さて、なぜかは知らないが、人間界に帰ってきてすぐ仲間が出来た。
レイン、メイさん、ヴァイスさん。全員が全員、おかしい……もとい、普通からずれている人たちだ。
「お前、人の事言えないだろう」
「……そんなことはない」
レインのツッコミに、俺は憮然とした表情で返すのだった。
ゆうしゃくんとなかまたち(勇者パーティー結成編)
ここは、ヴィヨルドの街。比較的大きな、賑わっている街だ。
メイさんの村で、ソドムとか言うやつを倒してから、近くにあったこの街に俺たちはやって来ていた。
今は、適当に入ったレストランでミーティングの真っ最中である。
「あー、ここのデザート、おいしいわね〜」
「てゆーか、それ俺の分」
「いいじゃない。甘い物は別腹なのよ」
「ちょっと待てコラ。それはまったく関係ないだろ、おい」
レインとメイさんはなにやらじゃれあっている。仲がよさそうなことで大変けっこうだ。
「はあ、若いもんは元気があっていいな」
「ヴァイスさん。あなた、その食べっぷりで、よくもまあそんなことを言えますね? 金出すの、俺とレインなんですよ? わかってます?」
エルフのヴァイスさんはもちろん人間の金なんて持ち合わせていない。メイさんも、村で爪弾きにされていた関係上、金なんかほとんど持っていなかった。すると、冒険者であるレインと俺しか金を持っていない。俺とて、精霊界に行く前に持っていた分しかないのだ。
なのに、このヴァイスさん。軽く、俺の倍は食っている。……元気のいいじじいだ。
「がははは! 気にするな、小僧! そんなんじゃあ、大きくなれんぞ」
「……その小僧に飯をたかっているのはあんたでしょうが」
「まあ、ここんとこロクなもん食ってなかったんだ。大目に見ろ。……ふう、ごちそうさま」
結局、ランチセットを二つも平らげて、ヴァイスさんの食事は終了した。
「で、だ。諸君。確認しておきたいんじゃが……」
ヴァイスさんの言葉に、未だにデザートのケーキをめぐって争いを続けていたレインとメイさんも聞く体勢になった。ここら辺は、やはり年の功だろうか。
「儂ら魔王に喧嘩を売るわけだよな? ぶっちゃけて言うと」
「まあ、そうなるな」
レインが答えて言う。
「実力云々はこの際置いておこう。前の戦いで十分わかったしな。だがな、それぞれの目的を聞いておきたい。中途半端なところで逃げだされても迷惑だからな」
それは、確かに。明確な目標もなしに、魔王と戦おうなんてするはずもない。みんな、それぞれに目的はあるはずだ。
「そういう爺さんはなんなんだよ?」
「儂か? 儂は……まあ自分で言うのもなんだが、人間界では最高の魔法使いだ」
「……本当に自分で言うこっちゃないな」
「黙れ、若造。そんな立場だから、儂は魔王軍につけ狙われとる。降りかかる火の粉は払わねばならんだろ? あとは……まあ、儂は平穏が好きだからな」
ヴァイスさんは自己防衛。
「次は、私が言うわ」
黙々とジュースをすすっていたメイさんが口を開く。……ちょうど飲み終わったからだな、絶対。
「私ね、この力のおかげでずいぶん嫌な思いをしてきた」
大きすぎる、魔力。それは、メイさんにとっては重荷でしかなかったに違いない。暴走させてしまい、周りにも迷惑をかけ、忌避される。今まで、決して愉快な人生じゃなかっただろう。
「でも、この力でなにか出来るんだったらやってみたいかな、ってね。行くところもないし」
暗い顔でメイさんが言う。今までの嫌な思い出を思い出しているのだろうか。なんとなく、場が沈む。
「それに、面白そうだし」
「面白くはないと思いますよ」
「もう、ルーファスくん。おねーさんが場を明るくしようとしてんだから、余計なツッコミは入れない!」
……説教されてしまった。なんてゆーか、このお姉さんは、心配するだけ無駄なような気がする。思いっきり子ども扱いだし。
俺、一応、もう十三なんだけどなあ。
(十分子供ですよ)
(……ソフィア、いたのか)
(忘れないでください)
ふよふよと空中に浮かんでいるソフィアが手をぶんぶん振り回して怒りをあらわにする。……自己主張が激しすぎる、こいつは。
「俺だな。俺は……まあ、なんとなくだ!」
「おい。そんな理由で、命を賭けるのか?」
「おいおい、ヴァイスさん。そんな怖い顔すんなって。これは、考えなしのなんとなくじゃない。考えてのなんとなくなんだから」
この場にいる全員の顔に『?』が浮かぶ。
「強いて理由を上げれば、修行とか、なんか面白そうだとか、女子供プラスじじいだけで行かせるのは不安だとか、色々あるんだが……そんなのを諸々合わせて、ついて行ってもいいと思ったんだ。なんか文句あるか!?」
やたらめったら自信満々。この根拠のない強気はどっからくるんだろう?
「そ、そうか」
「そうだ!」
「そうなんだ」
「そうなんだよ!」
「変な人だね」
「ルーファス、うるさい!」
しかし、さっきから他のお客さんの視線が痛い。まあ、こんなところで物騒な会話を大声でしていたら、当然と言えば当然だが。
「で……ルーファスとか言ったか。お前は……」
周りの注目を気にして、声をひそめるヴァイスさん。……まあ、魔王の弟、なんてばれたら、リンチにあいそうだし。
「話したと思うけど……姉さんを、ね」
「そうか……」
それきり、会話が途絶える。
周囲がこちらを気にしなくなるのを待って、ヴァイスさんは再び口を開いた。
「これからは儂らはパーティーということになるな。まあ、よろしく頼む」
「おう!」
「はい」
「はーい」
返事はしたものの、仲間……かあ。考えてもみなかった。俺は自分一人で片をつけるつもりだった。俺の立場を知って、なお仲間になってくれる人がいるとも思えなかったし。
(ちょっと、マスター? 私たちを忘れてませんか?)
(……ほんっとうに自己主張が激しいな、お前は)
(あ、失礼な!)
なにやら怒ったソフィアは、俺の耳元で愚痴とも説教ともつかないものををわめき散らし始めた。……テレパシーで、なのだが、うるさいことこの上ない。
「じゃあ、リーダーを決めないといけませんね」
「そりゃ、爺さんの役割だろ。人生経験豊富だし、さっきも仕切ってたじゃないか」
「お前ら、こんな年寄りに任せる気か? それより、お前がやれよ、現役冒険者」
「俺? 言っとくが、俺はサボる気満々だぞ。それでもいいって言うならお任せあれ」
「てゆーか、私はこんないい加減な人は反対です」
「あ、ちょっと傷ついたぞ、今」
「あー、お前らうるさい。ルーファス、お前はどうだ?」
なにやらあっちが会話しているが、ソフィアの愚痴によって俺の耳に届かない。……なにか、こっちに話を振っているような気がするが、全然聞こえないのだ。
「あ、この子がやればいいんじゃないですか? ソドムとかいう魔族、仕留めたの、ルーファスくんですし」
「ふむ……まあ、儂は構わんが」
「俺もいいぞ。どーせ、リーダーっつっても、所詮まとめ役に過ぎないわけだし」
「とゆーことで、ルーファスくん、やってくれますね?」
(大体ですね、マスターは、無責任・無自覚・無意識と、もうこれでもかと言うくらいニブチンなんですから……)
あー、もう。ソフィアうるさすぎ。なにか言ってるのに、聞こえないじゃないか。
「おーい、ルーファス」
「あ、ごめん。なに?」
ソフィアを手で制しつつ、話を聞く体勢に。
「やってくれるよな?」
「はあ?」
話しのつながりが見えない。俺に、何をやれと?
「みんな賛成した。あとはお前がOKするだけだ」
「はあ。みんながそれでいいって言っているなら、俺は構わないけど?」
はっきり言って、なんのことかは知らんがな。
「よし。じゃあ、このパーティーのリーダーはルーファスだな」
「……はい?」
……りぃだぁ? マジ? そんな面倒くさい事……
(へえ、マスターがリーダーさんになるんですか)
とりあえず、ソフィアを殴っておいた。
……あとですごく怒られた。
「さて、これからの行動だけど、なにか意見は?」
今日取った宿の中で俺は話し始める。なし崩しでなってしまったリーダー役だが、なったからには手を抜く気はない。
「とりあえずは、各人のレベルアップが最優先だろうな。あのソドムでさえ、ヘルキングスの中では中堅クラスの実力でしかないんだ。あれ以上の奴が来たら、今の儂らでは手に負えん」
「ほむ……まあ、妥当な線だけど」
「なら、実戦をこなすのが近道だな。俺に任せておけ。ここら辺で暴れている魔族の情報をギルドで集めてきてやろう」
そう言って、飛び出そうとするレインの足を、メイさんが引っ掛けた。
「ぐえっ!?」
「まったく。いきなり飛び出そうとしないでください。あなたには協調性と言うものはないんですか?」
あれだけの勢いで顔から倒れこんだレインに、返事をするというのはかなり無茶だと思うけど。
「ご……ごふっ……。お、お前、なんてことしやがる」
「なんてこと、と言われても」
「あー、話が進まなくなるから、静かにしてくれって」
この二人、息が合っているのはいいんだけど、突発的に衝突するのは困りものだな、とリーダーらしいことを考えてみたり。……やっぱ、俺に向いてないって、こんな役割。
「ま、近くの魔族を倒すってのは、まあいいかもしれない。懸賞金もかかっているだろうし」
「だなあ。儂ら、貧乏だし」
そうなのである。ここの宿代も、ぎりぎりだった。おかげで、メイさんも同室になってしまったのだ。主な原因は、昼にどこかの青年と爺さんが食べ過ぎた事だろう。……あ、どこかのお姉さんもデザートを追加で注文してたっけ?
……前途多難だな、オイ。
「じゃ、そういうことですね。私は寝ます」
と、さっさとメイさんがベッドに入ってしまった。……この部屋、実は二人部屋である。資金難である我がパーティーの財政状況では、他に選択肢はなかった。当然のごとく、ベッドは二つしかない。
女性であるメイさん、老体であるヴァイスさんを床で寝かせるわけにもいかなかった。つまり、俺とレインは床寝だ。
「ああ、そうするか。明日から忙しくなるしな」
「てゆーか、レインさん。いくら私が可愛いからって襲わないでくださいね?」
「襲うか!」
子供の俺には全く理解不能な理由で顔を赤くするレイン。
……それを尻目に、俺はいそいそとタオルケットをかぶるのだった。