さて、このサイファール国では天聖大会という、まこと都合のよい大会があることがわかった。優勝者には国王に、一つだけお願いを聞いてもらえるらしい。
……まあ、優勝したらしたらで、またいろいろ詮索されそうだが、この際しょうがない。
そこで、その大会のパンフレットを入手したのだが、
「参加資格……老若男女問わず、やる気のあるもの。武器はこちらで用意。戦闘におけるルールは特に定めないが、相手を殺す、もしくは再起不能な傷を与えることは禁ずる」
なんつー大雑把な。こんなん、出場者が膨大な数にならないか? と、思ったらちゃんと審査っていうのがあるらしい。
そして、審査の会場にやってきたわけだ。
第36話「参上! ○○レンジャー」
その会場と言うのは、街の北側にある、馬鹿でかい闘技場だった。普段はここで、賭け試合などが行われているらしい。ここの他にも、サイファール王国中にここと似たような会場があるとのことだ。
とりあえず、選手登録を済ませて、中に入ってみると、いるわいるわ。屈強な戦士から、熟練の魔導師。どっかの剣術の師範っぽいおじいちゃんやら、群がる男をうざったそうに追い払っている女剣士。
……なんか、俺、場違いだ。いや、昔の冒険者ギルドでもこんな感じだったけど。
「あれ〜? なんか、変な奴が混じってるぞ」
いきなり、身長2mを軽く越す大男が俺に話しかけてきた。
「ボク? ここは君みたいな学生が来るところじゃないから、さっさと帰ってママのおっぱいでも飲んでな」
ひゃひゃひゃ、と笑う男。肩の筋肉が、笑いによって不気味に蠢く。まるで、皮の下で蟲が這いずり回っているかのように。そして、ものすごい汗のにおい(腐臭)が鼻をついてきた。……人間か、こいつは? ゾンビじゃないのか?
「あれぇ? びびらせちゃったかな。こりゃ失礼」
「……帰れ、お前」
ここのところ、機嫌が急降下中の俺をからかうとは、運のない奴。気がついたら、俺は彼の鳩尾に肘を食らわせていた。
「あ、係員さん。一人棄権だそうです」
とりあえず、アフターケアも万全だ。その係員の人は不思議そうな顔をして男を引っ張っていった。まあ、周りのやつらも、ほとんどは俺が何をしたか見えていないだろう。
見えている、極一部の奴は、
(見えたか?)
(ああ、かなりの腕前だな)
(俺たち以外のやつらは見えもしなかっただろうな)
(ガキにしては、だろ)
(ああ。まあ、半端な実力を持っているやつは長生きできないって教えてやんなきゃな)
などと、影で会話していた。
ちなみに、彼らもただの雑魚。名前すら考えてもらえない、脇役A、B、C、D、Eである。
((((なにぃ!?))))
さて、試験とやらはどんなやつなんだろうな……
いや、まあいやな予感はしていたんだ。入り口で、武器を渡されたし。
「ほっ!」
頭に振り下ろされた剣をかわしつつ、さらに横合いから突き出された槍の上に乗る。すぐさまジャンプして、今までいた場所に炸裂した魔法をやりすごした。
まあ、なんというか……天聖大会の参加希望者は、この会場だけでも300人くらいいるわけで。さらに、サイファール各地の会場、全部含めたら2000人くらいになっちゃうわけで。さらに、それをたった十人に絞らなきゃならない。ちまちま審査なんぞしてられないのはよーくわかる。
しかしだ。時間になったとたん、
「では、斬りあってください」
はないだろう。
つまるところ、バトルロイヤル。最後に立っていた者が、この会場の予選通過者、ということらしい。
まあ、わかりやすいから、いいんだけど。
「くそっ!」
隙間がないくらいに密集したところに流されてしまった。あ、汗臭い。
「うるっさい! 『風よ雷となれ! サンダーソード!!』」
簡易詠唱による魔法発動。
『ほげぇ!?』
迸った電流が、俺の周りにいたやつらを全て薙ぎ倒した。
よし、これで大分人数削って……
次の瞬間、俺はその場を飛びのいていた。
「くくく……よくかわしたなあ」
地面に突き刺さったナイフ。なかなかの鋭さの投げナイフだった。タイミングがもう少し早かったら、かわすのではなく防がなきゃいけなかったかもしれない。
「なんの用だ、A。お前は脇役だろうが」
「だ、誰がAだ!?」
よく見ると、BさんもCさんもDさんもEさんもいる。今、このバトルロイヤルで生き残っているのは、俺を含めたこの六人だけらしい。
「脇役だからって、甘く見るなよ」←C
「俺たちは、悪を挫き、正義を貫く五人の勇者!」←E
「全員男だから、紅一点がほしい!」←B
「馬鹿! 余計な事言うな!!」←D
「それはともかく! 俺たち五人そろって!!」←A
『脇役レンジャー!!』
ボーン! と、五色の煙がそれぞれの背後で爆発する。決めポーズもばっちりだ。よほど入念な練習を積まないと、こうまでタイミングを合わせることはできないだろう。
なんつーか、帰っていいですか?
「ふふふ……先ほどまでの戦いは見せてもらった」←A〜Eの誰の台詞かは、もう適当に考えてください
「だが笑止! その程度ででは我ら五人の敵ではないわ!」
「うぬの実力では、我ら五人の三位一体攻撃を防ぐことは到底できないわ!」
五人なのに三位一体攻撃ですか?
「細かいことは気にしないでもらおう!」
「では行くぞ!」
心を読むなよ。てーか、
「この中で、一人しか本戦に出場できないのに、俺を倒したとして、あんたらどーするつもりだ?」
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「そ、それは無論、全員でじゃんけんだ!」
「そうだそうだ! そもそも、我等の誰が出場しようと、我は精一杯応援する所存である!!」
「あ、じゃあお前は権利放棄とみなしていいんだな?」
「それとこれとは話が違う!」
「暑さ我慢大会で決めよう!」
「いや、代表を決めるには神経衰弱が妥当ではないか、同士諸君!」
「お前ら、それって自分の得意な種目じゃねーか!?」
……はぁ。
「奥義……」
嫌々ながら、剣を構える。この五人、こう見えても(強調)けっこう強いようだ。技くらい出さないと失礼ってもんだ。……世の中って不思議でいっぱいだなあ。
そんなことを噛み締めながら、ゆらり、と動く。
「残月」
そう呟いた一秒後には、全員が倒れていた。
分身体術からの対多人数攻撃。分身体に攻撃しても俺には当たらないが、それによる攻撃はきっちりと相手に当たる。そういう剣技なのだが、まあ、見切れたやつはこの中にはいなかっただろう。
「首都サイファール予選通過者、ルーファス・セイムリート!」
どこに隠れていたのか、審査員の人がいきなり現れてそう宣言した。
「はあ。愉快な人もいたもんですねえ」
予選の顛末を話してみると、リリスちゃんが感心したように呟く。感心の仕方が間違っているし、そもそも、あの父親を持つ君に、それを言う資格はないと思うが。
「でも、天使騎士団の人は一人もいなかったでしょ?」
「ああ。って、サレナ。どうして知ってるんだ」
「だって、天使騎士団の人は、騎士団内で二人、代表選手を選ぶことになってるもの」
国の騎士団の特権だな。天聖大会はサイファール国の主催だ。二つの出場枠は、騎士団によって占められている、ってわけだ。
まあ、その二人ってのはセイルさんとエリクスだろう。一番上の、熾天使級のドラゴン20匹破りの人は王族の護衛にまわるだろうし。
「まあ、大会まであと一週間ほどあるからな。修行でもしているよ」
「……修行って、ルーファス先輩に必要なんですか?」
「まあ、俺もする気はなかったんだけど、ソフィアの話を聞いてな」
? という顔で、サレナとリリスちゃんがソフィアの方を向いた。
「実はですね。200年前、ヘルキングスのトップを封印したのが、天使騎士団の人たちなんです」
ますます『???』という顔になる二人。
言葉の足らないソフィアのために、俺が詳しく説明することにした。
「俺らが魔界に攻め込んでいる間、人間界のほうも魔族の大群の侵攻を受けててな。その時、その軍の指揮を執っていたヘルキングスの一番強い奴を封じ込めたのが、天使騎士団らしいんだ」
「……ヘルキングスって?」
ああ、そういえば。サレナには話したことあるけど、リリスちゃんは初耳か。
「太古、神々や歴史に名を残す勇者たちによって封じられた77匹の魔王たち。俺が倒した先代の魔王がその封印を解いて自分の配下にしちまったんだ。それがヘルキングス」
「はあ。そんな人(?)たちがいたんですか」
「一般には伝わってないみたいだけどな。で、その天使騎士団が封じ込めたやつは、俺も一回戦ったことがあって、そのときは逃げるのが精一杯だった」
遠い目をして言う。
あれは、レインたちとパーティーを組んで間もないころだった。まだ未熟だった俺たちはとにかく逃げまくった。あの時、生き延びることができたのは奇跡に近い。
「だからってわけじゃないけど、少しは気をつけなきゃな」
大体、この大会では万に一つも負けるわけにはいかない。今の人間界に俺にかなう奴がいるとも思えないが、念のためだ。
善は急げ、とのことで、さっそく外に出て、とりあえず100kmほど全力疾走してくるか、と思ってたら、サレナたちが変な目で俺を見ていることに気づいた。
「……なんだよ?」
「「いや、あんた(ルーファス先輩)が女関係以外で逃げるところって想像できなくて」」
そんな長文でハモらなくても。
そもそも、女関係って何だよ!!?
「ふう……」
ソフィアァァァァ! これ見よがしにため息ついてんじゃねえ!!
俺の、そんな心の叫びは、当然ながら無視される運びとなった。……ぐれてやろうか?
さて、そのころのリア。
「なんか、私の存在が忘れられているような気がします」
セイクリッドさんちのリア嬢は、前回、台詞が一つもなかったことに、大分おかんむりのご様子だ。
ルーファスが見たら、とりあえず謝り倒すであろう、そんな表情で、作者をにらみながら、
「私はぁぁぁぁ!! ヒロインなんですよぉぉーーーー!!」
魂の叫びを吐き出す。
さて、リアにあてがわれた客室のドアの前には、エリクスが立っていた。もちろん、仮にも婚約者という立場上、面倒くさいと思いつつ、訪ねてきたのだが、
「な、なにを騒いでいるんだ?」
台詞は聞こえないが、とっても入ってはいけない予感をひしひしと感じ、立ちすくしていた。