シンデレラは目を覚ましました。今日も忙しい一日が始まります。

昔、魔王を倒した伝説の勇者、シンデレラ。またの名をルーファス・セイムリート。

「なぜだぁーー!?」

しらん。

 

「シンデレラ(偽)

 

継母と二人の姉さんは朝から晩までシンデレラをこき使います。

継母の名は、サレナ・ローラント。二人の姉は、シルフィリア・ライトウインドとソフィア・アークライトです。

「(窓枠につつっと指を滑らせて)埃がまだあるわね。掃除が足りないわよ。ちゃんとやりなさい」

「いや、なんつーか、サレナ。ものすごく似合ってるぞ」

「口答えをするな」

ぴしゃりと言い放つ継母。

「えーと、マスター、頑張れー」

「マスター、手伝いましょうか?」

「おいおい。二人ともちゃんと役をしろよ……」

不慣れな家事も持ち前の体力と運動神経でなんとかこなしていくシンデレラ。でも、はっきり言って、男(気にしちゃいけません)がエプロンを着て家事に奔走する姿はあんまり見られたもんじゃありません。

「余計なお世話だ」

 

 

ある日、お城から手紙が届きました。国中の娘を集めて、舞踏会が開かれるのです。

「……この手の催し物って、うんざりしているんだけど……」

継母はそんなことを言いながらも、ちゃくちゃくと出席するための準備をしています。王族と言う立場から、付き合いというものも大事にしているのです。

「そーいや、王子の后をこの舞踏会で選ぶとかなんとか聞いたけど」

「へー? でもこういうので結婚を決めるってのは珍しいですね」

確かに、考えてみれば珍妙な話である。……が、ソフィアの疑問に答えていては話が進まない。この会話はなかったものとして先に進む。

「ひどいです」

 

 

舞踏会の日、継母と姉さん達は思い切りお洒落をします。継母はともかく、姉さん達二人は普段あまり着飾ってない分、なかなか新鮮です。

「えーと、マスター、どうですか?」

ソフィアがシンデレラに感想を聞きます。しかし、そこはお洒落に無関心なシンデレラ。掃除をしながら横目で見て、

「まあ、いいんじゃないの」

とだけ答えます。姉は不満そうに頬をふくらませ、がきっ! とシンデレラの首根っこをつかみ、自分の方を向かせます。

「ちゃ・ん・と・見・て・く・だ・さ・い」

「……はい」

その迫力にかくんと頷くシンデレラ。情けない男(重ねて言いますが、気にしたら駄目です)です。

少しだけ、ソフィアの衣装を観察して、

「……結構似合ってるんじゃないか?」

それを聞くと、ソフィアは、

「はいっ!」

と嬉しそうに言いました。……なんか、シンデレラの話から逸脱しかかってますね。

「さっさと行くわよ」

強制的に話を戻す継母の言葉。

「じゃ、行ってくるから。夕飯は向こうで出るから、私たちの分はいらないわ」

 

 

 

「……俺も舞踏会に行きたい」

継母達が出かけていったあと、シンデレラはそう思いました。

「飯が出るとは。食費を抑えるチャンスじゃないか。久々に肉も食えるし」

そう、寮生活で、ものすごい貧乏な彼の主食は、自分の家庭菜園でとれた野菜や穀類。めったに肉は食べられません。育ち盛りなので、良質のタンパク質はどうしてもとりたいところです。

「しかし、この格好で舞踏会はないよな」

シンデレラが来ているのは実用一点張りの普段着。密かに裏地に魔法陣を仕込んで防御力を格段に上げた優れものですが、これで踊るわけにもいきません。

「それに、招待状がなきゃ駄目だろうし……」

その招待状はすでに継母が持っていってしまっています。

「仕方ない。諦め……」

と、そこで一人の女の子が割り込んできました。

「その願い、叶えてあげましょう!」

「……その格好はなんだ、リア」

「り、リアじゃありません。魔法少女、マジカルリアちゃんです!!」

「だから、リアなんだろ」

こめかみを押さえながら懸命に突っ込むシンデレラ。

突然現れたその少女は、原色バリバリのひらひらした衣装を身に纏い、先っぽに星のついたステッキを手に持っています。

「違います! 魔法少女なんです! 魔女っ娘でも可!」

「……さいですか。それで、その魔法少女がなんの用?」

「ルーファスさ……じゃなくて、シンデレラさんはお城の舞踏会に行きたいんでしょう!?」

「いや、別に。そこまでしていきたいってわけでも……」

「行・き・た・い・ん・で・しょ・う!?」

ぐぐいっと詰め寄ってくるマジカルリア。またしてもかくん、と首を縦に振るシンデレラ。

「そうでしょうそうでしょう。じゃあ、これから言うものを持ってきてください」

「はいはい」

かぼちゃ×1

ネズミ×2

トカゲ×1

マジカルリアの言う物品をメモしていくシンデレラ。

「じゃ、ちょっと待ってろ」

そう言うと、屋敷の中からすぐに指定された物品を揃えてきます。

「……しかし、何に使うんだ、こんなもん」

「魔法でかぼちゃを馬車に、ネズミを馬に、トカゲを御者にします」

あっさりというマジカルリアに、シンデレラは慌てて突っ込みを入れます。

「ちょっと待てえ!? そんなでたらめな魔法があるか!」

「大丈夫です。シンデレラさんの知っている魔法と、今から私が使う魔法はちがいますから」

あっさりと言ってのけると、マジカルリアはなにやらおもむろに構えステッキを振りかざします。

「いきますよ! ビビデバビデブ!」

ステッキから出る光線。シンデレラは危険を感じてとっさにかわしました。ずざざ、と瞬きする間に10mほど飛び退きます。

そして、光線がかぼちゃとネズミとトカゲに命中すると、

「な、なんだこりゃ!?」

なぜか、でかいドラゴンが出現!

敵意むんむんの視線でシンデレラを見ます。

「お、おい? ちょっと待て……」

そして、いきなりブレスが吐き出されました。

「うわぁぁ!?」

 

 

10分後、なんとかドラゴンを殲滅できたシンデレラが、愛用の魔剣を手に、マジカルリアに詰め寄りました。

「あれが舞踏会と関係あるのか!?」

「はあ、ちょっと失敗しましたね」

「ちょっとか!?」

「今度は大丈夫です。ビビデバビデブ!」

突然のことで避けきれなかったシンデレラ。……が、今回は心配することなかったようです。

「タキシード?」

そう。シンデレラの服装が、正装に変わっていました。シンデレラのくせにタキシードはないだろうと言うツッコミは却下です。

「これで舞踏会もバッチリです」

「だけど俺は招待状を持ってないぞ」

「ちゃんと偽造してきました」

「偽造かよ!?」

「全然大丈夫です。ばっちぐーです」

自信満々な声に、渋々ながら、招待状(偽造)を受け取るシンデレラ。

「では、行ってらっしゃい」

怪しげな魔法少女に見送られ、シンデレラはお城に向かいました。

 

 

「予想してたけど、王子はライルか」

パクパクと料理を食いながらシンデレラが舞踏会場を見渡します。踊っているのは大抵が本編のキャラです。全部出すとしっちゃかめっちゃかになるので、ここでほぼ全部のキャラが出ていると思ってください。

「まあいい。俺は料理を食いに来ただけだからな」

「……美しいお嬢さん、私と踊って貰えませんか」

料理を食べようとしたシンデレラに王子が話しかけてきました。

「ヤダ」

「そう言わないでくださいよ……一応、台本によるとそうなってるんですから」

「こういうダンスを男同士で踊りたいか」

「そりゃあ、いやですけど……」

「なら、別にいいじゃないか」

そして、再び食べ始めようとするシンデレラ。そこに、衛兵が慌てて駆け込んできました。

「王子! テロリストです」

「はあ!?」

「20人ほどの武装したグループがこの会場に走ってきています。すでに門番はやられました!」

いきなりの展開。一応常識人に分類される“かもしれない”王子の脳味噌はオーバーヒート。

「……ったく、いくぞライル。殲滅だ」

「あっ、はい!」

 

 

「おらー!」

叫び声を上げながら魔法をぶっ放しているのはルナ嬢。

「なんで俺が……」

大剣を手に、難しい表情で城を破壊しているアレン君。

「気にしても仕方ないと思うよ……」

達観した表情で適当に魔法を使っているのがクリスくん。

とりあえず、この三人がテロリストのリーダーらしい。

「ねえ、なにやってんのさ……」

同じパーティーとして恥ずかしがる王子。ここまでシンデレラと協力して他のテロリスト(ルナ大好き貴族とか、勝負ごとにこだわる精霊王とか)を倒してきました。

「だってさ、名前も出て来ないんだから、こうやって自己主張しようってルナが……」

「やっぱりルナか……」

「それで、どうするんだ?」

シンデレラの言葉に王子は考えます。一応、彼らは友達ですが、仮にも王子という設定。お城を守らなくてはいけません。

「仕方ないなあ……」

剣を構える王子。由緒ある聖剣ホーリィグランスがキラリと光ります。ちなみに、これは彼の父が某貴族から盗んだものだったりします。

「よし、それなら俺も手伝おう」

さらに有名な魔剣レヴァンテインを構えるシンデレラ。それぞれの話で圧倒的な力量を持つ本編外伝の主人公が相手です。じりじりと間合いを取るルナ、アレン、クリス。

「ルナ……ここは逃げようぜ?」

「あんたなに言ってんの!? ここで引いたら更に印象が薄くなって、リムやらキース先生やらと一緒になっちゃうわよ!?」

「誰だそれは?」

「でもさ、実際問題、ライルだけならまだしも、ルーファスさんも向こうに回ってちゃ勝ち目ないって」

クリスの指摘に、ちらりとシンデレラの方を見るルナ。

圧倒的です。圧倒的すぎます。戦闘モードに入っているため、見るだけでその非常識な魔力を感じられます。同じように、アレンもでたらめな気を感じていたりします。さすがは人類最強。かなり規格外とは言え、学生のレベルで太刀打ちできそうにありません。

「くっ……だけど、こういうこともあろうかと!」

「こんな事態、考えていたのか」

アレンのツッコミも無視。ルナは後ろを振り向き、

「対ルーファス・セイムリート用の秘密兵器を連れてきているわよ」

ルナがぱちんと指を鳴らすと、とてとてと奥から一人の少女がやって来ました。

「こんにちは。秘密兵器シークレットリアちゃんです」

「ちょっと待てい!」

思わず、ツッコミを入れるシンデレラ(完全に別の話になっていますが)。

「魔法少女マジカルリアじゃなかったのか!?」

「なに言っているんですかルーファスさん? そんな趣味があったんですか?」

「ちゃうわ!」

「まあ、それはいいとして。秘密兵器としてはルーファスさんをどーにかしないといけないんですよ。……あ、そういえば、今はシンデレラでしたね」

突然抱きついてくる秘密兵器に、慌てまくるシンデレラ。

「な、なにを!?」

「え、だってシンデレラを拘束しろって言われてますから」

「だからってなんで抱きついてくる!」

「あのールーファスさん? ルナ達がこっちに攻めてくるんですけどー?」

王子が必死に呼びかけますが、慌てているシンデレラの耳には入りません。そして、シンデレラは今完全に無防備状態。普段張っている結界類も無効化されています。恐るべし、秘密兵器。

そして、チャンスとばかりに三人が飛びかかってきました。

「クロウシード流奥義之壱!神龍雷光烈破!」

「『グラビティ・プレス!』」

「『クリムゾン……フレアァァァ!!』」

さっと避ける秘密兵器。そして、直後に、本編メインキャラ三人の最強技がシンデレラと王子に炸裂しました。

 

 

 

 

 

その後……

シンデレラはぼろぼろになって家に帰り、雑用係に逆戻り。見張り役として姉(ソフィア)と秘密兵器がそろっているため、逃げられません。

そして、王子は政権の交代したお城でルナ嬢の監視の元めいっぱい働かされましたとさ。

 

「「納得いくかぁぁぁぁ!!!」」

 

でも、いつもと大して変わらないじゃん。