友希がランサに到着して、約一週間が経った。
 その間のスケジュールは、警備と訓練と休養が同じ割合で過ぎていた。

 今日は警備のシフト。友希が警戒に立って小一時間ほど。現在、マロリガンの稲妻部隊を迎撃しているところだった。人間兵に伝令を頼んだので、あと数分もあれば増援が来る。
 しかし、

「くっ……アセリア! ブチかませ!」

 その前に、片付けられそうだった。

 突貫してきたブルースピリットをオーラシールドで受け止め、その後背から突き出された槍を『束ね』で逸らす。
 一人で二人のスピリットをいなしながら、友希は背後で力を溜めていたアセリアに呼びかけた。

「……ん、行く!」

 短く抑揚はないが、強い返答とともにアセリアが矢のように飛び出す。
 ラキオスの蒼い牙の異名を誇るアセリアの一撃は、ブルーの背後にいたグリーンスピリットを一刀両断にした。

 返す刀でアセリアは友希がシールドで抑えているブルーを斬ろうとしたが、そちらは既に友希が危なげなく倒していた

 ふう、と緊張を吐き出して、友希はアセリアに話しかける。

「お疲れ。やっぱ強いな、アセリア」
「……ん。トモキも、強くなってる」

 アセリアの言葉に、友希は頬を掻く。アセリアはお世辞を言うほど気の利いた性格ではない。彼女がこう言うなら、本当にそう思っているのだろう。

 一対一なら、マロリガンのスピリットと言えど余裕を持って倒せるようになっている。確かに強くなった実感もあった。
 帝国で瞬とやりあってからこっち、妙に調子が良い。最初は調子の波に過ぎないかと思っていたが、ランサで訓練をするうちに自分でも見違えるほど腕を上げていることに気が付いた。

 高次の力の扱い方を覚えたためだ、というのは『束ね』の弁である。おかげで、最近の訓練ではエーテルが与えられ、神剣としての底力を増強していた。ようやく、『束ね』の力を十全に扱え始めたのだ。

「トモキ」

 と、考えているとアセリアが微かに顔をしかめた。
 そこで友希も気が付く。

「……こりゃ、流石に二人じゃ無理か」
「ん。応援が来るまで時間を稼ぐ」

 振り向くと、稲妻部隊が四人、こちらに向かってくるところだった。先ほどの二人は、先遣隊だったらしい。

 二人だけだと思ったから、アセリアと一緒に倒しにかかったのだが、流石に倍の人数は危険が大きい。ランサにはラキオスの防衛施設が建設されており、こちらが大幅に有利だが、危ない橋だ。
 素直に応援のスピリットが来るまで持ちこたえることにして、友希とアセリアは防御重視の布陣を取り、敵スピリットたちを迎え撃った。



























 結局、マロリガンのスピリットたちは、増援が来るなり逃げてしまった。アセリアは流石の腕前で、敵の一人に手傷を負わせることに成功していたが、それだけだ。
 増援に駆けつけてくれたハリオンやヒミカには無駄足を踏ませてしまった。

 警備の時間が終わり、そのことを報告すると悠人は難しい顔になる。

「なるほどな……。友希、聞きたいんだけど、マロリガンは本気でここを落とす気があると思うか?」
「うーん、はっきりとは言えないけど、今はないと思う」

 マロリガンが全戦力を投入できないとは言っても、稲妻部隊の数だけでもはランサを防衛するラキオスのスピリットを上回る。
 普通に考えて、防衛施設の恩恵があるとはいえ、総攻撃を受けたらランサは陥落するだろう。

 悠人がいるのでその計算は成り立たないのだが、エトランジェはマロリガンも擁している。はっきり言って、今日のようなチマチマした襲撃など、あちらにとって時間と戦力を浪費するだけの行為だ。
 今日は首尾よくスピリットを倒せたが、大抵はその前に逃げてしまうほど消極的だった。

 この攻撃のせいで、中々ラキオスも攻勢に移れないが、それだけだ。時間はラキオス側に利することは、マロリガンも承知だと思っていたが……

「昨日、戦略研究室で会議があってさ。どうもここのところマロリガンは、時間稼ぎをしているって印象がある。なにか機を待っているんじゃないか、って話になったんだ」
「機?」
「そう。例えば、育成期のスピリットがもうすぐ大量に戦力化するとか、領土の中でマナ結晶体が見つかってエーテルに変換しているところだとか……マロリガンにとって、時間を稼ぐことが意味のある行為なんじゃないかってことだ。
 なにか心当たりでもないか?」

 前線に出ずっぱりの友希と違い、悠人はこういう話し合いにも参加し始めていた。
 レスティーナや戦略研究室のプロ、アドバイザーとして参加しているヨーティアといった面々の前では、元高校生の知識など物の役には立たないし、悠人自身交わされる会話の半分くらいは理解できないが、現場の意見を上げる貴重な役目だ。

 そのため、スピリットの年長組や、悠人と同じく曲がりなりにも高等教育を受けている友希の意見を収集することにしたのだ。
 無論、これはエスペリアからの入れ知恵であったが。

「うーん」
「なんでもいいからさ」
「……なら、例えば、すごい新兵器を開発してる、とか?」

 友希は、自分のことながら頭の悪い意見が出たな、と口にしてから思った。ふと思い出したロボット物のアニメで、戦争の時に新開発される機体などは定番だから言ってみたのだが、いくらなんでも荒唐無稽過ぎる。

「新兵器?」

 しかし、思いの外悠人が食いついた。
 えーと、と考えながら、友希はたどたどしく説明をする。

「ええと、ほら、ヨーティアが開発したエーテルジャンプ装置あるだろ。あんなのだよ。例えば、ラキオスの首都にエーテルジャンプさせるとか……」

 勿論、クライアントがないとエーテルジャンプなど出来ないのだが、マロリガンがクライアントなしでジャンプできる技術を開発していると考えられないことはない。
 エーテルジャンプの構想自体は、サーギオスの研究員時代にヨーティアが発表しているので、そういう可能性も……

「……悪い、馬鹿言った。いくらなんでもないだろうな」
「いや、でも一応今度の会議で上げとくよ。エーテルジャンプじゃないにしろ、なにかの新兵器ってのはありそうだ」

 ヨーティアに馬鹿にされる未来が見えて、友希は思わず溜息をついた。

「まあ、それは置いといてだ」
「うん?」
「友希、ちょっと聞きたいんだけど、アセリアの様子はどうだった?」
「アセリア? ええと、どうだった、って聞かれても……いつも通り、やたら強かったけど? アセリアが、どうかしたのか」

 言うと、悠人はぽりぽりと頬をかいた。

「いや……北方五国との戦争の時は、アセリアって暴走しがちでさ。ああ、いや、暴走ってのは違うか……。まあ、突出する奴だったんだよ」
「そりゃ、前衛だから前には出てたけど、そんなに言うほど無茶はしてないぞ」

 自分の力量と相手の実力を冷静に計って立ち回っていることは、友希から見ても明らかだった。敵が増えた時も素直に応援を待っていたし、悠人の言うような危なげは感じなかった。

「そっか。それならいいんだ。俺の見てるとこじゃ、そういうことはなくなったけど、それ以外がどうなのかって気になってたんだ」
「アセリアを心配するなら、もっと心配するべき連中はいると思うんだけど」
「そうなんだけどな。どうも、アセリアは突出し過ぎだった頃の印象が強くてさ。宿舎でも、ちょっと突飛な行動が多いし……いや、アセリアなりに考えているとは思うんだけど。
 なんていうか……俺と一緒で馬鹿っぽいところがあるというか」

 妙に饒舌に語る悠人。友希が不思議に思って見ていると、悠人は語る口を止めて誤魔化すように笑った。

「ま、まあ、そういうことならいいんだ。うん。お疲れ様、上がってくれ」

 話を切り上げる悠人に、友希の中にいる『束ね』が敏感に反応した。

『これは……悠人さん、アセリアさんのことを憎からず思っている、というところでしょうか』
『悠人の相手はエスペリアだと思ってたんだけどな』
『そうですね。あちらが鉄板だと思いきや、本命はアセリア。ふぅむ、ああいう清楚な感じの美人が好みなんですかね』

 『束ね』が好奇心を刺激されているようだが、友希としては心の中で消極的に応援くらいしかできなかった。
 なにせ、あくまで地球に帰るつもりである悠人は、いつかアセリアと別れる日が来る。また、これからも戦争が続く中、戦場に感情が入り込み過ぎるのは良くない。それにエトランジェとスピリットの立場の違いもある。

 勿論、これら全て、友希が人のことを言えた義理ではないのだが。

 それに、なにより大きな理由は、そりゃアセリアは大切な仲間だが、

(……ヘリオンには黙っとこう)

 悠人を、見てて微笑ましいくらいに一途に思っているブラックスピリットを、同じ宿舎の人間として応援しないといけないからだった。

























 結局、それから一週間が経っても、マロリガンは不気味な沈黙を保ったままだった。
 その間にラキオス側の準備は着々と進んでいる。ランサの防衛施設の強化に、スピリットたちの訓練、後詰のスピリットの手配。

 ここまで来ると、敵の動きは気になるものの、打って出る以外の選択肢はほぼなくなっていた。

 第一宿舎、第二宿舎のスピリットを編成して、ランサを出立したのが今朝のこと。
 日が中天に上る頃、友希は流れる汗を拭き、思わず泣き言を漏らしていた。

「……暑い」
「……ああ、暑いな」

 隣を歩く悠人も、同じく滝のような汗を流しながら同意する。

「砂漠、か。ランサは温帯くらいの気候だったのに、なんでちょっと離れただけでいきなり砂漠になるんだ……」
「こっちの気候は、地球の常識は通用しないだろ」
「わかってるけどさ」

 エトランジェ二人が愚痴を漏らしながら行軍する。
 対して、その後ろを歩くスピリットたちは、余裕とはいかないが、二人よりずっと疲労は少ない様子だった。彼女たちの展開するハイロゥは、薄い防護膜を作ることを可能にしており、それで高温をある程度シャットアウトしているのだ。

「……ん? そういや、ここら辺だったっけ」

 悠人がふと気付いたように周りを見渡して呟く。

「? なにが」
「前、偵察がてら出た時、光陰と今日子に襲われたのがここら辺だ」

 その話は、聞いていた。
 友希がサーギオス帝国に滞在していた時の話だ。今回よりも少数の手勢で偵察に出かけた悠人に、マロリガンに属する光陰と今日子が奇襲を仕掛けてきたのだ。

 今日子は、強力な雷の力を操り、光陰は味方の気配を隠す能力を行使したという。
 そして、今日子は神剣に意識を奪われ、彼女を助けるために光陰はマロリガンに付いているそうだ。

「光陰が頑張っているんだ。俺も、出来る限り力になりたいと思う」
「ああ。僕も手伝う。永遠神剣に囚われても助けられるって、瞬の前に岬で証明しないとな」

 瞬の名前を出すと、悠人は微妙な表情になる。地球では犬猿の仲で、ファンタズマゴリアでは妹を攫った相手だ。決して良い感情を持てないことはわかるので、友希はなにも言わない。

「それより」
「ああ」

 先頭を歩く二人の警戒網に、神剣の気配が現れる。
 砂漠の陽炎の向こうに見える赤のスピリット。後ろの味方スピリットも気付いたらしく、神剣を構えるが、悠人は手で制した。

「牽制だけだ。俺が防ぐ」

 敵のレッドスピリットが放った火の雨を、悠人は展開した抵抗のオーラで防いだ。
 有効射程の外からの魔法などではエトランジェの守りを削ることすら出来ず、あっさりと消失する。

 その頃には、敵影は既に背中を向けていた。

 ふう、と後ろで緊張を解く声。だんだんとその声が重いものになっていることに、悠人は気付いていた。

「……不味いですね。散発的な攻撃が続いて、みんな緊張を強いられています。この辺りで、本格的な休憩を取ったほうがいいかも知れません」

 そっとエスペリアが近付いて、悠人にそうアドバイスする。
 そう言うエスペリアも、相当キツそうだった。ラキオスは、北方五国統一前は砂漠地帯での戦闘経験がなかったため、百戦練磨のエスペリアとてこの辺りのノウハウは持っていなかった。

「そうだな……。むしろ、日が落ちるのを待ってから進軍したほうがいいかもしれない」
「そう……ですね。体力の少ない年少組は、そろそろ限界です」

 特に、砂漠と相性の悪い水のスピリットであるネリーとシアーの疲労が激しい。今も、ヒミカやナナルゥといった面々に荷物を持って貰っていた。
 ハイロゥの恩恵のないエトランジェ二人組も、そろそろ休まないとヘバッてしまう。

「よし、そうしよう。みんなっ! あの影になっているところまで行ったら、夜になるまで休憩するぞ!」

 悠人の呼びかけに、あからさまに明るい顔になる何名か。友希も、無論その一人だった。

「砂漠がこんなにキツイなんてなあ」
『マナが極度に不安定ですからね』

 愚痴るように呟いた友希に、『束ね』が同意する。
 気温も大きな敵だが、それ以上に永遠神剣を持つ者にとって、マナの分布の影響の方が大きい。
 それなりに濃い場所もあるが、殆どが息苦しさを覚える程のマナの薄さなのだ。これならば、まだ地球のほうがマナが多い。長時間いると、それだけでスピリットは死にかねない過酷な環境だった。

 幸いにも、悠人が休憩場所に選んだ場所は、比較的濃い場所だった。

「じゃあ、交代で見張りを立てよう。多分、ひっきりなしに稲妻の攻撃が来るはずだ」

 了解の声が唱和した。




























(……暑い)

 友希が見張りに立って、もう一時間が経っている。後三十分ほどで交代だが、思った以上に神経が削れていた。

『ほら、主。しゃっきりしてください。私が索敵しているとは言え、主がその調子ではいざというとき動けませんよ』
『わかってるよ』

 もう夕方とも言える時間帯になっている。休憩を始めて四時間という長くもない時間だが、その間にマロリガンからの攻撃が四度。
 多くは、射程外からレッドスピリットの魔法が打ち込まれる程度だが、こちらが隙を見せれば即座に切り込んでくることは容易に想像がついた。

 今も、索敵範囲のギリギリを神剣の気配がうろついていて、気の休まる暇がない。

「……ん?」

 ふと。
 本当に、ごく僅かに、周囲のマナが揺らぐ気配を感じた。
 せいぜい、風がそよぐ程度のかすかな動き。しかし、通常の自然現象で説明するには、なにか変な感触だった。

 長時間の見張りで神経が過敏になっている、そう説明した方が余程それらしいが、しかし友希は事前に悠人から話を聞いていた。

「……『束ね』」
『ええ』

 『束ね』を青眼に構え、気配が揺れた辺りを慎重に見定める。同時に、念話を飛ばして悠人達に報告もした。
 ややあって、あちらも諦めたのか、マナを隠すオーラのベールが解けた。

 熱砂の向こうに現れたのは、高校の教室で毎日会っていた長駆の男。
 戦場のさなかにあって、夕日を背に余裕たっぷりの笑みを浮かべるその男の名前を、友希は自然と呟いていた。

「……碧」
「よぉ、久し振りだな、御剣。元気そうじゃないか」

 軽口を叩く光陰。その姿は、マロリガンの軽鎧と肉厚の双剣型の永遠神剣さえなければ、地球にいた頃とまったく変わらない。
 マロリガンの兵となっている光陰が、単独で接触してきた。そのことに驚きながらも、内心の動揺を抑えて話しかける。

「碧こそ、元気そうで何より。……岬は?」
「今日子か? 今日は留守番さ。あまり体調が良くなくてな」

 今日子の名前を出すとき、少しだけ光陰の表情が陰った。しかし、すぐにそれは覆い隠されて、お調子者の声色で光陰は話しかけてくる。

「ま、しかしよく気付いたな。この隠形だけはちょっとしたもんなのに」
「事前に悠人に、『因果』の力は聞いていたからさ」
「へ、それでも、そこらのスピリットじゃあ気付けないさ。ラキオスのもう一人のエトランジェは大したことない、って情報部の報告だったが、こりゃ帰ったら文句言わないとな」
「……それで、一人で来て、用件はなんなんだ? 世間話をしに来たってわけじゃないだろ?」

 光陰がラキオスに下ることは有り得ない。幼馴染の悠人が説得して無駄だったのだから、友希がなにを言っても聞きはしないだろう。単独でこちらの戦力を削りに来たとしても、驚きはしない。
 だから、話す間も『束ね』は構えたまま下ろさなかった。光陰の方も、気楽に佇んでいるだけのように見えて、恐ろしく隙のない自然体だった。

「そう身構えるなって。別に、お前の『束ね』は砕かなくても問題はない。俺は別に、好き好んで知り合いを殺したいってわけじゃないんでね」
「じゃあ、もしかして、旧交を温めに来た、とかか?」
「そうしたいのは山々だが……」

 ちらり、と光陰が周囲に視線を巡らせる。
 友希の報告を受けたスピリット隊が、光陰への包囲網を完成させつつあった。その中には、光陰を討つことにあからさまな迷いを見せている悠人の姿もある。

「悪いが、あまり時間は無さそうだ。駄目元で聞くけど、お前、うちに来る気はないか? ラキオスじゃ、マロリガンには届かない。無駄死するだけだぞ」

 本気の声色だった。
 考えてみれば、包囲殲滅されるリスクを承知でここまで来たのだ。単なる戯言であるはずがない。

「……悪いけど」
「そうか。まあ、そうだよな」

 肩を竦め別段落ち込んだ様子もなく、あっさりと光陰は納得した。

「ごめん」
「謝るなよ。俺だって、マロリガンに味方するのは、今じゃ今日子のためだけじゃない。一年以上もこっちにいるんだ。捨てられないものの一つや二つ、できるもんさ」
「碧……」

 あっさりと言う光陰に、強がりや迷いなどは見て取れない。
 強く安定した意志を持っている。とてもではないが、友希と同い年には見えない。

 これは、地球にいた頃からそうだった。飄々とした言動をしていても、彼は妙に完成された人格を持っていた。
 一瞬、地球にいた頃の気分に戻って、友希は本音の感想を漏らす。

「お前、ほんと大人だよな」
「はっ、変に賢しいだけさ。後先考えず突っ走る強さってのも、あると思うぜ?」

 言いながら、光陰は『因果』を初めて構える。
 開放を始めた力は、半端ではない圧力を放っていた。明らかに悠人の『求め』や瞬の『誓い』をも上回っている。それでいて、悠人にも時折感じられる不安定さなど微塵もない。

「じゃあな、御剣。出来るなら、俺の前には出てくるなよ」

 その言葉を最後に残して、地面に『因果』を叩きつける光陰。
 一瞬、砂嵐が巻き起こるほどの衝撃が走り、それが収まる頃には光陰の姿は消えていた。

 数十秒、そのまま警戒を続け……光陰の気配が完全にないことを確認してから、友希は構えを解いた。

「はあ……くそっ」

 こんな異世界で、折角再会できた友人と戦わないといけない。
 否応にも慣れてしまった境遇に、友希は小さく舌打ちをして、地面を蹴った。





































(さぁて)

 友希と別れた後。

 光陰は稲妻部隊を撤退させながら、遠目に見えるラキオスの陣を見る。

「悠人、御剣。これくらいで、倒れてくれるなよ?」

 光陰達の役目は、『あれ』の準備が終わるまで、ラキオスをヘリヤの道に足止めすること。予想より早くラキオスが進軍を始めたので間に合うかは微妙だったが、先程完成の連絡が来た。
 後は、稲妻部隊が有効範囲から逃れたのを合図に起動する手筈になっている。

 ラキオス軍は慣れない砂漠に疲弊している。また、伝え聞くあの装置の威力なら、話半分でも相当の脅威だ。ここで、ラキオスを全滅させられる可能性は五分五分といったところか。全滅とまではいかずとも、それなりの被害は与えられるはずだ。

 だが、

(……それで大人しく終わる奴らじゃないよな)

 悠人は元より、友希も地球にいた頃では考えられないほど成長していた。恐らく、うまく切り抜けてしまうだろう。

 悠人とは、決着を付けたい気持ちもある。……最後に、意識して不敵な笑みを浮かべて、光陰はラキオスの部隊に背を向けた。




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