「良也さんじゃないですか」
「あれ? こんばんは、綺堂さん。偶然ですね」

 今日は花の金曜日。放課後に僕はT&Hで軽く五戦ほどしていい汗をかいた後に、酒を呑むために海鳴駅前に繰り出していた。

 どの店にしようかなー、とよさ気なお店を探していると、偶然にも妹の元同級生、綺堂さくらさんとばったり遭遇したのだ。

「はい。どうもこんばんは。いつも忍とすずかがお世話になっています」
「いや、あれは半分くらい僕の趣味も入ってますし」

 頭を下げられて、僕は慌てる。

「でも、あの子達、良也さんに感謝してますよ。ふふ……あの時、貴方に頼って正解でした」
「はあ」

 そうなのかねえ。忍なんかは、よくからかってきたりするんだけどなあ。
 まあ、仮に本当だとしたら、忍はそういう態度はまず見せないってことは容易に想像がつくけどな。

「今日は駅前にお買い物ですか?」
「あー、いや。その、これです」

 くい、と盃を傾ける仕草をすると、ああ、と綺堂さんは笑う。
 ……そして、彼女の瞳がきらりと光った気がした。

「じゃあ、この後ご一緒します? わたしも、今日はちょっと呑みたいかなって思ってまして」
「ああ、勿論いいですよ。んじゃ、行きますか」

 高校生の頃は、どちらかと言うと華奢な印象を受ける子だったけど、あれから何年も経ち、今や綺堂さんは女性らしい丸みを帯びた綺麗な女性へと成長している。
 こんな誘い、断る奴は男じゃないよ、うん。

 まあ、色恋沙汰に発展する予感は欠片もしないが。

「あ、僕まだこの辺のお店知らなくてさ。地元の酒飲みとして、いいところ紹介してよ」
「酒飲みというほどじゃ。まだまだ若輩ですよ」

 ふんわりと笑う綺堂さんは、それでも『こっちへ』と案内してくれる。

「すいらく、ってお店が駅向こうにあるんです。学生でも手の届くリーズナブルなお店ですけど、けっこう美味しいんですよ」
「へえ」

 二人で近況を報告し合いながら、その『すいらく』とやらに向かう。

「じゃあ、まだ玲於奈とは連絡取ってるんだ」
「勿論です。玲於奈は親友ですから」

 今は婦警になっているうちの妹。現在は警視庁勤務だが、たまに海鳴にやって来ては綺堂さんら学友とお茶しているらしい。
 ……そういうことなら、海鳴に引っ越す兄に一言位言えってんだ。

 ぶつくさ言ってると、綺堂さんが苦笑する。

「相変わらず、兄妹仲がいいですね」
「なにおう? そんなことないって。どうしてそう見えるの」
「そういうところですよ。……あ、ここです」

 丁度店に到着したもんだから、誤魔化されてしまった。……くそう。

 まあいいか、と店内に入ると、程よい混み具合。ほどよい店の喧騒が、なんかこれから呑むぞー! って気にさせてくれる。
 二人掛けのテーブル席に案内されて、メニューを見ると……成る程、中々手頃な値段で色んな料理が置いてある。地酒も豊富だった。

「んじゃ、僕はこの大龍神って酒頂戴」
「わたしは……うん、わたしも今日は日本酒にします。同じものを」
「あー、っと。料理は……綺堂さん、適当に頼みますよ? 何か欲しいものがあったら言ってください」
「はい」

 本日のおすすめの一品料理から適当に何品かを注文し、野菜も食わんとと思って漬物盛り合わせを追加する。

 お通しと、すぐに出てきたたこわさでピッチを上げつつ、久し振りに話す綺堂さんと色々と盛り上がった。

「あ、そういえばすずかから聞いてますよ。ブレイブデュエル、でしたっけ。ニュースとかでも話題になってるあのゲーム。良也さん、すごい強いらしいじゃないですか」
「あー、まあ、それなりです」

 世界初の本格バーチャルリアリティゲームとして、ブレイブデュエルは社会現象になりつつある。
 確かにロケテスト中は全国ランカーだったが、競技人口がえらい勢いで増えてるから、今やったら僕どの辺りになるかなあ。

「すごいですね」
「まあ、ゲームですごくても……」

 社会人としては、別に自慢するようなことじゃない気がする。

「ふふ……でも、楽しそうですね」
「じゃあ綺堂さんもやります? なんなら、色々教えますよ」
「そうですね……機会があったら。あ、お酒、おかわり頼みますね」

 ちょっと話している間に、二合注文した酒はなくなってしまっていた。
 ……早い。僕まだお猪口一杯目なのに。綺堂さん、強いなあ。



 んで、その日は、綺堂さんに付き合って相当量呑んだ。
 これが一人目。



















 海鳴臨海公園。

 その名の通り、海に面した海鳴市でも有数の公園だ。

 潮風がいい具合に吹いていて、ここでの散歩は気持ち良く、デートスポットとしても人気だ。

 ……だがしかし、僕の目当てはそういうのじゃない。ここでいつも出ているたいやき屋さんの、カレー味とチーズ味を買いに来たのだ。
 ゲテモノと侮る無かれ。この二つを一度に頬張るのが男の食い方である。恭也に教えてもらったのだが、割とお気に入りだ。

 ふんふーん、と鼻歌交じりに目的の店に歩いていると、ふと公園のベンチで珍しいコンビが座っているのを見つけた。
 向こうも、僕のことに気付いたらしく、顔を上げて手を振り――お互い、同じ相手に挨拶しているのに気付いて、驚いていたりしていた。

「シュテルに美緒……お前ら、知り合いだったのか」
「こんにちは、リョウヤ」
「やっほー、良也。久し振り」

 片や、ブレイブデュエルロケテ一位の中学生、シュテル・スタークス。片やさざなみ寮の猫耳、陣内美緒。

 通ってる学校も違うし、全く接点が見当たらん――と、思っていたのだが。

「猫友達か?」

 二人の座ってるベンチににゃーにゃー言って集まっている猫達の一匹を撫でる。
 ……おおう、慣れてる奴ばっかりだな。僕も猫には好かれる方だが、こんだけ集まって一匹として逃げないとは。

「ま、そんなとこ。この辺の野良にうちの試供品のおやつ上げてて知り合ったの」

 美緒は現在、近所のペットショップ『フレンズ』でバイトをしている。

「ええ。それで、少しお話もさせていただいて……」
「シュテルすごいよー。こんなに猫に好かれてる人間、初めてだね」

 おい、美緒。お前その言い方は微妙に危ういぞ。

「ミオこそ。本当に猫と会話しているように見える程ですよ」
「は、ははは……。ていうか、シュテルも猫好きだったんだな」
「ええ。友達ですから」

 デュエルの時の鬼神のような戦い振りはともかく、こうして笑っていると、やはり中学生の女の子である。

「っていうか、良也こそ、シュテルとどうやって知り合ったの? ちょっと怪しい」
「なにが怪しいんだよ」
「だって、良也ももういい年じゃん。高校の先生だっつっても、シュテルは中学生だし、学校も違うでしょ」

 いや、確かにそうなんだが……

「ゲーセンで知り合った仲だ」
「ゲーム?」
「ブレイブデュエル。名前くらい知ってるだろ」

 毎日一枚、無料でカードを貰えるとあって、ブレイブデュエルは小中高生に特に人気である。

「あー、知ってる知ってる。あたしもちょろっとやってるよ。ほら」

 ごぞごそと、美緒がジーパンのポケットからブレイブホルダーを取り出す。
 そして、取り出したパーソナルカードは……ぅげ、

「猫耳なんて付いてるんですか。可愛いですね、ミオ」
「あはは……なんでだろーねー。ま、あたしも気に入ってるけどさ」

 パーソナルカードを作る時、カメラで対象をスキャンしてるんだが……あの機械、一体どこまでスキャニングしてんだ。

「まあ、僕とシュテルはロケテスト時代からやっててさ。ライバル、って言うにはちょっと僕の負けが込んでるけど」
「リョウヤとの対戦は、心躍るものでした」

 それ、一度しか勝ってない僕に言われても、嫌味にしか聞こえん。シュテルにはそんな意図はないだろうけどさ。

「へえ。じゃ、こんどあたしともやろーよ」
「いいですよ」
「いいけど、美緒。お前、シュテルは強いぞ」
「ふふーん、あたし、これでも八神堂ではそれなりに鳴らしてるんだから」

 それ、うちの学校の長谷川も言ってた。負けフラグだぞ。

「それは楽しみです。私のホームはグランツ研ですが、八神堂にもたまに参ります。見かけたらよろしくお願いします」
「こっちこそ! いやー、楽しみだな」

 ……美緒。南無。



 んで、後日対戦した美緒は、案の定シュテルにボッコボコにされたらしい。
 ま、まあ……とりあえず二人目。


































 さて、今日は合コンである。

 ……いや、僕は参加したくなかったんだ。他の若手の先生方に誘われてしまって。
 僕はまだ今年転勤してきたばかりだから、こういう集まりには参加して交流を深めておかないといけない。

 お相手は、同じ市内の学園ということで付き合いのある、私立風芽丘学園の女性教諭達。
 人数は五対五である。

「……はあ、ったく、面倒臭い」

 ちょっと仕事が長引いて遅れてしまったが、バックレるわけにもいかない。
 会場である居酒屋に辿り着き、僕はため息を付いた。

 ――単に呑むだけならいいんだけど、合コンって名目がなあ。彼女が欲しくないとは言わないが、別にこんなことしてまで欲しくはないし。

 やれやれ……入るか。

 居酒屋に入り、店員さんに案内され、予約していた個室に入る。

「おー! 土樹先生、お疲れ様!」
「お疲れ様ー」
「土樹先生、そっちそっち」

 と、同僚である男性陣に引っ張り込まれ、空けてあった席に。

 まあ、海聖側は勿論知っている人ばかりなのだけど、まずは風芽丘の先生に挨拶を……

「どうも、遅れまして申し訳ありません。海聖高校で英語を担当してる土樹と……」

 女性陣を見渡して自己紹介を、と言葉を紡ぐが、尻すぼみになる。
 僕の席から対角線、一番遠い席に座っている、風芽丘側で多分一番の美人さんは……

「あれ!? 良也さん!」
「あー、っと。……ええと、その、玲於奈の先輩の」
「あ、鷹城です。にゃはは、お久し振りですね」

 そうだ、思い出した。あの雪の降った五月、さざなみ寮で一緒にバーベキューした鷹城さんだ。
 いや、あの後も数度、顔を見ることはあったけど、そのくらいの関係なので名前もちょっとど忘れしてた。

「? 鷹城先生、知り合い?」
「うん。わたしが高等部の護身道部にいた頃の後輩のお兄さん」

 ……そう言われると、えらく遠い関係だ。
 ま、まあ。そんなアクシデンツはあったものの、他の女性陣とも自己紹介をし合い、改めて乾杯する。
 そうして、談笑が始まる。

 鷹城さんの対面に座ってる白波先生は、鷹城さんを口説こうと必死になっている様子だが、天然かわざとか、のらりくらりと躱されていた。
 こっちは、正面に座ってる方がちょうど同じ英語教師だったので、教育方針について少々話してみたり。

 しかし、今日集まってるのは、風芽丘は中等部の先生なんだな。
 あそこ、経営難に陥った海鳴中央学園と合併して、中等部が出来たとは聞いたことがある。玲於奈がいた当時は、高等部しかなかったなあ。

 んで、酒もほどよく回ったところで、席をシャッフル。
 知り合いだから気を使ったのか、僕の対面には鷹城さんが座ることになった。

「いつこっちへ来たんですか?」
「あー、この春に、海聖に転勤になって」
「へえ。あ、玲於奈ちゃん、ついひと月前、こっち来てましたよ」
「……聞いてる。この前、綺堂さんと呑む機会があって」
「へー。あ、どぞどぞ」

 グラスが空いていることを見つけて、鷹城さんがピッチャーを向けてくる。
 どうも、と一つ礼を言って、酌を受けた。

「そういや、綺堂さんに聞き忘れてたけど、相川くんとか元気?」
「あー、元気です。しんいちろも、今はバリバリ働いてます」

 そういや、と、ぷちハーレム状態だった彼のことを思い出す。
 さてはて、彼は誰かとくっついたのかね。それとも、案外まだ一人身かな。

 ……気にならなくはないが、多分彼に思いを寄せる一人である鷹城さんに聞くのは憚られた。鷹城さんがここに来たのは付き合い以外の何者でもないだろう。今の名前を出した時の反応からして、まだ相川くんのことを好きみたいだし。

 僕は別に、あわよくば……なんて考えていたわけじゃないが、割と本気でアタックしていた白波先生はご愁傷さまである。

「初めて会った時、みんな高校生だったのに……早いなあ」

 この歳になると、時間の経過が妙に早く感じられて仕方ない。ここに集まった中では、僕は一番年上の三十オーバーだし、その感情もひとしおである。

「そうですね。学生の頃みたいに、思いっきり遊ぶってことも少なくなりましたし」
「……ごめん、僕は割りと遊んでる」

 放課後や休日はブレイブデュエル三昧だった。

「そうなんですか。どんなことしてるんです?」
「……いや、一応……その、ブレイブデュエルを」
「あ、知ってます知ってます。うちの生徒も、ええと、八神堂だっけ……そこで遊んでるとか」

 八神堂。前、なのはちゃん達がダークマテリアルズとスカイドッジで決闘をした古書店だ。
 ……いや、うん。あんな地下闘技場を備えた店が、古書店にカテゴライズされるかは、僕は正直微妙に思っているが。

 僕もあれ以来、たまに遠征に行っている。グランツ研もそうだが、三つの店でそれぞれスタイルが違うので、たまに戦うといい刺激になるのだ。

「なら、僕とも対戦したことあるかも」
「あれって面白いんですか?」
「うん。まあ、本当の魔法使いになったみたいに飛び回れて、初めて飛ぶ人はあの爽快感はやみつきになるんじゃないかな」
「にゃはは……そういえば、飛んでましたね」

 そういや、目撃されてたか。

「後、バーチャルリアリティゲームだけど、現実で格闘やってる人とかすごい有利」
「へえ。じゃ、ちょっと行ってみようかな。最近、やっと仕事に慣れてきて、時間に余裕が出来てきましたし」

 教職は大変だよねえ。いや、大変じゃない仕事はあんまりないと思うけど、学生を相手にするのは普通の仕事とは別種の苦労がある。それに、教材研究したりも研修に部活に……
 なんか大学時代の友達からは、休みが多いとか勘違いされてたりするが、学生が長期休みでも普通に出勤だ。そりゃ、その時期は有給休暇は取りやすいけど。

 まあ、慣れるまでは割と大変だった。

「じゃあ、もし良かったら対戦でも」
「よろしくお願いします」

 さて……割と楽しみになってきたぞう?




 これが三人目。












 耕介宛にメール。

『次の土曜、ホビーショップT&Hでブレイブデュエルやろう。十時集合でどう?』

 返信が来る。

『オッケー。うちの寮生も何人かやってるから興味あったんだ』

 完了。
 四人目ゲット。

 ……ん? 耕介から追加のメールが。

『今、ゆうひのやつがうちに帰ってきてるんだけど、一緒に行くって』

 おう……五人目。

















 とまあ、こんな感じで。

 僕の知り合いにも、ブレイブデュエルをやる人は増えてきた。

 大人が多いから、美緒以外は僕程頻繁に通ってる人は少ないけど、それでもたまに一緒のチームを組んだりする。
 今日みたいに。

「というわけで、海鳴アダルトチーム結成やー」

 休暇で海鳴に来ているゆうひが、ブレイブデュエルの中で腕を上げると、観客が歓声を上げる。
 ……今や、テレビで見ない日はないというくらいの売れっ子シンガーソングライターなので、地方のおもちゃ屋に出没すると、色々と騒ぎになるのだ。

「ま、頑張るか」

 ベルカ式の一撃必殺の豪剣タイプとなった耕介が、デバイスである日本刀の具合を確かめる。

「ちょっと照れるねー。うちの生徒もいるし」
「鷹城先輩。生徒さんにも、いいところを見せましょう。わたしも、すずかに情けないところは見せられませんし」
「そうだねー。がんばろ〜」

 ゆうひ、耕介、鷹城さん、綺堂さん、僕の急造チームはショッププレイヤーであるT&Hエレメンツに相対する。
 T&Hエレメンツ。チーム名も決まり、実力もグングン伸びている彼女たちだが、フェイトとアリシア以外はまだ初心者。充分に勝負になる。

 なお、美緒は、友達同士で別チームを組んでるので、この後そっちと対戦する予定だ。

「いくよー、少女たちー」
「あっ、はい!」

 ノリのいいゆうひが笑顔で宣戦布告し、バトル開始のカウントが始まる。

 さあ、デュエルの始まりだ――!





 なお、急造の海鳴アダルトチームは、T&Hエレメンツ相手に善戦したものの、惜敗してしまった。
 うむむ……次は負けん。







































――もう一つの可能性






「あれ、プレシアさんじゃないですか」
「良也? こんにちは」

 休日の昼下がり。昨日の夜から新作ゲームをぶっ通しでプレイし続けていた僕は、流石に疲れも出て来たので、翠屋に甘味を補給しに来た。
 ピークタイムは過ぎたものの、相変わらずの人気店。ほとんどの席は埋まっており、空いていないかな〜と見回して、たまたま見知った顔を見つけたのだ。

「良也さん。生憎ですが、満席でして……。プレシアさんと相席、お願いできますか」

 接客に駆り出されている恭也がやって来て、そう頭を下げる。

「ええと、プレシアさん?」
「いいわよ。いらっしゃいな」

 それじゃあ、とお言葉に甘えて、プレシアさんのテーブルにつくことにする。

「あ、恭也。僕、ダージリンとシュークリーム二個。後、スペシャルショートケーキね」
「はい。了解です」

 普通なら、ここでメニューを復唱するのだが、忙しそうだし、よろしくー、と手を振って、僕は席に向かった。

 なお、入り口近くのこのテーブルに座っているのはプレシアさんだけではない。
 その娘であるフェイトちゃんも、プレシアさんの向かいにちょこんと座ってた。

 僕はどっちに座ろうかちょっと迷ったが、まあどっちでもいいかと、近かったフェイトちゃんの隣に座る。

「こんにちは。プレシアさんもフェイトちゃんとお茶ですか」
「ええ。ここのお菓子は美味しいからね。特にシュークリームは絶品だわ。……昔は、私も自分で作ったりしていたんだけど、やっぱり長年やってないと駄目ね」
「へえ」

 と、苦笑するプレシアさんからは、初めて会った時にあった影は見当たらない。
 余命いくばくもない身のはずなのだけど、笑っていられるならよかった。

「あー、っと。フェイトちゃんも、ここのシュークリーム好きなのかな?」
「あ、はい……なのはも、うちのシュークリームはオススメだって……」

 いきなり、あまり良く知らない大人が入ってきたからか、少し小さくなっているフェイトちゃんに話しかける。
 シクった。もしや、母娘の団欒に水を差してしまったか。

「なのはちゃんねえ。……ちょいと失礼」

 バイトのウェイトレスさんが持って来たお冷の水を指につけてちょいちょいとな。

「あら、結界?」
「いや、そんな上等なもんじゃないです。ちょっとだけ会話から意識を逸らすってやつです」
「ふうん、デバイスもなしで、水を媒介にね……。器用ねえ」
「そうなんですかね」

 このくらいは、割と簡単だけど。しかし、どうもミッドチルダの魔法はシステマチックで、こういうファジーなのは苦手っぽいしなあ。

「それで? なにか聞きたいことでも?」
「いや……その、なのはちゃん、時空管理局ってところに就職するって言うじゃないですか。イマイチどんなところかわからないから、教えて欲しいなあって思いまして」

 リンディさんとかクロノくんから軽く聞いているが、よく覚えていない。当時はそれほど興味もなかったし。

「いいわよ。あ、フェイト。貴方から話してみたら? 仮にも、嘱託魔導師でしょ?」
「はい。母さん」

 ……嘱託?

「え? フェイトちゃんも働いてるの?」
「はい。ええと、まだまだ新米ですけど……一応、AAAランクの嘱託魔導師として登録されています」
「ランクって?」

 AAA……胸のカップ数じゃないよな。そっちでも間違ってはなさそうだけど。

「魔導師の魔力や技能を表す免許のようなものです」
「ちなみに、AAAって言えば、管理局でも上位五%に入るわ」

 ……それって、何気にとんでもないことではないだろうか。
 まだなのはちゃんと同い年だよな……。それで、一つの組織の中で、上から数えた方が早い実力って。

「そ、そうですけど。魔導師ランクだけが高くても……。書類仕事なんかはクロノに頼りっぱなしだし」
「というか……そもそも、フェイトちゃんくらいの年齢で働くって、オッケーなの?」

 一番気になっていた所を聞いてみる。
 でも、そこらへんは文化の違いとか、魔導師は若年から実力を発揮できるからとか、色々あるらしい。

 ……なのはちゃん、魔法の力はすごいのかもしれないけど、一応普通に――いや、ちょっと普通じゃないかもしれないけど、でもこっちの世界じゃ紛れも無く小学生なんだけどなあ。
 うーむ、高町さんが承知しているのなら、僕が口を挟むわけにはいかないけど……

 その後も、フェイトちゃんは淀みなく時空管理局について説明してくれる。
 彼女も全貌を把握できないくらい大きな組織らしいが、その分将来も安泰だそうだ。

「私としては、フェイトにはこの世界で生きてもらうのもいいかな、とは思うんだけどね」
「母さん……。でも、それは」
「わかってるわ。もう話しあったことでしょう」
「……うん」

 なんかうまく行ってるっぽいなあ。
 善き哉善き哉。

「でも、こっちの世界の義務教育まではちゃんと終えること」
「うん……母さんと約束したから」
「ええ。もしかしたら、途中で気が変わるかもしれないからね。……もし高校まで進むんだったら、良也が教えることになるのかしら?」

 フェイトちゃんは、現在聖祥学園の初等部に通ってる。
 家庭教師を付けて、ミッドチルダでの一般的な教育課程までは修了しているそうだが、それ以外……人との付き合い方や、集団行動、こっちの言葉や歴史を学ぶことは、きっと彼女にとって大きなプラスになるだろう。

 でも、今のところ中学までしか卒業する気ないのね。

「高等部まで来たらそうなりますね。……あ、でも、来年度から初等部の『英語の時間』って授業を受け持つから、クラス割によってはフェイトちゃんを教えることになるかも」
「あら、もしそうなったらよろしくね」

 うい、了解。と頷く。

「しかし……今更ですけど、こっちの戸籍とかどうしたんですか」
「管理外世界とは言え、協力者がいないわけじゃないのよ。まあ、私もリンディに任せっぱなしだから、実際どうやったのかは知らないけど」

 異世界の住人が、誰も気付かないうちに地球の一員になってるっていうのは、見方によってはちょっと怖いかもしんない。
 まあ、僕の出会った異世界住人のサンプルからして、いい人ばかりなんだけど、悪人もいないわけじゃないだろうしなあ。

「そういや、マンションとかも買ってましたね……」

 元々は、闇の書とやらの捜査本部として借りた海鳴市のマンションだが、事件が解決した今はプレシアさんが買い上げ、テスタロッサ家、ハラオウン家の二世帯住宅になっているらしい。

「ええ。私が死んだ後、リンディにフェイトを引き取ってもらえるようお願いしたから。家くらいはね」
「……え、そうなんですか」

 確かに、プレシアさんは長くても後一年くらいしか生きられない(本人談)だそうだが。
 いつの間に、リンディさんとそんな約束をするくらい仲良くなったんだろ。意外と波長が合ったのかね。

 ……ん?

「ということは、クロノくんと、兄妹?」
「あ、はい……。クロノは、なんか恥ずかしがってますけど」

 ぉぃぉぃ、金髪ロリが義妹とか、どこのエロゲーだい?
 いや、中学か高校生当時ならともかく、この歳になって本気で義妹が欲しいなんて思ったりしていないが、しかしそれはそれとして絵に描いたようなシチュに驚愕せざるを得ん。

 そういえば、クロノくんの就いている執務官という役職は、管理局でも有数のエリートなんだとか。
 そして、身長は低いものの、性格、容姿共にイケメン。

 ――なんだ、この完璧超人。もはや嫉妬すら出てこないわ。

 などと、僕が戦慄していると、ようやく注文していた品が届いた。

「遅れまして大変申し訳ございません。ダージリンとシュークリームツー、スペシャルショートケーキです」
「お、ありがとう。んじゃ、食べましょうか」

 話をしていたから、プレシアさんとフェイトちゃんの手も止まっていた。
 僕はそう促してまずはショートケーキに手を伸ばす。

 んん〜、美味い。



戻る?