とある休日の夜。
 『一人暮らしじゃ栄養も偏るだろ?』などと高町さんに言われ、夕飯にお呼ばれした。

 ……どうも、海鳴に引っ越してご近所さんになって以来、高町さんちには本当に色々とお世話になっている気がする。いつかお礼の一つでもしないといけないな。

 なんて考えながら、超メシウマな桃子さんの手料理をありがたくいただき、ご飯の後に高町さんの晩酌に付き合っていると、

「ねえ、良也さん。ちょっといーい?」
「んー、なんだ、なのはちゃん」

 テレビを見ていたなのはちゃんが、おずおずとこちらに寄ってきて、こうのたまった。

「あの、ブレイブデュエルのことなんだけど、どうやったら強くなれるかなー、って、ご相談」
「うん?」

 いや、なのはちゃんはもう充分強いと思うが。
 小学生だからか、飲み込みのスピードが物凄く早く、相性の悪さもあって一対一だと僕の勝率はそろそろ五分を切る。

 なんでなんだ、と尋ねてみると、なんでも先日、グランツ研に招待された際、グランツ博士の娘二人に手も足も出せず敗北してしまい、T&Hエレメンツの面々は現在絶賛猛特訓中らしい。

「おお、そういえば、昼はアリシアちゃんと一緒にうちに来て特訓してたな」

 ぽん、と高町さんが手を叩いた。

「アリシアと? ……って、この家で? ブレイブデュエルの特訓を?」
「うん。反射神経を鍛えるために、叩いてかぶってジャンケンポンとか」

 ……いや、確かにブレイブデュエルは現実の身体能力とか技術も大きく影響するゲームだが、マジで現実サイドから強くなろうとする奴は初めて見た。
 小学生だからできる無軌道な青春的なナニカだろうか。でも、こうやって『強くなったつもり』も意外と馬鹿にならんし……

 しかし、それよりちょいと気になることがある。

「でも、フェイトとアリシアがいて、手も足も出なかったって。相手ってよっぽど強かったのか?」

 フェイトとアリシアの二人は、ロケテ時代から上位にいる上級プレイヤーだ。
 なのはちゃんやすずかちゃん、バニングスも単純な強さならそろそろ二人に追いつくが、色んな相手と戦ったっていう経験は二人にはまだまだ及ばない。
 そんな二人がいて完封されたのか? いや、開発者の娘ってことだから、大会には出てなくても物凄い実力者なのかもしれんが。

「う゛ー」

 敗北の悔しさを思い出したのか、口を尖らせるなのはちゃん。
 しかし、なのはちゃんの説明を受けて、どういうことかようやくわかった。
 ……フェイトとアリシアが別チームだったらしい。

「あー、そういうことか……」
「え? 良也さん、なにかわかった?」
「いや、まあ自分らで考えたほうがいいかな」

 フェイトは単独なら無類の強さを誇るが、実はチームプレイが苦手だ。
 ロケテの時のみならず、正式稼働後も野良チームで組んだことが何度かあるが、味方に合わせすぎて高機動型の持ち味を殺してしまう傾向がある。

 アリシアがいればその点うまくフォローするのだが……まあ、チームとしての課題だな、こりゃ。僕が口を挟むより、自分たちで考えさせた方がいいだろう。

「まあ、それで? どうやったら強くなれるか相談?」
「あ、うん。良也さんは最初から強かった、って聞いたから、なにかコツみたいなのはあるかなーって」

 ……コツねえ。

 一つ。ブレイブデュエルの空を飛ぶ動作は、僕が普段飛んでる感覚でほぼイケること。
 一つ。僕のアバターであるバラージプレイのプレイスタイルも、これまた現実の弾幕をブッパするのと大差ないこと。
 一つ。こと航空戦(弾幕ごっこ)については、ブレイブデュエルが世に出る前から、僕はさんざん巻き込まれていたこと。

「うーん……僕、そんなアドバイス出来るような事ないぞ」

 ……結論として、経験の差としか言えないし。

「そうなの?」
「うん。そうだな……もし現実でも飛べたら、自分がどう飛ぶか、イメージしてみる……とか」

 イメトレである。
 ブレイブデュエルはいくらリアルでも所詮はゲーム――とか、そんな感覚で飛ぶ奴はまず上達しないってのが僕の印象だ。
 仮想空間とは言え、基本的な物理法則は現実と同じだ。要は慣性とか空気抵抗とか重力とか、そういったものを考慮しない空戦機動は、総じて下手である。

 なのはちゃんはその点、素直な感覚で現実と変わらないってことは飲み込んでいると思うが、しかしリアルで自分が飛ぶ所を考えたことはないだろう。

「うん、じゃ、やってみる。家の中でも簡単にできそうだし」
「おーう、頑張れー」

 手を振って送り出す。

 テレビの前のソファに座ったなのはちゃんが、目を瞑って集中し始めた。
 テレビを見ていた美由希ちゃんが『なにするの?』と面白そうに聞いてる。

「おう、良也。ありがとうな。なのはに付き合ってもらって」
「いや、僕も趣味でやってることですから」
「そっか。……なんだ、T&Hって店、店長さん達はいい人達だし、何回か行ったことがあるけど雰囲気もいいし、心配はないと思うんだが。色んな人が集まってて、しかもなのはたちはショッププレイヤー、だっけ? そんなんで注目されてるから、俺としてもちょっと心配なんだよ」

 ……ああ。今はそんなことはないが、一昔前はゲーセンとかは不良が集まる場所、みたいなイメージがあったしな。
 T&Hは普通のおもちゃ屋だから、客層も別に変な人が集まったりしないけど、素行の悪いのが皆無ってわけでもない。

 別にそんなつもりはなかったんだけど、知り合いの大人が一緒なら高町さんも少しは安心ってところか。

「まあ、大丈夫だとは思いますが、僕も気をつけときますよ」
「ああ。頼む。……っと、ほれ、グラスが空になってるじゃないか」
「どうも」

 高町さんにビールを注いでもらう。

「はは、しかし、現実でも飛べたら、ねえ。お前、そのアドバイスはどうなんだ?」
「いや、まあ、なにも言えないってのもカッコ悪いですし」

 ニヤニヤ笑う高町さんに、僕は苦笑する。
 だってセイクリッドとバラージプレイって、特性が全然違うし……というか、僕と同じプレイスタイルの人間いないし。僕、基本感覚でプレイしてるから、他の人に助言って苦手で……

「な、なのは!?」

 と、そこで美由希ちゃんの悲鳴が――?

 なんだなんだ、と思って振り向いてみると……

「ブゥゥゥウウウーー!」

 思わず口に含んでいたビールを吹き出してしまった。

 あ、あれ、おかしいな……なのはちゃん、なんだか目を瞑ったまま、天井近くまで浮かんでるよ?
 美由希ちゃんの声とか僕の吹き出した音とかに全く反応せず、すごい集中してる。

「……おい、良也?」
「僕はなんもしてませんよ!?」

 んな目で見られても、冤罪だとしか言えねえ!

 って、数メートルしか飛んでないけど、それでもあそこから落ちたら骨折くらいはしかねん。
 呼びかけて我に返ったらパニックになるかもしれんし、

「ちょ、ちょっと失礼」

 僕はちょっと悩んだが、なのはちゃん以外の高町家の人達は僕のことは知ってるので、僕も浮かんでなのはちゃんに近付く。

「も、もしもし? なのはちゃん?」

 すげぇ集中力だ。全然反応しねえ。
 途中で浮遊力がなくなっても落下しないよう、お腹に手を回して、なのはちゃんごとゆっくり下降する。

 少しずつ、少しずつ……で、ソファに着地。
 また飛ばないよう肩を抑えて座らせて……と、その辺りでなのはちゃんが目を開けた。

 しばらくトランス状態のようにぽけーっとした目をしていたが、やがて焦点が合う。

「あれ? 良也さん? もうお酒はいいんですか?」
「い、いや……それより、なのはちゃん。今なにしたのか、覚えてる?」
「もうー、さっき教えてもらったこと、試してただけですよー。忘れたんですか?」

 こええ。この子、まったく無意識で飛んでやがった。
 もし、なにかの巡りあわせが違えば、凄い実力の魔法使いかなんかになっていたかもしれん。さっきの浮遊術、魔力使ってたっぽいし。

「良也? なのはは……」
「いや、多分子供のうちだけですって。大きくなれば、自然に収まるかと。……もし何かあれば相談してください」

 超能力とか、そういう不思議な力は子供の頃のほうが発現しやすい。特に訓練をしなければ年齢とともにこういうこともなくなるはずだ。

「??」

 一人わかってない様子のなのはちゃんを適当に誤魔化して、僕はテーブルに戻る。

 ……今後、イメトレは家でしかやらないよう言い含めておかないといけないな。



























 そんなことがあった翌日。

 T&Hに訪れた僕は、休憩所のデッキ考案スペースでカードの調整をしていた。

「うーむ……」

 パーソナルカードのステータスレーダーチャートと睨めっこしながら、戦術を考える。
 ……僕の弾幕一辺倒の戦術も、大分対策されつつある。基本路線は変えないにしろ、何かしらのプラスアルファが欲しくなってきたところだ。

 差し当たっては、対戦相手になるとほぼ負け確定となってしまう高火力高耐久型への対策を……

「あ、良さん、いらっしゃい」
「っと、アリシア」

 呼びかけられる声に振り向いてみると、T&Hのエプロンを身につけたアリシアがいた。

「なんだ、休みの日まで店の手伝いか? えらいな」
「私は楽しんでやってるから、全然平気ー。こうして休憩ももらってるし……あ、良さん、隣失礼するねー」

 ジュース片手のアリシアは僕の隣に座り、無遠慮に僕のデッキの内容を覗き見る。

「へー、デッキ構成変えるんだ?」
「んにゃ、まだ試行錯誤中。威力高めると、どうしても弾幕の密度が薄くなるし……そうすると、全く意味なくなってくるからなあ」

 僕の弾幕戦術は、躱しきれない弾幕という意味はもとより、『弾が多すぎて敵が見えねえ!』ってところに地味に強みがある。
 密度が半減すると、強めの誘導弾持ちには割と無力になっちゃうんだよね。……誘導弾と言えば、霊夢か……うわ、勝てるビジョンが更に見えなくなってきた。

「……やっぱ、もうちょいレア度の高いスキルカードが欲しいな」
「ふーん。ま、カード引くなら、ウチの売上に貢献してくれてありがとうー、ってトコかなー」
「いや、僕のリアルラック的に、誰かと交換した方がいい気もするなあ」

 ブレイブホルダーに唸ってるダブりカードが火を噴くぜ。

「ま、それはそれとして。なのはちゃんから聞いたけど、なんでも特訓中なんだって?」
「あ、良さん知ってたんだ、そうそう。大変は大変だけど、強くなってるって実感があって楽しいよ」
「そうかー」
「良さん、暇なら一戦どう? ちょっとなのはと新しい戦術組んでてね。試させてほしいな」

 ちょいちょい、とアリシアが丁度空いたエンタークンを指差して言う。
 ブレイブデュエルの簡易シミュレーターであるエンタークンでは、本機のような仮想世界は展開出来ず、狭めのワイヤーフレームの闘技場しか出力できないが、練習試合くらいなら充分だ。

「いいぞ。じゃ、このリョウヤデッキバージョン2を試してみようかな」
「うん。ふふん、私の真必殺技、見せてあげる」

 必殺技……決め技に欠けるガンナータイプのカスタムを使っているアリシアが、一体どんな方策を取ったのか。
 ちょい興味があるな。

「んじゃ、ま」
「デュエルスタート!」

 誰かに取られないうちにエンタークンに取り付き、カードをセットする。
 意識がエンタークンの中に出現したアバターに移り、僕の視界にはワイヤーフレームの世界が写る。

 相手方の開始位置には、チアというかアイドルというか、そんな衣装に身を包んだアリシアがいる。

「フォーチュンドロップ!」

 彼女が一声かけると、デバイスであるフォーチュンドロップから、アリシア愛用のハリセンが出現した。

「ふん、ふん♪」
「……なんだ、その自信満々な顔は」

 ハリセンを不敵に構えて、アリシアがニヤリと笑ってる。

「まあ、行くぞ……バラージプレイ」

 なんだ? と悩みながら、僕はいつものようにデバイスである杖を構えて、弾幕を放つ。
 普段より数は少ないが、その分一発一発の威力は倍増している。

 うーん、回避が得意な相手には避けられそうだが、この数でも普通の相手ならイケるか?

 と、実際に放った弾幕を見分しながら、アリシアの出方を待っていると、

「?」

 アリシアは、その場で留まったまま、躱そうとしない。
 ガンナータイプは特段防御に優れたアバターではないから、こんだけの数が直撃するとそのままゲームオーバーになるぞ。

「ディバインバスターじゃないけど……シュートバレット・ホームラン!」
「い゛い゛!?」

 アリシアは気合一発叫びを上げ、ハリセンを思い切りフルスイングする。
 んで、僕の放ったシュートバレットの弾幕を、思い切り弾き返した。

 ……そして、そのまま弾は僕に直撃する軌道に、

「って、当たるか!」

 弾き返されたのは、精々三、四発。このくらい避けるのは簡単……

「続いて第二打席!」

 しかし、アリシアはすぐさまもう一度バッティングフォームに入り、またしてもスイング。
 連続ではうまくいかなかったのか、今度は僕から逸れた軌道に弾き返したが、しかしもう第三打席目に入ってる!?

「来た! 次こそ……ホームランン!」

 なんかタイミングが合ったのか、これまでで最大のスピードで弾き返されたシュートバレットが一直線に僕に向かってくる。
 ……うおう、混乱してるのと一発目避けた体勢のままだから避けらんねえ。

「ぐはっ!?」

 打球は僕の顎を直撃し、体力ゲージを一割くらい持っていく。……なんかアリシアのバッティングのせいで威力が上がってて、それに加えてクリティカルヒット判定喰らったせいで、単発のシュートバレットとは思えない威力に。

 ぐぐぐ、と立ち上がる。

 な、なるほど……反射技? か。最初、ディバインバスターとか言ってたから、本来はなのはちゃんとのタッグで使う想定……多分、あれで直射型のディバインバスターを曲げるつもりだな?

 今日はあの技を徹底的に練習するつもりなのか、アリシアは開始位置から動いておらず、へいへーいとハリセンを構えていた。
 ……僕はピッチングマシンじゃねぇぞ。

「アリシア……」
「なにー? 良さん、次の弾はまだ?」
「一つだけ言わせろ。今のはホームランじゃなくて、ピッチャー返しだ」

 シュートバレットを放った相手に返しておいて、なにがホームランだ。

「はっ!?」

 その時アリシアに電流走る。
 ……って、本気で気付いていなかったのか、

「そっかー、しまったなあ。ま、いいや。さあ、行くぞー。シュートバレット・ピッチャー返し」
「やるとわかってれば、やりようはあるんだよ!」

 ええい、いい気になりおって。
 そんなお行儀のいい弾幕ばかりだと思うなよ。と、僕はさっきとはパターンを変えた弾幕をぶっ放す。

「! もらっ……って、ええ!?」

 ぐにゃり、と弾幕が曲がり、哀れアリシアのハリセンは空を切る。

「変化球ー!?」
「ふっふっふ、舐めるなよアリシア。僕はこれでも、パワ◯ロのサクセスじゃ全作品でオールAの選手を作ったんだぜ」
「それ関係あるの!?」

 いや、あんまないけど。

 そうして勝負は加熱していき、
 なんか気付くと、エンタークンの周りに沢山の観客が集まっていて、かなり盛り上がったのだった。

 ……でも、最後にゲームが違う、とツッコまれた。今度提案してみようかな、新たなブレイブデュエルの遊び方として。







 なお、なのはちゃんへのアドバイスとかアリシアとの模擬戦が身になったのかならなかったのか。
 後日、フローリアン姉妹へのリベンジに、無事成功したらしい。








































――もう一つの可能性






 それは、とある休日の夜。
 小腹が空いたのでコンビニに軽食を買いに出かけた帰り、こんな時間には滅多に鳴らない携帯電話が振動した。

「? なんだ」

 発信者を見てみると、クロノ君である。はて、例の事件の件もあらかた片付いたという話だったけど……今更なんだろう。

「はい、もしもし」
『夜分遅くにすみません、良也さん。クロノです』
「いや、起きてたからいいけど、なに?」
『それが……』

 クロノ君の話すところによるとこういうことだった。

 以前、僕から蒐集し、オーバーフローを起こして管制人格であるリインフォースさんと守護騎士のみんなを残して消滅してしまった闇の書。
 あれの残滓とでも言うべき『闇の欠片』が、活動を再開し始めているらしい。

 専門的なことはよくわからんが、あの本の中にあった情報と溜め込まれた魔力が多すぎたせいで、ただ消滅という風にはならなかったのだとか。
 ある程度は予見できていたことらしく、現在、海鳴にいる魔導師総掛かりで対応しているとのことだが、

『それでですね。中には、良也さんの形を取った闇の欠片も出ているんです。欠片の行動原理は不明ですが……もしかしたら、そちらに出現するかもしれません。……できれば、うちの部屋にいてもらうと、助かるんですが』
「ああ……うん、いいよ。これから向かう」

 時空管理局の地球の出張所扱いになっているハラオウンさんのマンションは、ここから程近い。
 丁度外出用の服着てることだし、いいや、このまま行けば……

「あれ?」

 と考えていると、突然電話が切れた。
 なんだろう、と携帯のディスプレイを確認してみると……電波が届いていない?

「はっ!?」

 夜なので人通り自体少なかったが、周りのマンションとかからも人の気配が完全に消えてしまっている。
 け、結界……か?

「ああ……畜生……」

 と、そんな声が頭上から聞こえてきて、上を向いてみると、なんかこう、毎日鏡で見ている顔が。

 こ、これが闇の欠片……か。マジで見分けがつかねえ。クロノくんの連絡がなかったら滅茶苦茶混乱していただろう。

「あ、あのー」
「くそっ、なんでだ。なんでだよ――!」

 声をかけてみても、なにかをこらえるような顔で悔しそうな声を上げるだけで、僕の言葉には反応しない。
 闇の欠片とやらは、モデルとなった人物の強い思いや後悔等を体現しているそうだが――ま、まさかこの僕に、こんな悲痛な表情を浮かべるようなシリアスな事情があったとは知らなんだ。あれか、無意識では僕も色々思い悩んでいるってことなのか?

「なんで……なんで今の時間帯は夜なんだ!?」
「……知らんがな」

 なにを悩んでいるんだ、僕は。
 夜にそんなトラウマあったっけ? うーむ、夜道は妖怪に襲われそうだから、とか? いや、それは昼間も一緒だしな……

「暗くてスカートの中が見えねえ!」

 …………………………

「死ねぇ!」

 弾幕を叩き込んだ。
 流石は僕のコピー。不意打ち一発で為す術なく翻弄され、ヒュルル、と落下したかと思うとぐしゃ、と地面にキスをした。

 そして無言のまま形が崩れていき、やがて消滅。と、同時に結界が解除され、周りに人の気配が現れ、携帯の電波も復活する。

「もしもし、クロノくん?」
『あ、良也さん。今突然切れましたけど』
「いや、僕の闇の欠片に遭遇した。まあ、倒したけど」
『そうですか。不幸中の幸いです。中にはなのはの欠片とか、かなり強いのも混じっていて』
「あー、うん。確かに、なのはちゃんとかが来ても敵わないから、さっさと避難させてもらうけど、一つだけお願いが」
『なんですか?』

 うん。どうやら、僕の闇の欠片は、あのシグナムとヴィータに襲われたあの日の感情がモロに出ているらしい。
 ……あんな台詞を、幼い少女たちやシグナム本人に聞かれるわけにはいかない。

「……もし僕の偽物が出て来たら、問答無用の先制攻撃で倒して欲しい。後生だから」
『は、はあ。それは構いませんが……』

 そこで『何故』とか聞かない辺り、多少は察しているのか、もしくは既にこの言動が知られてしまっているのか。
 ……どうか後者でないことを祈る。










 そうしてこの日は無事に僕は避難でき、
 翌朝、みんなが帰ってくると同時に開放された。

 ……うん、この日は本当、これだけだった。
 闇の書事件は例外中の例外だとしても、異世界組の事件に関しては僕ほとんど関われないなあ。いや、関わりたいわけじゃないけど、子供が頑張ってるのに、隅で見てるだけってのはちょいと堪える。
 ううん……ミッド式の魔法っての、ちょっと教えてもらおうかなあ……



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