今日悟ったことが二つある。

過去の出来事はすぐにねじ曲げられること。そして、俺が女性と関わるとロクな事にならないと言うことだ。

 

第24話「ルーファス、かつての失敗〜再会の巻〜」

 

「……そろそろ着くぞ。大丈夫か、三人とも」

現在、小さな山を下っている。麓には、小さな村が見える。これがデアスの村とやらだろう。

途中、魔物と遭遇すること二回。こいつらの経験値アップのため、俺はなるべく手を出さないようにしたのだが、ちゃんと倒した。まあ、リアは攻撃が苦手なものの、サレナは攻撃魔法も得意だし、ソフィアに関しては言うまでもない。

……なのだが、どうも、三人とも歩きすぎでバテてしまったようだ。たかだが4時間ほど歩いたくらいでだらしのない。

「大丈夫に見えるならあんたの目はおかしいわ」

一番ましなサレナが息も絶え絶えに答える。あと10分ほどで着く。その位は我慢してもらおう。

「……はぁはぁ」

なんというのか、一番きつそうなのはやっぱりリアだった。

「……ガッツだ」

励ましてやる。

「……はい……って、あれ?」

リアが大きめの石につまずく。そして、こける。それで終わればよかったのだが……あろうことか、そのまま山を転げ落ちていった。

「きゃあああぁぁぁ………」

「………はっ!?」

あまりのことに呆然としてしまった。さすがに大怪我でもするとマズイ。急いで追いかける。

「ぁぁぁぁあああ〜〜〜!!?」

ガシッ!

「セーフ!」

崖から落ちそうになるすんでの所でキャッチした。

「このドジが。気をつけろ」

「うう……すみません」

見たところ、かすり傷が少し出来ただけ。運が良かった。サレナとソフィアが追いついてくる頃には、血も止まった。……しかし、どうして、こんな緩い傾斜の山でここまで転げるんだ。

「……俺も疲れた」

なんつーか、精神的にね。

 

 

 

 

 

そんなこんなで、デアスの村に着いた。今は、村の人に聞いて、村長さんの家に来ている。やっぱ、こういう場合、責任者に挨拶に行くべきだろう。

「ほほう。ヴァルハラ学園の生徒さんですか?」

「はい」

「ここまで、大変でしたでしょう?」

「いえ、半日くらいの行程でしたから、そうでもありません」

実際、最後の方で気疲れはしたが、体力的にはぴんぴんしている。

「……お連れさんはかなりきつそうですが?」

「気にしないでください。ダイエットになるって喜んでました」

『嘘をつかないでください』

リア、ソフィアのダブルツッコミ。なかなかのシンクロ率だ。

「なんだよ。実際そうだろ」

「あんたね……デリカシーがないわよ」

「なんだよ、サレナ。デリカシーがないってどーゆーことだ」

そのやりとりを見ていた、村長さんがカラカラと笑う。

「仲がいいですね」

「はあ」

「さて、この村の風習のことでしたね。ちょうどよいことに、うちの孫が今晩することになってます。話なら、孫にさせましょう」

「それはどうも」

「つい最近まで、セントルイスの病院に入院していましたんですがね。どうにか回復して、今息子と一緒に帰省しているんですよ。リリス、こっちに来なさい」

村長さんが家の奥に声をかけると、女の子が一人、ぱたぱたとやって来た。

「なに、おじいちゃん?」

「ああ。こちらの方々にあの儀式の説明をしてやってあげなさい」

「へ? いいけど……」

その女の子がこちらを振り向く。

「「あ!」」

サレナと女の子――リリスとか言ったか、がどうじに声を上げる。

「なんだ、サレナ、知り合いか?」

「……あんた、本気で言ってる?」

「なんのことだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

サレナから説明を受けてやっと思い出した。

ソウルキャンサーにかかってたのを治してやった少女だ。父親とは一悶着あったので会いたくないのだが、幸い、今は出かけているらしい。

「ルーファスちゃん、だれですか、この子?」

「……ソフィア、なに怒っているんだ?」

「そんなことはどうでもいいです。キリキリと白状してください、ルーファスさん」

リアまで怖い顔をしている。ただ、二人とももともとの顔が童顔なので、迫力がない。……のだが、少なくとも俺に対してプレッシャーをかけるには不都合はなさそうだ。異様に怖い。多分、俺がこの二人を苦手だからだろう。

「サレナ、説明してやってくれ」

「……まあ、いいわよ。あんたじゃ、まともに説明できそうにないし」

なんとかサレナが間に入ってくれた。その間に、彼女……リリスちゃんに聞かなきゃいけないことがある。

「あの、リリスちゃん、だっけ?」

「はい。なんでしょう、ルーファスさん?」

「あのとき、俺とサレナは君のこと見たけど、あの時、君起きてなかっただろ。なんで俺たちのこと知ってるんだ?」

「起きてましたよ」

「……は?」

「目を開けるのもしんどかったから、傍目には眠ってるように見えたかもしれませんけど」

えーと、その、つまり……

「もしかしてとは思うんだけど……俺が『手術』してる時も……?」

「……けっこう、恥ずかしかったです」(22話参照)

ジーザス!!

「あ、あの〜、あれは、決して悪気があったわけじゃなくて、そのー、仕方ないというか」

「ちゃんと話も聞いてましたから、わかってます」

助かった。どうやら、最悪の事態は避けられたようだ。変態扱いはごめんだからな。

「「ルーファスさん(ちゃん)!?」」

……と、思ったらリアとソフィアが怒りのオーラを充満させて迫ってきた。

見ると、サレナが舌を出して、ごめんね、のジェスチャーをしていた。

(いや〜、さっきのリリスちゃんの『……けっこう、恥ずかしかったです』発言を取り繕う言葉が見つからなかったわ)

(ちょっと待てえ!?)

視線で会話するという芸当を披露する。……絶望的な答えを聞いただけだが。

 

 

 

 

 

(しばらくお待ち下さい)

 

 

 

 

……えんえん、三十分も説教された。

「えーと、そろそろいいですか?」

「なにが」

自分でも、声が疲れ切っているのがわかる。

「あの、この村の『儀式』について聞きに来たんじゃ……?」

「……そうだった。じゃ、話してくれるか」

「はい。この儀式はかの大勇者、ルーファス・セイムリートさんにまつわる伝説がもとになってまして……」

ズシャア!!

「どうしました、急にヘッドスライディングを決めて?」

「……なんでもない。続けてくれ」

しかし……俺に関する話だ? そういえば、デアスの村って、どっかで聞いたことあるような気がする。確かに、来たことがあるのかもしれない。

リリスは昔の記憶をあさっている俺に怪訝そうな顔をしていたが、改めて話し始めた。

「200年前、今村を訪れたルーファス・セイムリートは、当時、この村の近くに住み着いた魔族を退治したそうです」

あのころはよくあった話だ。そこらの魔族を修行も兼ねて倒しまくっていた。

「で、その魔族、エッチなやつで、15歳になったら、この村の女の子、みんな生け贄として差し出させていたそうです」

女の子、という単語にリアとソフィアの目がキラリと光った(ような気がした)。あきれ果てたような顔で俺を睨んでくる。

……なにか、俺に対して誤解があるようだ。

「そして、生け贄の少女が連れ去られそうになったその瞬間! ルーファス・セイムリートが颯爽と現れて魔族を倒したそうです。そのあと、こんな会話があったとか」

 

 

 

 

 

「あ、あの、ありがとうございます」(生け贄の女の子)

「いや、当然のことをしたまでさ(きらーん)」(ルーファス・セイムリート)

「なにかお礼を……」

「いや、私はそんなことのために君を助けたわけじゃあない」

「しかし、それでは私の気が済みません」

「……君がどうしてもというのなら、私と一緒になってくれないか?」

「え……それはどうゆう?」

「どうも、君に一目惚れしてしまったようだ。どうだろう、明日をもしれぬこの身だが共に歩んでくれるかい?」

「え、ええ! よろこんで!」

 

 

 

 

 

「どこのどいつだ!? それは!!」

「え? だからルーファス・セイムリートさんです。そういえば、あなたと同じ名前でしたね」

「違う! 断じて違うぞ! 俺はそんなキャラじゃない!」

「だから、あなたのことじゃなくて、昔の勇者の方ですよ」

「はいはい。興奮しないしない。ごめんねー。どうも、こいつ、勇者の話になると敏感になっちゃって」

どーどーと俺を押さえつけるサレナ。

部屋の隅っこに押しやられ、周りを三人に囲まれる。

「で、本当なんですかルーファスちゃん?」

「でたらめだ!」

「でも、多少の誇張があるにしても、おおむね事実なんじゃないですか?」

「リア! 俺をなんだと思ってる!?」

哀しい。どうも、この二人の俺に対する誤解は相当根深いようだ。

「今さっき思い出したんだがな……この村の魔族を倒したことはあった。確かに、生け贄とかいう女もその時助けた。でもな、そのときはこんな感じだったんだ!」

 

 

 

 

 

「大丈夫か?」(ルーファスね)

「……余計なことを」(生け贄の女の子ね)

「へ?」

「あのバカ魔族……近寄ってきたらこいつで一撃喰らわせてやるつもりだったのに」

「……もしかして、そのフライパンで?」

「なによ、悪い?」

「いや、別に悪いというわけじゃ……」

「ま、助けてもらっちゃったし、飯くらい食わせてあげるわ。あんた冒険者でしょ? どーせろくなもん食ってないだろうし」

「別にお礼が欲しくて助けたわけじゃないから」

「はあ? なに寝ぼけたこと言ってんの。このご時世に無償で人助けするようなバカがいるわけないでしょ。つべこべ言わずにさっさと来なさい」

「い、いや、本当にいらないから」

「ああ! もう、うるさいわね」

すぱこーん!

「いたっ!? フライパンで殴ることないだろ!? 俺じゃなかったら死んでたかもしれないぞ」

「本格的に殺されたくなかったら、大人しくお礼されなさい」

「自分の言い分が変だと思わないのか!? って、いたたたたたた!? 耳を引っ張るなぁ!!」

「はいはい。私、貸し借りっていうの大嫌いだから、大人しく飯食ってきなさい」

「だから、耳を引っ張るなぁ!!」

 

 

 

 

 

「とまあ、こんな感じだった」

「なに、それ……?」

サレナが顔をひくつかせて聞いてくる。まあ、無理もないだろう。あれは、俺の人生不条理な出来事ベストテンに入る事件だったからな。

「村を救った英雄とかなんとか言われて、そのまま宴会に雪崩れ込んだぞ。そーいや、確かに、そのとき村の若い娘と結婚しないかって聞かれたな。断ったけど」

「……ルーファスさんの昔って一体」

聞くな、リア。

「いつの話ですか? 私、それ知りませんけど」

「一時期、レインとかと別れてそれぞれで一年くらい修行してただろ? その時だ。精霊王たちとも連絡とってなかった時期だからな。知らないのも当然だ」

思い返せば、俺一人で旅している間、こういうエピソードはたくさんあった。全部公開したら俺の権威が失墜するのは想像に難くない。……もう失墜しているという話も聞くが。頼むから、これ以上は聞かないでくれ。

「……にしても、それじゃあ、その間、他にどんなことがあったんですか?」

リアぁぁ! それは聞くなと、さっき俺が思ったのが聞こえなかったのか!?

「あのー、つづき、いいですか?」

そこで、リリスが割って入ってきた。

「あ、ああ。ごめんごめん。続けてくれる?」

「はあ。それでですね、そんなことがあって以来、この村出身の娘は15の誕生日になると、その生け贄だった女の子がいた場所で一晩過ごすんです。なんか、そうすると素敵な男性に巡り会えるとか」

……要するに、縁結びかよ?

「別に、他の人と一緒じゃ駄目ってわけじゃないですから、付き合いますか?」

「……そうする」

いやいやながら返事をした。……ミッション、ちゃんとこなさないと単位もらえないから。

できれば、このまま帰って寝てしまいたい。

 

ああ、そのうち俺に関する伝承やなにやら、全部調査しなきゃいけないかもしれないな。

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