突然の母の元同級友の訪問。

その人の紹介で王都セントルイスにある学校に通うことになった僕、ライル・フェザードは…

そこに向かう途中…

 

 

死にかけていた

 

「ジュディさん!!前!前を見て下さいーー!!!」

 

「何人たりとも私の前は走らせぇーーん!!!!」

 

「人じゃありませんよぉぉぉぉ!!!」

 

ジュディさんはどうやらスピード狂だったようで、目の前を走っている馬タイプの魔物を抜かそうと、魔法馬車のスピードを限界まで上げていた。

すでにシルフィは気絶している。

 

1日目は異常なかったんだ…

今日もついさっきまでは和やかに話しながらゆったりした早さで進んでたんだ…

それが後ろから今追いかけている魔物が僕たちを抜かしてからこんな事になってしまった。

ジュディさんの目はもういっちゃっている。

僕では彼女を止めることはできない。が、自身の命を守るため、無駄とわかっていても戦いをやめるわけにはいかないんだっ!!

 

「くくく、勝負はこれからよっ!!」

 

「やめて下さいいぃぃぃぃぃ!!!!!!」

 

第3話「再会」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今僕の目の前には街壁がある。

セントルイスを外敵から守る壁だ。

あれから例の魔物が身の危険を感じ森に入り追跡不可能になってやっとジュディさんは落ち着いた。

今現在、生きていることを神に感謝します。

 

 

感謝中 

 

 

感謝終了

そして本来なら今日の夜に着くはずだったのだが、今は太陽もほとんど真上、家庭では昼食の準備真っ最中という時間に着いてしまった。

「さて、なぜだかずいぶん早く着いてしまったようね…」

思いっきり、あんたのせいだ!と、叫びたかったが、あとが怖いのでやめにしておいた。

僕はもう100tハンマーをくらいたくはない。

ちなみにシルフィはここに着くまでずっと気絶していて、まだふらついている。

顔色は悪く、いつもの元気はみじんも姿を見せない。まあうるさくなくていいが…

(マスター…)

(なんだ?)

息も絶え絶えにシルフィが言った。

(私はもう絶っっっ対!あの人の運転する魔法馬車には乗らない)

(同感だ)

「どうしたの?」

心配になったのかジュディさんが僕に話しかける。

まあ何もない空中に向かって話しかけていたら無理もないだろう。

「いえ、ちょっと圧倒されちゃって」

とりあえず適当にごまかしておく

「まあずっと山で暮らしてたしこういう街壁は珍しいかしら?まあ気にしないで。さっさと入りましょう」

そういって門に向かうジュディさんに着いていく。

セントルイスは東西南北にそれぞれ一つずつ門があり、ここはヴァルハラ学園に最も近い『北門』らしい。

門番の人に、荷物チェックと簡単なプロフィールを聞かれ、街に入る許可をもらった。

特に何も言われなかったが、剣だけは手続きが必要とかで少しの間預かられることになった。

ジュディさんによると

「今晩には戻ってくるから安心なさい」

ということらしい。

 

 

 

「さてと、今日は学園も創立記念日で休みだし、あなたはちょっと街を見学してなさい」

ジュディさんが促すように言った。

「……いいんですか?」

今僕の目の前にはかなり大きな建物がそびえている。

ここがヴァルハラ学園らしい。

4階建ての校舎にばかでかい運動場、校舎の隣にはには一回り大きな建物がありここは様々な集会などをしたり、屋内のスポーツをしたりする第一体育館と言い、その隣には体術などの鍛練場であるらしい第二体育館がある。

さらに校舎の裏にはちょっとした森があり、ここでも様々な演習が行われるらしい。

運動場の隅には運動系の部活の部室が並んでおり、文化系の部活の部室は校舎内にあるそうだ。

「うん、案内してる間も誰も見かけなかったでしょ?私はあなたの転入の手続きをするから着いていけないけど、気を付けていってらっしゃい」

確かにさっきまでヴァルハラ学園を案内してもらってる間、会ったのは用務員のおばちゃんだけだった。

「じゃあお言葉に甘えて、少しここら辺を歩いてきます」

「うん、寮の方も手続きしとくから、6時くらいに一度戻ってらっしゃい。あなたの部屋に案内するから」

ちなみに寮は校門をでてすぐの所にある。

「了解」

僕が返事をするとジュディさんは学園に入っていった。

僕が転入するに当たって、結構な量の書類やら手続きが必要らしく、その用意をしてくれるらしい。

さしあたって僕が出来ることもないので、ジュディさんの言葉通り街を出歩くことにした。

ここら辺は、以前僕が住んでいた村と比べ物にならないくらい活気があり、人も多かった。

「マスター!早くいこ!!」

まだ姿を消しているシルフィが叫んだ。

声に出しているが、近くには誰もいないのでシルフィの存在がばれることはない。

それにしても……ずいぶんはしゃいでいるな

「そう急ぐなよ。時間はたっぷりあるんだから…」

そう。ジュディさんが言った時間までまだ4時間くらいあった。

「って、聞けよな…」

すでに近くの商店街に向かって飛んでいくシルフィに、脱力感を感じつつ僕も歩き始めた。

(いっつも人の話を聞かないんだよなぁ…)

確かにこういう状況でシルフィに僕の言うことを聞けと言っても聞くはずがない。

それは、この5年のつきあいでよくわかっていた。

 

 

 

(マスター!マスター!)

(今度は何だ…)

うんざりと聞き返す。

さっきからシルフィはずっとこの調子だ。

あっちへふらふらこっちへふらふらとして全然落ち着きがない。

(珍しい果物なんか売ってるの!買って!)

特に食い物に興味を引かれている。

山では手に入る食べ物の種類が少なかったからしょうがない…と本人は言い張っている

だが精霊は基本的に食物の摂取は必要ないはずだ

(もうだめ)

(え〜、なんで〜?)

(お前いくら食ってるんだ!)

ちなみにシルフィがものを食べるときは周りにばれないよう僕の上着に隠れて食べている。

周りから見てかなり不審だ。

(む〜、わかったわよう!)

やっとおとなしくなった。

シルフィは僕から離れ、近くの店を見ている。

僕も、目に付くところから見て回る。

「おっ」

路地裏にある店で売ってるナイフに目が留まった。

人の良さそうなおっちゃんが売り子をしている。

なかなか良さそうなナイフだ。

父さんが刀剣マニアだった影響で、僕も結構こういうのには詳しい。

まあ、父さんのコレクションは今僕が持っている剣を除いて全部売ってしまったけど。

買おうかどうか迷う。

家から持ってきたお金はシルフィのせいで少し減ったが、まだかなりある。

だがこれからの生活を考えると、これは残しておいた方がいいに決まっている。

「ねえ、これいくら?」

おっちゃんに尋ねる。

「えっと、それは…2500メルだな」

現在の所持金4000メル。

買えることは買えるが、少し高すぎる。

「どうすんの?」

う〜む、せめてもう500メルほど安かったら迷わず買うのだが…

考えた末僕の口からでた言葉は…

「おっちゃんまけて」

だった。

おっちゃんは少し呆気にとられたあと。

「おいおい、こっちも商売なんだ。そんなことはできんぞ」

「そこをなんとか。お願い!」

おっちゃんは困った顔をして

「じゃあ2450メルでどうだ?」

「高い!2000メル!」

「それじゃ商売上がったりだ。2400メル。これが限界だな」

うぐぅ、ダメか…

そう思ったとき路地の奥から大きな叫び声が聞こえた。

「うるさい!あっちいって!!」

振り向いてみてみるとそう叫んでいたのは、結構かわいい女の子だった。

僕と年はそう変わらないだろう。

蒼色の髪と、深い緑の瞳が印象的だった。

その後ろには3人組の男が立っている。

太ったのと、ガリガリのヤツと、リーダー格らしい、ひときわでかい男。

そろいもそろって頭の悪そうな顔をしている。

「いいから来いよ!」

ガリガリが女の子の手を引っ張る。

どうやらナンパしてるらしい。

………ちょっと違うか?

無理矢理連れて行こうとしているだけだな。

「やめろって言ってるでしょ!」

ドカッ

女の子が怒りのパンチを放った。

「…この野郎…」

あっ、キレた。

「うるさいわね!そっちが悪いんでしょ!」

正論だと思う。

しかし、そんな理屈が通用する相手とも思えない。

案の定ガリガリ君(仮名)はさらに怒り心頭。

いつ爆発してもおかしくない。

ここは路地裏のため、周りに人はいない。

あの子少しやばいな。

「おいそこの!何見てんだ!?」

リーダーであろう大男がこっちを向いて言った。

…もしかしなくても僕のことだろうか?

「なんか文句あんのか!」

僕のことらしい。

しかし悪人って言うのはみんなこうなのか?独創性のかけらもないな。

僕が無言でいると男はそれを肯定と受けたらしい。

ヒステリックに叫んだ。

「おいお前ら!この小僧少し痛めつけてやれ!」

男が言うと、ガリガリ君(仮名)が女の子から離れて僕の目の前にでてきた。

売り子のおっちゃんが、勘弁してくれよ。と言っている

(なになに!どうなってんのマスター。なんか面白いことになってるじゃない)

いつの間に来たのか、シルフィが僕の隣で言った。

(いや、面白いことじゃないだろ)

とりあえず突っ込んでおく。

(そう?ま、どっちにしてもその人たちとやらかすんでしょ?手伝おうか?)

(たぶんいらない。全然強そうな気を出してないじゃないか)

「なにぼーっとしてんだよ!」

おっと、シルフィと話してたので無視してしまった。

「そうなめた態度してると痛い目にあうぜ?こんな風にな!」

ガリガリ君(仮名)はそういうと同時に殴りかかってきた。

だが、全然スピードがない。

そのパンチを懐に入りながらかわし、お返しとばかりにこちらのパンチを腹にたたき込む。

ガリガリ君(仮名)の体がくの字に曲がる。

下がった顎をアッパーで突き上げ、ノックアウト。

綺麗な弧を描いてのこりの二人の所へ飛んでいった。

驚く男二人。

数秒で仲間が気絶させられたのだから無理もない。

だが少し間をおいたあと、二人同時に襲ってきた。

だが、位置的に太ったヤツが先に僕の所へ来た。

そのでかい図体のせいで、後ろの男はこっちに来れないらしい。

太いヤツは僕の体につかみかかってきた。

捕まえてしまえば何とかなると思っているのだろう。

だが、やはり遅い。

バックステップでかわしたあと、左のローキック。

そしてがら空きの側頭部に右のハイキックを決める。

それで太ったヤツは前のめりに倒れる。

だが、まだ意識はあるらしく、僕の脚をつかもうとするが、とどめの手刀を後頭部に食らうと完全に沈黙した。

その後ろにリーダーの大男が青ざめた顔でいた。

それでもこちらに向かってきたが、やっぱり大したことはない。

がむしゃらに打ってきたパンチを手で払いのけ、踏み込み、肘鉄。

鳩尾に突き刺さったそれは男の体を数メートル吹き飛ばす。

……ちょっと強すぎたかもしれない。

まあ、死にはしないだろ(多分)。

しかし…やけに弱い連中だったな。

悪人って言うのはもちっと強くないとやっていけないのでは?

僕がどうでもいいことで悩んでいると店のおっちゃんが話しかけてきた。

「へえ強いじゃねえか兄ちゃん!よし!なかなか気に入った!このナイフ1800メルで売ってやろう!」

「本当!?」

よっしゃ!それなら全然オーケーだ。

「ほんじゃ、1800メル…はい」

おっちゃんに渡す。

「確かに…ほれ」

おっちゃんからナイフを受け取る。

うむやはりいい。

装飾はほとんどないが、軽くて扱いやすい。

濡れたように光る刀身は一目でそれが業物だとわかる。

「ありがとう」

「なに、いいってことよ。また来てくれよ」

「うん」

とりあえず路地からでる。

久々に格闘をしたので、少し疲れた。

(マスター、カッコイイ!)

(何だ、いきなり)

(襲われている女の子を助けるなんて、きっと感謝されて、家に招待されて、そのまま結婚とか?きゃーやるじゃないマスター!!)

シルフィが僕の肩をたたきながら言う。

(それってどっかで聞いた気がするぞ。たしかどっかの小説かなんかだったろ?世の中そんなことがあるわけ…)

(でも後ろ見てみてよ)

言われたとおり振り返ると、さっきの女の子が立っていた。

「どうもありがとうございました」

その子ははっきりとした口調で言った。

さっきまで男3人に絡まれていたとは思えないほど明るい。

「別に大したことじゃないですよ」

「そうですか?」

「うん。全然弱かったしね、じゃあ」

そういって立ち去ろうとすると後ろから呼び止められた。

「あの…何かお礼でもさせてくれませんか?」

「え?」

「助けてもらって何もお礼をしないのは私の流儀に反します!」

なにやら力説されてしまった。

「じゃ、じゃあこの辺を案内してくれないかな?僕は今日この街に来たところだから全くわからないんだ」

「そうなんですか?任せてください!結構詳しいですから!」

自信たっぷりに言う。

「じゃ、じゃあお願いするよ。そういえば君の名前は?」

「あ、はいっ私はルナ・エルファランっていいます!」

はて?どこかで聞いたような…

そう、あれはずっと昔。まだ父さんが生きていた頃。

………

……

ああぁぁぁぁぁぁ!!

「ど、どうしたんですか?」

少し考え込んでいたので、心配になったのであろう、ルナが話しかけてきた。

この顔。間違いない。

僕の方を向いているその顔が、幼い頃一緒に遊んだ少女の顔とだぶって見えた。

「一つ聞きたいんだけど、もしかして…ポトス村出身?」

「えっ?どうして知ってるんですか?」

やっぱり。

「ほら!僕だよ!ライル。5年前に引っ越した!」

そう、以前住んでいた村の名前は、ポトス村だった。

「ライル!?」

それは5年ぶりの幼なじみ同士の再会だった。

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