友希は、光陰、時深と共にエーテルジャンプでニーハスに飛ぶ。
 こういうこともあろうかと、エーテルジャンプクライアントの施設は主要各都市に備え付けられている。
 ニーハスについても、ソーン・リームへの入り口となる町ということで、既に建造してあったのは幸いだった。

 都市は陥落寸前という報告だったが、急いだおかげでなんとか施設が破壊される前に転移することに成功する。

「……ちぃ!?」

 施設の外に出た途端、友希は舌打ちする。
 エーテルジャンプクライアントは街の中でもスピリットの駐屯地――街壁に近いところにある。その街壁は既に半壊し、いたるところから煙が立ち上っていた。

 辛うじて街の中には被害は出ていないようだが、それも時間の問題のように見える。報告に来たスピリットの言ったことは確かだった。

「碧、時深さん! 行くぞ!」

 言いながら、既に友希は駆け出していた。
 その気持ちは二人も同じなのか、返事もそこそこに並走してくれる。

 走りながら『コネクト』の魔法を発動させるが、結んだ絆で効果が上下するこの魔法は、出会ったばかりの時深には今ひとつ効きが悪い。ただ、それも仲間のスピリット達と比べての話で、初回にしてはうまくいっている方だった。

「……私が先行して蹴散らして来ます。お二人は後から来てください。状況は、友希さんの魔法で共有できるでしょう」

 そう言って、時深が速度を上げる。
 『世界』を吸収したことで強化された友希のスピードは、今日子やウルカには劣るものの、手練のブラックスピリット以上になっていたが、そんな友希も足元に及ばない。あっという間に引き離されたが、友希はこれで全速力だ。……いや、本当に全力を出せばスタミナと引き換えに多少は速度アップが可能だが、その程度では到底追いつくことは出来ない。

 それでも、少しでも早く辿り着けば、と友希が思うのと同時に、光陰から忠告が入る。

「御剣! 俺たちまで離れて各個撃破ってなったら笑えないぞ!」
「そ、そっか」

 今までは、光陰を友希が引き離すことなど考えられなかったが、速度の強化は苦手な『因果』では、これ以上のペースには着いて行けないようだった。

 歯噛みしながらも、ペースを維持して走る。

 『コネクト』により時深から共有される情報が入ってくる。既にニーハスの守備隊はほぼ壊滅状態。辛うじて抵抗していた数人のスピリットを時深が助けることに成功したようだ。
 近場の敵を片付け、時深はそのまま敵陣深くに切り込んでいく。

『後ろは、任せました』

 時深がそう伝えてきた。
 いくら彼女が強くても、所詮は一人。全ての敵を一度に粉砕するわけにはいかず、すり抜けてくる敵もいる。

 そういった敵達が再びニーハスのスピリットに襲いかかる直前、二人は崩れた街壁の一角、戦場となっている場所に到着する。

「碧!」
「おおおオオオオ!!」

 同時に剣を振り抜き、やって来たブルースピリット――に、見えるミニオンを三体、吹き飛ばす。

「あれで倒れないのか!?」
「帝国の妖精騎士団以上だな」

 この敵は今までの敵とはレベルが違っていた。
 エターナルの眷属。スピリットと似ている、という話は時深から聞いていたが、確かに見た目はスピリットたちと見分けが付かない。しかし、その強さは並のスピリットなど歯牙にもかけない程だった。

 言い方は悪いが、エトランジェにとってスピリットは少数の例外を除き雑魚だ。完全な形で攻撃が入って倒せないことなど殆どない。
 しかし、展開したシールドを破壊されながらも、三体のミニオンは軽傷で済んでいた。

「……御剣、褌締めてかかるぞ。俺ら二人が抜かれたら、生き残りのスピリットじゃあ抑えきれない」
「わかってる」

 このレベルの敵は、ニーハスに駐屯しているスピリット達では荷が重すぎる。どの程度の時間を持ちこたえたのかはわからないが、報告が来てから友希達が駆けつけるまでの間、全滅していないだけマシという状況だった。

「みんな、よく耐えてくれたな。こっからは俺達に任せてくれ」
「……はい、コーイン様。ご武運を」

 光陰が呼びかけると、指示に従って残ったスピリットたちは後退する。
 妙に親しげな返答だったが、と友希ははたと気付く。

「……そっか、そういえばここは元マロリガン領だから」
「ああ、マロリガンにいた頃、稲妻部隊で一緒に戦った連中さ」

 口調は軽いが、横目で見えた光陰の表情は固い。
 それもそうだろう。本来、ニーハスを守っていたスピリットの数に比べて、残った人数は明らかに少ない。そして、そこらの瓦礫に紛れて瀕死になっているスピリットが何人もいる。

 ――早く治療をしてやりたいが、それにはまず敵の排除が必要だ。

 くるり、と筋肉の緊張を解すように、光陰が『因果』を手首だけで回転させ、ミニオン達へ切っ先を向ける。
 時深のところを抜けてきたらしく、数は七体に増えていたが、彼は微塵も動揺せず言い放った。

「お前等……全員殺すぜ」

 人格を呑まれたスピリット以上に機械然としたミニオン達だったが、光陰のただならぬ気迫には怯み、一歩後退する。
 その隙を逃さず、光陰は弾丸のように突撃していった。

「御剣! 頼む!」
「了解!」

 友希は光陰の少し後ろに陣取り、彼の側面に回り込もうとする敵を牽制する。
 数の利で囲んでこようとするミニオンらを光陰が切り裂き、その光陰を友希がフォローする。

 数は少ないが、悠人が神剣をなくした今、この二人がラキオスの最強の二人だ。いくら強いとは言え、眷属でしかないミニオン、しかも時深が大部分を引き受けたため、数も少ない敵は寄せ付けなかった。

 倒したミニオンが二十を突破した頃、強烈な電撃が近付きつつあった追加のミニオン達を消滅させる。

「お待たせ、二人共! さぁ、とっとと連中を叩き出すわよ!」

 今日子が、ラキオスのみんなを引き連れてやってきた。

 その後は、特に本命のエターナルが現れることもなく。
 第一回のエターナルの侵攻を、無事防ぎ切ることができたのであった。
































 初めて戦う敵。なんとか撃退することは出来たものの、戦った面子には疲労の色が濃い。
 戦ったスピリット達には休養を命じ、ニーハスに今までに倍するスピリットを配置し、防衛施設建築の申請書を書き上げた友希だが、そのまま会議に参加させられた。

 もう日はとっぷりと暮れ、普段ならとっくに寝入っている時間だが、後回しにすることは出来ない。

 なお、時間も時間なので、参加しているのは友希の他はレスティーナと時深だけだった。ヨーティアはニーハスの防衛施設の設計に注力している。

「第一波は無事凌げましたが……トキミ殿、敵はこの規模の襲撃をどの程度実行できるのでしょうか?」

 レスティーナが問う。彼女もこの会議までに数々の仕事をこなしていたはずで、顔色が少し悪いが、態度には一切出していない。

「そうですね……。今回、私が斬ったミニオンが九十三体。友希さんたちが倒した数が五十二。……同規模なら、後三、四回といったところでしょうか」

 時深はなんでもないことのように言うが、十人以上いるスピリット隊に加えてエトランジェ三人の戦力の倍近い戦果をたった一人で叩きだしたその力には感嘆する他ない。
 流石に、戦闘後は彼女も消耗している様子だったが、今はもう疲れを露ほども感じさせていなかった。

「しかし、次はすぐ、というわけではないでしょう。ここまで作りためていた分をここで一気に吐き出したようです。数を揃えるのはそれなりに時間がかかるはずです」
「そうすると、エターナル達は何故今攻めてきたのでしょうか? この状況で戦力の逐次投入など下策です。倍の数で攻められれば、ニーハスは為す術なく陥落していたでしょうに」

 レスティーナの言葉に、時深は深く頷く。

「ええ。戦略的に正しい方策はその通りでしょう。しかし……テムオリンにとって、これは『遊び』です」
「遊びだって?」

 友希も口を挟む。荒らされたニーハスの様子を思い出すと、腸が煮えくり返る。あれが、遊び。

「そうです。自分たちが現時点で作った駒で、都市をどれだけ落とせるか……友希さんにわかりやすく言えば、戦略シミュレーションゲームでもやっている気なのでしょう。そもそも、テムオリンらは都市を落とす必要すらありません。目的は、世界自体の消滅なのですから」
「ふざけてる――!」

 思えば、地球でも、サーギオスの城でも、あの女はこちらを徹底的に馬鹿にしていた。
 タキオスはまだしも戦士としての挟持のようなものを感じられたが、あの女にそんなものはない。気に食わない玩具を壊す子供のような悪意で叩いてくる。そして、そんな女の言いなりであるタキオスも所詮は同じ穴の狢だ。

「ええ。ふざけています。……しかし、その『遊び』が付け入る隙になる」

 友希とレスティーナが頷き、時深が話を続ける。

「結局のところ、ミニオンをどれだけ叩いても、テムオリン達を排除しないことにはこの戦いは終わりません。そのため――ラキオスの最強の戦力である友希さん達は、あえて訓練をして欲しいのです」
「く、訓練?」
「そうです。エターナルを倒せ……とまでは言いません。しかし、足止めをしていただけるだけでも随分と違います」

 今のままでは足止めすら覚束ない。
 しかし、ラキオスはサーギオス帝国の土地を手に入れ、莫大なマナを新たに取得している。
 エーテルを惜しみなく注ぎ込んだ訓練を課せば、スピリットたちもエターナルに抵抗できる余地がある。幸いにして、ラキオスの部隊は、対瞬という前例がある。強大過ぎる敵に対しての経験値はあるのだ。

「そうすると、他のスピリットに防衛を任せるわけですけど。正直、今日僕が感じた所、普通のスピリットじゃ防衛は相当厳しいものと……」
「そのことについて、一つ報告があります。いずれ知れることですが、今話しておきましょう」

 友希の話を遮り、レスティーナが口を開く。

「陛下?」
「友希、スピリットの人間に服従するという枷は消滅しました。スピリットは自由意志を取り戻し、今は人の命令を聞く必要はなくなっています」
「……え!?」

 一瞬、なにを言われたかわからなかったが、意味を飲み込んで友希は素っ頓狂な声を上げる。

 スピリットが人間に絶対服従するというこの世界の原則。苦々しく思っていたそれが、唐突になくなっているという。

「な、なんで!?」
「それもテムオリンの仕業でしょう。元々、そんな制限を掛けたのも彼女ですから。このタイミングで、ということは……内乱でも狙ったのでしょうね」

 時深が嘆息する。

 内乱――と、言われて友希もようやく思い当たる。これまで、スピリットは散々人に蹂躙されてきた。ゼフィのように、それに反感を持っているスピリットもいるだろう。そうでなくとも、自分で考えられるようになった彼女達が、人間への敵意を持たないなどという保証はどこにもない。

「……あれ? でも、援軍に来てくれたスピリットのみんなは別にいつもと変わりませんでしたけど」
「枷が壊されても、この国を――いえ、この世界を守るために戦うことを選んでくれたのでしょう。……各地に駐屯しているスピリットも、多少の混乱はあれど反乱には至っていません。非常に、ありがたいことです」

 レスティーナが祈るように手を組み、そう告げる。
 その結果は恐らく、目の前の女王陛下の功績によるものだろうな、と友希は思った。

「それでは、ニーハスに通常の三……いえ、四倍のスピリットを配置してください。私も、なるべくそちらに滞在するようにしますので、ひとまず守りは大丈夫でしょう」
「しかし、それではトキミ殿に大きな負担が」
「この程度、なんてことはありません。エターナルが敵である以上、私には皆さんを守る義務があります」

 時深一人に任せきりの状況に友希はなんとも言えない後ろめたさを感じたが、実際問題、彼女に動いてもらわないと敗北は必至だ。
 今日の戦いも、時深が敵の多くを惹きつけてくれなかったら、犠牲者は増えていた。

「完全に、というわけではありませんが、おおよそどの日に攻めてくるか位は予知できます。攻めてくる可能性のない日は、友希さんたちの訓練を見ましょう」
「ちょ、それじゃあ時深さんが休む暇がないんじゃ……」
「しかし、対エターナル戦を想定した訓練、となると、模擬戦などの相手は私が務めるしかないでしょう?」

 それはそうである。
 イスガルド達訓練士も、エターナルに対抗するためのノウハウなど当然ないだろう。訓練でアドバイスをしてもらったり、模擬戦の相手を勤めてくれることは正直ありがたい。

 しかし、世界の危機に休んでいる暇はないのかもしれないが、いざというとき疲労で動けないというのも困るのだ。
 エターナルは不老の存在。見た目より遥かに年齢を重ねており経験も豊富であろう時深に、余計なお世話なのかもしれないが。

『……いや、しかし。本当に僕よりずっと年上なのか? 全然若く見えるんだけど』
『おや、主。時深さんに興味が?』
『お前、そういうことになるとすぐ突っ込んでくるな……。違うよ。でも、物腰は落ち着いてるし、見た目より年食ってるってのは、確かなのかな』

 独り言ならぬ独り思考に割り込んでくる『束ね』に呆れつつ、友希はそんな感想を抱く。
 後で何歳なのか聞いてみようかな、と友希は考える。

 ……サーギオスの戦いでは、時深が現れた頃には友希は気絶していた。時深とテムオリンとの会話を聞いていれば、彼女に年齢のことについて尋ねようなどとは考えもしなかっただろうが、思い切り地雷を踏み抜く発想だ。
 そして、友希がそんなことを考えた直後、何故かジロリと時深が据わった目で友希を見てきた。

「友希さん、なにか?」
「え? いや、なにか、って?」

 本気で意味がわからず、友希は目を丸くする。
 しかしなんとなく……そう、本当になんとなく、年齢のことには触れない方がいいんじゃないかな、と思い至った。

「……なんでもないのならいいのですが」

 こほん、と時深が咳払いする。一瞬、自分の年のことについて友希が言及する未来が垣間見えたため牽制したが、今の発言が何らかの分岐になったのか、その未来はなくなったようだ。

「では、そのような形でお願いします」
「……はい。トキミ殿。トモキ、聞いての通り、明日からは訓練に入りなさい。訓練用のエーテルについては、最優先で回します。内容についてはトキミ殿によく相談するように」
「了解しました」

 この日の会議は、それで終了した。





























 悠人が目覚めた。

 その報告を聞き、友希は訓練の休憩がてら見舞いに向かう。

「よ、おはよう、悠人」
「ああ。おはよう、友希」

 ベッドから上半身を起こし、力ない笑顔で悠人が答える。

 側には、空き時間のほぼ全てを兄の見舞いに使っている佳織と、休憩時間になるなりハイロゥを展開してすっ飛んでいったアセリアがそれぞれ腰掛けている。

「あー、っと。……体の方はどうだ?」
「お陰様で、なんとか元気だよ。バカ剣がないから、身体が重い感じがするけど……地球にいた頃はこんなモンだったし」
「そっか。まあ、それはなによりだ」

 なんとなく、友希は話しづらい。
 佳織とアセリアが、悠人の右腕と左腕の袖をそれぞれ掴んで、こっちに抗議するような視線を向けているのだ。

 ……久し振りに目覚めた悠人と話したいのはわかるが、こちらとしてもいくつか申し送らないといけないことがあるので、勘弁願いたいところだった。

「あー、今、訓練の休憩中でな。あんまり時間がないから簡潔に。……悠人、今、ラキオス隊は、テムオリン一派に対抗するための特別訓練をやってる。んで、悠人が、その……『求め』をなくした関係上、隊長には僕が繰り上がりで就任した」
「……そっか。そりゃそうだよな」
「仕事についてはエスペリアが把握していたから特に困ってないけど、悠人から引き継ぐことはあるか?」
「いや、特にない。俺が知ってることは、全部エスペリアの方がよく知ってる」

 それはそれでどうなんだと思わなくもなかったが、友希は頷いた。

「わかった。後、協力者として時深さん……地球で、テムオリンたちのことを知らせてくれたが来たけど、その辺の詳しいことはアセリアに聞いてくれ。知ってるから。アセリア、今日の訓練は免除するから、悠人に状況の説明を頼む」
「ん、任せろ」

 ここで悠人から引き離したとしても、アセリアは気もそぞろになると判断して、友希はそう命令した。
 無表情ながらも、友希に了解の意を伝えるその様子は、どこか明るくなったように見える。……自分も、彼女の扱いに慣れてきたものだと友希は感慨を抱いた。

「後、これ」
「? なんだこれ」

 ポケットに入れていたいくつかの金属片を悠人に手渡した。

「『求め』の欠片だよ。ほとんどは『誓い』と一緒に消滅したけど、それだけ残ってたらしい。もう力も残ってないみたいだから、悠人に渡しとく」

 悠人の握っていた柄の一部分と、『誓い』との融合が完成していなかった部分だった。貴重な四神剣のサンプルとして回収されたが、データを全て採取した後は持ち主である悠人に返せと、ヨーティアから渡された。

「そっか……」

 ぎゅ、と悠人は『求め』の欠片を手の平に乗せ、複雑そうな表情でそれを眺めた。

 あのバカ剣には、振り回されてばかりだった。自分を操ろうとしてきたタチの悪い魔剣。親愛の情など湧きようもなかったし、何度もへし折ってやりたいと思った。
 しかし……あの小憎らしい声が、もう聞けないと思うと、ほんの少しだけ寂しいとも思う。

「……なんだかんだで、二年くらいの付き合いだったっけ」

 最後、時深がこちらに来るための門を開くため、残った力を振り絞った『求め』は……そう、癪だが戦友のようなものだったのだと思う。
 あれだけの強大無比な力を持った剣が、今や僅かな欠片を残して消滅したことに、言いようのない喪失感を抱いた。

「……そうだ、アセリア」
「ん? なんだ、ユート」
「アセリア、アクセサリー作るのとか得意だったよな。……こいつ、ペンダントか何かに使えないか?」

 数々の戦いを生き残ってこれたのは、なんだかんだ言っても『求め』がいたお陰だった。
 お守り代わり――なんて、『求め』が生きていたら嫌がるだろうが、ご利益はありそうな気がする。

「ん……大丈夫。作れる」
「頼んでいいか?」
「わかった。任せとけ」

 悠人から『求め』の欠片を大事そうに受け取って、アセリアは胸をトンと叩いた。

「さて、と。……休憩時間もすぐ終わるし、僕はもう戻るよ。また、後で来るから」
「ああ。友希……悪いが、頼む」
「悪いなんて考えるなって。とりあえず、身体を治すことに集中してろよ。まだ身体を起こすので精一杯って聞いたぞ」
「わかったよ」

 悠人に言って、友希は部屋を立ち去ろうと背を向ける。

「あ、あの、御剣先輩」
「ん? 」

 その背中に、佳織が話しかけてきた。

「その、秋月先輩のヨーヨー、ありがとうございます。この前は、色々考えてお礼も言えなくて」
「いや、いいよ。佳織ちゃんが渡さないと、瞬の奴が化けて出てきそうだったし」

 レスティーナから預かった玩具は、既に佳織の手に渡っていた。

「……その、あいつは嫌な奴だったと思うけど、大切にしてやってくれると嬉しい」
「はい」

 コクリと佳織が真摯に頷く。

「じゃ、僕行くから」

 今度こそ、友希は悠人の部屋から出て行く。

 今の訓練は、少しでも気を抜いたらその瞬間置いていかれるような厳しいものだ。
 むん、と気合を入れなおし、訓練場に向かうのだった。




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