、よかった。連絡は取れたけど、やっぱ顔見ないと。なのはちゃん?」
「はーいー」

 ひょこ、と穴の向こうから、大人になったなのはちゃんが顔を見せる。

「ヴィヴィオー」
「あ、なのはママ!」

 ママ!?

 ヴィヴィオちゃんが、笑顔で言った言葉に、僕となのはちゃんは固まる。
 お、おおう。ヴィヴィオちゃん、なのはちゃんの子供だったのか。にしては、外見が割と日本人離れしているが……

「あー、実子じゃないから。そっちの僕もなのはちゃんも、気にすんな」
「そ、そうなのか」

 ヴィヴィオちゃん、言ってから『しまった』って顔してる。

「まあ、この程度ならパラドクスの心配はないよ。そも、彼女たちがいなくなった後、我々に未来の記憶が残るか怪しいところであるし」

 ドクターがそう言うなら、まあそうなのだろう。

「しかし……今まであえて聞かなかったが、四次元空間に素手で干渉するなんて、一体全体どうやってるんだい、君たちは」
「え……いや、こう、ドクターの実験の失敗で、ヴィヴィオとアインハルトがそっち行った後、現場を見てたら……なんとなく、イケル! って思って」

 適当に手をぐるぐるしてたら、突き抜けました。と、未来の僕はのたまった。

「あー、なんか時間とか、空間とか不安定になってる感じかー」
「そうそう。一度そっちへのタイムワープがあったせいだと思う。でも、閉じようとする力も強くて、開けるの大変だったから」

 二人がかりならば、と、こっちの僕を呼んだわけか。
 確かにこのタイムホール? は、これ以上大きくするのは無理っぽい。小さければもう少し楽だろうが、多分時空の歪みの大きさのせいだろう。
 うん、我ながらふわっとしてるが、僕自身、どうしてこんなことできるかよくわかってないからね!

「あー、なるほどなー」
「流石自分。よくわかってる」

 あっはっは、と、ちっとも老けていない様子の自分自身と笑い合う。
 ……しかし、少なく見積もっても十年以上は経っているだろうに、外見年齢いじってないのかー。もしかして、他の海鳴の知り合いも老けてないとかないよね。ない、はずだよね……

「得体の知れない同意に至ってるようだが……まあいいだろう。後で調べさせてもらおう」
「……解剖とかしませんよね」
「しないさ、そんな非効率的なことは」

 効率的だったらやるんですか!?

「さて、それより、直接話すためにわざわざこちらへの穴を開けたんだろう? そこ占領されると、ヴィヴィオ君たちを戻す装置の開発が進められないことだし、驚くのは後にして話をしたらどうだい?」

 ドクターの勧めに従い、ヴィヴィオちゃんがこっちに来る。
 僕と、未来の僕は少し横にどいて、親子は十数年の時を超えて再会した。……なお、主観時間では一週間と経っていないはずである。

「あの、あのね、ママ。私、こっちに来てね、たくさんデュエルして……」
「うん、うん」

 ニコニコと笑いながら、ヴィヴィオちゃんの話を聞くなのはちゃんは、すっかり大人といった感じだった。
 まだせいぜい二十歳前後に見えるが、ヴィヴィオちゃんという子供がいるせいか、年齢にそぐわない包容力のようなものを感じる。

 うっ、ヤバイな。
 彼女たちが話すための穴を維持している関係上、むやみに顔が近い。なんか予想通り、なのはちゃん美人になっちゃってるし。
 アカン、ちょっとドキドキしてきた。

 でも、向こうの僕は平気な模様。ちょっとずつ大きくなったのを見てきたかどうかの差だろう。

「うん、ヴィヴィオが元気そうでよかった。……それはそれとして、人の娘を危ない目に合わせたスカリエッティ博士とは、ちょっと『お話』しないと……」

 ゾクッ、と背筋が冷たくなった。
 い、いかん。表情はにこやかだが、これは結構……いや、かなりマジで怒ってる。

 というか、考えるまでもなく、当たり前の話ではある。娘が遠い、それこそ時間を隔てたところまで飛ばされたのだ。そりゃ怒る。怒るだろうが……ちょっと、迫力ありすぎやしませんかね。

「とにかく、顔を見れて安心したよ。ええと……昔の、私? ヴィヴィオのこと、お願いね」
「え、あ、はいっ」

 なにやらぽかーんとヴィヴィオちゃんと未来に自分とのやりとりを見ていたなのはちゃんは、自分が呼ばれてはっとなり、慌てて頭を下げる。ツインテールがせわしなく跳ねた。

「お父さんとお母さんにも、よろしくって言っておいてね。後、良也さんも、よろしくお願いします」
「あー、了解」
「なのはちゃん、もういいか? 僕、二時間位この穴開けてて、腕攣りそう」
「あ、はーい。ありがとうございます」

 おう、ご苦労さん。ただ多分、一度閉じたら、結構開けるのキツイんだろうな。時間が経つほど、時空の歪みも安定するだろうし。

「過去の僕よ。最後に一つ」
「ん?」
「……頑張れ」

 なにその励ましに見えて、その実不吉しか感じない言葉!?

 詳細を問い質そうと口を開きかける僕だが、その前に向こうの僕――ややこしい!――が手を離す。
 二人がかりでやっと安定していた穴は、僕一人では支えきれず急速に閉じていく。

「ま、待て! 変なことだけ言って行こうとするな! 何があるんだ、これから!」
「……えっと、思い出させないで欲しい」

 思い出したくなくなるような事があるの!?
 更に詳細を聞こうとするも、そこで穴は完全に閉じてしまった。

「ドクター。確かここの施設を使えば、未来と通信ができるとか」
「いや、駄目だよ。さっきのはうっかりだからともかく、未来の情報はなるべくやりとりしないほうがいいんだ」
「そこをなんとか」
「意外と大人げないね、君」

 結局、僕は来る未来に向けて、なんの対策もなくぶつかることと相成った。いや、普通のことだけどさ。












 なお、その後ヴィヴィオは、なのはちゃんを初めとしたみんなと存分に遊び倒した。僕も暇にあかせて結構対戦した。
 ただ、ちょっとしたトラブルというか、帰還の予定がスカリエッティさんがいらんことしたせいで遅れたりもした。でも、最終的には無事未来に戻り、

 歴史のつじつま合わせか、みんなの記憶からいなくなる中……僕だけがなんか覚えていたりして、

 まあ、何年後かは知らないが、僕はその時を楽しみに待つのだった。



戻る?